古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第66話

 デオドラ男爵邸での模擬戦も二回目、このお祭り騒ぎには慣れなくもない。

 前回は手の空いた者が集まったそうだが、今回は殆ど全員だろう三割増し位の観客だ。

 見渡せば身なりの良いのはデオドラ一族、他に執事・メイド・コック・庭師・警備兵に……何故か木の陰から半分身を乗り出し僕を見る少女も居るが何なんだ?

 特設の観覧席にはデオドラ男爵とアルクレイドさん、ルーテシア嬢にジゼル嬢が座っている。向かい合う相手は、ボッカ殿と……

 

「すみません、対戦相手以外の方は広場から出て行って下さいませんか」

 

「何を言っている、今日は俺達と戦うんだとよ。ハンデ無しじゃ勝負にならないとは良く言ったな。

ならば一族の中でも年の近い連中で挑んでやろう!」

 

 はぁ?何だ、その理由は? そんな事を言った覚えはないのだが?デオドラ男爵を見るとニヤリと笑った。

 

「リーンハルト殿、ハンデを与えてやってくれ。君はゴーレムを二十四体も操れるのだ。

ボッカ一人では無理が有るからな。その分勝敗はボッカ側は全員降参か戦闘不能、リーンハルト殿側はゴーレムが全て戦闘不能で良いぞ」

 

 そんな事を言ったらボッカ殿達のプライドが傷付いただろう、怒りの深さが分かるのだが僕に向けるな!

 デオドラ男爵的にはウィンディアの事も有るからケリを付けろって事か?落ち着いて相手を観察する……

 ボッカ殿を入れて六人、全員二十歳前後、フルプレートメイルにロングソード装備、兜と盾は無い。

 力量は高そうだが精神的には怒りで冷静じゃない、付け込むならソコか?

 

 そう言えば転生前も良く騎士団と模擬戦をしたな……

 昔も騎士団と魔導兵団との仲は良くなくて、諍いは多かった。

 上級騎士は全て貴族だが魔術師は生まれた身分には拘らなかった、才能重視の集まりだった。

 奴等は商家の娘だったマリエッタを「卑しい商売女」と馬鹿にしたのでゴーレム兵団で叩き潰したんだ。

 当時の僕は王族で宮廷魔術師筆頭で魔導兵団の団長だから出来たが、あの後でマリエッタに泣きながら叱られた。

 魔導兵団は身分差を気にしない連中ばかりだから、団長の僕でも良く世間知らずと叱られたものだ。

 だが普通は身分差とは大きな問題なのだ、特に選民意識が強い貴族の逆恨みは酷い。

 

 さて連中の会話を聞けば最上位者はボッカ殿だ、つまり強さの基準は彼にする。

 確か5m離れた所からの踏み込んだ斬撃は強力だった、衝撃波も飛ばせるかもな。

 

「さて始めるか、双方準備は良いな?では、初め!」

 

 ボッカ殿を中心に横一列に並んで居るが、まだ抜刀していない。15m程の距離が有る。様子見か?だが侮ってはいない、顔は怒りに震えているが……

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 出し惜しみは無しだ、二十四体の青銅製のゴーレムポーンを錬成、六体並びに四列配置、前から盾・盾・槍・メイスを装備させる。

 一気に魔素を集め二十四体同時に錬成する、十秒と掛からずに整列した状態でゴーレムポーンが現れる。

 観客からは感嘆のどよめきが湧くが見世物みたいで嫌だな……対するボッカ殿は此方を睨むだけで動きは無い。

 多分だが彼等はゴーレム達が近付いたら迎撃、そのまま僕に突撃してくるだろう。

 騎士団の連中も中距離ではゴーレムに有効なダメージを与える事が出来ないので接近してからが勝負だった。

 此処で投擲などの飛び道具を使うのは空気が読めないと思われるから接近戦で挑む。

 

「突撃!」

 

 盾を構えたゴーレムポーンを先頭に密集体型でボッカ殿達に突撃する!

 二段構えの防御を抜く事が出来るかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ゴーレムの錬成が異様に早いですね、殆ど熟達の域に達しています」

 

「ふむ、未だ十四歳だがな。日々の鍛練を欠かさないのは良い事だ」

 

 十秒で完全装備の小隊を作れるとは使い道は多そうだな、広域攻撃呪文も凄いが条件が限られるし乱戦の場合は使えない。

 攻めよりも守りに特化しているか、側近に丁度良い能力だ。

 

「突撃!」

 

中々の迫力だ。

 前二列は防御、後二列は攻撃か……ボッカは武器庫から魔法剣を持ち出して全員に装備させたからな。

 斬撃で防御役の二列を崩せるか?

 

「食らいやがれ、刀激波!」

 

 ゴーレムが3m迄近付いた時、ボッカ達が一斉に魔法剣の刀身に闘気を乗せて振り抜く!

 一列目のゴーレムは盾ごと切り裂かれた、振り被り二列目にも斬撃を打ち込む。

 我が息子ながらやりおる、魔法剣の補助込みでも一列目を切り裂き返す刀で二列目も切り伏せた。

 

 だが、攻撃もそれ迄だ……

 

 三列目のゴーレム達が前傾姿勢で刃の無い槍を突き出す。

 避けるか受けるかで槍は躱すが前傾姿勢のゴーレム達の背中を踏み台に四列目のゴーレムが飛び上がってメイスを振り下ろす。

 

 これで決まりだ……

 

「本当にゴーレムが跳びましたね、驚きです」

 

「人間の首は左右には直ぐに動くが見上げるのは体を反らさねばならない。槍を避けた状態で上を見て対処するのは困難だ、決まりだな」

 

 振り下ろされるメイスを避けても槍の二撃目が襲い掛かる、リーンハルト殿のゴーレムの対処は接近させる前に倒す事だが至難の業だな。

 既に盾を持っていたゴーレム達が修復されて包囲している。ボッカも頑張ったが座り込んだ事で負けを認め……

 

「馬鹿者が!勝負はついただろうが!」

 

 あの馬鹿、リーンハルトに向かい刀激波を飛ばしやがった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 予想通りゴーレムポーンを迎撃するボッカ殿達だが、刀身に強い魔力を帯びているロングソードを六人全員が持っている。

 あれがウィンディアの言っていたドワーフ工房『ブラックスミス』謹製のマジックウェポンだな。

 凄い、一太刀で青銅製とはいえ僕のゴーレムポーンを切り裂くとは驚きだ。

 二列目まで二太刀で切り伏せられたが本命は三列目と四列目、低い体勢で槍を突き出させ屈んだ背中を足場に最後尾のメイス装備を跳び上がらせる!

 人間は上空からの攻撃に弱い、人体の構造的に上を向き辛いし両手も突き出すのに力も入り辛いし踏ん張りも効かない。

 槍の攻撃を避けても直上から振り下ろされるメイスは避け切れないだろう。

 切り伏せられたゴーレムポーン達も修復し周りを取り囲めばチェックメイトだ!

 頭や露出している部分を避け鎧の部分をメイスで叩く、衝撃で倒れた所に槍を突き付けて終わり。

 転生前に何度も行った騎士団との模擬戦と同じ結果だ……

 

 ボッカ殿達もゴーレムポーンに取り押さえられて動きが止まった事を確認する。

 ボッカ殿も地面に両手を着いて屈み込んだ、負けを認めたな。

 デオドラ男爵の一族の連中を何時までも地面に押さえ付けておく事も出来ないので拘束を解く、決着はついたのだから……

 

「甘いぞ、未だ負けを認めてねぇ!」

 

 ボッカ殿は屈んだ状態から起き上がり様にロングソードを水平に振り抜いた!

 刀身に纏っていた魔力が衝撃波となり襲って来る……

 

「障壁よ!」

 

 残念だな、距離が離れ過ぎていた。後5m近ければ魔法障壁を押し切れたかもしれない。

 前面に魔法障壁を展開し衝撃波を防ぐ、かなりの威力が有るので危なかった……

 

 勝ったと思った暗い笑みが口惜しさに染まる、その顔を一瞥してからゴーレムポーンに指示をだす。

 

「圧し潰せ!」

 

 二体のゴーレムポーンに肩と腹をメイスで殴らせる、鎧が凹む程の衝撃を受けて頭から地面に倒れこんだ……

 

「勝者、リーンハルト殿!」

 

 立会人代表のデオドラ男爵による勝利者宣言の後、観客から歓声が上がる。今回は時間切れの引分けでない完全勝利だ。

 だが最後の反撃は僕の油断も原因だろうな、決着がつく前に拘束を解いたのは失敗だった。

 プライドを傷付けられ、狙った女性を奪われた事による憎しみを殺意に変えてしまったのか、同情する余地は有るが実際に殺されかけたのだ……哀れだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「何とも危なげない勝ち方だな、最後の攻撃も簡単に防いだぞ。

ボッカの剣は『風切り羽根』といって俺の持つ魔法剣の中では上位の剣、簡単に防がれると思わなかった。

だが、ボッカめ。リーンハルトを殺す気で攻撃を放ったな」

 

 勝負はついていたが宣言がされてなかったので悪いとも言えぬが、俺はリーンハルトの負けはゴーレムが全て倒された場合と言った。

 術者を倒せばゴーレムは行動不能になるとはいえ、貴族として武に誇りを持つデオドラ一族としては許しがたい。

 

「刃引きされた槍と鈍器の相手に対して武器庫から持ち出した高威力の武具を使って不意討ち込みで負けましたな。

これは我々に対して信用度が下がりましたね、困りました」

 

 ボッカは試金石として、ウィンディアを与える口実として戦わせたのだが、不意討ちで殺そうとされたのだ、我々に対して悪感情を持つか……

 

「大丈夫だと思います。リーンハルト様の感情は慣れと哀れみです。

模擬戦に対して何度も経験した慣れによる作業的な感じをボッカ兄さんに対しては哀れみしか感じていません。私達に向ける悪意は有りませんでした」

 

 ゴーレムの集団戦に慣れ?魔法迷宮のモンスターと戦うのとは違うだろ?それを作業的なとまで感じるのは何故だ?

 

「ジゼル様、リーンハルト殿の心をギフトで読むのはお止めください。確かバレてると言われましたよね、毎回心を読まれる事は嫌な事なんですよ」

 

「すみませんでした。ついリーンハルト様が何を考え何を思うのかが知りたくて……」

 

 まぁ良い、これだけの戦いを見せられては血がたぎるぜ!腕がなるぜ!久々だ、この高揚感、興奮が……

 

「デオドラ男爵、模擬戦は私に譲って下さい。これだけのゴーレムを見せられては私も見定めたいのです!

我がゴーレム『堅牢』と戦わせたい!」

 

 お前、俺の興奮をどうする気だ?

 

「駄目だ!俺だ、俺がヤル!」

 

「デオドラ男爵は一度戦っているじゃないですか?私が同じ土属性の魔術師として戦って見極めます!」

 

「だが、しかしだな……」

 

 結局借りが沢山有り過ぎて模擬戦を譲る事になった、残念だが昂ぶった気持ちはボッカを鍛え直す事で発散しよう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボッカ達との模擬戦の後、十五分程の休憩を挟んでデオドラ男爵との再戦の筈が広場にはアルクレイドさんが待っていた。

 魔術師なのは分かっていた、強いだろうとも……だけど抑えていたのだろう魔力を解放している今は、その強さが分かる。

 全身から揺らめく魔力はバルバドス氏と同等か、それ以上だ。

 

「悪いが対戦相手は変更させて貰うよ、デオドラ男爵とは一度戦っているからね。今回は私の我が儘に付き合って貰う、ゴーレムで勝負だ!

リーンハルト殿、多数のゴーレム制御の素晴らしさは分かった。私とは精度を高めた単体での勝負を申し込む、ゴーレムが行動不能になった方が負けだ!」

 

 アルクレイドさんも土属性の魔術師か……高性能の一体のみにての勝負、今の僕は鋼鉄製のゴーレムナイトが最強。

 魔術師としてゴーレム使いとして、この勝負は断れない、断りたくない。

 魔導の研鑽には力有る者との切磋琢磨が一番なんだ、弱い奴等と戦っても得る物は少ない。

 

「その申し出を受けましょう」

 

「行きますよ、クリエイトゴーレム。不動なる鋼の戦士、堅牢よ!」

 

 アルクレイドさんの呼び掛けと共に急激に魔素が集まり一体のゴーレムを錬成していく。

 僕と違い足元から組み上がった状態で錬成されていく黒光りした装甲を、武骨な外観だが緻密なパーツを組み上げた重装甲の鋼のゴーレムだ。

 

 凄い、錬成の速さ精度もそうだが……

 重装甲に両手持ちアックスを装備、装甲の厚さは薄い所でも30mm、重量を感じさせない滑らかな動きに力強さ。

 僕の全盛期の防御特化型ゴーレムより優れている。これに対抗出来るのか、今の僕が……

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 今の僕の最強ゴーレムであるゴーレムナイトをツヴァイヘンダー装備で錬成するが、今回ばかりは勝てる気がしないな……


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