古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第63話

 ラコック村の件は片付いた。冒険者ギルド本部が僕等『ブレイクフリー』を優遇してくれる事も確認出来たしDランクにもなれた。

 村長からは口止め込みの依頼料と提供した非常食三百人分の料金として金貨20枚、冒険者ギルドからはオーク討伐依頼で金貨20枚、討伐証明部位の買い取りで『口裂け』金貨5枚『錆肌』金貨50枚、オーク26匹分で金貨26枚、合計で金貨121枚を貰った。

 ウィンディアと折半と言ったら断られたが金貨20枚を渡した。これにはビックビー討伐は含まれていない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「クラークさんも気が利くわね。馬を貸してくれるなんて」

 

 一頭の馬に二人乗り、僕が手綱を握り後にウィンディア。彼女の手は僕の腰をしっかりと握っているが、揺れる様な手綱捌きはしていない。

 

「僕等二人に馬車は貸せないし定期運航便の乗合馬車の時間には合わなかったからね。

早く王都の冒険者ギルド本部に、この書簡を渡して手続きをしろって事だよ」

 

 冒険者ギルド本部の幹部職員であるクラークさんの権限でオーク討伐依頼書をその場で作成し村長の印も貰った。

 後はギルド本部で正式な手続きを行うだけだ。クラークさんは後から来る代官との話し合いの為にラコック村に残ってくれた。

 僕等の事は全て聞いたから居ない方が話が早いそうだ。まぁ意見を求められても不用意な事は言えないから、彼に任せるのが一番良いだろう。

 何と言っても冒険者ギルド本部の幹部職員だから信用度が全然違うのだから……

 

「今日はギルド本部に連絡だけでデオドラ男爵様には会わないの?」

 

「そうだよ、ギルド本部にはオーク討伐についての手続きと達成の報告。

指名依頼については先に依頼者の確認サインが必要だし、約束も無しに訪ねる事は出来ない、貴族的な意味でね。

普通の冒険者ならアポ無しで報告でも許されるけど僕は未だ貴族だ。礼儀を欠く訳にはいかないだろ?」

 

 面倒臭いが冒険者と貴族との両方の立場が問われる中途半端なんだ、僕はさ。それにデオドラ男爵だって暇じゃないし緊急じゃない用で夜に訪問なんて失礼だ。

 

「デオドラ男爵様は基本的に夜は屋敷に居るわよ。だから私が先に会ってしまうんだけど?」

 

 先に一人で説明するのが嫌なのか?

 

「じゃ明日以降の予定を聞いてくれる、合わせるから。先に報告しても問題無いよ、僕の用は正式な依頼書へのサインだから。

勿論、報告もするけど先に聞いてるなら時間の節約になる」

 

 真面目よね、とか言って僕の背中にオデコを当ててクスクス笑っているが何が楽しいんだろう。

 女性の気持ちは分からない、魔導の探求よりも難しい……暫らくは長閑な道を歩くだけだ、擦れ違う人も疎らだな。

 

「ねぇ?」

 

「ん、何だい?」

 

 人通りが絶えた辺りでウィンディアが話し掛けて来たが、先程までと声の質が違う。何て言うか……迷いが有る?

 

「今回の指名依頼ってさ、迷惑だったかな?

バンクの件はバレてないと思うけど、ルーテシアがあの調子だと遅かれ早かれデオドラ男爵様はリーンハルト君に強い興味を持つわ。

今回の件も可能なら誘惑する様に言われてたのよ……」

 

 勧誘じゃなくて誘惑ね、やはりハニートラップを仕掛けられたのか。だが相手がウィンディアでは悪いが無理だな、仲間としてなら悪くはないが伴侶としては……

 

「自惚れじゃないけどさ、何時かは貴族からも勧誘が来るとは思ってた。予想よりも大分早かったけどね、冒険者を始めて一ヶ月経ってないのに順調だな」

 

「質問の答えになってない!私の誘惑は迷惑かなって聞いてるの、デオドラ男爵様に報告しなくちゃ駄目なのよ」

 

 誘惑相手に聞くな、素直過ぎて答えるのが辛い。彼女を傷付けない様に説明するには僕のスキルが足りない。

 どうしたら良いんだ、教えてくれ、兄弟戦士!

 腰を掴むウィンディアの手が震えているのは命令を達成出来なかった事への悔しさか?

 

「誘惑は失敗、だが信用は得られたで良いだろ?」

 

 個人的に言えばウィンディアは信用出来ると思っている、特に何かした訳じゃないから勘だけど悪い娘じゃない。

 ただデオドラ男爵家との主従関係が問題なんだ。何時か僕かデオドラ男爵家かを選ばなければならない時に、彼女が辛い思いをするだろう。

 伴侶として迎え入れれば、僕の側へと立場が明確になるとは思う。

 でも家族や親族がデオドラ男爵家の関係者なら難しいか……

 どれだけ彼女に僕が大切かを示せれば、デオドラ男爵家との柵(しがらみ)を断ってくれるが重たい選択だな。

 

「それ酷い、もう少し言い方が有るでしょ?」

 

 脇腹を叩かれたが特製の革鎧は女の子が叩いた位の衝撃など吸収してしまうのだ。ウィンディアも不思議そうに叩いているが無駄なのだよ。

 

「ほら、王都の城壁が見えて来たよ」

 

「うん、夕日を浴びて綺麗ね。白亜の王宮が燃えるようだわ」

 

 王宮炎上って笑えない表現だぞ……いや、コレが女性特有の浪漫って奴なのだろうか? 

 まだまだ未熟な僕はウィンディアの呟きに愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。最も前を向いていたから彼女からは見えなかっただろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王都に到着し直ぐに冒険者ギルド本部に書簡を渡し手続きを終えた。

 これで正式にラコック村のオーク討伐依頼を請けた後に達成した事となる。

 ラコック村も冒険者ギルドも最初の討伐パーティが全滅した際に最善の対応をして被害を最小限に抑えたのだ。

 

 今は辻馬車を捕まえて、ウィンディアを家まで送り届ける最中だ。

 貴族として夕方に女性を一人で帰す訳にはいかない。貸切状態の辻馬車の椅子に深く座り込む。

 

 気になるのは対応してくれたギルド職員から言われた言葉……

 

「明日には大々的に噂話が広まる手筈になっていますから、気を確かにして下さいね。

ラコック村の救世主は若き魔術師、『ブレイクフリー』のリーンハルト!頑張って下さい、救世主さん」

 

 最悪だ、明日は冒険者養成学校に行ってエレさん達に事情を説明する予定なんだけど。

 もうギルドカードにDランクって刻まれてるから自主的に卒業になるから連絡先を交換してイルメラを交えた臨時パーティを……

 

「リーンハルト君、寝ちゃったの?デオドラ男爵家に着いたわよ」

 

 しまった、エスコート中に相手の女性の存在を忘れていた。

 

「すまない、少し疲れたみたいだ。ではお疲れ様、デオドラ男爵の予定を聞いておいてくれ。明日、冒険者養成学校で会おう」

 

「分かったわ、それじゃ明日ね!」

 

 そう言って彼女は軽く頬にキスをして辻馬車から飛び出して行った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「正直楽しかった、また一緒に冒険したいけど無理かな。私、殆ど役に立ってないし……」

 

 デオドラ男爵邸で私に与えられた部屋で一休みし、上級使用人の使えるお風呂に入って疲れを癒して部屋に戻る。

 装備品の手入れを終えて新しくEランクになったギルドカードを見ているとニヤニヤしてしまう、年頃の女の子の仕草じゃないな……反省。

 夕食を食べに使用人食堂に行く途中でデオドラ男爵様付きのメイドから食後に執務室に来る旨を伝えられた。

 指名依頼を終えて帰って来た事の伝言は頼んであったが明日以降の都合の良い時に報告すると添えたのだが、待ちきれない?

 緊張の為か自分の食べた夕食の味が良く分からなかったわ……

 デオドラ男爵様の夕食が終わり執務室に行かれた事が伝えられたので、身嗜みをチェックしてから向かう。難しい話じゃないと良いな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「デオドラ男爵様、ウィンディアです」

 

 執務室の扉をノックして声を掛ける。

 

「入れ」

 

「失礼致します」

 

 執務室にはデオドラ男爵様の他に筆頭魔術師のアルクレイド様、それにルーテシアが居るんですが……

 参謀役のアルクレイド様は分かるけど何故にルーテシアが?

 

「ご苦労だったな。まぁ座って楽にしろ」

 

 恐る恐るアルクレイド様の隣に座る、向かいにはデオドラ男爵様とルーテシア、二人共に楽しそうですね。

 部屋付きのメイドが私にも紅茶を煎れてくれる、高級な茶葉の匂い……

 

「正式な報告はリーンハルト殿から聞くが、お前の感じた事も知りたい。最初から説明してくれ」

 

 デオドラ男爵様の問いに王都の冒険者ギルド本部での待ち合わせからの出来事を順を追って説明する。

 途中で幾つか質問を挟まれたがビックビー討伐終了迄を話し終えて、紅茶を飲んで喉を湿らす。

 

「アルクレイド、どう思う?」

 

「危なげないですね、魔力量は普通よりもかなり多いと見るべきでしょう。

ギフト(祝福)が空間創造と言うのも高評価ですね、従軍すれば物資補給が格段に楽になります」

 

 確かに魔力量は私よりも多いのは分かる、魔力石も持ってたけど使ってたかな?

 

「ふむ、確かにギフトだけでも引き込む価値は有るな。ウィンディア、続きを話せ」

 

 ラコック村に着いてからの話を始める。

 タリアさんに強引に巻き込まれてからの村長と前任のゴーンさん達とのやりとり、教会を拠点に防衛陣を組んだ後から『錆肌』を倒した所で質問攻めにあう。

 

「何だ?そのデタラメなゴーレムの数は!前に戦った青銅製ゴーレムを二十四体だと?俺の時より多いじゃないか!」

 

「いえ、突っ込みはソコでは有りません。突撃は分かります、重量級のゴーレムは防衛こそが本来の持ち味。

重装甲・重武装からなる壁が通常の運用なのですよ。第一陣の防御、第二陣の攻撃は分かります、セオリー通りですから。

しかし第三陣のゴーレムが飛ぶって事は納得出来ません。あの青銅製ゴーレムは見た目からして装甲厚さ20㎜以上、総重量は80㎏は有るでしょう。

それが駆け上がって飛び跳ねる?馬鹿な、そんなゴーレム制御は聞いた事が無いですよ」

 

 確かに人間だってフルプレートメイルを着込めば飛び跳ねるのは無理かな?

 

「俺は出来るぞ」

 

「貴方は異常です」

 

 流石はアルクレイド様、そこに痺れるし憧れもします!デオドラ男爵様に突っ込めるのは貴方だけです。

 

「しかし、模擬戦では手を抜かれたのか?むむむ、再戦だ、再戦するぞ!

ウィンディアよ、明日の10時に屋敷へ呼ぶのだ。

説明を聞いた後に模擬戦、その後は懇親を込めて昼食に招待すると伝えるのだ!」

 

「はい、分かりました……」

 

それって冒険者養成学校で会ってから説明したら間に合わないじゃない。

朝一で自宅訪問しないと無理、また急な呼び出しでリーンハルト君の気分が悪くなるのよね……

 

「何だ、浮かない顔をして?それで、リーンハルト殿とはどうだったのだ、ヤッたのか?」

 

 は?ヤッた?

 

「ななななな、ナニを仰るのですか?ヤッたなどと……」

 

 しかも親指を人差し指と中指の間から出す下品なジェスチャーまで!

 

「何だ、何も無しとは意気地なしだな。俺など奴の年頃には側室と毎日励んでいたぞ」

 

 アルクレイド様がため息をついた、私の主様にどんどん文句を言って下さい。それとルーテシアからも冷たい目で見られてますよ。

 

「それは立場が違います。当時の貴方はデオドラ男爵家の正統後継者、彼は来年バーレイ男爵家から廃嫡される身。

呑気に子作りなど出来る立場ではないのですよ」

 

 ああ、なる程……彼のストイックさには、そんな理由が有ったのね。

 身持ちが固くて当たり前、子供なんか作ったら大変な事になるわ……

 

「ウィンディアの誘惑は失敗か?残念だが他の相手を探すか……」

 

 ちょ、一寸待って下さい!他の相手って私にですか、リーンハルト君にですか?

 

「リーンハルト君は言ってました、デオドラ男爵様に、こう伝えなさいと……」

 

 皆が一斉に私を見て次の言葉を待つ、ちょっと恥ずかしい。

 

「誘惑は失敗だが信用は得られた、と……」

 

 三人から盛大なため息をつかれた、アルクレイド様?その生暖かい目はなんですか?

 ルーテシア、何故ハンカチで目元を押さえるの?

 

 私、非常に居づらいのですけど……


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