古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第678話

 セラス王女の御機嫌回復イベントは、同じ王族である高貴な方々の横槍は入ったが何とか成功した。彼女の機嫌は回復し、十分に満足して貰えたと思う。

 ロンメール殿下の張り切り具合にドン引きしたが、王族とは自己主張が激しい人種なのだろうか?僕も元王族だが、そこまで前に出なかった。

 古代の滅びた国だし現代の国の王族とは違うのだろう。僕には関係の無い話だし、理解する必要は無いが対応する知識だけ有れば良い。

 疲労困憊な僕は、サリアリス様の好意とレジスラル女官長の配慮により、舞台となった池の畔で少しだけ休ませて貰っている。

 片付けをする侍女達が心配そうに見ているので、軽く手を振って大丈夫だとアピールする。カルミィ殿が特に不安そうに見ているが、精神的と魔術的な疲労だから大丈夫ですよ。

 休憩もそうだが、セラス王女から貰ったエムデン王国の紋章入りの指輪が気になったから。改めて見れば、純金の台座にダイアモンドが嵌め込まれている。

 固定化の魔法は掛かっていたが、安全の為に念入りに重ね掛けをしたのでハンマーで叩いても無傷だろう。指輪自体の価値は金貨五百枚。

 だがエムデン王国の紋章入りの件と、セラス王女から下賜された付加価値がプラス金貨五百枚。合計金貨一千枚の価値だろう。家宝が一つ増えて三つになった、戦旗に宝剣カシナート、それに指輪か……

 一晩の演目で実質的に費用負担は無いから報酬としては破格だが、貰った時の周囲の反応が気になる。未婚の王族から指輪を貰うのは、もしかしなくても不味いのかな?

「リーンハルトや、見事なライティングの魔法と応用じゃな。五百個近い光球を操るとは、儂も驚いた。長生きはするものだ、古代魔法の神秘を垣間見れたぞ」

「セラス王女の意を酌んで臨機応変に対処した事は認めましょう。素晴らしいワルツでした、エムデン王国の歴史に残る出来事です。ですが、池の中に王女を招くとか事前に知らなかったので肝が冷えました」

 両女傑からお褒めの言葉を頂いた。レジスラル女官長は臨機応変とか、アウレール王やロンメール殿下のやらかした事の対処も込みだな。下手したら私的な催しの場とは言え、癇癪をおこしたぞ。

 だが歴史に残るは言い過ぎで、今後も継続的にとなると厳しい。今回はギリギリの制御だった、失敗しても不思議じゃなかった。運が良かっただけで、失敗したら恥だけじゃ済まなかった。

 これは訓練が必要で、今回は偶々上手く行っただけだ。僕が踊らなければ制御は難しくないが、一緒に踊ると制御が難しい。頑張った自分を褒めたい。

 視界に捉えての制御と、見えずに自分も身体を動かしながらの制御では難易度が天と地ほども違うんだ。ロンメール殿下は自重して下さい、芸術関連に僕を巻き込まないで下さい!

「ですが、アウレール王とロンメール殿下の所為と言うか仕業と言うか……セラス王女の機嫌が加速度的に悪化していたので、仕方無いと思って頂けると助かります。

最後のワルツですが、自身が踊りながらの制御は最高難易度です。次は同じ事が出来る自信は有りません、今回は運が良かったと思います」

 失敗する危険性が有ったと認めるのはマイナスだが、最後のワルツが無ければ問題は無かった。ロンメール殿下には事前に伴奏無しと頼んだのに……まぁ芸術的な感性から言えば、確かに盛り上がったけどさ。

「ふむ、確かにそうじゃな。リーンハルトの疲労困憊さを見れば分かる」

「それは残念です。今後も定期的に催したいと王族の女性陣と、ロンメール殿下からリクエストを貰っているのです。水上のダンス、星屑のドレス、この噂は止められませんよ」

 え?王族の女性陣って王女様達だよね。王位継承権を持つ女性王族は、確か二十人以上居る筈だ。彼女達からリクエスト?いやいやいや、無理です無理!

 色々と世話になっている、セラス王女だから苦労しても行ったんです。幾ら王族からのリクエストとは言え、次は無しの方向で……は無理か、無理だな。

 いや、アウレール王に直談判すれば万が一の確率で何とかなる?あと、ロンメール殿下。お願いですから自重して下さい。別れ際に芸術を理解出来る者が僕しかいないとか、僕も理解してませんから!

「暫くは失敗しない為の訓練する時間を下さい。今回は偶々上手く行ったと思って下さい、直ぐには無理です。ダンスの相手をしなければ可能ですが……」

「直ぐには私も催しません。セラス王女の機嫌が悪くなるだけで、何の意味も有りませんから。あと、リーンハルト殿が相手だから盛り上がるのですよ。演出だけでは、皆様も納得しないでしょう」

 思わず顔をしかめてしまった。ダンスの相手って、希望者が全員王族の女性陣ですよね?僕が休んでいる僅かな時間で、レジスラル女官長にリクエストって早過ぎない?

 つまり遠目で見ていたか、観客達から話を聞いて直ぐに動いたか。今迄は無縁だった、他の王族の方々からの接触も有ると考えた方が良いな。

 無下な態度は出来無いから、相応の対応をするしかない。つまり気苦労が増える、アウレール王やリズリット王妃に相談は気楽には出来無いし困ったな。

「あの、気になった事が有ります。セラス王女から指輪を受け取った時、周囲の様子が変だったと思いますが……何か問題が有りましたか?」

 真面目そうに何も知らない分からない感じで聞いてみる。実際は未婚の王族から意味深な指輪を貰ったのだから、何かしらの問題有りだと思う。

 サリアリス様は少し困った顔をしたが、教えてくれそうな感じはしない。いや、分からないのか?レジスラル女官長は、閉じていた目を開いた。

 教えてくれそうなので目を合わせる。特に不快感や嫌悪感、困惑した感じも無いのは問題は少ないのか?大問題なら、もう少し表情に変化が有る筈だけど。

「あの指輪自体には歴史的な価値は有りません。作られて数年ですし、何かの記念にとかでも有りませんし、同じ物も複数有ります」

「日常的に使っている指輪と言う事ですね?」

 そこで言葉を止めたので、確認の意味を含めて質問してみたが頷いただけだ。つまり下賜する前提の褒美用、日常的に使って付加価値を高めた物。

 恋人が使っていた装飾品とかを貰っても嬉しいのと同じ考えだろうか?ならば同性よりも異性に贈る方が効果は高い。だが、セラス王女は僕に対して異性としての興味は薄い。

 今迄はマジックアイテム関連だったが、次からは魔法にも興味を持ち出した。だから褒美として指輪を与えた、この予想は間違ってはなさそうだな。

「今回の催しの成果として、指輪を与える事については問題は少ないでしょう。皆が驚いたのは、セラス王女が今迄に誰にも指輪を渡さなかったからです。ですが他にも指輪を渡さない王族の方々もいらっしゃいます」

「エムデン王国の紋章入りの指輪を持つ者は、王族の生活区の立ち入りを許可された者なのじゃよ。それは同行者にも適用されると言えば、問題事は分かるじゃろ?」

 嗚呼、そう言う事か……王族の生活区に立ち入り自由、それは王族に伝手が作り易いって事だな。託した相手を訪ねる為の許可証だと思うが、同行者って所が嫌らしい。

 責任も重大、不用意に信の置けない相手など同行させられない。だが強要される場合だって無い訳がない。同行者が問題を起こした場合の責任は、自分で負うしかない。

 だが僕に強要出来る相手など、侯爵以上だから問題は無いんじゃないかな?王族の生活区なんて、呼ばれない限り近付かないぞ。今回は、アウレール王の命令で訪ねただけだし……

「リーンハルト殿には不要な指輪です。アウレール王が貴方は王宮内の殆どの場所の立ち入りを許可する通達を出しています。入れないのは、マジックアイテムを保管していない通常の宝物庫と後宮位です」

「宮廷魔術師筆頭とは王宮の警備の要、立ち入れない場所など少ないからな。それに既に政務も手伝う次期宮廷魔術師筆頭の、リーンハルトは少し早いが許可されたのじゃよ」

 え?そんな権限を持ってたとは知らない方が良かった。殆どフリーで顔パスって事だよね?資料室とか貴重な文献を見放題だぞ。

 しかも国王からの直接の通達って、止めれる者など居ない。文官達の危機感が煽られたのって、自分達の領域にも許可無く入れる事を嫌った?

 縄張り意識が高い連中だから反発するって事も可能性としては有ると思うが、アウレール王も何かしらの思惑を持って許可した筈だ。何だろう、本当に防衛の為だけか?

「皆が驚いたのは、アウレール王のお気に入りで一番の忠臣と言われた、リーンハルトに唾を付けた事についてじゃな。他の王族の方々は、アウレール王に遠慮して接触を控えていたんじゃよ」

「それを直球で引き込んだ、セラス王女に驚いたのです。リズリット王妃との関係が微妙になりましたが、アウレール王との関係は自他共に認める程に強固になりましたから。他の王族の方々からすれば、距離感を掴みかねていた所で今回の行動です。

ならば私達も同じくと、動き出したのでしょう。ですが、セラス王女はアウレール王にとって特別なので同じ事をするとどうなるかは……私でも分かりません」

 うーん。王族至上主義の、レジスラル女官長に他の王族の方々には興味が無いので付き合い方は最小限で!とは言えないな。

 つまり国王のお気に入りの僕は王族の方々から微妙な扱いを受けていたが、セラス王女が直球で抱え込みに動いたと思われた訳か。王族と言っても百人以上居る、何人に興味を持たれているのか……

 僕としては王立錬金術研究所の件も有るし、縁を深めるには良いと思っている。勿論だが恩も有るし、セラス王女に抱え込まれても特に問題は無いかな。

「なる程、状況は理解しました。他の王族の方々には面白く無い状況な訳ですね。レジスラル女官長に、お願いが有ります」

「何でしょう?」

 お願いという形で、レジスラル女官長に協力を求めるしかない。王族の方々との関係で、八方美人は不味い。基本的には受けに回るしかないが、全てを受け入れる訳にはいかない。

 だが接触された場合、僕から距離を置く態度をするのは不敬。セラス王女やロンメール殿下に仲裁を頼んだ場合は王族同士のいがみ合いになるし、その影響は僕では予想も出来無い。

 ならば王宮と後宮を仕切る、レジスラル女官長の協力は必須。普通は嬉しいと思うのだろうが、僕には荷が重くて負担でしかない。敬いはするが、ほいほい知り合いたいとは思わない。

「他の王族の方々を蔑ろにする訳にはいきませんが、既にロンメール殿下にミュレージュ殿下。それとセラス王女に良くして貰っていますので、他の方々との距離の取り方には注意をしたいのです」

 ヘルカンプ殿下に目の敵にされて、事を収めるのに相当苦労したんだ。その経験を生かさないでどうする?不安要素は取り除くべきだぞ。

 いくら王族と臣下には超えられない壁が有るとは言え、今の僕の地位と役職なら立ち回りによっては何とかなる。王位継承権二十位以下なら内容によっては、やんわりと断れる。

 王族と言っても王位継承権五十位以下の方々なら影響力は低い、即断は出来無くても後から盛り上がる面子を傷付けずに要求の撤回は出来る。

 建前上は絶対的に超えられない身分差も、爵位と役職と金の力で何とか出来る。当然だが無理な相手や内容にもよるが……

「難しい依頼です。王族の方々も一枚岩ではなく、それなりに派閥が有るのです。セラス王女の母親である、リズリット王妃派。最大勢力では有りますが、全てを押さえ付けている訳では有りません。

ですが、アウレール王もリーンハルト殿には配慮しますので、私の裁量で押さえられる者は押さえましょう。直接絡んで来た場合は、リーンハルト殿が対処する必要が有ります」

 その後、レジスラル女官長に反リズリット王妃派でセラス王女に反発している王族の方々の名前を詳しく教えて貰った。結構居る、そして年齢も近い。

 まぁ同世代で同じ様な王位継承権の順位だからこそ、反発し張り合うのだろう。基本的に王族の方々は催し事が無いと外には出て来ないので、接点が少ない。

 その点を注意しておけば、無用な接触は押さえられるから安心だと思う。王族の方々と伝手を得ると言うのは、普通に難易度が高いんだ。故に警戒すれば、絡まれ難い筈なんだけど……不安が拭い去れないのは何故だろうか?

 セラス王女や僕には、うっかり属性が有るからだろう。準備万端でも、油断大敵なんだよな。

「ああ、そうでした。リーンハルト殿には、今夜は貴賓室での宿泊が許可されています。名誉な事ですので、執務室での宿泊は禁止です」

「え?何故です。名誉って……」

 国賓クラスが滞在中に宿泊する貴賓室を臣下が使える?名誉だとは思うが、僕には執務室も近くに自分の屋敷も有る。

 そんな特別待遇を繰り返されると、反発している連中の敵愾心を余計に煽るのだが……アウレール王かセラス王女の善意なんだろうな。

「有り難う御座います」

「入浴は翌朝に伸ばします。今夜はゆっくりと休んで下さい」

 そうですね、明日はセラス王女とエムデン王国秘蔵のマジックアイテムを見せて貰う約束でしたから身を清めないと駄目なんですよね。

 今夜はもう寝よう。精神的にも肉体的にも疲労しているから、貴賓室のフカフカの最高級ベッドなら疲れは完璧に取れるだろうし……

 それが目的で、僕に貴賓室を使わせてくれるのだろう。気遣いは嬉しい、今はその好意を受け入れて早く寝ようかな。

 




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