古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第664話

 リゼルから驚愕の事実を知らされた。僕は打算以外の相手からも好意を寄せられ易い、つまりモテモテらしいのだがイマイチ信用出来無い。

 確かに侯爵待遇の伯爵で、宮廷魔術師第二席として権力も財力も有るが、未だ未成年の魔法馬鹿だ。

 女性の扱いは慣れてなく、今は婚約者の尻に敷かれている男の何処が良いんだ?僕の背景を求める打算的なら分かるが、僕個人に魅力が?

 リゼルの言う事だから、何処までが本気か分からない。イーリン達まで巻き込んで、僕にお試しで求婚しろとか言い出すし……

 話の勢いに流されて本当に求婚したら、イーリン達は本気で僕に嫁いだのかな?からかわれただけだろうか?良く分からない。

 その後は普通に仕事をして特に変わりは無いのだが、気になって親書の返信書きが進まない。流石に伯爵迄は今日中に終わらせたいんだ。

 そんな時に、ローラン公爵から話がしたいと、マレルと言う侍女から申し入れが有った。ローラン公爵とメラニウス公爵夫人が、僕の執務室を訪ねて来る。

 身分的には僕が、ローラン公爵の執務室を訪ねるべきなのだが押し切られた。因みにだが、今日はザスキア公爵は出仕していない。

 イーリン曰わく、派閥構成貴族達の集まりが有り屋敷から抜け出せないそうだ。最近は何時も一緒みたいな感じだったから、少し寂しい気がするよ……

◇◇◇◇◇◇

「リーンハルト様。ローラン公爵とメラニウス公爵夫人がいらっしゃいました」

「応接室に通してくれ。オリビア、紅茶と何かフルーツでも出してくれるかな?」

 セシリアがローラン公爵達の来訪を伝えて来たので、直ぐに応接室に通す。彼女は同席するだろうから食べ物関係に強い、オリビアに持て成しの準備を頼む。

 イーリンやロッテ、ハンナも情報収集の為か壁際に並んで立っている。こう言う場合は無所属の、オリビアが居てくれて助かっている。

 ローラン公爵は少し困った顔だが、メラニウス公爵夫人は苦笑と言うか嬉し楽しそう?マレル殿は真面目な顔で二人の後ろに控えた。

「ようこそいらっしゃいました。わざわざ来て頂かなくても、僕の方から伺ったのですが何か有りましたか?」

 さり気なく下手に出て様子を窺うも、切羽詰まった感じは無い。公爵本人が頼み事ともなれば、結構な難題だと思うけど……

 やはり、メラニウス公爵夫人は嬉しそうだな。何故、夫婦でこんなに態度に温度差が有るのだろう?ローラン公爵からは言い辛そうな感じしかしないのに……

「此方からお願いする立場だから、わざわざ来て貰うのも忍びない。先ずは改めて王命の達成、おめでとうと言わせて貰おう」

「本当に、毎回素晴らしい達成度です。リーンハルト様は大陸一の魔術師、その名声は他国にまで広がっていますわ」

「有り難う御座います。王命を達成出来て安心しております。後は皆様に任せて、僕は王都の護りに専念します」

 褒め殺しか?他国に広まるは、アウレール王が積極的に広めているのが正解。単独で他国に侵攻出来る、訳の分からない魔術師が居るのは外交圧力として使えるから。

 僕は侵攻特化魔術師と思われているが、防衛戦も出来る。籠城しても積極的に攻めて出れるのは、ハイゼルン砦の攻防戦で、ジウ大将軍相手に示した。

 未だ未成年なのに戦争関連には異常な慣れを持つ異常な魔術師。バーリンゲン王国に呼ばれた結婚式で、他国の宮廷魔術師や大臣クラスから色々と探りを入れられた。

 その時に他国の宮廷魔術師と五対一で模擬戦を行い圧勝した所を見せたから、相手も相当困った筈だ。本国に何て報告すれば良いんだ?

 実際に自分は見たから分かるが、書面や口頭での報告は嘘臭くて困っただろう。幸いなのは複数人が目撃してるから、情報を摺り合わせて信用度が上がる。単独だったら虚偽報告だと疑われただろう。

 言い辛いみたいな態度の、ローラン公爵に楽しそうなメラニウス公爵夫人を見て思う。これは僕から話題を振った方が良さそうだな。少し時事ネタで会話を繋いでから本題に入る、無理をさせても仕方無い。

「それで、何か僕に頼み事ですか?出来る事ならば、協力致しますが……」

「その、何だ。我が一族にも後宮の武装女官隊に勤める者達が居るのだが、彼女達が自慢するのだよ」

 後宮の武装女官隊?後宮警護隊の事だよな?ローラン公爵家は武門の一族、女性も武に長けた連中が多いのは分かる。

 後宮警護隊は本人の戦闘能力の他に、容姿とマナーと身分的保証が必要なエリート中のエリート。女性版近衛騎士団だ。

 だが彼女達と僕との接点は、チェナーゼ殿位だからな。何を自慢しているのかは全く分からない、だが戦う女性が自慢するモノは限られる。

 まさか、ルーシュとソレッタに渡した、ドレスアーマー絡みか?いや、それは彼女達の自慢にはならない。逆に羨ましいとか妬ましいだ。

「リーンハルト殿は、彼女達にドレスアーマーを錬金するのだろ?武門ローラン公爵家の当主が、姪っ子達よりも性能の低い鎧兜しか持ってないのは……俺のプライドが許せない」

 そう言えば、チェナーゼ殿と約束したな。既得権の調整をしてくれれば一式金貨三万枚で錬金しても良いと……画一的な仕様にしないと駄目だって、条件も付けたよな?

 ルーシュとソレッタが自慢し捲って、その皺寄せが巡り巡って戻って来たんだ。元はと言えば、魔香の効果で変なテンションでドレスアーマーを渡した僕が原因だ。

 男女関係無く、武人達とは武器や防具が大好きで魔力付加の物は垂涎の的。それをセミオーダーで錬金して貰えるとなれば、派閥トップにも自慢するか。

「忙しい時期なのは分かっている。ドレスアーマーだけでも百人以上だ、年単位の仕事だろう。だが俺は来年まで待てない、待てないんだ」

 年単位?嗚呼、確か完全オーダーメイドだと月に数人しか無理って言ったんだっけ。だからセミオーダーで規格を統一する話に持って行ったんだ。

 後宮警護隊は公式な部隊だし規格がバラバラなのは不味いし、メンテナンスを考えれば全員の仕様が違うのも大変だから。

 ローラン公爵の態度は、予約の割り込みを頼むのが嫌だったんだな。格下に命令する形を嫌った、僕に配慮してくれたが鎧兜は錬金して欲しい。

 多分だが、今回のウルム王国との戦争に、ローラン公爵は自ら最前線で参加するのだろう。武門の長として、貴族の義務として戦う為に。

 今回の出陣に間に合わせたい。でも予約の割り込みや納期を急かす事は悪いと思ってくれたが、武人としては我慢出来ずに葛藤していた。

 そんな自分の旦那を微笑ましく見ていたから、メラニウス公爵夫人は楽しそうだったんだ。そんなに気にしなくても良いのに……

「構いません、ローラン公爵用の鎧兜を一式錬金しましょう。フルプレートメイルで宜しいですか?デザイン等の要望が有れば、極力叶えますよ」

「おお!そうか、頼まれてくれるか。それは非常に有り難い、感謝致しますぞ。デザインと言うか、我がローラン公爵家に代々伝わる鎧兜と同じデザインにしたいのだ。代々伝わると言っても実戦に参加しているから損耗も激しく、何度も新しく作り替えている。歴代当主の体型にも合わせる必要が有るのでな」

 大の大人が子供みたいに無邪気に喜んでいる。そんな自分の旦那の様子を慈愛に満ちた目で見る、メラニウス公爵夫人。

 この夫婦は仮面夫婦でなく、本当に愛し合っているのだろう。しかし武門の当主と言えども、デオドラ男爵クラスの人外レベルじゃない。

 あの連中は異常だから比較しちゃ駄目だよな。ローラン公爵はレベル三十台の戦士職の強さを持っているが、割とふくよかな中年体型だ。

 最前線で指揮はするが、もう剣を振るって敵と戦う事はしないだろう。ならば防御特化の司令官タイプ、ザスキア公爵と似たコンセプトかな。

 彼女に錬金した鎧兜は、戦場のド真ん中で立っていても無傷。高貴な淑女に相応しい豪華絢爛なデザインにした。そもそも彼女は戦士としての能力は無い。

 ローラン公爵はデザインは用意されてるから性能面だけ決めれば良い。見本さえ有れば直ぐに錬金出来るが、簡単に錬金出来るのは秘密にしたい。

「見本か仕様書、デザイン画とか頂ければ三日間位で用意出来ます」

「は?」

「え?」

 あれ?何か不味かったか?ローラン公爵が間抜けな顔をして僕を見詰めているが、同性に見詰められても困る。

 メラニウス公爵夫人も同様に驚いている、気の強そうな容姿なのに驚いた顔は意外とキュートだな。背後に控える、マレル殿も驚いているけど……

 僕が請けるのが意外だった?いや、そんな事は無い。頼み事を受けるか受けないかは別として、どちらの場合もそんなに驚く事じゃない。

 なら何だ?後は納期位か?三日間位は長過ぎたか?いや、短過ぎたんだ。鍛冶なら製作は半年単位だが、錬金なら即日でも可笑しくないが三日と多目に言ったんだけど?

「いやいやいや、そんなに簡単に魔力付加の鎧兜が作れるのか?普通は一ヶ月単位とかじゃないのか?」

「最初に鎧兜を錬金し、その後に魔力を付加していきますが、頑張れば三日間位で仕上がりますよ」

 まぁ魔力が付加された鎧兜の新規製作など前例など無いし、現代で錬金可能なのは僕だけだから、ローラン公爵の想定と大幅に違ったんだな。

 だがルーシュとソレッタに与えたドレスアーマーは、その場で錬金して渡したのだが、その辺の情報は伝わって無いみたいだ。

「そ、そうか。悪いな、苦労を掛ける。見本として鎧兜一式を屋敷の方に届けるので、宜しくお願いする」

 礼を言われて頭を下げられた。いやいやいや、公爵本人が格下の伯爵に頭を下げちゃ駄目だって!

 頭を上げた時の顔は本当に嬉しそうだから、本心から僕の錬金する鎧兜が欲しかった訳だ。それはそれで凄く嬉しい。

 本来の土属性魔術師とは錬金する事に喜びを感じる人種、それを公爵本人にまで喜んで貰えるなら土属性魔術師冥利に尽きる。

「後は性能面の確認ですが、重量軽減の魔力付加で10㎏以下で収まります。衝撃緩和と強度向上、有る程度の自己修復機能。レジスト性能は麻痺と毒、睡眠と混乱を35%の確率で回避。希望ならば浮遊盾も装備出来ますが、デザインが変わってしまいますね……どうしようかな?」

「済まないが、理解が追い付かない。その性能の鎧兜を錬金出来るのか?それは眉唾の伝説級のレベルで、実在すら危ぶまれる禁製品じゃないのか?」

 いえ、これでもダウングレード品です。流石に全力全開で錬金すると、禁製品どころの騒ぎじゃなくなりますから。

 イルメラ達用の最高級品質の鎧兜は、彼女達以外には錬金したくないんです。例外は、ザスキア公爵だけでアレもギリギリアウトっぽい性能です。

「むぅ、ならば代金は金貨十万枚だ!ビタ金貨一枚もまからない、完成品を見て出来映えにより更に増額するぞ」

「いや、それは貰い過ぎです」

 どうしよう、二桁違う値段設定を言われた。実際値段は気にしないで、金貨五千枚位を想定していたんだ。

 特定の人物にしか流通させない予定だから無料でも良かった。取引や引き抜き材料として利用する予定が、金貨十万枚とか笑えない。

 だがローラン公爵もメラニウス公爵夫人も真面目な顔だから、冗談とか僕に借りを作りたいとかじゃない。

「未だリーンハルト殿の錬金技術を甘く見ていた。正直に言えば金貨十万枚も、オークションの初期設定価格だ。実物を見て改めて上乗せ評価をする。まさか俺の代で、子孫に伝える家宝を得る事が出来るとはな。感無量だ、武人としてこれ程嬉しい事は無い」

「えっと、ですね。そんなに貰う訳にはいかないです。確かに希少な錬金用の素材は使いますが……」

 いやいやいや、上級魔力石だけでも問題無いので実費なんて金貨百枚も掛からないんです。希少性を高める為に、希少な素材とか理由付けしただけです。

「俺が物の価値を判断出来無い男だと思うのか?至極真っ当な判断だ、何の問題も無い。いや、これ程の伝説級鎧兜だ。リーンハルト殿」

「はい、何でしょうか?」

「これ程の鎧兜を臣下だけが持っているのは不味いな。費用は俺が負担するから、リーンハルト殿の名前で王家に献上しないと駄目だ。俺が使う事で、この鎧兜の存在は広まる。必ず騒ぎ出す馬鹿共が居る、手間を掛けるが俺より先に王家に献上した方が良い。何、費用は二倍払う。俺は王家秘蔵の鎧兜と同じ物を使えるからメリットしかないわ」

 はっはっはっ!って高笑いしているけど、金貨二十万枚?いやいやいや、それは駄目だ。アウレール王への献上は、僕の負担で行わないと……

「反対はしないでくれ。俺の面子の為にも重(かさ)ね重(がさ)ね頼む。王家の献上品と同じ物を使える誉れを貰いたいんだ」

 立ち上がり腕を振り上げて力説された。ローラン公爵家はエムデン王国でも武門の家柄で、僕も貰った宝剣カシナートを貰っているんだった。

 武器や防具への思い入れは、デオドラ男爵と同等なのかも知れない。だけど力説した後に、頭を下げるのは止めて下さい!

「お願いしますから、簡単に頭を下げないで下さい!分かりました、分かりましたから!」

「おお!そうか。それは良かった、俺も鼻が高い。早く戦場に行きたい位だよ」

「まぁ貴方ったら、玩具を与えられた子供みたいですわ。そんなにはしゃいで、困った人ね」

 夫婦仲睦まじいのは良いのですが、僕の胃が先程からシクシクと痛み出しました。ニーレンス公爵もローラン公爵も、僕を対等に扱ってくれる。

 それは嬉しいし、格下として扱うバセット公爵との関係を中立に下げた理由の半分でも有る。残り半分は信用度だけど……

 兎に角、そんなに下手に出られるとですね。僕の胃にダイレクトにダメージが来るんです、痛いんです。だから緩和条件を付けさせて貰います。

「僕も土属性魔術師としてのプライドが有り、余りに過大評価される事は精神的に嫌なのです。なので鎧兜の他に雷光と、試作品ですが雷光と同じ麻痺付加の槍、それとメラニウス公爵夫人に硝子の護身刀を贈らせて頂きます」

 未だ誰にも渡していない、麻痺付加の槍。名前も付けていないが性能は確かだから、それを一番最初に渡そう。

 エレさんに渡した試作品の短槍とも違う、槍本体も業物だし強固な固定化に自動修復機能も付けた逸品だ。対価としても十分だろう。

「そ、それは困るぞ!そんなに増やされたら……」

「麻痺付加の槍は未だ名前が有りませんので、次回迄に名前を考えて下さい。ローラン公爵が名付け親ですよ」

「貴方、諦めなさいな。リーンハルト様も貴方も一度言い出したら聞かないのだから、この話は終わりにしましょう。リーンハルト様、宜しくお願い致しますわ」

 メラニウス公爵夫人が纏めてくれたが、貴女まで頭を下げないで下さい。本当に、この二人は僕を特別に扱ってくれる。

 その期待に応える為にも、最高級品質の鎧兜と武器を錬金しよう。名前を付けて貰った槍も、順次デオドラ男爵達に渡せば戦力アップだ。

 ウルム王国にも旧コトプス帝国にも負けない。大陸最大最強の国家となり、僕と僕の大切な人達と幸せに暮らす国にしてみせるぞ!

 


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