古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第7話

 初めての魔法迷宮バンクの攻略を開始した。最初に遭遇した敵はゴブリン六匹、だが圧勝だった。

 ただし前衛ゴーレムをすり抜けて攻撃してきたのが問題だ。もっとゴーレムの制御を高めて攻撃と牽制を両立させないと後衛が危険だ。

 所詮はレベル7の制御力では不安があるって事だが、僕も自衛の為の攻撃魔法も有るし回復役も居る。

 先ずは地道にレベルを上げて地力を上げるしかないか。

 冒険者育成学校への入学は来月なので未だ14日間残っている。せめて遅れを取らないように、また舐められないように少しでも強くなっておこう。目標は中級者レベルの20以上だ。

 僕は冒険者ギルドで学びたいのは300年の時差による知識と常識の齟齬を無くす事と社会的な地位を確立する事だ。確かにバーレイ男爵家の一員として今は貴族ではあるがいずれは廃嫡してもらうのだ。

 いきなり貴族から平民になっても困らないだけの社会的地位を確立しておきたい。すでにイルメラという扶養家族も出来ているのだ。彼女も貴族に仕えるメイドから平民に仕えるメイドになってしまう。

 ならば冒険者としての地位をこの1年間で固めておこう。僕が15歳になった時はバーレイ男爵家とアルノルト子爵とで一悶着有るのは確実だ。最悪は事前に父上に僕の廃嫡手続きを貴族院に申請して貰いバーレイ男爵家と縁を切らねばならない。

 そして貴族でなくなった僕がアルノルト子爵家からチョッカイ掛け辛いくらいには名を売っておかねばならない。

 つまりこの一年間で冒険者として一人前に成り、更に養成学校で人脈を構築する必要が有るのだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ドロップアイテムのポーションか……」

 

 イルメラから渡されたポーションとハイポーションだが、僕の知っているポーションと大分違う。

 先ず色が違うし量も違う、僕の知っているポーションは濃い赤だがコレはピンク。量も僕のはフラスコで150ccだがコレは試験管で50ccも無い。 試しに鑑定の呪文をかけて効果を確認する。

 

『ポーション:体力回復 回復量:最大体力値の5%』

『ポーション:体力回復 回復量:最大体力値の5%』

 

 効果は全く同じだ、違うのは色と量だが300年で進化したって事か……これは僕の持っているポーション類は他人には見せられないし使えないな。使用可能な300年も前のポーションを何故持ってるとか言われたら答えられない。

 

『ハイポーション:体力回復 回復量:最大体力値の20%』

 

 ポーションもハイポーションも量は同じだが色と効果は随分違うんだな。だがポーションは回復5%、全快するには20本飲まなければならない。昔のなら3000ccつまり3ℓだから現実的には飲み辛い量だ。

 逆に今のポーションは全快するのに1000ccつまり1ℓで大丈夫か、頑張れば飲めるな。

 

「リーンハルト様、何ですか?そのお徳用サイズのポーションは?色も少し変ですよ、毒々しい濃い赤ですね……」

 

 ポーションを握り締めてブツブツ呟いていれば怪しいと思うのは当然だな。しかも見た事の無いフラスコに怪しい色の液体が入っていれば尚更か……もしかしたら毒とか思ってるかも知れないし。

 

「試作したポーションだが失敗したんだ。効果も少なければ量も多いし、僕の錬金術はマダマダ未熟だ」

 

 適当に誤魔化してポーションを空間創造の中にしまう。イルメラにも説明したがギフト(祝福)空間創造は珍しいが結構知れ渡っている能力だ。前世の僕は自分の魔法迷宮を造れたがレベルに依存する能力の為に今は縦・横・高さが10mの空間を造れる事になる。

 レベル一桁の魔術師としては破格な大きさらしい。普通は精々が2m四方だから収納能力は8㎥だが僕は1000㎥、普通の約125倍だ。

 レベル上昇と共に収納能力は増えるから既に空間創造の能力だけなら中級クラス魔術師並みだ。

 まぁコレくらいの能力は公開しても問題ないだろう、有能な若者と周りから認識されれば儲け物だ。

 同じ場所に留まっていた所為かさっき奴等がポップした場所が淡く光った……

 

「イルメラ、モンスターがポップするぞ、気を付けろ!」

 

 魔素が粒子となりモンスターを形成する。今襲い掛かっても物理的にも魔法的にもダメージは通らないので、完全に実体化するまでは見ているしか無い。

 待つこと15秒……実体化したモンスターは同じくゴブリンが六匹だ、なにか法則が有るのかも知れないな。

 

「ゴーレムよ。二体は攻撃に専念、一体は僕等に接近する奴を牽制しろ」

 

 先程の失敗を踏まえて前衛のゴーレムに細かい指示を出す。二体のゴーレムは果敢に三倍のゴブリンに襲い掛かる。ゴブリンの武器はショートソードやショートアックスと攻撃力は低いので青銅製のゴーレムを破壊する事は難しい。

 これが人間なら鎧の隙間とかから致命傷を与えられる危険性が有るが、ゴーレムは壊れても新しく召喚すれば良いので気が楽だ。

 2回目の戦闘は前回よりは時間が掛かったが僕等のもとに攻撃が届く前に倒す事が出来たし、戦ったゴーレムも鎧の表層に傷が付いたくらいでダメージは殆ど無い。

 

「リーンハルト様、ドロップアイテムです。ポーションが一個にハイポーションが二個ですよ!」

 

 イルメラは凄い興奮している。レアドロップアイテムとは文字通りレアなのだが、毎回ドロップしていれば興奮もするか。

 12体のゴブリンを倒してノーマルが三個、レアも三個、冒険者ギルドのゴブリンの剥製の説明書には迷宮に出現するゴブリンのドロップ率はノーマル30%でレアが3%だ。

 僕のギフト(祝福)のレアドロップアイテム確率UPとはレアアイテムのドロップ率を30%くらいにしてるのかもしれないな。だが全てのモンスターのドロップ確率が均等にUPするか強さにより変動するかは数をこなさないと分からないか。

 

「僕のギフト(祝福)のレアドロップアイテム確率UPの恩恵だろう。これで魔法迷宮の探索での稼ぎは多くて助かるな。でも他言は無用だよ、他人に知られたら利用されそうだからね。冒険者ギルドには僕のギフト(祝福)はバレてるけど態々言い触らしはしないだろう」

 

 その代わり仲介や斡旋くらいはしてくる可能性が高いんだよな……希少で高価なアイテムをドロップする敵を倒したいから高レベルパーティに同行しろとかさ。

 経験値はパーティを組めば均等割りだから、僕等にもメリットは有るが促成された連中が本当に強いかは疑問だ。コレが戦時中なら安易な戦力増強の為に促成栽培戦士を大量に育てるだろう。

 

「分かりました、ブレイクフリーには他にメンバーは要らないのですね」

 

 いや、いずれは討伐も行わなければ駄目なので素材採取コースの連中と一緒に依頼をこなさないと……

 嬉しそうな彼女に水を差す必要も無いので黙っていた。少なくともギルドランクを上げるのは当分先の心算だ。

 魔法迷宮は分岐が有り小マメなマッピングをしないと迷いそうだ。今回は様子見なので準備も不足しているので有る程度進んで戻るを繰り返してポップするモンスターを倒す事を繰り返す。

 四回目の戦闘が終わった時に、僕の体が淡く輝き力が漲る感じがした。

 

「リーンハルト様、レベルが上がりましたね」

 

 レベルが上がると体が発光する事は300年前でもあったが何故だかは分からない、それはこの時代でも解明されてないらしい……

 つまりレベルが7から8に上がった。倒したゴブリンは合計で22匹、経験値をイルメラと半分づつとして11匹分がレベルアップに必要。六人パーティだったら一人当たり3.6匹分か……

 少数で攻略する事がどれだけ恩恵が大きいのかが分かった。

 これなら無理してパーティメンバーを増やすメリットは少ない。現状はイルメラと二人パーティで良いだろう。

 

「ふむ、レベル8に上がったがギルドカードはレベル7のままだな。更新時に書き換えられるのかな?」

 

「そうです、魔法迷宮の外の冒険者ギルド出張所でアイテムを売るときについでに書換も行いましょう」

 

 夕方には自宅に帰りたいし乗合馬車の時間も有るので後二時間くらいは迷宮探索が出来るだろう。

  

「イルメラ、後二時間ほど迷宮探索をしたら終わりにしよう」

 

 カッカラを構えて迷宮の先へと進む。そういえば何組かの冒険者達とすれ違ったが皆一様に驚いていたな。子供二人とゴーレムだけのパーティが珍しかったのだろうか?

 流石に連戦はゴーレムの消耗も激しく、前衛の一体の左腕がもげてしまったので探索を中止する事にした。

 最終的な戦果はゴブリン67匹、ポーション15個、ハイポーション18個、レベルも9に上がった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクの外に出る……魔法の灯りと違い太陽光は目に沁みるな。

 管理小屋に顔を出すと最初に受け付けてくれた騎士が居たので声を掛けると直ぐに出てきてくれた。

 

「坊主に嬢ちゃん、無事だったみたいだな。それで戦果は有ったのかい?」

 

 本当に口が悪いオッサンだが帳簿を出して手続きの用意をしてくれる。

 入る時はイルメラに書いてもらったが出る時は自分が書く事にする。日付と時間を書いてお終いだけどね。

 

「お蔭様でまぁまぁの戦果です。ゴブリンを67匹倒しました……」

 

「ほぅ、幸先良いじゃねぇか。初めてでゴブリン67匹とは凄いぜ」

 

 かなり強く肩を叩かれたので、二、三歩よろけてしまった。叩かれた部分がジンジンして痛い。

 続いて冒険者ギルドの出張所に向かい先ずは受付カウンターでギルドカードの更新をお願いする。

 

「レベルが上がったのでギルドカードの更新をお願いします」

 

 王都の本部と違い受付は女性だったが、やはり統一した制服を着ている。肌の露出を抑えた機能的で地味なデザインだ。

 

「はい、ギルドカードをお預かり致します。……更新しました、レベルアップおめでとう御座います」

 

 事務的に微笑まれたが嬉しいものだ。次に買取カウンターに向かうと今度は厳つい感じの中年男性が本部の連中と同じ制服を着て立っている。

 お金が絡むから女性じゃなくて厳つい男性なんだろうな……彼の後ろの壁にはデカデカと買取表の一覧が書かれている。

 

「ポーション類の買取をお願いします」

 

 カウンターの上にポーションと並べていくと頑張ったな的な顔だったが、ハイポーションを18個全て並べ始めた時点で顔色が変わった。

 

「お客様、基本的にドロップアイテムは即日買取が基本で自分で使う分をストックしておくのは良いのですが……」

 

「ええ、今日のドロップ分ですよ。幸い僕にはレアドロップアイテム確率UPのギフト(祝福)が有るので」

 

 出張所には僕達しか居ないしギルド職員に疑問や不審感を持たれるよりは正直に話すべきだろう。どうせ情報は知られてるし買取もギルドだけだし……

 

「それは大変失礼を致しました、品物を確認させて頂きます。ポーション15個にハイポーション18個ですね……ポーションは買取価格が1個銅貨5枚で15個で銀貨7枚と銅貨5枚、ハイポーションは1個銀貨5枚で18個で金貨9枚。合計で金貨9枚と銀貨7枚と銅貨5枚となります。お確かめ下さい」

 

 一回3時間くらいの迷宮探索で金貨9枚とか金銭感覚が狂うな。このペースだと1日フルに9時間篭れば平民の1ヶ月分の生活費が稼げてしまう。しかも僕等は後衛職だから武器、防具の消耗も無い、殆ど丸々儲けだ。

 このペースだと一ヶ月で金貨800枚を越えるぞ。半月にしても400枚でイルメラと折半しても200枚。

 

「有難う御座います。僕のギフトについては他言無用でお願いします。こんなに効果が有るとは思わなかったので面倒事は嫌ですし……」

 

「勿論です。ギルドに有益な方を補助する事はギルドの総意です。情報は漏らしませんが買取のタイミングは他の人が居ない時にお願いします」

 

 様子見の迷宮探索でここまで儲けてしまったら必ず良からぬ奴等に目を付けられるだろう。

 今後の行動について少し考えなければ駄目だな。僕の二回目の人生は自由に楽しく過ごしたいのだから……

 


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