古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第695話

 ネクタルの件を相談したのだが、ザスキア公爵とイーリンが壊れ気味になって焦った。未だ僕は若返りに対する女性の考え方や反応を甘く見ていた、この二人が動揺して壊れるなんて予想外だよ。

 あのザスキア公爵でさえも、大量のネクタルを目の前にしたら現実逃避をしたんだよ。イーリンなど最初から見ざる聞かざるだったのに、最後まで頑張ったのは凄いと思うべきなのか?

 結局、ザスキア公爵はネクタルを一本も飲まずに僕に押し返した。自分の欲望に飲まれず負けず鋼の自制心を発揮したのだが、今も少し壊れ気味なのが気になる。

 これから、アウレール王に謁見し色々と指示を仰がねば駄目なのだが……肝心なザスキア公爵が、こんな調子だと心配になる。何時もの腹黒い一面が全く感じられず、普通に夢見心地な感じかな?

 多分だが同席するだろう、リズリット王妃やサリアリス様は話を聞いても大丈夫だろうか?いや、サリアリス様は既に高齢だし若返りにも興味は薄いだろう。

 だが、リズリット王妃は違う。今まさに加齢による衰えを感じている美熟女だから、若返りの秘薬の話を聞けば暴走しないかな?五本でも最大十五年最低五年。

 ランダム効果だが十年前後は若返る。しかも定期的に入手は可能、一本金貨五万枚でも王妃の財力なら独り占めも可能。若返りは継続的にネクタルが必要、暴走する可能性は高い。

 迎えに来た近衛騎士団員の後ろを歩きながら色々と考えるが、考えは全然纏まらない。困ったな、焦るだけで全然駄目だよ。嗚呼、もう謁見室に付いてしまったか……

◇◇◇◇◇◇

「よぅ!ゴーレムマスターが急ぎで謁見の申し込みとは、何か問題でも発生したか?保護者同伴みたいだが……ザスキアの様子が少し変じゃないのか?」

 謁見室に入るなり、気楽に声を掛けてくれた。だが一目見て彼女の異常に気付いた、未だ本調子じゃないのか?ネクタルショックが抜け切れないんだな。

 相当なショックだったみたいだ。プラス面よりもマイナス面が多いからなのか、単に若返りの効果に混乱しているのか?僕には判断が出来ない。

 肘で軽く突いて気を引き、更に手を引いて椅子に座らせる。アウレール王は、その様子を面白そうに眺めている。保護者逆転だな、とか言われたが僕は既に一人前の紳士ですよ。

 因みにだが今日は、リズリット王妃もサリアリス様も、レジスラル女官長もリゼルも同席していない。案内の近衛騎士団員の話では、御前会議の途中で抜けて来たので時間的に余裕は少ないらしい。

 僕が急ぎで謁見を申し込んだ為に、結構重要な話だと思ってくれたみたいで今日のスケジュールを大急ぎで変更したらしい。まぁ確かに大問題なのだけれど……

 今後の話の展開を考えると大変申し訳無く思う。予想以上の大事をアウレール王に、いやエムデン王国と言う国家に丸投げしようとしているのだから。

「魔法迷宮バンクの最下層を攻略していましたが、盗賊ギルド本部から代表だけに代々伝わる言い伝えを教えて貰ったのです。洗脳系マジックアイテムが有ると……

本物なら大問題で、素早く確保し適切な処理をしなければならないと思い、昨日の内に情報通りの場所で入手しました。ですが効果は情報とは違う、一種の呪われたマジックアイテムでした」

 女官が紅茶を用意し、アウレール王が警備の近衛騎士団員を退室させてくれた後で説明をする。此方の意図を汲んでくれたのだが、信用で成り立っているが不用心でも有るよね。

 洗脳系って言葉に顔をしかめたが、呪われたマジックアイテムと聞いて何かを思い浮かべたのか?視線を僕から外し遠くを見るみたいに変化して、直ぐに元に戻った。

 更に視線で続きを話す様に促されたが、もしかしたら『全能者の王冠』か類似するマジックアイテムに心当たりが有るのかも知れない。王宮の宝物庫では見なかったが、危険な品は別な場所に厳重管理だよな。

「手に入れたマジックアイテムの鑑定結果は『全能者の王冠』と言われる物でした。装備者に強制的に幻覚や幻聴を与え全ての願いを夢の中で叶える。

そして装備者は現実に興味を無くし妄想の世界に入り込み、やがて衰弱し死に至る。暗殺目的なのか救済目的なのか、または娯楽目的なのか製作者の目的が中途半端で分からない品なのです」

 そう言って空間創造から『全能者の王冠』を取り出してテーブルに置く。見事な細工が施された黄金の王冠、装飾だけの評価ならば王家への献上品でも通用する。

 だが実際は呪われたマジックアイテムで、贈り先の誰かに緩やかな死を与える。やはり用途が中途半端で分からない、何を考えてこんな物を作ったんだよ?

 この時点で漸く、ザスキア公爵が回復。周囲を軽く見回し状況を確認、取り敢えず紅茶を上品に飲んで別の世界に意識を飛ばしていた事を誤魔化した。まぁアウレール王にはバレているのだが……

「ふむ、確かに全能者の王冠だな。エムデン王国の宝物庫にも一つ眠っているので本物なのも分かる、予備が手に入ったと考えれば良かったのだろう。それは金貨一万枚で買い上げる、勿論だが他人に話す事は許可しない。他言無用だぞ」

「はい、分かりました。情報は秘密にし誰にも漏らしませんし、関係者にも厳重に箝口令を敷きます。扱いに困る物なので、無償にて献上させて頂きます。これはドロップアイテムではないので、入手出来るのはコレだけです」

 そう言って深く頭を下げる。本題の前に買い取って貰うとか、僕が利する事は控えたい。無償で大丈夫、持ってる方が危険だよ。だから要らない、余計な疑問を持たれたくない。

 だが、アウレール王は予備が出来て良かったと言った。つまり使用している、この製作者の意図の分からぬマジックアイテムを少なくとも一回は使用しているんだ。

 疑問を浮かべているのが顔に現れてしまったのか?アウレール王が、フッと笑った。それは自虐的な感じの笑みで、全然嬉しそうじゃないぞ。初めて見る表情は、とても辛そうだ……

「ふむ、疑問か?リーンハルトには、これの用途が分からないか?」

「はい。暗殺には不確定要素が多いですし、娯楽としては中毒性が高い。嫌がらせ目的が一番しっくりくるのですが、それにしては高価過ぎる。良く分からないが、正直な感想です」

 施された装飾に細工の見事さ、付加された魔力構成も高度に組み合わされた物だ。研究してみたいのだが、コレには不干渉が望ましいと思う。好奇心は猫をも殺す、下手に関われば破滅は……大袈裟か?

「これはな、王族専用の処刑用のマジックアイテムだ。処刑せずに幽閉した連中に装備させ、衰弱死させる為に作成させたのだろう」

 嗚呼、言われてみれば納得した。直接的に処刑出来ず幽閉された連中は、場合によっては十年以上生き延びる場合が有る。

 生きていれば恩赦も期待出来るし、国王が崩御したりすれば返り咲ける可能性も有る。言い換えれば簒奪者や謀反を企てている連中に利用される可能性も有る。

 直接的に処刑出来ない、したくない連中の為に自らが望む幸せを感じながら衰弱死させる為のマジックアイテム。対象者は政争に負けた親兄弟姉妹の確率が高い、肉親に向ける最後の情なのか?

「ふむ、話はそれだけか?魔法迷宮バンクの最下層である、第十階層は前人未踏の場所と聞く。何か珍しいマジックアイテムを見付けたら、セラスにも見せてやってくれ。ライティング魔法の御披露目から機嫌は回復したのだが、俺への当たりが何故かキツいのだ」

 それは貴方とロンメール殿下の仕業で有り、自業自得だと思います。自分が発案した自分だけの催しの主導権を奪う様な事をしたのです。

 セラス王女も自己主張が激しいみたいなんです。巨大セラス像のゴーレムを錬金させて乗ってみたいとか、本気のリクエストでしたよ。

 嗚呼、しまった!そうじゃない、終わりじゃないんだ。これからが本命本題の、ネクタルの扱いについてなんだ。

 本当に忙しいのだろう、気遣いはしてくれたが話が終わりなら下がって良い位の雰囲気になっている。

「もう一つ、秘密の小部屋のガーディアンを倒してドロップしたアイテムが問題なのです」

 そう言って空間創造から、ネクタルを一本取り出してテーブルの上に置く。ザスキア公爵の話によれば、王族や侯爵以上の上級貴族しか参加出来ない秘密のオークションで扱う禁製品。

 だが国王たる、アウレール王ならば知っている筈だ。案の定、金色に輝く液体の入った瓶を見て驚いた。凄く嫌そうに驚いたぞ。つまり、このポーションが厄介な事を知っている。

 当然だろう。僕でさえメリットやデメリットを想像出来るし、ザスキア公爵やオバル殿の態度から異性がコレをどう思って動くのか容易に分かる。だが十年後には普通に使える土壌を作りたい、イルメラ達の為に……

「お前、それネクタルだろ?なんでそんな厄介な品物を手に入れたんだ?モンスターを倒して手に入れたドロップアイテムって言ったよな?つまり複数入手可能とかじゃないよな?」

 アウレール王の慌て振りに不敬だが少し楽しくなる。これほど素を出したのって初めてじゃないかな?賢王たる彼も、コレの厄介さは問題か。

 女性絡み、しかも若返りともなれば皆が必死になる。その矢面に国王に立てって事だからな。臣下の願いじゃないけど、他国や国内の有力貴族との裏交渉の材料にはなると思う。

 目を逸らされた、この珍しい態度をみれば……僕の持ち込もうとしている提案の予測がついたのか?流石に嫌がる国王に無理強いは無理かな、いや話すだけ話すか……

「えっと、経験値稼ぎに最適なモンスターのドロップアイテムなんです。仮に肉塊と呼んでいますが、馬車程の巨体で軟体動物みたいに身体を伸ばして攻撃してきます。

その一撃は僕の自慢のゴーレムをバラバラに粉砕するほど強力、更に分離して攻撃して来ます。物理攻撃無効で火や雷の上級属性魔法でしか倒せません、しかも奇襲とかして来るんですよ」

 自分で話していても厄介なモンスターなのが分かる。最初は嫌そうに聞いていたが、後半は興味を持って貰えたみたいだ。嫌そうな顔から、楽しそうな顔に変わった。

「お前、そんな凶悪なモンスターを経験値稼ぎに最適とか言ったよな?つまりレベルアップには必須で、序でにネクタルが集まるのか。正直、リーンハルトが更に強くなるのは賛成だ。お前はエムデン王国の戦力の要であり切り札だ、そのレベルアップを妨げるのは……いや、しかし……」

 アウレール王は僕を軍関係の要に据えた。両騎士団と友好関係を結び、暴走しがちな連中を抑えられる。お互い尊重し合えるから、派閥の垣根も何とかなる。

 公爵三家に囲われたし、残りの二家は没落に向かう。臣下を纏める要の僕は、常に最強を示さねばならない。そう、騎士団を納得させるだけの正々堂々とした強さを誇示しなければならない。

 だが僕は未だ弱い。両騎士団には人外の連中がいて、怠ければ負ける。上には上が居て大切な人を守るには力が全く足りていない。肉塊はレベルアップには最適なモンスターだ、レベル65以上にはなりたい。

 イルメラ達もレベル60オーバーを目指す。彼女達は、僕に守られるだけとか受け入れない。自らも強くなろうと頑張るので、僕としても出来る限り協力したい。

「秘密の小部屋への侵入方法は普通では発見される事は無いですし、初見で肉塊を倒せる連中も居ないでしょう。ネクタルは週に五本は献上出来ます、頑張れば倍はいけます。僕はネクタルの流通を少しずつ認めさせたい、十年後には誰でも問題無くしておきたいのです」

「十年後?お前、ジゼル達が安全に若さを維持出来る土壌を作るつもりだな。未成年の癖に随分と重たい愛情だが、相手に引かれる前に自重しろよな。まぁネクタルを取り巻く実情って奴を教えてやる、これでお前も共犯者だぞ」

「いや、国王を共犯者って!」

 アウレール王の話を纏めると、年に一本だけ流通するのは他国からの輸入に頼っているからだ。その相手国はユグドル神聖樹帝国、この大陸の末端に有る。

 エムデン王国との間には七つの国が有り直接的に戦火を交えるには、どちらかが大陸制覇に乗り出さなければならないだろう地理的条件に有る。

 遠く離れてはいるが国交は結んでおり、長距離故にお互い年に一度贈り物を贈り合う対等な関係。ネクタルは彼の国の魔法迷宮から稀に見付かる貴重なポーションであり、それを贈ってくれる事に感謝している。

 そんな離れた友好国が有ったのは知らなかった。年に一度、しかも貴重な品々を贈り合うとなれば使節団や護衛部隊も大規模だろう。今年は既に送っているので、僕には情報が行かなかったとフォローされた。

 だがネクタル自体は目玉の贈り物ではないのが救いだ。ユグドル神聖樹帝国も、扱いに困って贈り物の中に入れている可能性が僅かに存在する。

 国政を担うのは男性が多く、淑女絡みの難問は他国に押し付けたい。魔法迷宮ユグリアル、巨大な樹木の迷宮。そのレアドロップアイテムでも、それなりの数は入手出来るだろう。

 つまりユグドル神聖樹帝国の特産品で独占している訳ではないので、特に配慮は不要。一定数なら市場に流しても問題は無いが、入手争いは別問題だよ。

 この件については、アウレール王と僕と、ザスキア公爵の三人だけで話を詰める事になった。だが肝心の交渉の要であり期待していた、ザスキア公爵が微妙なんです。

 オバル殿については、温情により僕の裁量で売って良い事になったが話し合いだな。彼女は若返りに固執していたから、最悪は若返って身分を偽り第二の人生をオバル殿でなく過ごす事になるかもな……

 




クリスマスイブですね。今年は振り替え休日となり家で楽しむか外出するか、皆さんも色々と楽しんでいると思います。自分は休日出勤の仕事ですが、ケーキとチキンは買って家族と楽しみます。

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