古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第766話

 気分を変える為に執務室から出たが、実は行きたい場所は無い。ザスキア公爵達が未だ居るだろうから帰る訳にもいかない、セイン達宮廷魔術師団員は参戦して不在。知り合いの武官達も殆どが参戦して不在。

 練兵場で一人鍛錬は寂しいし、魔法を行使する自己鍛錬は極力他人の目につかない事が力を秘匿する意味で望ましいんだよな。攻撃魔法は対策が基本、情報を探る敵は王宮にも居る。

 僕は次期宮廷魔術師筆頭として、実は王宮内で許可無く立ち入れない場所は後宮とマジックアイテム以外の宝物庫だけらしい。だが書庫も必要とする魔導書は無い、つまり行き先が無い。

 あてもなく彷徨う事になるとは……さて、どうしようか?帰るには時間が早く、仕方無くブラブラと廊下を進む。中庭に辿り着いたので、池の周囲に設置された大理石の長椅子に座る。

 清掃が行き届いた冷たい大理石が気持ち良い。モンテローザ嬢の件で、少し思考が乱暴だったな。反省が必要だが、ザスキア公爵達が上手く対処してくれるだろう。

 僕よりも常識的だし、優しいだろうから大丈夫だな。澄んだ池の中には色とりどりの魚が泳いでいて、目を楽しませてくれる。ウチのゴールドフィッシュ(金魚)も大きくなった。

 硝子の水槽から庭の池に移し仲間も追加で購入したのだが、知らぬ間に繁殖していた。個体により柄が違い目を楽しませてくれる。だが親と違う柄になるのは、祖父母の血が出るのだろうか?

 貴族の間でも趣味として色々な動物の掛け合わせを工夫し、新しい柄や能力を高めたりする事をしているらしい。ウチは其処まで考えずに勝手に交配し増えてるだけだけどね。

「長閑だな……本当に戦争してるのかと思うな。建て前は聖戦、戦局も優勢だし被害も少ないし、悲壮感が少ないからか?」

 身体を反らせて上を向く、日差しが暖かい。暫くは太陽を直に感じる、ポカポカ陽気は眠気を誘うな。無意識に欠伸をしてしまうが、何て無警戒なのだろう。

 暗殺対策で磨いた感知魔法による警戒網は敷いている。故に安全ではあるが、他からは分からないだろう。目に見える訳じゃないし、そもそも目立させては意味が無い。

 目の前に野鳥が飛んで来て地面を啄み始めた。何か食べ物が有るのか?虫だろうか?二羽三羽と増えて、気付けば八羽も居る。小鳥達の仕草は心が和む、空間創造からパンを取り出し千切って投げる。

 最初は警戒していたが、その内の一羽がパンを食べ始めたら皆が争うように食べ始めた。餌をあげた事で警戒心が無くなったのか、僕の肩や膝の上にも乗ってきたよ。人に馴れているのは、誰かが日常的に餌やりしてるのかな?

 正直凄く可愛い、それに暖かくてフワフワだな。ふと思い立って空間創造から上級魔力石を取り出して両手に包み込み、魔力を込めて小鳥ゴーレムを錬金する。魔力光に驚いたのか、小鳥達は飛び去ってしまった。

 だが見本に忠実な小鳥ゴーレムを錬金出来た。表層は黄金製で見た目は金色、尾まで含めても全長20㎝。だがこの子の真価は愛玩用じゃなく戦闘用、一見しただけじゃ分からない。だから良い。

「先ず飛べる、そして羽と嘴の部分に魔力刃を纏える。つまり飛び回る刃、そして魔力刃は薄く50㎝ほど伸ばせる。つまり全長1mの刃が高速で飛び回る。身体は何重にも固定化の魔法を掛けたから、剣で切ってもハンマーで叩いても無傷。

いや剣やハンマーが魔力刃により切られる、攻防一体の攻撃特化ゴーレムだ。そして羽を広げて身体を薄くすれば、ブレスレットやネックレスにもなる。最大三体を身体に装飾品として纏わせられる」

 小型だから狭い室内でも飛び回れる。ブレスレット形態の時は、常時展開型の魔力障壁も張れる。つまり両手に自動展開の盾装備、『魔法障壁のブレスレット』と被るが攻撃時は身体から離れるから関係無い。

 三体錬金術し周囲を飛び回らせる。今は僕が直接操作しているが、最終的には自立行動をしなければならない。それに素材が上級魔力石だから、本番はツインドラゴンの宝玉を使う。

 うん、悪くない。難点は倒した敵の身体が魔力刃に切られて分割しちゃって内蔵をブチ撒けちゃう事だけだ。気の弱い淑女なら気絶するだろう惨劇だが、渡す予定の人達だと……アーシャが心配だな。イルメラもウィンディアも、冒険者としてグロテスクな事には耐性が有る。

 ジゼルとリゼル、ザスキア公爵は精神力が強いから理性で抑えて保てる筈だ。だが、アーシャは幾ら気丈になっても元は深窓の令嬢。流石に惨殺死体を見て精神を保てるかは分からない、慣らすのも酷だし……

 アーシャだけ外出時に『エルフ』シリーズにパンターとレオパルトを付けるか?現状、唯一の側室だから危険度は一番高い。幸いパンター達は獣系だから噛み付くか引っ掻くが攻撃方法だから、細切れにはしない。でも配属の条件が優れた土属性魔術師だから無理だった。

 まぁ今は小鳥ゴーレムの検証だな。有る程度操って慣れたらパターン化し、自立行動に組み込んで行く。ツインドラゴンの宝玉を使えば自我が目覚めるから、護衛としても最上級だろう。三体連携攻撃とか夢が広がるな……

「リーンハルト様、どうなさいました?中庭に一人で居て、小さな鳥さんゴーレムを操られて?」

「ん?カルミィ殿か。ゴーレム操作の鍛錬かな、難しい動きをさせる事でゴーレム操作の練度が高まるのです。小鳥は小さく操作が複雑で難しい……後は愛玩用として、お茶会の話のネタとしての可愛い動きの鍛錬ですね。ロジスト様絡みで、ヴェーラ王女の気分転換に呼ばれそうなんだ」

 魔法による警戒網に近付いて来る人物は感知していた。魔力の無い彼女だから、個人の魔力反応での特定は無理だったけどね。敵か味方かの判別は未だ難しい、あくまでも近付くモノの感知だから。

 そしてゴーレム操作の鍛錬だと誤魔化す。少し油断した、秘匿すべき影の護衛ゴーレムを人前で操っていたら話題になる。誤魔化すには鍛錬と、装飾品としての思い込みを作り出す事か。

 カルミィ殿の前に子猫や子犬、兎のゴーレムを錬金し可愛い仕草をさせる。あざとい動物ゴーレムシリーズだが、効果は絶大だったみたいだ。カルミィ殿の興奮が凄い、珍しいからか?

「まぁまぁまぁ!どうしましょう?ゴーレムさんは戦闘用で怖いと思っていましたが、こんなにも愛らしい子達も居るなんて!」

「女性受けすると思いまして、表情や仕草にも拘りました」

 ペタンと芝生の上に、所謂女の子座りをしたので周囲を愛玩動物ゴーレム達で囲んでみる。兎ゴーレムがお気に入りらしく、持ち上げて膝の上に乗せたりと可愛がってくれた。

 残念ながら手触りは金属製なので冷たくツルツルしている。改善策も幾つか有るが、革製や疑似毛皮は微妙に偽物感が強くなる。未だ全く偽物の金属製ゴーレムの方が工芸品としての美しさが有る。

 まぁ製作者としての拘りだけで、人によっては革製や疑似毛皮の方が良いかもしれない。僕は素材的強度で金属製を好む、一番作り込んで馴染んでいるから……

「そうだ。先程、ペリーヌ様の部屋にラナリアータと共に呼ばれました。例の調査の手掛かりを掴みましたよ」

「例の?あの壺の件ですか?」

 やはり妹の事は気にしていたのだろう。真面目な表情で僕を見詰めてくる。妹の謎の行動の原因、気になるのは仕方無い。しかも壺との因果関係、普通に謎だよな。

「頻繁に壺を持ち歩く理由は、ペリーヌ様の趣味である占いの小道具として用意させられていたみたいです。器に水を満たし、札を入れて占う。珍しい占い方ですね」

 カルミィ殿の表情からすると、ラナリアータが壺を持ち歩く訳は未だ聞いてなかったみたいだな。まぁ中々聞けないか……興味は有りそうだが、王族絡み故に失敗した時の事を心配した。

 王族の頼みは絶対的な命令と同じ、それを用意した壺を割ったり遅れたりしたら大問題だ。不興を買えば、最悪実家にまで責任が及ぶ。だが自分達の事よりも、妹の事を心配している。

 その気持ちが凄く伝わってくる。面倒見の良い、しっかり者の姉なのだろう。何だか微笑ましくなってきた。ジゼル嬢とアーシャもそうだが、姉妹とは仲が良いんだな。僕は腹違いの弟とは、結局仲良くは出来なかったけどさ。

「カルミィ殿は、ちゃんとお姉ちゃんしているんですね。ラナリアータも幸せって、ええ?またですか?大丈夫ですか?」

 抱いていた兎ゴーレムを額にぶつけたけど大丈夫か?本当に大丈夫なの?何かの病気じゃないよね?奇行過ぎるけど、本当に大丈夫なの?

「大丈夫です。額が痒くて軽く当てただけですから、大丈夫なのです!」

 その異様に輝く目と歪む口元に、カルミィ殿の抱える闇が見えた気がした。この姉妹、どこか変だよな……

◇◇◇◇◇◇

 二度目の『お姉ちゃん!』頂きました!本当に有り難う御座います。これだけで1ヶ月は頑張れます!そう私は、リーンハルトのお姉ちゃん。お姉ちゃん、良い響きです。

 思わず手に持っていた兎ゴーレムさんを額に叩き付けてしまいましたが、先程の私は淑女がしてはいけない顔をしていました。だから叩いても仕方無かったのです。

 お姉ちゃんは阿呆顔を弟に晒してはいけない、お姉ちゃんの威厳が一気に無くなってしまう暴挙なのです。危なかったわ、額がジンジン痛みますが我慢です。今も頬が、だらしなく歪みそうですが我慢です。

「えっと、ラナリアータですが彼女自身が壺好きな疑惑が有るんだ。ペリーヌ様は器の素材を指定し水を満たして持って来るように指示するのですが、彼女はわざわざ指定の素材の壺を探すみたいなんだよね。

今日も銅製の器と指定されたら、鋳銅製の壺に水を満たして運んでいたよ。女性が一人で持つには重すぎるのに、わざわざ重たい壺にしたんだ。銅製なら深皿やコップも有るのに、一抱えもある大きな壺だよ」

 ペリーヌ様の占いは確か命中率が半分とか占う事が明日の天気や夕食のメニューとか、微妙に役に立つか立たないか分からないって噂だったかしら?

 私自身は占う場面に立ち会ってないので、余り興味もなかったわ。休憩時に、他の侍女達が話題にしてるのを聞いて、そんな事も有ったのね程度の認識。

 妹がペリーヌ様の世話係なのは知っていましたが、専属でなく複数居る兼任の一人だと思ってました。悪いけど、ペリーヌ様は王族としての重要度は低い方だし。

「それは確かに不審な選択と行動ですわね。そう言えば昔から何故か花瓶とか好きでしたわ。当時は生けている花とかに興味が有るのかと考えていましたが、確かに壺好きな片鱗は有りました」

 そう言われてみれば、確かに妹は幼い頃から壺っぽい物に興味を示していたじゃない。ペリーヌ様は人畜無害と噂の行かず後家の御方、今思えば妹との世間話の時に聞いた事があったわね。

 命中率が微妙な占いを好んで行うとは知っていましたが、その小道具の依頼を壺に絡めていたとは……全く知りませんでした。しかし王族絡み、それに自分の趣味嗜好を絡める問題も多いわ。

 愚妹でも血の繋がった可愛い子には代わりはないわ。リーンハルト様との妹絡みの会話の内容は問題を多々含むけれど、会話自体は楽しい。お姉ちゃんとして、弟(リーンハルト)との楽しい会話に幸せを感じます。

「壺を愛している。戯れ言かと思っていたけど、此処に来てまさかの信憑性が?本人に確認すれば、この問題は解決ですね。カルミィ殿が聞いて下さい」

 悪戯っぽい笑みを向けられると、胸の奥がドキドキします。弟に発情などしないけれど、姉に無茶振りを迫る困った弟君にはお仕置きがしたくなるわね。

 でもそれとは別に何とかしてあげたい気持ちも有ります。これが惚れた弱み?いえ、純粋な姉弟愛です。男女間の不純な愛欲とは別物。

 ラナリアータに問い詰めて答えを聞き出せれば、その結果を弟君に報告する必要性が生まれる。ラナリアータ、姉の為にキリキリ全てを吐き出しなさい!

「私がですか?でも状況証拠は揃いましたから、王族の方の命令に個人の趣味嗜好を絡めるなと説得は必要……分かりました。(お姉ちゃんに)任せて下さい!」

「ええ、お姉ちゃんに任せます。結果は教えて下さい……あの、本当に大丈夫ですか?何か病気とか患ってないですよね?」

「おね、あひぁ!いえ、こほん。心配掛けて申し訳有りませんが大丈夫です。気になさらないで下さいませ」

 三回目の『お姉ちゃん』有り難う御座います。今月は休日無しで残業有りでも戦えます。何かが身体の奥底からジワジワと漲って来ました。

 今なら、レジスラル女官長は無理でも、ベルメル様なら勝てそうな気がします。いえ、必ず勝てます。負ける気がしませんね。

 私達に気付いた同僚達が中庭ににじり寄って来たので、残念ながら弟君との逢瀬は強制終了となりましたが『お姉ちゃん』を二回も頂けて大満足です。

 お姉ちゃん、頑張って愚妹の秘めたる性癖を暴いてみせますから!弟君は期待していて下さい。そしてまた『お姉ちゃん』と呼んで下さいね!

 




本年最後の投稿です。今年一年間有難う御座いました。
素人が趣味で書きたいモノを書きたい時に書きたいだけ書いて投稿する。
他の作家様からすれば多々文句が有るとは思いますが、読者の皆様にはお付き合い頂き本当に感謝しています。
プロットでは来年で完結予定ですので、もう暫くお付き合い下さい。
日刊ランキング九位、有難う御座います。

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