古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第758話

 携帯用の変形する武器、この発想は有るには有ったが重要視していなかった。ルーテシア嬢に贈った手首に巻き付けてレイピアに変形するブレスレットとか、伸びて魔力刃を発生させるロッドとか。

 自分は基本的に武器は杖だけだし、空間創造から取り出せるから意味が無く武人は暗器みたいで嫌がる者が多かったから。だが、後宮警護隊は普段は厳つい武器は持ち歩けない。

 意匠を凝らしたレイピアやショートソード、または短いロッドを腰に差す位だが敵と対するには心許ない。軽くて丈夫な携帯用の武器か、これは需要が有るだろう。

 空間創造からショートソードを取り出し、握りの部分を両手で掴みイメージを固める。刃渡り30㎝程の直刃で、ショートソードよりは大振りのナイフの方が近いが女性には扱い易い。

 このショートソードが瞬時に槍に変われば、長柄の武器はそれだけで間合いが広くなり有利になる。普段は柄込みで45㎝程だから、腰回りや太股とかに隠せるから傍目からは分かり辛い。

 イメージが固まったので、魔力を込めて錬金する。15㎝程の掴みの部分が、150㎝程に伸びるんだ。材質は鋼だが中空にして重量軽減をする。表面を柚肌にして滑り止めを施す、試作品だから細部迄は拘らない。

「うん、完成だ」

 握りの部分に魔力を通せば柄の部分が先に伸びる。槍に変形した時は柄の根元を持っている形になるが、構えとしては悪くない。

 ショートソードが急に伸びて槍になる、初見殺しの暗器とか思われるかな?軽く振り回して使い勝手を確認する、僕程度の使い手なら十分だ。

 武の達人にとっては軽過ぎるとか柔(やわ)いとか注文が出るだろうが、カスタマイズ出来るから問題無い。本人の魔力を登録し他人が使えないようにすれば、盗難対策にもなる。

 しまった、趣味に興じて彼女達の事を放置してしまった……反省しよう。見回せば全員が、驚愕の表情で僕を見詰めているけど正直照れる。僕の奇行をそんなに見詰めないで下さい。

「り、リーンハルト様?そのマジックウェポンですが、ショートソードが槍に変形しましたわ」

「ええ、王宮内で無骨な武器が持てない貴女方には使い勝手が良いかなって思いまして……即興で錬金した試作品ですが、良かったら試しにどうぞ」

 そう言って、チェナーゼ隊長に渡そうとしたら皆が一斉に手を出した。淑女でも武人気質が高いからか、マジックウェポンとか大好物なんだな。

 取り敢えず追加で二本錬金し使い方の説明を交えて渡す。チェナーゼ隊長とライリーヌ副隊長、それとミュカと呼ばれていた皇帝ダリア派の隊員が受け取った。

 全員が最初に魔力を通して伸縮具合を確かめている。その間に他の隊員達が机や椅子を片付け始めたのは、此処で振り回す為だな。つまり順番に全員が使ってみたいんだ。

「何という常識外れなマジックウェポンなのだ。得物の長さを自由に調整しながら戦えるなんて、革命的だぞ」

 いえ、直ぐに魔力供給を調節して使いこなせる事の方が驚きです。変幻自在っていうか、僕でも伸縮の調節は可能だが武器を扱いながらでは全く敵わないな。

 物凄い笑顔で武器を振り回す、チェナーゼ隊長を見ていた二人が何かしらのアイコンタクトをしたぞ。ライリーヌ副隊長は他の隊員との連携に視線や仕草だけで行う事が出来るんだな。

 そして、チェナーゼ隊長は全く気付いていない。鬼気として、いや喜々として振り回している。多分だが、この表情や行動が美少年殿から怖がられた原因なんじゃない?

「確かに槍から短槍、そしてショートソードに瞬時に変化させられるなんて。つまり、こう言う事です……ねっ!」

「ふん、甘いな」

 ライリーヌ副隊長がチェナーゼ隊長に向かい、水平に振り抜きながら長さを伸ばした。完全な不意打ちであり、間合いの外から内に伸びながら迫る攻撃。

 だが柄の部分を80㎝程伸ばして受けた。そのまま力強く押して弾いた後、クルリと一回転させて刃を向けて伸ばそうとして……

「ふふふ、存外隊長も甘いですわ」

「ミュカ、お前は小細工ばかり上手くなりおって!」

 ミュカ隊員が魔力の操作だけで伸縮させて、残像が見える速さで突きを繰り出す。普通なら両手で構えて前後に動かし連続攻撃を加えるのに、腕は狙いを付けて僅かに動かすだけだ。

 つまり身体は疲労せずに連続攻撃を繰り返せる。これは最大長さを2mとかにして多人数で槍襖の陣形を組めば、トンでもない分厚い防壁になるんじゃないか?

 ついに捌き切れなくなった、チェナーゼ隊長が地面に槍を突き刺し伸ばした反動で後ろに飛び退いた。もう製作者が意図してない利用方法のオンパレードだ。流石ですねって、言えば良いのか?

「はい、ストップ!お試しは終了、終了ですからっ!」

 両手を広げて三者の間に割り込む。間違って攻撃されても、物理攻撃で僕を傷付ける事は不可能だ。彼女達も直ぐに攻撃を止めてくれた。

 淑女達であっても脳筋には変わりない、思考や行動が義父達みたいだよ。取り敢えず戦ってから考える、いや考えるより感じろ!みたいな?

「リーンハルト殿!これは、この槍は非常に使えるぞ。是非とも後宮警護隊で正式に採用したい、絶対だ!ライリーヌ、急いで予算申請をするんだ」

「馬鹿な事を言わないで下さい。ドレスアーマーだけで予算オーバーですから、一部個人負担にしてるんです!国費では無理です。予算には枠が有り補正予算も臨時予算も、使うには理由が必要なのです!」

 言葉は立派だが、マジックウェポンは放さずに抱え込んでますよ。それは試作品だから、作り込みが甘いんだ。毒や麻痺を付加したら、彼女達はどんな反応をするのか考えたら怖いぞ。

 いや麻痺付加の槍は、ローラン公爵に正式に命名して貰うから麻痺付加は無し。ランダムな錬金毒の付加で良いだろう。僅かに傷付ければ相手は行動不能になるから、毒も麻痺も効果は高い。

 まぁ麻痺は死ぬ事はなく時間が経てば回復するが、毒は自然に治癒しないし時間が経てば状態が悪化し最悪は死ぬ。麻痺は直ぐに動けなくなり戦闘不能となるが、毒は即効性が低いのが違いか……

「なら個人負担だ!このマジックウェポンを見て払えない奴など居ない、居る訳がない。無理なら私が貸してやるから、後宮警護隊は全員装備だっ!」

「そうです!正式に全員が採用すべき案件ですが、この武器の性能は秘匿するべきです。無闇に広めず、いざという時に使う。珍しい武器を手に入れたとか自慢して騒ぐのは駄目、それは悪手です」

「下手に広まれば製作者である、リーンハルト様に迷惑が掛かります。自分も欲しいとか一斉に群がるでしょう」

「ですが何時かは使う時が有るでしょうし、使ってしまえば誰が作ったのかは誰でも分かりますわ」

「出来る限り秘匿する。だが必要に迫まれれば躊躇無く使う、任務が最優先だろう。隠して任務に失敗しましたは、自らの死にも関連する失態だ!」

 白熱した話し合いに突入したよ、製作者を置いてけぼりにしてさ。だが彼女達の武力の底上げは、王宮内の特に後宮や女性王族の方々の安全にも直結する。

 一人一本迄で価格は金貨五千枚、少し短くしてドレスアーマーの腰の部分に装着し隠し武器にする事で収まった。流石に我を通して話し合いが纏まらないと、この話は無しになると危ぶんだからだ。

 これで彼女達の武力の底上げと影響力を得られたし、多大な金貨も懐に入っている。メンテナンスも含めて継続的にだ。本気で鍛冶ギルド本部に行かないと、駄目かも知れないな……

◇◇◇◇◇◇

 自分の執務室に戻って、自動攻撃用のマジックアイテムについて考える。人払いをして紅茶をポットごと用意した。最大二時間位は緊急以外の取次も無し、錬金途中で来られたら危険だから。

 先ずは方向性を考える。積極的に攻撃する事は無いが、反撃だけでは用途が限定される。有る程度、装備者の意向に添って攻撃をさせたい。だが装備者は魔術師じゃない場合も有る。

 口頭指示を可能にしないと駄目だ。命令権の譲渡は、ゴーレムならば禁忌の範囲だな。誰でも制限無く強力無比なゴーレムを操れるとなれば、問題は直ぐに二桁以上思い浮かぶ。

 高価だから数を揃えられない?無駄だ、王家や公爵家クラスなら、金に糸目など付けない。逆に金銭だけの制限など無いに等しく、大量発注するだろう。結果的に僕は儲かるが、関係各所から悲鳴が上がる。

 特に警備関連は悪事を働く可能性が有る強力なゴーレムが氾濫するから、胃が痛くなる程度じゃないだろう。稀少な触媒を多数使うならば、未だマシだろう。少なくとも数は抑えられる。

 まぁ貴重なマジックアイテムだから王家に献上しろって騒ぐ奴等も居るだろう。王族を唆し伝手を使い借り受けたり盗んだりも有り得る。各王族には後見人が居て、彼等の意向は割と通る。

 莫大な金貨を注ぎ込んで援助しているから、元を取りたいと思うのは普通だし援助される方も後見人の協力をするだろうし……持ちつ持たれつ上手くやろうって関係が普通だから。

 僕みたいに金銭の負担が目的じゃないから、それが後見人のメリットだから。公爵三家の当主達だって、ザスキア公爵以外は無条件の信用は無理だ。損得勘定で繋がった悪だくみ仲間だし。

「ふむ?口頭指示が必要となると、攻撃担当のゴーレムか。それじゃ、パンターやレオパルトと変わらない。大型動物を侍らすと秘匿は無理だが威嚇にはなる。身内に狙われていた、メディア嬢の場合なら有効だったが……」

 ジゼルやアーシャ、イルメラにウィンディア。リゼルにザスキア公爵の周りには、常に大型動物型ゴーレムが複数侍っている。それはそれで問題だ、目立たぬゴーレム?

 それは『召喚兵のブレスレット』と同じ効果だから無意味だな。常に近くに侍って守るゴーレムが欲しいが、目立たない存在が望ましいとか矛盾だらけだ。

 スカラベ・サクレなら可能、小型の昆虫で強力な即効性の毒を扱う。目立たず攻撃担当としては優秀だが、前王暗殺の実行犯だから世に出す事に躊躇いを感じてしまう。

「未だ再考の余地有りだな。急ぐ訳ではないが、後回しにはしたくない。それは大切な人達を守る手段の制限だから……」

◇◇◇◇◇◇

 私的なマジックアイテムの考察を終えて仕事を再開する。錬金する迄には至らなかったが、側に居ても不自然じゃない小動物か昆虫系の何かにする予定だ。

 二時間面会謝絶にしただけでも何通か親書や報告書、決裁が必要な書類が届けられている。内容に目を通し分からない部分に付箋を貼り、担当者に説明に来る様に指示を出す。

 貴族街と新貴族街の巡回の報告に目を通せば、少なからず不審者の目撃情報や実際に捕縛したとの報告も有る。警備が緩くなったとはいえ、貴族街に盗みに入る程の図太い連中が居るのか。

 幾ら巡回をしても人手不足は如何ともし難く、貴族達も男手が参戦しているので防犯上の問題が出ているみたいだな。特にバセット公爵とバニシード公爵の派閥構成貴族に被害が偏っているのは……誰かが情報を流し手引きしている?

 手厚い巡回をしていないのと、当主が軍規を乱し処刑された事による混乱が突け込まれる原因だな。一応指示書を出して落ち着かせているが、彼等は疑心暗鬼になっているのだろう。

 当然だ、下手をすれば連座で処罰される可能性も高い。公爵本人が処罰されたならば、血縁者や派閥構成貴族達も責任を問われる可能性が高い。出来れば工作をしたいが、それを止められているからな。

「バセット公爵の三女、ラーナ嬢からの嘆願書?今の立場で、良く王宮内の僕の執務室に届けられたな。ヴェーラ王女と同じ公爵家直系の淑女だが未婚、つまり最大の保護者である父親が居なくなった訳だが……」

 報告書に紛れて、彼女からの親書が届けられていた。流石は公爵令嬢、未だ王宮内に伝手を持っているんだな。四季の挨拶を交わす程度には交流が有るし、内容によっては対処するか……

 地味だが良い紙を使っている。蝋封をペーパーナイフで切り、中の手紙を取り出す。広げて読めば季節の挨拶から始まり、急に親書を送った事へのお詫びが綴られている。

 本題だが、やはり身の安全に対して配慮というか保護を求めて来た。彼女は未婚、だが父親は処罰されたから保護は受けられない。旦那も居ない、親類縁者の援助も期待薄らしい。

 一応中立な立場で伝手の有る僕に、保護を求めたのだろう。いや、提案の承認と一時的な後ろ盾を求めたと言うところかな?再度手紙を読んで内容を確認、僕に求めている事を考える。

「腐っても元公爵夫人、我が子を使い僕に彼女達の現状維持の最善策を提案して来たのか。僕にもメリットは有る、王都の騒ぎを最小限に抑えられるからな。一方的でなく双方に利が有る、しかも一時的な協力体制だからデメリットも少ない」

 手紙を置いて机を人差し指とトントンと軽く叩く。最近の考え込む時の癖、単純な行動と一定のリズムの音を聞くと落ち着くんだ。目を閉じて考えを纏める。

 バセット公爵夫人は派閥の構成貴族の力の無い未婚の淑女達が、保身の為に強制的に側室や妾に出されようとしているのを防ぎ、彼女達を一時的に保護する為に、バセット公爵の屋敷に集めたい。

 子供達も同じく保護したいのは、幼女・幼児愛好家の魔の手から守るためか。それと手持ちの資産は持ち込みたい、つまり金貨や宝石類等の直接的な資産は奪われる前に確保したい。

 没落しても生活に困らないように手元に財産を残したい。屋敷や動かせない美術品は諦める、彼女達にメリットが大きいと思うが、王都の相続絡みの乱痴気騒ぎの一部は沈静化する。

 バセット公爵夫人達は、国王の沙汰が下りる迄の一時的な安定。下された沙汰によっては、折角集めた財産の没収も有り得るが暫くは安全が確保される。

 永続の保護なら断るが、あくまでも現状維持の保留だ。本人の意志による恋愛とかの建て前で、勝手に貴族間の婚姻を結ばれ親戚関係による派閥移動をされるよりはマシか……

 採用、直ぐに関係各所に通達。詳細を詰める為に、責任者を此処に呼ぶか。

 


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