古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第672話

 当主や後継者達、男手が不在で不安に思っている居残り組の貴族達が不安になっていると腹黒専属侍女が進言して来た。

 具体的には伝えられてないが、親書や祝い品の贈り物から予測したらしい。だが聞いて考え出すと、間違いじゃない。

 確かに当主や後継者達は、配下の戦力を最大限引き連れて第一陣として参戦している。警備兵が少ないのは、淑女達には不安で仕方無いだろう。

 だが不安を派閥のトップには言えず、国に巡回を増やせと簡単には頼めない。警備兵の詰め所に頼むか、担当部署に嘆願書を送るか……

 下からの要望は中々上まで伝わらない、その要望だって審査され予算を検討し人員の確保が可能となって漸く対応される。

 当然だが時間が掛かる、多分数ヶ月単位で。僕は旧コトプス帝国のリーマ卿が動き出すのは一ヶ月から二ヶ月の間と考えているので間に合わない。

 間に合わせるには国家の対応の他に、各派閥も独自で対応する必要が有る。だから、アウレール王に嘆願し勅命と言う形にしたい。

 警備兵達には苦労を掛けるし、各派閥の連中だって残された少ない警備兵を動かさねばならない。文句も言われるし、反発もされるかも知れない。

 場合によっては冒険者ギルド本部や魔術師ギルド本部、盗賊ギルド本部にも有償で頼む事も考えられる。余計な費用が掛かるだろう。

 幸いだが、バーナム伯爵の派閥は戦える連中が多く厳選された(参加資格獲得模擬戦を勝ち抜いた)選抜メンバーを送り込んだので比較的人手には余裕が有る。

 僕もメルカッツ殿やニールが率いる警備兵が丸々残っているから、彼等に貴族街と新貴族街を巡回警備させる予定だ。勿論だが、巡回コースは敵対派閥の範囲は廻らない。

 カルナック神槍術道場だっけ?あの貴族殺しの汚名返上と名誉挽回の為に、国家に役立つ行動を示す必要が有るからね。

 話の手順を考えながら近衛騎士団員の先導に付いて行けば、何時もの謁見室に到着。近衛騎士団員が中に伺いを立てて許可を貰い、その後で入室が許される。

「よぅ!ちゃんと休んでるのか?毎日王宮に来てるだろ、偶には休めよな」

 国王の気さく過ぎる挨拶には毎回驚かされる。本当に気安いのは嬉しいのだが、その分の期待に添える仕事をしなければならない。

「ご心配有り難う御座います。夜は自由ですし、十分に休めています」

 今回は前後に予定が入っているらしいので、国王を待たせた訳じゃない。同席者は、リズリット王妃にサリアリス様。大臣二人は僕と入れ替わりで退室した。

 財務系の大臣だったので戦費絡みか?退室際に少し睨まれたみたいな……アウレール王は普通、リズリット王妃は少し不機嫌か?サリアリス様は僕を見て嬉しそうにしたが、最初は渋い顔だった。

 戦争とは生産性の無い行いだから、財務系の仕事をしている連中からすれば悪夢みたいなモノらしい。勝つ迄は収支が確定しない、勝っても最初は持ち出しの場合も多い。

 復興と言う名の臨時予算の捻出とか色々と大変なのは分かるのだが、先程睨まれたのは軍人を毛嫌いしているから困る。国家の維持や拡大に軍属は必須の金食い虫なんだ、必要悪みたいなモノだな。

「そうか、お前の帰還によって国民の不安が解消されている。王国の守護者、攻めれば単独で国を落とす強者の存在は平民には有り難いのだろう。ゴーレムマスターは現代の英雄だからな」

「平民達の精神安定には効果が有るみたいですが、貴族達には少々効きが悪いみたいです。実は……」

 良い話の流れだったので、自分の考えと対応を説明する。第一陣の公爵達が自分の派閥から最大限の戦力を引き抜いた事による、残された者達の不安。

 聖騎士団や警備兵だけでは足りない人材を各派閥の長に頼み捻出して貰い、自分の派閥構成貴族達の安全を確保させる事。特に下級貴族は自衛が難しいので、手厚いケアは必須。

 僕と敵対または中立の連中を動かす為に勅命としたい。時間的に一ヶ月から二ヶ月の間が、謀略を仕掛けられる時期と見ているので警戒強化を間に合わせたい事。

 その対価として、既にザスキア公爵に贈った僕謹製の鎧兜を献上させて貰う事。ローラン公爵にも同じ鎧兜は錬金するが、ニーレンス公爵は愛娘の護衛用のゴーレムを望んだのでエルフ達を錬金し貸し出した事。

 長々と話した後、全員が深く深く息を吐き出したが何か失敗したのかな?公爵五家を動かす事が駄目だったのかな?対価が少なかった、ローラン公爵と同じ鎧兜は臣下と同じだから駄目だったのかな?

 アウレール王が腕を組み目を瞑り上を向いた、これは考える時の癖だ。リズリット王妃は用意されていた紅茶を飲んでいるが、無関心みたいだ。サリアリス様はニコニコと嬉しそうだな。

「先ず勅命を出す事は許可しよう。悪くない提案だし、俺も別案を考えていた。確かに謀略に対して後手を踏むのは避けたいし、無用な被害は出したくない。残していく聖騎士団も数が少ないし、別の仕事も有る」

 そう、聖騎士団は第二陣の主力。国家の最大限戦力は騎士団、宮廷魔術師もそうだが個人だし本来は多数の兵士を抱える軍隊が主力。

 普通の宮廷魔術師は軍隊と同行するし彼等の補助が必要、単独侵攻など僕だけだろう。サリアリス様でさえ、護衛とサポート部隊が必要だ。

 だが僕が話を持って行く前に既に考えていたとは流石だな、直接不安の声を聞かなくても分かっていたのか。余計な口を出したかな?

「不安そうな顔をするな。先程の大臣達は、王都防衛の予算の話に来ていたんだ。曰わく予算が足りないから何とかならないかとな。流石に貴族街と新貴族街を纏めて見るのは、予算よりも人員確保が難しい。

だがお前の提案は俺の考えと殆ど同じだが、発案者には相応の責任が有る。お前に負担は掛けたくないが、お前から話を持って行った方が、ニーレンスにローラン、ザスキアには有効だろう。バセットとバニシードは反発するだろうから、俺からも念を押す」

「提案するなら手伝えとか言い出す奴等も居る。国を憂いている、リーンハルトの負担を増やしたくはない。お主は働き過ぎじゃぞ」

 えっと?アウレール王が悩んだのは僕への負担が増える事への懸念で、サリアリス様も同じく心配してくれたのか。

 あの大臣達は予算が無いって陳情だけで、代案は出さなかったのか?予算が無いから何とかならないかって事は代案は無しだな。

 アウレール王は勿論だが、僕でも思い付くのだから無策無案で陳情に来るのは微妙だと思うけど……彼等に公爵五家を動かす案を出せは無理かな。

「王都の防衛を任されたのです。出来る限りの事はしたいのですが、流石に個人では全てを賄えず相談に来ました」

 感謝の念を込めて深々と頭を下げる。これで貴族連中の不安解消の目処は立った、後は傭兵団の動向を監視し行動を起こせば即対処だな。

 そうか!別の仕事とは傭兵団対策の為にも、騎士団は少なくない人数を隠密に行動させなければならないんだ。だから各派閥から人員を出させるしかない。

 何処も人手不足だから勅命でも内心は反発し、要望に応えるレベルで対応しない場合も有る。だから勅命にする、逆らえば貴族的な死だ。反逆と言い替えても良い。

「この件は、リーンハルトに任せる。聖騎士団と警備責任者には通達を出しておくから好きに使え。苦労を掛けるが、お前なら問題無いだろう」

 また王命とか周囲が騒ぎ出さないよな?通常業務の範疇だから大丈夫、ただ指示されただけ。そう普通に仕事の範疇で特別じゃないさ、ないよな?

「はっ!有り難う御座います。お任せ下さい」

 聖騎士団と警備責任者に話を通してくれるならば、各派閥から人員と巡回ルートとタイムスケジュールを出させて不足部分を補う形で良いかな。

 国から出せる人員には限りが有るし、巡回コースや時間が被るのも効率が悪い。その意味では、任せるは僕に公爵五家を動かせる裁量を貰えたんだ。

 早速、執務室に戻って要望書を書いて各公爵家に届けさせよう。回答は一週間程度を期限にして、全てを並べて不足を補う……あっ!巡回コースは同じ地図を使わないと駄目じゃん。

「ゴーレムマスター、戻って来い」

「リーンハルトや、流石に国王の前で思考の海に沈むのはどうかと思うぞ」

「はっ?いや、その申し訳御座いません。色々と配布する情報を統一し回答を貰わないと、調整が難しくなると思いまして……」

 失敗、大失敗だぞ!仕えし国王の前で同じ様な失敗を繰り返すとは、我ながら注意しても直らないのには困ったものだ。

 アウレール王は呆れた顔をした後に笑い出したし、サリアリス様もリズリット王妃も同じく苦笑している。

 でも仮にも国王が臣下の失態を大笑いってどうなんだ?壁際に控える女官と近衛騎士団員達は驚いた顔をしているし……

「ゴーレムマスター、少しは楽をしろよ。根を詰めると身体を壊すぞ、お前は未だ若いけれど健康には注意しろ。過労は年齢に関係無く訪れる、許容量の差だけで等しくな」

「はい、申し訳御座いません。ご配慮、有り難う御座います」

「リーンハルトは国王の補佐も仕事だが、少々手広くやり過ぎじゃな。戦争や軍事関連もそうじゃが、治安維持に灌漑事業、錬金関連もそうじゃぞ」

 ん?苦笑していた、サリアリス様が真面目な顔をした。働き過ぎと言われても、国家の力の象徴たる我等宮廷魔術師に求められる事は強さ。

 王都の防衛を任されたのならば、警備責任者として治安維持は仕事の範疇だ。灌漑事業は既に終わらせたから問題は少ない、残りは錬金関連か?

 近々で思い当たる事は二つ、ローラン公爵の鎧兜に、メディア嬢に渡したエルフとパンターそれにレオパルトの事か?先程説明した時、特に反応も質問も無かった。今考えると少し……

「ニーレンスとローランがな、お前に錬金関連で頼み事をしたが事が大き過ぎて困るので、俺に説明に来た。お前に迷惑を掛ける訳にはいかない、あくまでも自分達が頼んだ事なので責任は自分達に有るとな」

 グッ、言葉に詰まる。公爵家の当主二人が、僕の為に国王に説明と謝罪に来るとか……どうしたら良いんだ?

 確かに一般常識より少しだけ逸脱した鎧兜とゴーレムだけど、公爵に責任が有るとか止めて欲しい。ヤバい、胃がシクシクと痛んで来た。

 思わず右手で胃の辺りを押さえてしまう。身体に気を付けろと言われても、こんなに配慮されたらプレッシャーかストレスかで胃潰瘍になりそうだ。具体的には血を吐きそう。

「ローランの鎧兜の件は未だ良い。俺に献上するから、自分も常識外れの鎧兜を使わせて欲しい。至極真っ当だな、俺も嬉しい。だが、メディアに贈ったゴーレム……エルフと黒豹型ゴーレム、アレは流石に駄目だろ?」

 最後が疑問系でしたが、やはり駄目だったのか?やり過ぎたか?でも、メディア嬢の置かれた環境だと、エルフ並みの警備が必要だと思うんだ。

 敵は身内、それも近しい位置に居る家族が怪しいと思うんだ。エルフとパンター、レオパルトの性能を披露すれば諦める。

 我が十一番目の愛娘には、敵に襲撃を諦めさせる性能が有る。襲って来ても返り討ち、負ける事など有り得ない。

「ですが……」

「まぁ聞け。アインやゼクスの前例は有るが、お前は特別なゴーレムを他人に貸し出しはしなかった。正確には、お前が同行してる際に貸し出しただけだ。だが、アレは違う。優れた土属性魔術師と言う制限は有るが、基本的には貸し出ししていない。その前提条件が崩れた」

 メディア嬢が心配していた事が直ぐに現実になるとは、流石だと誉めるべきか嫌な予感が当たったと悲しむべきか。

 だが想定内だ、問題は少ない。条件付きの貸し出し、上級貴族の関係者に高位の土属性魔術師は居ない。故に新しく錬金して寄越せと言われても活用出来無いから意味が無い。

 でも何か感じが違う。叱責を受けてるかと思ったのだが、アウレール王の方が恥ずかしそうにしている。話辛そうだが、本題は何だ?俺も欲しいも違う、前に要らないと公言している。

「その、エルフの事を聞いてだな。セラスが拗ねた、盛大に拗ねて手が着けられない」

「メディアよりも縁が深い私には何も無いのは、余りにも情が無さ過ぎて悲しいと……部屋に籠もって出て来ないのです。全く困った娘ですこと」

 おほほほほって、手で口元を隠して笑ってますが、王女が部屋に籠もって出て来ないとか一大事じゃないのかな?

 マジックアイテム大好き王女が、まさか自分は貰ってないとか拗ねるなんて!それは実父である、アウレール王も困るよな。あー、うん。どうしよう?

 王女は外交による政略結婚の駒の側面も有るが、セラス王女は対象外だった。それは性格と素行に問題が有るからだと思っていたが、アウレール王の感じは少し違う。

「と、取り敢えず謁見の申し込みをさせて貰って直接話した方が良いでしょうか?何かしら、セラス王女の希望に叶う物を錬金して御機嫌伺いを致します」

「まぁな。宜しく頼む。俺もセラスには……その、少し甘いのだ。出来る限りの事はしてやってくれ、頼んだぞ」

 了解の意を込めて、深々と頭を下げる。セラス王女も拗ねて引き籠もりとか、勘弁して欲しいのだが……アウレール王も人の親、我が子は可愛いって事だよな。

 いや少し違うな。アウレール王は我が子も反乱分子用の生き餌にする程に徹底した対応をしている。我が子可愛さだけじゃない、甘やかすのは他にも理由が有るのかな?

 まぁ僕も、セラス王女は年上だけど可愛いと思ってるし、細かい事は聞かずに何かしらの希望を叶えてあげれば良いか。彼女の希望は、何かしら珍しいマジックアイテムが欲しいだ。

「任せて下さい」

 頭を下げた時にチラリと見た、サリアリス様の苦渋に満ちた顔。リズリット王妃の表情の落ちた顔、アウレール王の……何故、そこで笑うじゃなく嗤う?

 この頼み、勿論王命では無いが何かしら意味が良く分からないが深い意味が有りそうだ。その、この感じは特大の危険な予感がする。そう、危険な予感が……

 


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