古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第652話

 僕等の凱旋祝い?の舞踏会で、パゥルム女王派の貴族達のガス抜きとストレス発散の為に虐げられていた、ミズーリ嬢を助けた。善意だけじゃなく、引き抜きの為にだ。

 その時の対応が悪く、彼女を口説くみたいな流れになってしまい誤解を生じさせてしまったし、ザスキア公爵にも不合格だと言われた……反省。

 ミズーリ嬢の家族である、ラビエル伯爵家はバーリンゲン王国の貴族連中には珍しく清廉潔白で汚職を認めなかった。故に周囲の反感を買い、冤罪で没落させられた。

 官僚や官吏は国政の為には清濁併せ呑んだり二枚舌になったりするが、濁だけの汚職塗れでは国が傾く。まぁ実際傾いて、パゥルム女王の簒奪と言う奇策を用いて何とかなったのだが……

 この国との付き合い方には注意が必要だ。引き継ぎ時の報告書には細かい情報と対策、注意事項を纏めて渡す事にする。多分だが、僕は担当にはならずに引き継ぐ事になるだろう。

 アウレール王も戦力の要たる宮廷魔術師を属国の運営の担当者にはしない。国内の平定が終われば武力より内政に切り替わる、それは官僚や官吏の仕事だから僕はお役御免だな。

 パゥルム女王やミッテルト王女、オルフェイス王女とも関係するのは今日で終わり。速やかに帰国し王都防衛に尽力しなければならない。今はウルム王国と旧コトプス帝国の残党共と戦争中なのだから……

 それに早く帰って、イルメラ達に会いたい。会って匂いを嗅ぎたい、もう彼女達の匂い成分が切れ掛かっているんだ。当初予定の一ヶ月が倍近く延びている、もう限界に近いんだ。

 理由は僕の詰めの甘さと言うか読み違いと言うか、バーリンゲン王国との連携不足と、彼等の協力体制の悪さを測り間違えた。全然打合せと違うんだよ、本当に困った連中だよな……

◇◇◇◇◇◇

 舞踏会は最後まで出席する。主賓として途中退場は礼に欠くし、他に優先する用事も無いので仕方無い。最後のチャンスと摺り寄って来る連中の話を無言で聞いて流す、曖昧な返事はしない。

 殆どが融資や援助の要求、融資は事業協力だが援助は無料で金くれってだけだ。娘を側室に差し出しますので援助(女を渡すから継続的に金をくれ)してくれも多い。

 ザスキア公爵は僕よりも手強いのを理解しているのか、彼女には挨拶と愛想笑いで終わり。同じテーブルに座る、ミズーリ嬢は完全無視。良い根性してる、笑える位に自分勝手だよな。

「ザスキア公爵、もう少しで終わりますから我慢しましょう。僕も我慢の限界ですが、王宮を更地にしたい欲求を何とか押さえ込んでいます。嗚呼、ゴーレムルーク三十体を暴れさせたい」

 ザスキア公爵は不機嫌さを隠していない。それは無言のアピールなのだが、バーリンゲン王国の連中は気付いても摺り寄る事を止めない。本当に図々しい、立場を弁えろよ。

 僕も王命だったし恩着せがましくする気も無いが、自分達の為に平定して貰ったんだぞ。しかも約束した増援は遅れたのに、その謝罪はしないし……

 嗚呼、考え始めたらムカムカしてきた。ミズーリ嬢への扱いの悪さも気に入らない、味方となった者が不遇な扱いを受けたからだな。しかもマトモな人達だったから、余計に感情移入してしまう。

「リーンハルト様も落ち着きなさいな。ミズーリに今夜の招かれざる客の名前と会話内容は覚えさせているから、後で態度に見合った対処をします」

「そうですね。何もしない所か、味方の足を引っ張る様な連中です。今後の属国経営の為にも、間引かないと全体が腐ってしまう。ミズーリ嬢達の存在は奇跡的でしたし、仲間に出来て良かった」

 何人目かの招かれざる客を相手にしたが、側室を迎え入れる事は貴族の常識且つ二国間の協力体制の強化で必須。無償援助は宗主国の責務、だから頼んだ早くしろ的に言われた。

 後半から僕が意図的に垂れ流した魔力と殺気に顔を真っ青にして逃げる様に立ち去ったのは、何という名前の伯爵だったか?アブドルの街を任せた、タマル殿の話を思い出す。

 コイツ等は本当に、エムデン王国が自分達を助けるのが当然だと思って真面目に集(たか)って来やがる。最低な連中だな、彼等と付き合う後任の担当者の胃が心配になるレベルだよ。

 もう中央政権潰して、群雄割拠時代突入でも良くないか?最後に生き残った奴と交渉すれば間引けるし良くないか?いや、駄目だな。

 苦労して王命を達成したのだから、自らパゥルム女王政権体制を壊してどうする?数回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。全く相手の神経を逆撫でする事には天才的な連中だな。

 蝙蝠外交が得意だが、フラフラ移動する相手が居ないから僕等に集中して群がって来る訳か。摺り寄る選択肢が絞られた弊害、だが二股掛けてた時は自分達に主導権が有ると錯覚していたけどね。

 宗主国と属国の上下関係になったならば、今迄みたいな我が儘が通用すると思うな!不要なら切り捨てる、そう危機感を抱かせる必要が有る。

 もはや近隣諸国のバランサー気取りは不可能。宗主国たるエムデン王国の顔色を伺いながら生きていくしか無い、その事を分からせないと駄目だ。

 属国化は敗戦と同じ、被害こそ無かったが負けを認めたから頭を下げて属国になったんだ。なのに自分達を助けるのは当然、金をくれは酷い。

「ミズーリ嬢は覚え切れるのか?結構な数だったし、早口で要求だけ突き付けてたぞ」

「問題有りません。纏めれば、金くれ!物資くれ!技術的に支援しろ!側室やるから継続支援しろ!の四種類ですわ」

 あーうん、そうだね。吐き捨てる様に言ったけど、彼等の事は大嫌いだよね。貴族的礼節に則った挨拶はするが、その後は大体そんな感じだった。

 簡潔にすると全員纏めて五十文字以内とは呆れて良いのか欲望に忠実だと感心して良いのか?未だ此方を伺う連中が居るのだが、侯爵・伯爵の殆どと子爵でも上位の連中が終わったんだな。

 残りは弱小勢力の子爵以下、出しゃばるのを躊躇うよな。上級貴族の要求は全滅したのに、下級貴族の要求が通ったじゃ最初の連中の面子は丸潰れ。万が一の確率で僕に援助して貰っても、周囲の嫉妬で潰される。

 つまり、もう無駄に集る連中は打ち止め。後は、パゥルム女王とミッテルト王女、それとオルフェイス王女だな。三人揃って此方に来るのはラストダンスの依頼か、誰が僕の相手なんだ?

「リーンハルト卿は我が国の貴族達から大人気ですわね」

 属国とは言え女王と王女二人を迎える為に立ち上がり一礼、貴族的礼節に則った挨拶の後にお世辞の様に人気者と言われたが嫌味か?嫌味だな。

 ザスキア公爵は黙礼するだけで座ったままだが宗主国の準王家で現役公爵本人では、パゥルム女王も無理強いは出来無い。不敬と騒いでも力関係を考えたら黙殺だ。

 僕は侯爵待遇の宮廷魔術師第二席だが血筋が悪い。新貴族男爵と平民の側室の血を継いでいるから、属国でも王族には敬意を払った方が良い。最悪はゴリ押しも出来るが、無駄に偉ぶっても無意味だ。

「融資に援助、側室の強要、大人気とは少し違うと思います。後任の方に同じ様な事を仕出かせば、僕みたいに甘い対応はしないと思って下さいね」

「十分に気を付けさせますわ」

「私達に内緒で摺り寄ろうとするなんて、何かしらの罰が必要かしら?」

「厳罰に処して頂いて構いません。その様な人材は不要、厳しく対処致します」

 チクリと嫌味を言ったのだが、オルフェイス王女が自国の貴族をバッサリ切った。彼女は配下の貴族達など関係無くなっている、価値はどうでも良いレベルまで落ち込んでいるんだ。

 パゥルム女王は柔らかく謝罪、ミッテルト王女は憤ったが具体的な対処方法は保留。オルフェイス王女だけが厳罰を望んだ、本気でだ。根が深い闇を抱えたな、対象が僕等に向いたら苦労しそうだ。

 さて、ファーストダンスはザスキア公爵だったし、中間のワルツはミズーリ嬢だった。ラストダンスの相手は、ミッテルト王女かな?既婚者で未亡人で喪に服している。オルフェイス王女は無い、有れば常識を疑う。

「リーンハルト卿、ラストダンスですが……オルフェイスの相手をして下さいませ」

 え?真面目な顔で何を言ってるんだ?ミッテルト王女もオルフェイス王女も驚いていないから、事前の打合せ通りなのだろうけど、やんわりと断ろう。

「オルフェイス王女ですか?喪に服している最中ですし、ミッテルト王女の方が対外的にも常識的にも良くは有りませんか?」

 暗に、でもないか。非常識な提案だと伝えるが、パゥルム女王は引き下がる気配がしない。

「主人を亡くし喪に服す未亡人には華やか過ぎるわ。相手をする、リーンハルト様の常識も疑われる愚行だから止めなさい」

 ザスキア公爵の表情が怖い……予想外の相手だが、承諾すれば自分も非常識だと思われる。素直に考えても、ミッテルト王女が正解だろう。オルフェイス王女と踊る意味は無い、無理強いする狙いは……

 ダンスは皆から見られるが一定の距離は離れている。小声での会話が可能で、態度や仕草は見られているから公式の場で誤解を誘導し易い。最後の交渉の場として五分程度のダンスを利用する気だな、もう色々と有り過ぎて疲れたよ。

 この後はもう僕と打合せる機会も無いから、最後のチャンスと思い仕掛けて来たが正解かな?場を上手く使えば何かしらの条件を飲ませられる、つまり僕等には良くない条件。

 その最終的交渉の機会をオルフェイス王女に託したかった。何故非常識を押してまで彼女なんだ?病み始めた相手だが、今迄の話し合いから考えて確率が高いと思ったのか?

 確かに病んでから押しが強くなったし、腹黒い考え方にも躊躇しない有る種の凄みは感じたが、それでも僕は断れるぞ。

 そんな訳の分からない凄みには負けない。伊達にエムデン王国三大人外武人との模擬戦を繰り返してはいないんだ。彼等から発する殺気に比べれば……

「オルフェイスには今回の件で色々と悲しい思いをさせました。最後の思い出を作らせてあげたい、せめてもの姉心なのです」

「美しい思い出を周囲から失策と思われるのも、お互いに困るでしょう。ラストダンスの相手は、ミッテルト王女にお願いしたいです。前回誘われて有耶無耶にしてしまい、心苦しく思っていました」

「まぁ!私とですか?」

 あのバーリンゲン王国のしきたりを悪用し、僕と結婚しようとした罠を引き合いに出して牽制する。誰と踊ろうが、結果は同じなら病んだ相手より残忍腹黒の方が対処し易い。

 下手に相手の話を聞いてペースを奪われるよりも、此方から条件を提示した方が良い。それも常識の範疇で正論ならば、相手も拒絶は難しいだろう。チラリと横目で見た、ザスキア公爵も頷いてくれたし。

 パゥルム女王は苦い顔だが、ミッテルト王女は嫌味だったのに選ばれた事が本気で嬉しそうだ。オルフェイス王女は薄く笑ったが、最初から姉の為に?いや、それは無いか……

「そうね。結婚式の後の舞踏会では踊り損ねたし、本当の意味でも最後のダンスだし、ミッテルト王女にしなさいな」

「あらあら?ザスキア公爵は、リーンハルト卿と私達の縁が今回で切れると思っているのでしょうか?」

「うふふふ、どうでしょう?」

 ええ切れます、切れますよ。エムデン王国は僕が属国の切欠さえ作り平定したら、交代で王位継承権第一位のグーデリアル殿下と補佐にロンメール殿下を送り込む手筈になってます。

 魔法一辺倒の僕とは違い、文武に長けた方だから簡単には行かないですよ。ロンメール殿下もサポートに付けば何とかなると思うけど……

 僕も王都防衛と旧コトプス帝国の残党共の謀略阻止で忙しくなるから、貴女達には構ってられません。僕は自国第一主義なので、諦めて下さい。

「絶縁とは言いませんが、繋がりは細くなります。僕はこれから自国の防衛の任務に当りますから、バーリンゲン王国の担当からは外れます。宮廷魔術師とは外敵に対処する事が仕事ですから、国内の平定が終われば無用です」

 元殿下三人の処理、寝返った正規兵の摺り潰し。寝返った貴族連中の戦力も同じく減らしたから、残存兵力など僅かしか残ってない。

「ウルム王国と旧コトプス帝国との戦争に勝つ迄は、時間的余裕は無くなるわ。貴女達は貴女達で頑張るしかないのよ」

 やんわりと手伝いは終わりと告げる。悪いが優先順位は低い、そろそろライル団長が率いる主力部隊が出陣するから早く帰らなければならない。

 薄情とも思われるが、仕事上の付き合いだと仕事が終われば縁も薄くなる。感動の別れを演出する必要も無いし、割とあっさり別れて終わりな事が多い。

 ミッテルト王女とのラストダンスでは特にお願いも約束も無かった。彼女達の希望は十分に叶えたから、これ以上は不興を買うと自粛したのだろう。

 ザスキア公爵も散々と嫌味を言ったし、流石に堪えたって事かな。まぁ集団お見合いの件で、ザスキア公爵とは調整業務が発生するから全く縁が無くなる訳じゃないけどね。

 




日刊ランキング三十三位、有難う御座います。

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