古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第67話

 ゴーレム対決……

 

 アルクレイドの『堅牢』は共に冒険者として活動していた時から知っている。

 重装甲の大型ゴーレムにリーチの長い両手持ちアックスを装備させた防御特化型だが、一撃の威力の高い攻守に優れたタイプだ。

 

 一方でリーンハルトは騎士タイプの均整の取れたゴーレムに両手持ち剣のツヴァイヘンダーを装備させている、名前は捻りが無い『ゴーレムナイト』と呼んだ。

 

「どちらも見事だ。アルクレイドは防御重視、リーンハルトはバランス重視か……」

 

「あのゴーレムは……」

 

 妙に感情の入ったルーテシアの呟きが気になった。

 

「ん?何だルーテシア、リーンハルトのゴーレムを知っているのか?」

 

 奴は青銅製ゴーレムを使っていると報告書に有ったが、量より質の場合は鋼鉄製か……だが見る機会は無かった筈だ。

 

「いっ、いえ、その……み、見事な両手剣ですね」

 

 変な奴だな、だが確かに見事なツヴァイヘンダーだ。

 

「ルーテシア、この戦いをどう見る?」

 

 俺はアルクレイドの『堅牢』が有利と見るな。ツヴァイヘンダーは見事だが『堅牢』の装甲を突くには弱い。

 アックスかメイス等の破壊力の高い武器じゃないと難しいだろう。

 

「私は『堅牢』の防御力の高さを知っていますから、リーンハルト殿が『堅牢』を見た後で両手剣を装備したゴーレムを錬成した事が気になります。

確か両手持ちアックスやランスを装備させた事も有る筈ですし……」

 

 ふむ、確かに後からゴーレムを錬成したのだから対策は練っていると?

 ツヴァイヘンダーは叩き切るより突きに適した両手剣だ、『堅牢』の鎧の弱い所を突けば勝機は有るとみたか。

 

「我が娘ながら良い着眼点だな。さて、始まるぞ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「一つ聞きたいのだが、ゴーレムは人型に拘るべきだろうか?」

 

 何気ない言葉……アルクレイドさんの質問、それはバルバドス氏のキメラの様な異形の形を取り入れるか否か、だな。

 

「効率化を考えるなら拘らないのでしょうが、僕は人型に拘ります」

 

 僕の答えに嬉しそうな顔をした、アルクレイドさんも人型に拘るんだな。

 魔導の追及には新しい物も積極的に取り入れる必要が有る、停滞した常識や技術の破壊は常に新しい事を始める事からだ。

 だが、僕は未だ人型のゴーレムを極めていない。

 極めてから不足する課題を新しい物も交えて考えたい、古い考え方の人間なんだ。

 

「そうか、私もそうだ。君は若いのに古い考え方をするのだな」

 

 突き抜けた天才は周りからは突拍子の無い事と言われても理由が有るそうだ。ただ凡人が理解出来ないだけで……

 

「原点に返るのも必要だと思います。凡人の僕は先ずは人型ゴーレムを極めて、それから新しい事を始めるタイプなんですよ」

 

「君が凡人ね、自分の事を知るのは難しいと言うが……初手は譲ろう、掛かって来なさい」

 

 良く言う、どう見ても迎撃タイプのゴーレムだ。『堅牢』とは良く言ったものだな、前面装甲に隙が無い、間接部分ですらカバーが有るし……

 

「行きます!」

 

 動く事により今は見えない部分に弱点が有るか調べよう。ゴーレムナイトを真っ正面から突撃させ反撃は左右どちらにも躱せる様に……

 

「堅牢、迎撃しろ!」

 

 速い、しかも両手持ちアックスの根元を片手で持って体を前に突き出す様に横に振ってきた。攻撃範囲は3m以上か?

 

「跳べ!」

 

 左右に避けるのは無理と判断し上に高跳びの要領で飛び上がりスピードに全体重を乗せた突きを繰り出す、狙える場所は限定されるから首の付け根。

 胴体鎧と兜との合わせ部分だ。

 

「刺突三連撃!」

 

 鋭く三回突きを放つゴーレムナイトの必殺技だ!

 

「くっ、避けろ!」

 

 咄嗟に首を動かし額部分で突きを受ける、飾りと頭を保護する意味を持つ額当に突きが当たる。

 『堅牢』は仰け反り後ろに二歩下がったが持ち堪え体勢を立て直した。

 

「不味い下がれ!」

 

 両手持ちアックスを構え直しゴーレムナイトに振り下ろす。僅かに小手に当たっただけで亀裂が生じる。

 

「速い、それに一撃の破壊力が凄い」

 

「ゴーレムが飛び跳ねるだと!それに何だ、奥義みたいな攻撃は?」

 

 一瞬静かになり、その後に観客が歓声を上げる。互いのゴーレムを直ぐに修復するが……強い。

 殆ど完璧な一撃だった、幾ら額当で防がれたとはいえ穿つ事が出来なかった。

 ダメージは僕のゴーレムナイトの方が酷い、あと僅かに下がるのが遅ければ右手は切り飛ばされていたな。

 互いのゴーレムの修復を終えて睨み合う、だが打つ手が無い。

 

「初手は譲った、次は私から行こう。堅牢、行け!」

 

 拠点防御の迎撃タイプかと思えば走り出した、巨躯の割に速い。

 両手持ちアックスの振り下ろしの一撃を後ろに跳んで躱したが大地に大きな穴が開いた。

 

「今なら!ゴーレムナイト、肘を狙え」

 

 関節部分は構造上内側が弱い、大抵は革か良くて鎖帷子だ。

 堅牢は両手でアックスを握っているので関節部分は横を向いている。

 ツヴァイヘンダーを関節部分目がけて突き刺すが……胸に正拳突きを食らい後ろに跳ね飛ばされた。

 

「くっ、不味い、体勢を……」

 

 堅牢の追撃、両手持ちアックスを右肩口に叩き込まれ僕の負けが確定する。

 最後の肘間接部分への攻撃の時、近過ぎて直ぐに攻撃出来ずにツヴァイヘンダーを逆手に握りかえた。

 そのタイムロスが相手の反撃を食らう原因だったかな……

 

「完敗です」

 

 ゴーレムナイトを魔素に還す、僕の完全な負けだ……あの時、勝ちを意識して強引に攻め過ぎたんだ。

 無理な攻撃の隙を突かれて無様に負けた。

 

「勝者、アルクレイド!」

 

 デオドラ男爵の判定宣言により観客からの歓声は爆発する、誰が見ても完璧な勝敗だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 模擬戦の後は懇親の昼食会だ、貴族として呼ばれたのでウィンディアとアルクレイドさんは参加出来ない。

 出席者はデオドラ男爵にルーテシア嬢、ジゼル嬢に木陰から覗いていた少女だ。

 少女の名前はアーシャといいジゼル嬢の腹違いの姉だそうだ、金髪碧眼の典型的なエムデン貴族の特徴を持つ深窓の令嬢。

 ジゼル嬢曰く物凄く人見知りな恥ずかしがり屋らしい。

 

「見事な戦いだったぞ、リーンハルト殿。先ずは乾杯だ、有能な若者と知り合えた事に!」

 

 ワインの入ったグラスを胸の高さまで持ち上げるのが乾杯の正式マナーだ、決してグラスを合わせない。

 暫くは会話の無い食事が続く、話すのは食後のお茶を飲みながらだ。

 アーシャ嬢がチラチラと僕を盗み見るが、目が合うと真っ赤になり下を向いてしまう、なるほど恥ずかしがり屋だな。

 まさかとは思うが僕に嫁がせたい娘じゃないよね?

 上質の食事も気持ちが漫(そぞ)ろだと美味しく感じない事を知った。

 漸く食後のお茶となり一口飲んでから会話が始まった……

 

「どうだった、アルクレイドの堅牢は?」

 

「攻め倦(あぐ)ねたのが正直な感想です。打撃武器を用いなかったのはゴーレムナイトが機動性を重んじた為に重量の有る武器を嫌ったのです。

ツヴァイヘンダーは突きに適した武器なので点で攻めれば勝機が有ると思いました。でも実際は穿つ事も出来ずに完敗です」

 

 アルクレイドさんは望めば宮廷魔術師にもなれた逸材だが、主であるデオドラ男爵から離れるのを嫌ったそうだ。

 宮廷魔術師とは王家に仕えるから嫌だったのだとか……忠義に厚い人なのだが、本人は宮廷内のゴタゴタが嫌だったそうだ。

 

「あの刺突三連撃か、殆ど奥義に近い技だぞ。一瞬で同じ場所に三回も突きを繰り出す、口で言うのは簡単だが実際は違う。

剣を突き引き又突くには筋力・体捌き・バランス等を総合的に制御出来て初めて実戦で使える。

あのゴーレムナイトを操作し技を繰り出す難しさは魔術師でない俺にも分かる」

 

「そうだ、威力ある突きは一撃目は体全体の勢いを利用出来るが二撃目からは止まった状態から技を繰り出さないと駄目だ。

全身の力を効率良く利き腕に伝えるのは難しい、実際に真似てみたが二撃目からは腕の筋肉のみの威力しかなかった。

リーンハルト殿のゴーレムナイトと比べると恥ずかしい」

 

 技を真似たの?この武闘派父娘は剣術についての造詣が深いな……

 あれは、ある流派の剣士に何度も技を繰り出してもらい動きをトレースしイメージを固めてパターン化したんだ。

 

「ゴーレムは人間と同じ動きをさせる事は出来ますが、筋肉で動かしている訳ではないのです。

だから理解出来ない動きも可能、そして秘技・奥義に近い部分なので余り説明が出来なくて申し訳ないです」

 

 突っ込まれるとボロが出そうで怖い、奥義にして誤魔化そう。

 実際に刺突三連撃は剣術の奥義だったし回転剣舞三連撃って斬撃も出来るんだ、言うと面倒臭いから内緒だけどね。

 

「その……リーンハルト様、有り難う御座いました」

 

 突然アーシャ嬢からお礼を言われたが話の流れが分からない。

 

「僕が何か?」

 

「アーシャ姉さん、それじゃリーンハルト様が何の事だか分からないわ。

指名依頼のビックビーの結晶は二ヵ月後の誕生日に贈るプレゼントの素材なのです」

 

「そうだ、アーシャは今年十六になるからな。側室の娘だから社交界にはデビュー出来ないが、せめて誕生日は盛大に行いたいのだ。

そうだ、リーンハルト殿も誕生日には招待するので宜しく頼む」

 

 社交界にはデビューさせないのか……

 側室の娘でも顔見せとしてデビューさせる親は居るのだが、自前で御披露目を兼ねた誕生日を祝うのか。

 十六歳ともなれば結婚適齢期でもあるし彼女も大変なんだな。

 

「それは、おめでとうございます。是非出席させて頂きます」

 

 招待されて断る事は難しい、しかもデオドラ男爵本人の口から言われたのだ。

 

「うむ、思いがけず二つも結晶が手に入ったのでな。エルフの里に行き加工を頼む事にする」

 

 又だ、ドワーフといいエルフといい人間と交流を持っているのは本当なんだな。

 ドワーフは鍛冶屋として武具・防具が専門だがエルフは魔力を付加したアクセサリー類を得意としていた筈だ、出来れば参考として行ってみたい。

 

「そうだわ、リーンハルト様も土属性の魔術師ですし正式に依頼しますので、アーシャ姉さんに即興で何かアクセサリーを造ってくれませんか?」

 

「今ですか?」

 

 確かに僕は土属性の魔術師、しかもゴーレム使いだから錬金は得意だ。

 魔力付加してない細工物はどんな土属性の魔術師でも造れる、銀までなら……

 それを売り物にしないのは大量の魔力と素材を消費する割に出来が良くないんだ。

 細工師の造る繊細な銀細工に比べたら格段に劣るのにコストが悪く値段も高ければ売れない。

 だから僕が造れないと断る事は出来ないんだ。ジゼル嬢の思惑は分からないが魔術師としての技量を確かめたいのか?

 

「分かりました。では銀細工のブレスレットを……」

 

 空間創造から上級魔力石を取り出す、これを核に錬金で銀の鷹を造り出す。

 胴体部分が魔力石で出来た銀細工の鷹がテーブルの上に出来上がった。

 

「まぁ素敵な鳥さん、でもブレスレットではなくてよ」

 

 疑問を口にするアーシャ嬢に右手をテーブルの上に乗せる様に頼む。

 彼女の白く細い手に鷹を歩かせて近付き羽を広げ手首を包み込む様にしてブレスレット形状にする。

 

「凄いわ、緻密な細工に輝く緑色の魔力石……リーンハルト様、私ずっと大切にしますわ」

 

 ブレスレットを嵌めた右手を胸に抱いて嬉しそうにお礼を言われたが、魔力も付加してない只の銀細工なので感激されると恥ずかしい。

 今にも泣きそうなのには困ったが、ジゼル嬢の笑みが気になって仕方がない。

 何か裏の有る依頼だったのか?

 鷹は今は無きルトライン帝国の国鳥であり僕の家紋でもあったので詳細まで熟知していた、なので細工も緻密に出来た筈だ。

 

「喜んで貰えて嬉しいです」

 

 因みにブレスレットの代金は金貨二十枚と破格な評価を頂いた。

 


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