古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第70話

 膝枕、良いモノだ……

 

 人肌の温もりは本当に安心させられる、転生前では味わえなかった感覚。僅か15分位だが疲れが消えていくね。

 

「む、時間かな……」

 

 体内時計で大体の時間経過が分かる、そろそろ起きてボス狩りを再開するか。

 

「リーンハルト君、イルメラさんの膝枕で幸せそうに寝ちゃって……子供っぽい一面も有るのね、でも次は私が膝枕をしてあげる番よ」

 

 ウィンディアが嬉しそうに次は私と主張して、イルメラが渋い顔で頷いている。

 

「順番?何故?」

 

 彼女にも前に膝枕をして貰った事が有るが、あれは疲れ果てて地面に倒れる様に寝てしまったから特別だと言われたが……

 

「三回に一回は私って話し合って決めたの。独り占めは駄目だからね」

 

「いや、その……毎回昼寝する訳……えっと、お願いします」

 

 女性二人から泣きそうな顔で見詰められては断れない。僕は膝枕をして貰うのは嬉しいが彼女達はする方だけど、嬉しいのか?

 突っ込むと藪蛇になりそうなので止めた……

 

「ボス狩りを再開しよう、残り四時間だから休憩を挟んでも後26回、午前中二時間で14回だから合計で40回を目標にしよう」

 

 比較的スムーズに倒せてるので当初の30回よりも10回多く見積もる、残り時間を考えても大丈夫だろう。

 序でに話題を切り替える事にする、これ以上膝枕の話を続けるのは危険だ。

 

「10回毎のボーナスも有るから切り良くだね。頑張ろうね」

 

 ウィンディアが話に乗ってくれて切り替える事が出来た。

 今回はイルメラがブーツを履く所を見ない様にして毛布等を片付ける、同じ間違いはしない。

 

「リーンハルト様、誰も居ません」

 

 イルメラが扉から首を出して左右を見て外に誰も居ない事を確認し扉を閉める。

 扉が閉まるのと同時に部屋の中央に魔素が集まり始めた……15回目のボス狩りだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「合計六時間弱で40回、肝11個に獣皮が9枚、それにルビーが4個か……」

 

「出鱈目な稼ぎよね、一日のドロップアイテムを売っただけで肝が金貨55枚、獣皮が金貨13枚銀貨5枚、ルビーは売らなくても合計で金貨68枚銀貨5枚よ。

他のドロップアイテムも入れたら一日で金貨70枚以上……」

 

 確かに稼ぎが多くなってきてるがメンバーも増えてるので実入りは減った、その分安全性は上がった。

 

「『デクスター騎士団』の時は此処より下層階に行っただろ、もっと稼げたんじゃないか?」

 

 少なくとも五階層よりも下を攻略していた筈だ、もっと良いドロップアイテムが有ったと思うが?

 

「うーん、こっちの方が効率が良いのよ。

一時間に七回戦うとかは普通に迷宮を歩いていたら無理だし苦労してモンスターを倒してもアイテムドロップしないとか……」

 

 ウィンディアは天井を見詰めながら思い出す様に教えてくれた。

 下層階ならドロップアイテムも高値かと思ったが現実は厳しいんだな。

 ビッグボアも40匹倒してもレベルは上がらなかった、三分の一だから仕方ないか。

 

「さぁ帰ろうか……今夜はウィンディア加入後の初めての迷宮探索祝いに何かデザートを買って帰ろうか」

 

 ウィンディアの加入はパーティの役割分担では凄く助かる。前はイルメラが防御と回復、僕が攻撃と分かりやすかったが余裕が無かった。

 彼女の加入により補助魔法と攻撃のサポートもしてくれるので僕の負担がかなり減ったので助かる。

 ゴーレム制御は集中力が必要なので制御中に他の魔法を使うのは結構大変なんだ、短時間でも二つの魔法を制御しなきゃ駄目だから……

 

「やった!イルメラさん、ケーキが食べたい」

 

「そうですね、市場を覗いて帰りましょう」

 

 急に賑やかになったな、前はイルメラと二人きりで彼女は余り喋る方じゃなかったし……でも彼女達は仲良くしてくれているので良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「久し振りね、リーンハルト君、イルメラちゃん。それに……新人さん?」

 

 乗合馬車の待合室で『静寂の鐘』のメンバーと会った、本当に久し振りの感じがする。

 最近はイベントが沢山有り過ぎたからな……それと兄弟戦士には一言言いたい、教えてくれた男女間の事が殆ど使えないんだけど!

 

「お疲れ様です『静寂の鐘』の皆さん、リプリーも久し振り。彼女はウィンディア、新しいメンバーです」

 

「初めまして、ウィンディアです。リーンハルト君、彼等は?」

 

 ウィンディア、猫被りバージョンだな。

 

「彼女達は僕等が一番懇意にしている『静寂の鐘』のメンバーだよ。

リーダーのヒルダさん、妹で火属性魔術師のリプリー、盗賊のポーラさんと前衛兄弟戦士のヌボーとタップだ」

 

 各々が紹介と共に会釈したり手を上げたりしてくれた。

 

「聞いたわよ、ラコック村の件は……若き英雄は14歳の魔術師!近年の新人では四番目の快挙だって騒がれてるわ。

しかもDランク昇格って私達と同じになっちゃって先輩冒険者として焦るわよ」

 

 ポーラさんがニヤニヤした顔で教えてくれたが絶対に楽しんでるな。

 

「でも凄いです、名有りを二匹も倒すなんて!私達だって頑張って一匹、しかもヘルドッグの亜種の『灰髪』だけですし。

オークの『錆肌』と言えば幾つかの村を壊滅させた凶暴なモンスターですよ、凄いんですよ!」

 

 何時になくリプリーが力説してくれるが、興奮の余りフードが捲れて顔が現れてますよ。

 彼女はアルビノなので普段から直射日光を避ける為にフードを目深に被っている。

 真っ白の髪と肌、真っ赤な瞳にウィンディアが興奮した!

 

「リプリーちゃん、可愛い!」

 

 ギュッと両手で胸の中に抱き締めた、やはり彼女には抱き着き癖が有ったのか……

 

「ウィンディアさん、苦しいです……」

 

「だってリプリーちゃん、可愛いんだもん!」

 

 興奮して抱き締めながら左右に振り回しているが、イルメラが権杖で叩いて黙らせた……

 

「お騒がせして申し訳無いです」

 

 殴られた頭を擦るウィンディアと一緒に頭を下げるが皆で笑って終わりとなった。

 結局、その日の夜は『静寂の鐘』のメンバーと共に食事に行く事になり楽しい一時を過ごせた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、僕は実家に報告にイルメラとウィンディアはベルベットさん達仲間候補に会いに行く事になった。

 勿論、僕抜きで魔法迷宮とかに行く訳じゃない、お茶して話し合って貰うだけだ。

 彼女達の能力や性格については実地訓練で大体分かった、後はイルメラとウィンディアとの相性だ。

 僕的にはエレさんが良いと思うが、実際に会って話した二人の意見を重視。

 後は個別に僕が結果を報告する事にする。

 リーダーの僕が居ては彼女達も本音の話が出来ないし、何より情に流されそうで……いや、完全な逃げだな。

 

 彼女達の前で一人を選べなかった僕は卑怯者だ……

 

 僕の方は短期間で冒険者養成学校を卒業した事とデオドラ男爵絡みの事、後はインゴの事を相談する為だ。

 インゴは僕と比較されてしまっている、差が有り過ぎたんだ。

 もう少し鍛練してから騎士団員に顔見せするか時期をずらすかするべきだった、冒険者ギルドは僕関連の噂話は完全に盛っている、大袈裟なんだ。

 だから余計にインゴと比較されると差が大きい、アルノルト子爵が出て来る前に対策を取りたい。

 奴等は母上を毒殺した連中だ、僕が邪魔だからと手を出してくる可能性が有る。比較対象が居なくなれば噂は沈静化するとかね。

 今日は父上が非番だから時間を気にせず話が出来るだろう。

 自身の保身の為に弟に、インゴに苦労を押し付けるのだから出来るだけの事はしよう、それが仮初めでも兄としての役目だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一週間振りの我が家、一ヶ月前に一年以内に独立してみると言って飛び出したのだが……

 もうパトロンを見付けてパーティメンバーも決まりそうと言ったら父上はどう思うだろうか?

 玄関から入ると馴染みの執事が迎えてくれる、彼はアルノルト子爵の息が掛かっていないので安心だ。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

 未だ若い執事が出迎えてくれる、今年で二十五歳になった筈だ。

 バーレイ本家から祖父が父上の為に送り込んだ人材、家の事を取り仕切る中々有能な人だ。

 

「ただいま、タイラント。父上は居るかい?」

 

 お帰りなさいと言われると嬉しい、家を出た身だと特に感じるな。

 

「はい、来客中の為に応接室の方に……」

 

「来客?誰だい?」

 

 む、一瞬だが顔を顰めた様な……

 

「アルノルト子爵様からの御使者の方です」

 

「アルノルト子爵か……使者殿と会うのも不味いか、僕は自分の部屋に居るから使者殿が帰ったら教えてくれるかな」

 

 無言で一礼してくれたので勝手に自分の部屋に向かう。

 家を出ても清掃はキチンとされていてシーツが皺(しわ)無く伸ばされているベッドに仰向けに寝転ぶ……

 

「この時期にアルノルト子爵からの使者か、普段は用が無ければ来ないし父上が先方に呼ばれて行っていた。

僕と無関係じゃないだろうな……」

 

 アルノルト子爵対策には最悪の場合、デオドラ男爵も動いてくれると思うが対価に何を望むかが問題だ。

 ジゼル嬢との婚姻?いや断ったし話を蒸し返すメリットは無い。

 僕を取り込む目的ならば拒否した相手を再度勧める事はしないだろう。

 考えられるのはレアギフトによる希少アイテム集めかな?

 

「リーンハルト様、旦那様が執務室でお待ちです」

 

「有り難う、直ぐ行くよ」

 

 暫く考え込んでいたらアルノルト子爵の使者は帰ったみたいだ。ある意味タイミングが良かったのか、直ぐに対応策を相談出来るから……

 簡単に身嗜みを整えてから父上に会う為に執務室に向かう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します」

 

 執務室に入ると父上だけが腕を組んで机に座っている、表情からして良い事ではないな。

 

「お帰り、リーンハルト。まぁ座れ」

 

 父上もソファーに移動したので向かい合わせに座ると、タイミング良くタイラントが紅茶を出してくれた。一口飲んで緊張を紛らす……

 

「リーンハルト、何処まで読んで行動したんだ?僅か半月、お前は王都で一番の有名人だ。

新進気鋭の冒険者、ラコック村の英雄……

アルノルト子爵がな、お前を成人と共に婿に欲しいと打診してきた。相手は四女のグレース嬢だ、先方の本気さが分かるな」

 

 アルノルト子爵は僕を排除じゃなくて取り込みを計画してきたのか?

 だがグレース嬢って美人だが我が儘で金使いが荒いって評判の……ああ、そうか!

 金回りの良い冒険者に嫁がせて、面倒を見させて序でに僕の財力も削ごうって魂胆か。

 

 身分が上の本妻には逆らえないからな……

 

「ですが、それでは……」

 

「ああ、俺は断れたよ。前日にデオドラ男爵から直接話し合う事があってな。

既にデオドラ男爵がお前のパトロンとなり、娘を嫁にと話しているからと断れた。

しかも秘蔵っ子と有名なジゼル嬢だ、グレース嬢では比べ物にならないな」

 

 此処でジゼル嬢の話だと、断った筈なのだが再燃してる?断り辛く?

 

「いえ、ジゼル嬢とは……」

 

 父上が盛大にため息をついたが何か不味い事が?

 

「お前、デオドラ男爵にジゼル嬢を要らないと言ったそうだな。愛無き政略結婚は嫌だとか、先方も呆れていたぞ。

貴族としては有り得ない考え方だが、俺は気に入ったよ。

デオドラ男爵も呆れてはいたが他から勧められたら断る理由にして良いそうだ」

 

 貴族の年頃の娘には何人か婚約者候補が居るのが当たり前だから、そこまでジゼル嬢にダメージは無いが知らない内に恩が積み重なっていて怖い。

 

「父上、苦労を掛けて申し訳ないです。ですが来年には廃嫡の身ゆえ、政略結婚の話は断って下さい、お願いします」

 

「貴族じゃなくなるから政略結婚はしたくない、か……

お前には貴族の柵(しがらみ)の関係で家はやれない、だから代わりに出来るだけの事はしてやるさ」

 

 そう言ってワシャワシャと頭を撫でられた。

 

 いや僕の方こそ息子として兄として出来る限りの事がしたいんだ。

 


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