古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第784話

 ウルム王国王都攻略、従来の戦法としては順調に進んでいる。既に四方の城門は陥落、全軍が王都内部に進軍。途中で敵の防衛部隊に遭遇したが、全て倒した。義勇軍は居ない、一般兵も多数が投降した。

 領民への被害は最小限なのは、彼等に抵抗する意志が無く協力的だから。各ギルド本部も最初から無抵抗で軍門に下ったのは、エムデン王国の各ギルド本部とモア教からの進言に同意したからだ。

 残りの抵抗勢力は王宮に集まっていて、我等は周囲を取り囲んでいる。此処まで来るのに三日掛かったが、これが普通……いや早い位だな。半日で攻略するとか無理、自分が携わってみて余計に理解した。

「なぁ、ローラン公爵よ」

「何だ?危険は少ないとはいえ、財務系官僚のニーレンス公爵が前線まで出て来るとは驚いたぞ。しかも鎧を着てないとか油断し過ぎだな」

 共に並んで所々で黒煙を登らせる王城の城壁を見上げる。空堀は健在、多数の矢倉から魔法と弓矢の攻撃が有るが、数倍の反撃で抵抗が無くなる。

 火属性宮廷魔術師団員達の活躍には目を見張るのだが『我等が守護天使ウェラーちゃんの為に!』は駄目だ。幼女愛好家の変態共め、リーンハルト殿にバレたらどうなる?俺は庇えないぞ。

 降伏を呼び掛けても反応は無い、だが初期の段階で非戦闘員の脱出は受け入れた。侍女や下級官吏や下働きの連中は逃げ出したが、女官や上級官吏は未だ中に居る。つまり徹底抗戦か……

「俺は武官じゃないから自分で刃を交えた戦いはしない。それに重いから要所でしか鎧兜は着ない、逃げるなら身軽な方がマシだからな。なぁ良く分からないが、これが普通だよな?城塞都市の攻略は普通に一ヶ月単位の時間を必要とするのだよな?」

 いや、建て前でも護衛の兵士達の前で鎧兜は重いとか逃げるとか言うな。まぁ我等はアウレール王の本陣に詰めるから、言う事は分かるがな。同行する官吏共は貴族服だし……

 文句を公爵本人に言える奴など国王以外には居ない。そのアウレール王でさえ、本陣では軽装だからな。だがアレは余裕を見せているだけだぞ。

 戦場に立てば、リーンハルト殿謹製のマジックアーマーを着るぞ。外観意匠に拘りが有るのは分かるが、黄金甲冑とか目立って仕方あるまい。日を浴びるとギラギラして目に悪いが、目立つのも王の仕事で役目か。

「そうだな。俺の経験から言えば今回はかなり早い方だぞ。王宮の陥落は……俺の見立てでは後四日は掛かるだろう。抵抗する連中を潰し空堀を埋めて道を作り、城門を破壊し突撃する。王宮内の制圧には二日は掛かるかだな。

 既に抵抗は散発的だから、明日から空堀を埋める作業に入る。連れて来た土属性魔術師の見立てでは、空堀を埋めるのに半日位だそうだ。城門はフレイナル殿が破壊する段取りになっている。

 あの馬鹿はもっと点数稼ぎをしないと駄目なのだ。馬車馬の如く酷使して活躍させないと、評価が酷い事になっている。『美少女に守られる屑男』はウチの武官連中から蛇蝎の如く嫌われている。

 逆にウェラー嬢の評価は鰻登りだ。度胸・胆力・勇気、武官共の好む事を示した。屑男をフォローし味方を守り、最後は飛び出して来た敵の騎馬隊を一人で殲滅。魔術師として一流だと身を持って示した。

 そして最後の檄が良い、自分の功を誇らず屑男と火属性魔術師達を誇り後に続けと言った。目の前の活躍を見ていた連中からすれば、此処で奮起しなければ男じゃない!そう思わされた、中々の鼓舞だったな」

「サリアリス殿の弟子としてリーンハルト殿の妹弟子として、恥ずかしくない様に頑張った。輝く笑顔で言われた時の、筆頭殿の顔は笑えたな。あの他者に興味が薄い魔女が本当に嬉しそうだったぞ。

自慢の愛弟子は二人共に優秀、師として大いに誇れる。今迄彼女の教えに着いて来れる連中は居なかったから余計にだろう。惜しむらくは弟子二人は年が近い、次期筆頭と次期第二席の席次は固定で替わらぬ事かな……」

 まぁ今は王宮攻略に集中しなければならないな。城内に入ってからの方が敵の抵抗も激しくなり、損害も増えるだろう。今王宮に残っている連中は死ぬ気で抵抗する者も多い、忠義か状況に追い込まれたか……

 そんな奴等の抵抗心を砕くのが圧倒的な戦力、だがアウレール王は人外三人を後ろに下げた。それは我等第三陣に手柄を立てさせる為、奴等は活躍し過ぎた。異常戦力、やり過ぎだぞ。

 此処からは従来の戦法により王宮を落とさねばならない。が、兵士達の士気は高く、逆に敵の士気は限り無く低い最低値だろう。宗教絡みの聖戦、敗戦国への忠義か信仰心か?だがバンチェッタ王は名君じゃない。

 まぁその辺を利用し極力抵抗を抑える算段は幾通りもしている。それが単純な武力のみの、バーナム伯爵達と俺との違いだな。人生最後にして最大の攻略戦、負ける訳にはいかぬのよ。

「フレイナル殿か、役に立つか不安だが敵側の宮廷魔術師達はライル団長が城壁を破壊する時に諸共倒したそうだ。死体の確認もした、筆頭と第二席だとさ」

 既に人的被害は百人以上、王宮内に突入すれば更に被害は増えるだろう。だが損耗率は微々たるものなのだ。被害は一般兵だけで、騎士階級と魔術師達は怪我だけで済んでいる。

 完全勝利と言っても差し支えないのだが同じ事を維持管理を含めて、リーンハルト殿は単独ないし少数の手勢だけで出来る。ライル団長達も戦闘能力なら同等だが、他の事は出来ない。

 まぁ敵の宮廷魔術師共を潰してくれた事には感謝するが、もう前に出て来るな!俺の手柄が減るだろう、お前等異常だぞ。戦後は人外対策で周辺諸国は慌てるだろう、対策は暗殺一択だろうがな。苦労しろ!

「空堀を埋める役目に、ウェラー嬢が内々で助力を申し出てくれたが……受けるか?」

「守護天使殿がか?フレイナル殿が心配なのだろうか?いや違う、彼女は更に手柄を立てて宮廷魔術師になろうとしている。十二歳ながら確たる意志を感じる、出来れば我が子の本妻に迎えたい逸材だが……」

「次期公爵夫人か、随分と高い評価だな。俺も息子の嫁に欲しいが、保護者三人の説得が難しいだろう。サリアリス殿やユリエル殿なら何とかなる、だが最大の保護者は幼女愛好家を嫌っている。

彼女の成人後迄に準備して動くしかあるまい。この聖戦、幼い王女の結婚を強引に進める為にモア教に圧力を掛けた事が始まりだ。我等が同じ事をしてどうする?

それにだな、ウェラー嬢の覚醒の理由は兄弟子である、リーンハルト殿の手助けをしたい一心だ。まぁお似合いの二人だから諦めろ。二人の仲を取り持つ事で、ウェラー嬢は我等側に引き込めるだろう」

 どう見ても彼女の覚醒と覚悟は、リーンハルト殿の為だ。命を懸ける行動の相手を無視して我等の息子達との婚姻を勧める?無駄であり、リーンハルト殿の不興を買うだけだぞ。

 宮廷魔術師として最年少記録を更新、三十年以上は現役でいられる。リーンハルト殿と共に二大看板となる、エムデン王国の繁栄に必要な人材。

 恋仲になれば他国からの引き抜きは無理、アウレール王も許す。だから王族の誰かと婚姻させるとかの取り込みもしない、余計な火種になるだけだから。盤石だな我が国の未来は……

「助力の件は頼む事にするか。戦後に礼を兼ねて接触する機会も作れる、リーンハルト殿も同行なら尚良いな」

「純粋な感謝だからな。縁を太くする手立てとしても良い、借りを作るが彼女を宮廷魔術師に推挙すれば相殺。我等に損は無い」

 次代を担う優秀な魔術師達と縁が出来るのだ。悪くはない、惜しむらくは親族として取り込めない事だろう。それも大した問題でもない、ザスキアの女狐とも話を通すか。

「公爵三家に次期筆頭殿と次期第二席殿か、連携としては最高だろう。ウルム王国を下せば大陸最大最強国家の誕生だが、如何に戦後の安定を急ぐかだな」

「それも戦後の復興が得意な、リーンハルト殿と彼を讃えるモア教が居る。アウレール王は我等にも旧ウルム王国領を与える、その復興をリーンハルト殿に頼むとしよう」

 先ずは食料の増産、それには大規模潅漑事業を短期間で終わらせた実績を持つ、リーンハルト殿に依頼が殺到する。だが奴はアウレール王に戦後復興案を提出している。

 自分と農地改良に特化させた土属性魔術師達を抱えているので、最大三ヶ月間で旧ウルム王国領を回るらしい。恐ろしく準備が良い、この状況を宮廷魔術師になってから進めたのだぞ。

 我等に異様に協力的な領民達も、本来はリーンハルト殿を待ち望んでいた。だが奴を困らせるのか?の一言で大人しくなった。モア教の教皇も個人的に評価したらしいし、もう少し縁を太くしたいぞ。

◇◇◇◇◇◇

「不躾な願いを聞いて頂き、有り難う御座います」

 ふむ、礼儀作法は悪くない。『土石流』の異名を持つ、やんちゃ時代の彼女を知る身としては驚かされる。落ち着きを身に付けたのか。

 未だ十二歳、普通なら親に甘えている年頃。魔術師は早熟らしいが、俺の派閥の年若い魔術師達と全く違うぞ。才能や資質だけで、こうも変わるモノか?

 早く宮廷魔術師になり、リーンハルト殿の役に立ちたいと言う私欲は有れども物欲や金銭欲じゃないからな、薄汚れた俺には眩しい位だ。

「構わんよ。我等としても、フレイナル殿だけでは心細かったのでな。ウェラー嬢の提案は渡りに船だった」

「そうだな。だが安全には配慮して欲しい。ウェラー嬢の魔術師としての力量は理解しているが何か有った場合に、リーンハルト殿からお叱りを受けるからな」

「えっと、そんな事は……」

 翌日、予測通りに城壁や矢倉からの攻撃は無くなった。全ての矢倉を破壊し、城壁の窓の殆どもファイアボールの攻撃で黒こげだ。火属性宮廷魔術師団員達の活躍のお陰だな。

 ウェラー嬢の助力の件は、アウレール王にも報告し許可を貰った。国王も彼女が功績を溜める事を良しとしている、つまり最年少宮廷魔術師に意欲的だな。

 ユリエル殿は微妙な顔をしていた。自らが大切に育てていたが、サリアリス殿に弟子入りしリーンハルト殿に教えて貰い始めたら急速に力を付けた。父親として師として、モヤモヤするだろう。

「護衛として重装歩兵を付けさせて貰う。大盾兵だから、安心して欲しい。ウェラー嬢の後、フレイナル殿も守る事にする」

「本人達は屑男を守るのを嫌がったが必要な事、我が儘は通じない。ウェラー嬢は空堀を埋めたら下がってくれ。後方に休憩用の天幕を用意した」

 タワーシールドを装備した虎の子の護衛部隊だ。大盤振る舞いだが、ウェラー嬢を手厚く扱っていると知らしめる意味が有る。フレイナル殿は序でにだ。

 屑男と言われても末席でも宮廷魔術師だ。特別扱いはしないが差別もしない、本人は後ろで騒いでるが気にもしない。俺は公爵、貴様は伯爵待遇。

 戦場ではあるが見えない力の差が有るのだよ。あと、ウェラー嬢用に用意した天幕にも入れない。淑女用だ。お前は門を破壊したら序でに攻略部隊に同行しろ。

「さて、土石流……いや、守護天使殿の力量を見せて貰おうか」

「そうだな。元々はユリエル殿の指導で水属性の魔法を多用していたが、リーンハルト殿の指導で土属性魔法を覚え始めている。山嵐に黒縄か、リーンハルト殿しか使えない禁呪紛いな上級魔法を扱える少女か」

 大盾兵に守られながら空堀に近付く、城壁からの攻撃対策として自主的に火属性宮廷魔術師団員達が続く。奴等の活躍も目覚ましい、元々火力特化の奴等だからな。

 空堀の手前15mまで近付いたが特に妨害も攻撃も無い、大盾兵が前に展開し火属性宮廷魔術師団員達は後ろで自ら盾を構え攻撃態勢をとった。もう守られるだけじゃないって事か。

 ウェラー嬢は杖を右手で持ち前に突き出す。守護天使と呼ばれ始めたので骸骨仕様の杖の代わりにシンプルな銀製の杖に変えたか。まぁ天使が髑髏じゃ不味いわな。

「リーンハルト兄様が教えてくれました。必ず攻城戦で掘を無効化する必要が有るからと……だから内緒で教えて貰い隠れて研鑽してきました。

石柱よ生えて倒れろ、多重隔壁圧壊。倒壊バージョン!」

「なぁ?」

 ウェラー嬢の手前に四角の石の柱が生えた。高さは30mは有るか?なんじゃそりゃ?何も触媒無く錬金出来るものなのか?

 いや複数の上級魔力石を左手に持っている。つまり一本生やすだけでも魔力を補給しながらじゃなければ使用出来ないのか?

 リーンハルト殿は攻撃対象を何本も取り囲む様に生やして上から壊して大質量圧壊攻撃をすると聞いたが、どれだけ魔力保有量に差が有るんだ?

「圧し潰せ!」

「おおっ?城壁が壊れる、圧し潰されるって……フレイナル殿は要らない子だな」

 石柱を城壁に向かい倒す。当然だが城門に当たり扉を内側にへし折った。石柱は自重に負けて折れて砕けて空堀を埋める。

 それでは空堀を渡れない。ウェラー嬢は空堀を埋める瓦礫を錬金で橋に変えた、そして城門は破壊され王宮に突入する道が出来た。

 フレイナル殿が両膝を地に付けて呆然としている。妹弟子が自分よりも強力な攻城魔法を使い城門を破壊したからな。それはショックを受けても仕方無いか……

「全軍突撃。守護天使殿に続けぇ!」

「「「「「「ウォー!守護天使ウェラーちゃんに続け、突撃だぁ!」」」」」」

 あ、うん。ヤバいか?余り持ち上げ過ぎたら、リーンハルト殿が心配し過ぎるか?いやしかし大した少女だな。もしかしなくても、リーンハルト殿はウェラー嬢を自分の同僚か後継者として鍛えているのだろうな。

 エムデン王国は非常識な強さを持つ宮廷魔術師を二人抱え込む事になる。ウェラー嬢もレベルを上げて保有魔力量を増やせば更なる活躍も出来るだろう。惜しい、親族に加えたい。だがそれは無理、反発され距離を置かれる。

 大地に伏せる、フレイナル殿の背中を撫でて宥めている少女魔術師殿を見る。本人の資質も大切だが指導者の力量が彼女の才能を開花させた。つまり、リーンハルト殿に我が一族の年若く美しい魔術師を弟子入りさせられれば……

 


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