古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第71話

 目の前で居心地悪そうに座る息子を見て思う、『男子三日も会わねば刮目せよ』と言われるが半月で独り立ちされては親としての立場が無い。

 元々は血筋の悪さで俺の跡を継げないから廃嫡して独立する、弟が当主になれば立場上仕えなければならない。

 だがインゴには母方の実家であるアルノルト子爵家の影響が……リーンハルトは数少ない魔術師だから良い様に使われてしまう。

 だから来年の成人前に力を付けると独立し冒険者になったのだが、僅か半月で一人前の冒険者になってしまうとは……

 しかも近年では四番目の期待の大型新人、他の貴族達からすれば欲しい人材だ。

 

 だから俺の本妻の実家が直ぐに動いた、アルノルト子爵の一族の娘の婿にと……

 だがコイツは、それすらも読んでいたのか既に有力貴族たるデオドラ男爵をパトロンとして、その愛娘の婿候補になっていた。

 ジゼル嬢とはデオドラ男爵が目に入れても痛くないと公言している二人の娘の片方、ルーテシア嬢は本妻の娘だから後継者候補に嫁がせる。

 ジゼル嬢は側室の娘だが出来の良いデオドラ男爵の参謀、懐刀と言われる娘だ。

 そんなジゼル嬢と比較されては余程の条件を積まれなければ俺は断れる。

 もっともリーンハルトは愛無き政略結婚は嫌だと断ったらしいが……

 

「デオドラ男爵には借りが出来たな。愛娘をダシに婚姻を断って良いと言ってくれたのだ。

彼女以上の相手でないと断れる、だがお前の身分では彼女以上の候補者など居ないだろうな」

 

「申し訳ありません、父上。デオドラ男爵には大きな借りが出来ましたが、必ず僕が返します」

 

 この出来の良い息子は親に世話をかけまいと動き回っているが、親とは子の為に何かしたいのだぞ。

 

「親は子供の面倒をみるのが当たり前だ、気にするな。それにお前は殆ど自分で何とかしてるだろ?」

 

 ワシャワシャと力強く頭を撫でる、全く少し会わないだけで別人みたいに強くなったものだ。

 

「父上、痛いです。それとインゴの事ですが……

実はバンクに派遣されている騎士団員から、良くない話を聞きました。どうやら僕と比較されて根も葉もない噂が広まってる様なのです」

 

 インゴ、もう一人の愛する息子。

 だが目の前の出来た兄よりは普通の弟、決して同世代の子供より劣っている訳ではないが年相応の甘えが有るのだ。

 騎士団の副団長の俺の跡を継ぐには今は未熟だが筋は良いので鍛えれば……

 

「何だ、その根も葉もない噂とは?比較と言ってもインゴは冒険者じゃないぞ」

 

 分かっている、優しく大人しい性格のインゴには厳しい縦社会の騎士団には合わない事は。

 だがバーレイ男爵家を継ぐには騎士団に入るのが手っ取り早いのだ、アルノルト子爵を頼りに王宮勤めも考えられるが、サポートが不十分だろう。

 アルノルト子爵の庇護下よりも俺の下で騎士団に居る方が力になりやすい。

 

「僕が目立ち過ぎた為に弟に迷惑を掛けて申し訳ないです。良くも悪くも騎士団は純粋に力を信奉しますから……」

 

「アルノルト子爵の使者からも言われたよ、もう少し何とか出来ないかとな……

アレはアレなりに頑張っている、誰もがお前みたいに直ぐに結果は出せないんだぞ」

 

 やはり、僕の取り込みとインゴへの発破が今回の使者の目的か……

 インゴの方は未だ問題無い、嫌味の一つも言った位だが僕の取り込みが失敗となると、どう動く?

 現実的にジゼル嬢以上の娘はアルノルト子爵には居ない、本妻の娘は既に他家に嫁いでいるしグレース嬢は四女だが妾の子だ。

 残りで居るのは若い側室か妾が産んだ幼い子だけ、僕も14歳だが結婚相手が未だ5歳とかは笑えない。

 

「基礎体力を高めてから騎士団との合同訓練に参加させては?

顔見せは済みましたし強くなってから再度一緒に訓練させれば皆も成長したインゴに驚くでしょう」

 

 インゴは性格的に争いを避ける傾向は有るが素養は高いならば訓練次第で何とかなる。

 最悪は僕と二人でパーティを組んで魔法迷宮を探索すればレベルアップするだろう。

 レベルだけ上げても本当の強さには繋がらないかもしれない、だが騎士団への入団の手助けにはなるな。

 

「強くなってからか……アレは優しく大人しいから戦う事への恐怖を克服しないと駄目なんだ。

俺と二人でモンスター討伐をして地力を上げてから考えるか……」

 

 父上も同じ考えなら安心だな、しかし確認してないがインゴのレベルって幾つなのだろう?転生前の僕より一つ下だからレベル6だったかな。

 

「父上、お知らせしておきたい事が……デオドラ男爵ですが冒険者ギルドのオールドマン代表と繋がっています。

僕の情報も冒険者ギルド側から漏れた可能性が高いのですが両人共に悪くは扱わないそうです。

今後暫くは冒険者として活動し定期的にデオドラ男爵からの指名依頼を請ける事になります。

それとデオドラ男爵の娘、アーシャ嬢の二ヶ月後の誕生日に呼ばれてます。僕からの報告は以上です」

 

「アーシャ嬢か……確か今年十六歳になるんだったな。

社交界にはデビューさせないが誕生パーティーは盛大に執り行うと聞いている、実は俺も同じ派閥としてインゴ共々招待されているんだ。

完全な婿候補への顔見せだな……」

 

 婿候補への顔見せ……折角の誕生パーティーが政略結婚の行事に変わってしまうのか。アーシャ嬢も大変なんだな。

 

「貴族の令嬢とは大変なのですね、父上はエルナ様と仲睦まじく暮らしているのに……」

 

「馬鹿者!親をからかうな。だがな、結婚してから育む愛も有るんだぞ。

リーンハルト、お前も来年成人したら自分の意志で結婚が可能だ。

焦らすつもりは無いが良い娘が居たら直ぐにモノにしろよ。良い娘とは競争率が激しいんだぞ!」

 

「ぼっ、僕は未だ結婚とかは考えてません!」

 

 この世界は男性のみ十五歳で成人式を執り行う決まりが有る、女性は特に無いが十五歳から二十歳が結婚適齢期と考えられているんだ。

 男尊女卑と言うか貴族でも女性には相続権すらないのが現状だ、貴族の令嬢は実家の為に家長が決めた相手に嫁ぐ。

 平民は恋愛結婚が殆どだが一夫一婦制で金持ちが妾を囲う。

 中には複数の女性と同時に付き合う猛者も居るが、それは金と力を持つ高レベルの冒険者の一部だ。

 

 久し振りに父上とエルナ嬢、それとインゴと昼食を一緒に食べてから実家を後にした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼過ぎ、まだ太陽は高い……

 一人で新貴族の集まる区画を歩く、僕が貴族でいられるのも後僅かだ。

 貴族に未練は無い、逆に柵(しがらみ)の多さに辟易しているが恩恵の多さも知った。

 デオドラ男爵の対応の良さに少し警戒する、ウィンディアだけで破格なのにジゼル嬢の名前まで使わせて貰っている。

 あれではデオドラ男爵側に問合せも行くだろう……

 綺麗に整備された石畳の歩道、成金趣味丸出しの馬車が行き交う車道。

 歴史の浅い新貴族達の精一杯の努力が分かるが、歴史の有る従来貴族には未だ敵わない。

 だが活気は有る、今後の努力次第かな?

 暫く歩くと僕の家に到着したが、未だイルメラ達は帰って来てないようだ。

 玄関の鍵を開けて中に入るとキッチンからバターの良い匂いが……

 釣られて行くとテーブルの上に皿に山盛りの焼き菓子が置いて有った。

 そう言えば魔法迷宮の帰りにケーキを買って帰ろうとして『静寂の鐘』の皆と合流して外食したんだっけ……

 これは、その代わりかな?

 

 一つ手に取って食べてみる、素朴だが優しい味がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 焼き菓子を摘み食いして部屋で寛いでいると女性陣が帰ってきた。

 漏れ聞こえる話し声から察するに選んだのはエレさんみたいだ、彼女の声は聞こえないが彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 客間に向かえば、やはりエレさんがソファーに座っていた。

 

「おかえり、そしていらっしゃい、エレさん」

 

 パッと立ち上がりお辞儀をするエレさん。

 

「リーンハルト君、お邪魔してます。それと……あの……」

 

 小声で言い辛そうにしているが、イルメラ達は彼女を選んだんだよね?目配せすれば無言で頷いたので間違いなさそうだ……

 

「パーティ加入の件だね、歓迎するよ。ようこそ『ブレイクフリー』へ」

 

「あ、ありがとう。頑張るから……」

 

 立ち話もアレなのでソファーに座らせる。

 直ぐにイルメラが紅茶と用意していた焼き菓子を運んできた。

 懇親の為に出掛ける前に作っておいたんだな、本当に気が利くと言うか気配り上手と言うか……

 暫らくはお茶を飲んで世間話をして親睦を図る。

 

「エレさん、メノウさんに挨拶に行きたいんだけど予定を聞いてくれる?」

 

 焼き菓子をパクつくエレさんに話し掛ける、彼女は口の中のモノを紅茶で流し込んでから応えた。

 流石に食べながら喋る事はしない、メノウさんにマナーは学んでいるんだな。

 

「お母さんに?何故?」

 

 愛娘を危険な冒険者パーティに引き込んだからだ、彼女は何と無くだがエレさんが冒険者になる事に反対な気がする。

 盗賊ギルドに加入してるんだから今更な感じだけど……

 

「これから一緒に危険な冒険者として活動するからね、挨拶はしておくさ」

 

「そう、分かった。予定を聞いて連絡する」

 

 少しだけ考えてから小声で話してくれたのだが、未だ僕等に壁が有る感じがする。パーティの絆はこれから育んでいけば良い。

 

 エレさんと一緒にパーティで活動するのは、メノウさんとの挨拶の後だ。

 連絡待ちの間はイルメラとウィンディアと三人での行動になるだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それで、エレさんに決めた理由は何だったんだい?」

 

 エレさんを送り出してから応接室に戻り、一番聞きたい事を尋ねた。

 向かいに座る彼女達が互いの目を見て頷き合ってから教えてくれた理由に驚く……

 

「「ジャンケンです!」」

 

「え?もう一度言ってくれるかな?」

 

 理解を越えた回答に聞き返した、まさか幼い子供じゃあるまいしジャンケンはないよね?

 

「本当にジャンケンで決めたんです。

彼女達は誰が選ばれても従う様に盗賊ギルドから言われていました。但し選ばれないのは能力が低いからと思っていたそうです。

ですがリーンハルト様が能力的には誰でもOKだと聞いて嬉しそうでした。選んで欲しかった相手には認められていたから……

私達もリーンハルト様が誰でも間違い無いとの言葉を信じたので選ぶ事が出来ず、ウィンディアの提案でジャンケン三回勝負にしたんです」

 

「イルメラさん、その説明はズルいです!

ジャンケンだって勝負に違い有りません。遊びじゃないんです、駆け引きや運が重要なんですよ。

だから彼女達も納得して大ジャンケン大会三本勝負にしたんです」

 

 そうだったのかー、僕はジャンケンを子供の遊びと思ってたよ……確かに心理戦、手の動き、運の要素も有るのか?

 

「それでエレさんが勝ち抜いた訳か……」

 

 あの小柄で大人しい彼女が、そんな激しい勝負に勝ち抜いた事に少し驚いた……

 

「はい、ベルベットさんもギルさんも最後は笑ってました。残念だけど仕方ない、でも何か有れば頼って欲しいって……」

 

「そうだね、彼女達が困った時には力になろう。パーティメンバーにはなれなかったが、僕等は同期生であり友達だから……」

 

 漸く予定していたメンバーが揃った。後は実績を積み重ねてCランクまで駆け上がるぞ!

 

 

 

 

『ブレイクフリー』

 

前衛:ゴーレムポーン1~36体からゴーレムナイト1~6体まで、混成部隊も可能

 

後衛:リーンハルト レベル22(土属性魔術師)ゴーレム制御:ギフト(空間創造・レアドロップアイテム確率UP)

 

後衛:イルメラ レベル27(モア教僧侶)治癒・防御魔法:ギフト(回復魔法効果UP)

 

後衛:ウィンディア レベル22(風属性魔術師)攻撃・補助魔法:ギフト(消費魔力軽減)

 

後衛:エレ レベル10(盗賊)索敵・罠解除:ギフト(鷹の目)

 

 

 

 

   第一部完

 


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