古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第73話

 カミオ村とミオカ村を襲うアタックドッグの討伐依頼を請けた。

 冒険者ギルド本部から紹介された『鋼の大剣亭』は元冒険者の夫婦が営んでおり、冒険者ギルドから委託を受けていた。

 支店や支部も置けない小さな村には良く有るシステムだそうだ。

 ボリュームのある夕食を食べて仮眠し夜食も用意して活動を開始する。

 夜間は村の家畜を襲いに来る、だがミオカ村に集中しているのでミオカ村の外れで待機しエレさんのギフト(鷹の目)を頼りに索敵し他の冒険者パーティを出し抜く予定だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おっ、新しい連中が来たな……何だよ、餓鬼かよ」

 

「だが偉く豪華なパーティメンバーだな……魔術師二人に僧侶に盗賊か、若いが何歳だ?」

 

 どうやら考える事は一緒みたいで村の外れには既に二組のパーティ、合計十一人が屯っている。彼等が先任の連中か……

 最初に声を掛けてきた連中は二十代半ば、男四人女二人で戦士四人に盗賊一人、それと魔術師だ。

 後から声を掛けてきた連中も同じく二十代半ば、全員男で戦士四人に盗賊一人。

 槍と弓という中・遠距離攻撃に対応した装備だな、素早いアタックドッグと戦うなら接近戦は避けたいし……

 

「今晩は、先輩方。僕等は『ブレイクフリー』です。宜しく」

 

 値踏みされているのが嫌だが僕も連中を評価しているからお互い様で仕方ない。

 

「なぁ俺達はさ、協力してアタックドッグを狩ってるんだよ。お前達も俺等と協力しないか?」

 

「そうだな、魔術師の存在は嬉しいぜ。ウチのは水属性だから攻撃力は低いし……」

 

 協力?確かに十匹以上の群れならば同数は欲しいからな、今の彼等は十一人。

 十分対抗出来る戦力だ……でも報酬が三分の一じゃ効率が悪過ぎる。

 

「いや、悪いが僕等だけで頑張るよ。共闘はしない」

 

 する意味が無い、僕等だけでも問題無い。ウィンディアがさり気なくエレさんの前に移動、イルメラも権杖を握り締めた。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 僕はゴーレムポーンを八体、ロングソードとラウンドシールド装備で錬成する。

 

「悪いが戦力は間に合ってるんだ。お互いに頑張れば良いだろ?」

 

「うぉ?ゴーレム?八体もかよ!」

 

「多人数の有利さが無くなったぜ。畜生、勝手にやれば良いだろ!」

 

 やはり脅して扱き使うつもりだったのか?しかし水属性の魔術師は転生してから初めて会ったな、少し話したかった……

 

「ああ、勝手にやるよ。そっちの邪魔はしない。獲物は先に見付けた者勝ちにしよう、横取りは無しだぞ……」

 

 彼等から10m程離れた場所に有る倒木に座る。頼みの綱のエレさんも隣に座って索敵を開始した。

 

 今夜は雲が無く三日月が出ているので明るい……見回せば村を守る柵の外は広大な麦畑、その奧には放牧に適した草原が広がっている。

 一体アタックドッグは何処から現れるんだ?

 

 自分達の周りを魔法の明かりで照らす、倒木に並んで座る僕等をゴーレムポーンが囲む様に守る。

 風が出て来たのか麦の穂が揺れだし少し寒くなってきた……

 

「来る!こっち、150m先に十五匹」

 

「む、麦畑の中からか?ゴーレムポーンを先行させるから続いてくれ。エレさんは僕の傍から離れないで!」

 

 ギフト(鷹の目)の感知範囲ギリギリからアタックドッグが攻めて来た。ゴーレムポーンを先行させて迎え撃つ……

 

 直ぐにアタックドッグは現れた、四つ足で動く為に麦畑では隠れて見付け辛い。

 

「「「分かったわ!」」」

 

 走り出して直ぐにアタックドッグを見付けた、真っ直ぐ此方に走ってくる。

 

「ゴーレムポーンよ、殺れ!」

 

 横一列にゴーレムポーンを並べて迎え撃つ、真っ直ぐ向かってくる先頭のアタックドッグにロングソードを突き刺す!

 

「ウィンディア、奴等が逃げ出す前に倒すぞ!ストーンブリッド!」

 

「分かったわ、ウィンドカッター!」

 

 野性のアタックドッグは危なくなると逃げる習性が有り、負けた相手の匂いは覚えて避ける傾向が有る。

 だから見付けたら殲滅するのが望ましいんだ。

 逆に魔法迷宮にポップするモンスターは、どんなにレベル差が有ろうが逃げずに襲ってくる。

 十分に引き付けてからの一斉攻撃にアタックドッグは為す術も無く全滅した……

 

「うん、大丈夫だね。今の僕等でも十分に対応出来る、問題無いな」

 

 手際良くエレさんが討伐証明部位で有る牙を抜いていく、念の為にゴーレムポーンに止めを刺させる。

 生死を確認せずに不用意に近付いて逆襲されたら大変だから……

 

「リーンハルト様、『鋼の大剣亭』の主人が出来ればアタックドッグの死体を持ち帰って欲しいと言ってましたね。

何でも村では貴重な蛋白質で火鍋と言う名物料理の材料だとか……」

 

 そう言えば宿を出る時に言われたな、農村部では家畜は生活に必要なので食べる事は少ない。

 お祝いの時に食べる位だから代替の蛋白質がアタックドッグ等の野生のモンスターなのだとか……

 エレさんは血抜き等の技能も学んでいるらしいが今回は空間創造に纏めて収納すれば良いな。

 入れた状態で保管されるから今直ぐに処理する必要はないし索敵役の彼女を疲れさせては本末転倒だ。

 エレさんが牙を抜いたアタックドッグを順番に空間創造にしまう。

 

 火鍋か……果たしてどんな料理なのだろうか?でも要は犬鍋だけど美味しいのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初の襲撃から二時間後に次の群が襲ってきたが問題無く倒せた。

 最初が十五匹、次が十二匹と順調だが効率は悪いな……

 これでミオカ村の依頼は達成したがカミオ村を襲うアタックドッグを倒さないと駄目なんだ。

 ミオカ村を襲ったアタックドッグはカミオ村の依頼には使えない、だが襲ってくるのは稀だ。

 向こう側で待機しても現れない場合を考えると悩ましい……

 

 最初に座った倒木まで戻る、他の連中は場所を変えると移動して行った。

 確かに獲物を独り占めしてるからな、嫌な連中が来たと思っているだろう。

 

「順調だが討伐数は伸びないな、明日は付近の森を探索して野生のモンスターも狩ろうか?でもこの辺だとゴブリン位か……」

 

「ミオカ村の依頼は達成ですから、早めに見切りを付けて新しい依頼を探しますか?」

 

 うーん、一件の依頼達成で全員に1ポイント、討伐証明部位で1ポイント。赤字は気にしないが効率は悪いのも確かだ。

 

「でも『新生ブレイクフリー』の初依頼なんだよ。片方で終わりは淋しくない?

明日は昼間も夜間もカミオ村に待機して頑張ろうよ」

 

 イルメラは僕と同じ効率をウィンディアは冒険者としてのプライドかな?を重視した意見をくれた。

 

「また来た……今度も十五匹、こっちから」

 

 エレさんは自分の仕事に集中してくれた、でも今晩は襲撃の頻度が高くないかな?

 三日間で討伐数が百匹位って話なのに、既に四十二匹も襲って来てる……

 ああ、そうか!他の連中は殲滅出来なくて逃がしてるからか。

 

「よし、今はアタックドッグを狩る事に専念しよう」

 

 待機させていたゴーレムポーンを起動し迎え撃つ準備をする。これは朝まで待機しないと夜襲を防げないかもしれないな……

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 明け方まで頑張って倒したアタックドッグの総数は八十七匹、襲撃回数は六回だった。エレさんがレベル12になったが他は変わらずだ。

 

「眠いね、早く宿屋に帰って寝よう。午後に村長を訪ねて依頼達成の手続きをしよう」

 

「疲れた、でもレベルアップは嬉しい」

 

 エレさんは元気一杯だな、少し前まで半分のレベル6だったし低いから上がるのも早いな。

 魔法迷宮のボス狩りに参加させればレベル15位迄なら直ぐに上がるだろう。

 

「魔力も半分位に減ったし早く寝て回復したいわ」

 

「私は未だ大丈夫です、ゴーレムさんの守りで皆さん怪我も無いですし」

 

 アタックドッグ討伐はスピード勝負なのでウィンディアも何回も攻撃魔法を使っていたから魔力の消費が激しいか。

 逆にイルメラは数回の防御魔法を使っただけで治癒魔法は使っていない。

 

「僕等は魔法特化型パーティだからね、早く宿屋に帰って寝よう。ウィンディア、辛かったら魔力石が有るから遠慮なく言ってくれ」

 

 僕は一日一個、上級魔力石を満タンに出来るからストックはそれなりに有る。

 

「平気、でも私よりもリーンハルト君の方が魔力消費が多いのに平気みたいね」

 

 ははは、と笑って誤魔化す、カミオ村に向かうが既に村人は起きだして朝食の準備を始めている。

 本当に日の出と共に起きだすんだ、家の前で農具の手入れや井戸で水汲みとか……

 

「おや?新しく来た坊や達は成果が無かったの?何時もの連中は二匹か三匹位狩って肉を売ってくれたわよ」

 

 井戸で水汲みをしている中年女性に話し掛けられた。40代後半だろう恰幅の良い女性からすれば僕等は息子か娘感覚か?

 

「いえ、それなりに狩れましたよ。僕のギフトで収納してるだけです、ほら」

 

 空間創造から一匹のアタックドッグを取り出して見せる。

 

「ちゃんと狩れたんだね。もし買い手が決まってないなら引き取るよ、銀貨一枚でどうだい?」

 

 火鍋の材料と言うか食用って本当なんだな。でも捨てるつもりが銀貨一枚とは嬉しい誤算だ。

 

「すみません、『鋼の大剣亭』の主人に売る約束なんです」

 

 先約が居るから売るのも気が引けるし相場も大体知れた、でも八十七匹全部買い取ってくれるのかな?

 

「坊や、あそこに泊まってるのかい?」

 

 あれ?探る様な目をしてるが何か不味かった?

 

「はい、冒険者ギルドから紹介された宿屋なので……何か?」

 

「坊やだと思ったけど凄い坊やなんだね」

 

 グリグリと頭を撫でられたが完全に子供扱いだな、本当に子供だけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 早朝にも関わらず『鋼の大剣亭』の食堂は営業していた、客もそれなりに居る。

 

「ただいま戻りました」

 

「おぅ、お疲れさん!何だ、手ぶらか?」

 

 配膳する主人に残念がられたが空間創造や魔法の収納袋が珍しいからか?

 

「いえ、空間創造に収納してます。場所を指定してくれれば出しますよ」

 

 店内でモンスターの死体を積む訳にはいかない、営業妨害だ。

 

「ほぅ、そりゃ有難いな。厨房に行ってティルに聞いてくれ、買取りは銀貨一枚だ」

 

 相場通りだな、頷いて厨房を覗くと主人との会話が聞こえていたのかティルさんが土間を指差している。

 

「成果有りかい?此処に出してくれ、血抜きしたりはしてないんだろ?」

 

 6m四方の土間だが何とか積めるかな?

 

「分かりました、積むので一緒に数を確認して下さい。一匹、二匹、三匹、四匹……」

 

「おお、頑張ったね。何匹居るんだい?」

 

 数えながら取り出していると全体数を聞いてきた、十匹位と思ったのかな?

 

「全部で八十七匹です。積めるかな?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんなに積んだら厨房が一杯になるよ!あんた、ちょっと来てちょうだい」

 

 慌てたティルさんが主人を呼びに行ってしまった……

 

 その後宿屋の方で一旦全部を買い取ってくれたが村の広場に並べて村全体で分ける事になった。

 流石に調理して客に出すにも保存するにも大量過ぎて捌けないそうだ。

 

「お前等、凄い奴だったんだな。流石は冒険者ギルド本部からの紹介だな。成果も出たしもう帰るのか?」

 

「もう一泊してカミオ村側で索敵してみます、昨日はミオカ村だけでしたし。それより夫婦で宿屋を空けて平気なんですか?」

 

「ん?息子が居るから平気だ」

 

 ティルさんが山積みのアタックドッグを村人に手際良く売るのを主人と並んで見ている。

 ちょっとしたお祭り騒ぎになっていて、あれだけ山積みだったのに直ぐに売り切れそうだ……

 

「今夜はカミオ村の殆どの家で火鍋だな、ウチでも夕食は食わせてやるよ」

 

「楽しみにしてますね。でも明日は売れないですよね?」

 

 ティルさんは二十匹を買って残りを村人に配っているが、流石に明日は売れないよね?

 


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