古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第69話

 スパイクさんから教えて貰った話……

 Cランク以上の人達はライバル同士だが互いに助け合いもしている。 

 勿論全員じゃなく中には自分達優先、貴族と冒険者を掛け持ちしている連中もいる。

 デオドラ男爵は後者だったんだろうな、でも現ギルド代表も同じパーティだったそうだし曖昧な部分も有る。

 そして結果を出した僕等『ブレイクフリー』に今迄は関わろうとしなかった高レベルの連中が絡んでくる様になると……

 思えば『野に咲く薔薇』や『ハンマーガイズ』だけだったな、僕等に関わったCランク以上の人達は。

 一番親しい『静寂の鐘』はDランクだし、その他の連中は……

 思えば低評価低ランク時代に絡んで来た連中の殆どがアレだったのは、自分が居た位置が低かったから周りも同じだったんだ。

 それを少しでも大した事はない自分だけで何とかなるとか自惚れも酷かった、反省だ。

 これからは今迄以上に強い連中が絡んでくる訳か……気は抜けないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りの魔法迷宮バンクを新メンバーと共に攻略する。

 受付の騎士団の人にも噂が広まっていた。

 流石はバーレイ副団長の息子だとバシバシ背中を叩かれた、激励らしいが武闘派の励ましは物理的に痛い。

 最後にポツリと零した言葉が凄く気になって仕方が無い。

 

「跡継ぎも坊主位しっかりしてくれれば良いんだけどよ……」

 

 これは暗にインゴに対して不満が有るからだ。

 騎士団の入団試験は有るが基本的には世襲制で騎士の息子は大抵は同じ騎士団に入る。

 入団試験は有るが、これは一般採用枠で縁故枠が有るのも事実。

 父上は副団長だし実子を捻込むだけの力は有るので、今から朝練にインゴを顔見せも含めて参加させている。

 だが……内向的でお世辞にも運動神経の良くないインゴは騎士団員からの受けは良く無い。

 これが僕の廃嫡にどう関わってくるかは分からないが全く無関係にはならないな、一度父上と相談した方が良いだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 受付を終えて漸くバンクへと入る、少し遅い所為か周りに人は少ない。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 青銅製のゴーレムポーンを四体、ロングソードとラウンドシールドを装備させて錬成する。

 三階層のボス部屋に到着する迄はゴーレムポーンで対処してボス部屋の前で鋼鉄製のゴーレムナイトと入れ換える、ビッグボアはゴーレムポーンでは荷が重いのだ。

 

「風の護りよ、我等を包み込みたまえ……」

 

 ウィンディアの詠唱と共に身体が軽くなる感覚が……

 

「ウィンディア、この呪文は?」

 

「風の護りの中級呪文よ。効果は身体的な力の底上げ、筋力・敏捷性・反射神経とかが少しだけアップするの」

 

風属性の魔術師は他者への補助魔法、魔力付加(ブースト)が得意だったな。感覚的に二割増し位だろうか?

 

「助かる、有り難う。ゴーレムポーン三体を先頭に僕と女性陣、最後尾にゴーレムポーン一体のフォーメーションで三階層まで行くよ」

 

 自分の周辺に魔力でライトを幾つか浮かべる、これで周囲の確認もし易くなった。暫く進むと前方の床に魔素が集まり輝きだす……

 

「ゴブリンか。ゴーレムポーンよ、実体化の瞬間を狙え!イルメラは魔法障壁の準備、僕とウィンディアは討ち漏らしを倒す」

 

 ポップしたゴブリンは六体、三体をゴーレムポーンが瞬殺し残りを僕とウィンディアの魔法で仕留める。

 連携は悪くない、僕はゴーレム制御に専念し数を増やした方が効果的だな。

 

「リーンハルト様、ドロップアイテムです。ポーション二個にハイポーションが一個ですね」

 

「ハイポーションとはラッキーだね、最初からレアドロップアイテムとは縁起が良いわ」

 

 む、ウィンディアは知らないのか、僕のレアギフトを……冒険者ギルドのオールドマン代表はデオドラ男爵に未だ教えてないのかな?

 ウィンディアの喜びようは演技ではない自然さが有る、やはり知らないのか……

 

「ウィンディア、僕はギフトが二つ有るんだ。『空間創造』の他に『レアドロップアイテム確率UP』がね。

ゴブリンのレアアイテムのドロップ率は3%だけど僕は30%位なんだ。

元の確率の10倍なのか何でも30%の固定なのかは検証中、でもデオドラ男爵には秘密でお願い。

まぁオールドマン代表と裏で繋がってるから知っている可能性は高いけどさ」

 

「何て反則なのよ!二つもギフトが有って二つ共にレアじゃない、神様の依怙贔屓よ!」

 

 確かにギフト(祝福)って天の恵みみたいな物だけど神様が僕に依怙贔屓したんじゃない。裏技(転生)による物だと思っているんだ。

 

「ウィンディアだから秘密を教えてるんだ。三階層まで急ぐよ」

 

「うん、そう言われちゃうと何も言い返せないよ……イルメラさん、リーンハルト君って天性のタラシかも知れないわ」

 

「クスクスクス、どうなんでしょうか?」

 

 イルメラさんが怖いです、何て言うか黒化?無言で先を急ぐ事にする……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ハイポーションにスタンダガー、本当にレアアイテムが沢山ドロップするわね……」

 

 三階層のボス部屋に到着する迄にゴブリン21匹コボルド12匹を倒した。

 結果レアドロップアイテムのハイポーションが5個、スタンダガーが3個手に入った、やはり30%位だな……

 

「三階層のボスはビッグボアが一匹だけどゴーレムポーンじゃ押し負ける。

攻撃はゴーレムナイトをメインで、イルメラは防御をウィンディアは牽制を頼む。

奴等は素早いから近付かれたら危険だから注意してくれ。じゃ、行くよ!」

 

 ゴーレムポーンを魔素に還し新たにゴーレムナイトを四体、ツヴァイヘンダー装備で錬成する。

 扉を開けて中に飛び込むと広い室内の中央部分に魔素が集まり始めた。

 

「ゴーレムナイト、迎え撃つぞ」

 

 突撃させれば間に合うか間に合わないか微妙な為に迎撃を選択、実体化したビッグボアと睨み合う。

 身体を左右に揺すり後ろ足で床を蹴って威嚇するビッグボアの動きに集中する……

 ひと吠えして真っ直ぐ突っ込んでくるビッグボアを二体のゴーレムナイトが受けるが、突進力に負けて一歩下がる。

 

「ゴーレムナイト、突き刺せ!」

 

 残り二体が左右からツヴァイヘンダーをビッグボアの胴体に突き刺して仕留めた……

 魔素となり霞む様に消えていくビッグボア、残念ながらドロップアイテムは無い。

 

「イルメラ、外を確認してくれ」

 

「分かりました……誰も居ませんね」

 

 イルメラが扉を開けて首だけ突き出し左右を確認してくれる。

 

「よし、二回目に挑戦だよ」

 

「え?え?ボス狩りって連戦なの?」

 

 ウィンディアの疑問に笑顔で頷きイルメラに扉を閉めさせる。今日の目標は30回だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「午前中二時間で14回、肝4個に獣皮が3枚、それにルビーが1個か……」

 

「お昼にしましょう。リーンハルト様、テーブルと椅子をお願いします」

 

 昼食の準備をする為に空間創造からテーブルと椅子を取出し並べる。

 食器類と料理を取り出してイルメラにバトンタッチ、彼女が料理を盛り付けていく……今日のお昼はナイトバーガーだ!

 それにウィンディアの作ったスープ、マウルタッシェと言う挽肉とほうれん草を刻んでパスタ生地に詰めて具にしたもの。

 後はレモンを絞った水とデザートのオレンジだ。

 

「迷宮探索中とは思えない昼食なんですけど……もしかして初めて会った時にボス部屋から豊潤な香りがしたのも?」

 

「ああ、悪いが食事をして休んでいた。魔法迷宮攻略の暗黙のルールでセーフティゾーンで有るボス部屋で休みを取る事は許されてる。

ボスは強力だ、パーティメンバーも無傷では済まない場合も多いから治療や休憩は仕方ない。

逆に同じ条件で宝物庫でやったら顰蹙(ひんしゅく)ものだ。ボス戦はイベントみたいな捉え方で全員が毎回挑む訳じゃないからかな?

でも宝物庫は資金稼ぎとして有効だ、普通のモンスターを倒して必ず宝箱が出現するからね」

 

 僕は宝箱の中身はダガーばかりだから宝物庫は行かないけどさ。

 

「まぁね、普通はボス狩りなんてしないわよ。

私達だって『デクスター騎士団』の時も自分達の力の確認とエレベーターに乗るのに必要なレッドリボンが欲しい時だけボスと戦ったもの……」

 

 レッドリボン、エレベーターの使用に必要なアイテムか。

 三階層まで急いでも30分は掛かるからな、下層階を攻略するなら時間短縮に必要なアイテムと設備だ。

 

「僕等はダメージ無視のゴーレムが前衛だからこその戦い方さ。

それと十戦毎にドロップするアイテムの件も秘密だよ、もう少し調べてから公開するか考える。冒険者ギルドとの交渉のネタにも使えるからね」

 

 ギブアンドテイク、何かをして貰ったら対価を返さなければならない。

 迷宮で発見した事は冒険者ギルドで買い取ってくれる、命懸けで見付けた事を無償で教える事はしない。

 人の生死に関わる事とは別物だからね。

 

「ああ、あのルビーよね。ボス狩りって発想がなければ分からないわよ、アレは……」

 

 話し合いながら食事をするって貴族的マナーでは有り得ないのだが、ウィンディアに色々と説明していたら食べ終わってしまった。

 

「「「ご馳走様でした、モアの神に感謝を……」」」

 

 食後にモアの神に感謝を捧げる、イルメラはモア教の僧侶で僕とウィンディアは信者だ。

 テーブルや椅子、食器類を空間創造に収納する、後は少し休んだらボス狩りを再開するぞ。

 

「イルメラさん、何故ブーツを脱いでいるの?」

 

「リーンハルト様に膝枕をする為にです」

 

「イルメラさん、ズルい!私も膝枕したいです」

 

「駄目です、リーンハルト様のお世話は私の仕事、私がする約束ですよ」

 

 ん?膝枕?

 

 片付けをしていたら女性陣が何か揉めている?

 

「イルメラ、毎回膝枕はしなくても良いんだぞ!」

 

 既に床に敷いた毛布の上にブーツを脱いで座っている彼女が自分の膝をポンと叩いた。

 

「どうぞ、リーンハルト様……」

 

 輝く様な微笑みを浮かべているモア教の僧侶に僕は逆らえない……だがウィンディアが氷の様な瞳で僕を見詰めるのが痛い。

 

「ふーん、リーンハルト君ってイルメラさんにだけには甘えるんだ。普段は自分だけで何でもやろうとするのに……」

 

「仕えし主の疲れを癒すのもメイドの勤めです。さぁリーンハルト様、どうぞ」

 

 イルメラの笑顔の圧力、ウィンディアの軽蔑の眼差し、天秤はイルメラに傾いた。

 

「じゃ、じゃあ15分ほど頼む」

 

「はい、どうぞ」

 

 イルメラの膝の上に頭を乗せる、ふわりと良い匂いが鼻を擽る。温かくて柔らかい感触は気持ちが落ち着くんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「意外だわ、リーンハルト君が甘えん坊に見える。もう寝ちゃってるし……」

 

 規則正しい寝息、安らかな寝顔、私の知るリーンハルト君じゃない。イルメラさんにしか、いや仲間にしか見せない甘えなのかしら?

 優しく見下ろすイルメラさんが羨ましい、私もリーンハルト君に膝枕したから分かる。

 アレって女としての幸せを感じるのよね……

 

「普段は大人びていて何でもご自身でやろうとしますが、本当は未だ14歳の少年なのです。

母を亡くし弟の為に家族から離れようとしているのですから、本当は寂しいのですが気持ちを押し込めてしまわれるのです。

だから少しでも私達に甘えて欲しい……」

 

 私達?私達って事は私にも甘えて貰って良いの?

 

「私達って事は私にもリーンハルト君を甘えさせて良いのよね?膝枕とか添い寝とか?」

 

 調子に乗って後悔した、イルメラさんの冷たい瞳には殺意が籠もってる……

 

「膝枕は許しますが添い寝は許しません、私ですら未だなのです。

リーンハルト様が望むならイルメラは……イルメラは全身全霊を持って応えるのですが……でもでも未だ早いような……」

 

 ああ、イルメラさんが器用に上半身だけでクネクネし始めたわ。つまりイルメラさんにはリーンハルト君は甘える。

 でもそれは恋愛感情よりも彼女の慈愛溢れる母性を求めてかしら?

 うーん、頑張れば私にも未だチャンスは有るわね頑張ろう!

 


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