古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第6話

 冒険者ギルドに登録しギルドカードを発行して貰った、序でにパーティ登録もしたのだが僧侶のイルメラと二人だけの寂しいパーティだ。

 だが僕の得意魔術は召喚系、ゴーレムを召喚し操るのが基本的な戦術だ。

 

 つまり使い捨ての攻撃役と壁役はゴーレムに任せて僕等は後方から魔法攻撃をすれば良い。

 前回、全盛時の全金属製ゴーレムを召喚したら魔力切れで倒れたので今回は失敗を踏まえて低レベルのゴーレムを召喚する事にする。魔法迷宮攻略のパーティ編成上なら最大人数は5~6人が望ましいので、僕等以外に3~4体のゴーレムを召喚すれば良いだろう。

 前方の攻撃役に3体、後方の警戒役に1体の計4体を召喚し且つ操作するとなると……

 僕のゴーレムは幾つかの種類が有る。

 先ずは下級ゴーレムだが、汎用性が有り消費魔力の一番少ないポーン。

 次に中級はナイト、剣・槍・メイスと多用な武器と大型の盾を持つ全盛時には主力として使っていたゴーレムだが、前回はコレをフル装備で召喚して倒れた。

 でも1体だけなら召喚し操作する事が出来るので現在の切り札だ。それに防御力重視のルークと機動力特化のビショップを含めた3種類。

 

 最後に上級はキングとクィーンだが、コレは別格で自律性を持たせている特殊なゴーレムだ。特殊な触媒も要るし魔力も膨大に必要だから造れるのは当分先だろう。

 基本的に古より伝わる遊具のチェスの駒を元に作ったゴーレムシリーズが僕の得意技だ。

 

 因みにゴーレムが持つ装備、武器や盾は名工の逸品をコピーして持たせる事により召喚時の魔力を多く使うが戦闘力を高める事が出来る。

 主にナイトを召喚する時は属性魔法を付加した武器を持たせたりして、戦う相手により装備を替えて対応した。

 まぁ人間と戦う時は数がモノを言うので装備品の魔力コストは抑えて召喚数に重きを置いたが、モンスター討伐とかの場合は属性武器は有効だった。

 例えばファイアドラゴンには水属性の大剣を持たせるとか、ワイバーンには火属性の弓を装備させるとか……

 今の僕ではポーンにロングソードを装備させた3体と両手に盾を装備させた1体を召喚し操るだけで手一杯だろう。

 

「イルメラ、早速様子見でバンクの魔法迷宮に行ってみよう。勿論様子見だから危ないと思ったら直ぐに引き返すし無理に迷宮探索コースに拘らずに討伐コースに替えるから良いだろ?」

 

 バンクの魔法迷宮は王都から直ぐ近く、直通の乗り合い馬車で1時間で行ける距離に有るし今は未だ昼前だ。昼食を食べて午後一番の乗合馬車に乗れば3時間くらいは迷宮探索が出来るから、様子見には十分だろう。

 

「リーンハルト様、無謀です。何の準備もしていません」

 

 当然反対するだろう。イルメラは僕の戦闘スタイルを知らないし、パーティでは後衛職の二人だけで迷宮に潜るなんて自殺行為と考えているのだろう。

 普通は肉の盾である前衛職の戦士数名と臨時パーティを組んでから挑むよね。

 

「大丈夫だ、僕の得意魔術はゴーレム召喚だから前衛職の戦士は不要だ。それに折角イルメラと二人のパーティに無粋な戦士は要らないだろ?食堂で昼食を食べて様子見に行こう」

 

「二人きり……折角……他に人は要らない……

コホン。し、仕方ないですね……パーティリーダーはリーンハルト様ですからイルメラは御命令に従うだけです」

 

 説得に成功したのでイルメラお勧めの食堂に案内してもらい早めの昼食を食べる事にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イルメラのお勧めの店は中央通りから1本脇道に入った場所に在った。店の名前は「シュタインハウス」という宿屋兼ビヤバーだ。比較的治安も良い場所にある、ランクで言えば中の上の店らしい。

 木戸を開けて中に入ると明るい店内にカウンターと丸テーブルが10脚程有り既に3組の客が食事をしている。

 イルメラは慣れた調子で丸テーブルに座ると店員を呼んで注文もしている。まぁ、お任せしたので僕は何も言えないのだが……

 

「前菜にオランデーズソースを掛けたジャガイモとホワイトアスパラ、スープはアイントプフでメイン料理はアイスバイン。それにパンはプレッツェルをお願いします。あとは黒ビールをジョッキで二人分ね」

 

 妙に手馴れているのだが、もしかしてイルメラってビヤバーとかに来るの慣れているのかな?

 

「イルメラ?昼間っからビールは……それにこれから迷宮探索に行くんだぞ?飲酒しても大丈夫か?」

 

 にっこり微笑む彼女はどう見ても同い年、つまり見た目は14歳の男女が昼間っからレストランでお酒を頼んでいるんだ。幾らなんでも不味くはないか?

 

 店員は無言でテーブルから離れるが、アレは注文OKって事だろ?周りの客は興味深そうに僕等を横目で観察しているし……

 

 ぐるりと店内を見回すと客層は悪くない。丸テーブルに座っている男女二人の客は冒険者風だ、軽装鎧に身を包んだ戦士風。男四人の方は全身鎧の男と盗賊風な皮鎧の男、男女の区別がつかない深々とフードを被っている二人は魔術師だろうか?

 カウンターに一人で座って居るのは後姿しか見えないが髪が長くてスタイルの良さそうな女性だ、レイピアを腰に差しているので戦士だろうか?彼女だけが僕等に興味が無いみたいだ……

 

「お待たせしました、前菜のジャガイモとホワイトアスパラのオランデーズソースがけに黒ビールです」

 

 給仕の中年女性が運んでくれた料理は、山盛りの野菜の上に黄色いソースがタップリとかかっていて中々美味しそうで、甲斐甲斐しくイルメラが小皿に取り分けてくれる。

 一口食べればレモンの酸味と塩コショウがきいた卵黄ベースのソースに茹でただけのジャガイモやホワイトアスパラがよく合う。

 14歳と言えば育ち盛りなのだが貴族とは普段からテーブルマナーに煩く料理自体も味や見栄えを重要視するので、庶民的な大盛り料理は新鮮で嬉しい。

 何故、同じ食事を食べているのにインゴがポッチャリなのが不思議でならない。だが僕が相続を放棄して家を出るのだから彼は父上の後を継ぐ為に騎士として教育を受けるだろう。

 そういえばインゴの奴は僕と違って毎日の鍛錬とかしてなかったな……これから大丈夫なのか?

 

「うん、美味しいねコレ。初めて食べたけど酸味のきいたソースが茹でた野菜に合うね」

 

 濃い味付けは喉が渇く、黒ビールを一口飲むが独特の癖が有って慣れないと美味くないな。普段はワインが主だったので初めて飲んだ黒ビールは温くて癖の有る飲み難い酒だ。

 聞けばビールとは飲む適温が6から8℃らしくぬるく感じるのが普通らしい。

 

 

「お待たせしました、アイントプフとアイスバインにプレッツェルです。

アイスバインには此方のマスタードを付けてお召し上がり下さい」

 

 まさしく肉の塊が皿に乗っていた、聞けば豚肉を香辛料と岩塩で煮込んだ一般的な庶民の料理だそうだ。

 付け合わせにまたジャガイモが山盛りだが、流石に食べ切れないかも知れない。

 スープのアイントプフとはレンズ豆とソーセージに人参や玉葱と、こちらも具沢山だ。

 ブレッツェルも弓型をした大きな柔らかいパンで、周りに付いている塩を払って食べるそうだ。これは小さく硬く焼いた保存食版も有るらしく冒険者達に好まれているそうだ。

 

「イルメラ、ごめん。食べ切れないかも知れない。インゴだったら余裕だったかも知れないが……」

 

 二人で赤ん坊の頭程もある大きな肉と計10個近い茹でジャガイモは食べ切れないぞ。

 

「大丈夫です。残ればスープ以外は箱に詰めてくれますのでお弁当になります。初めての魔法迷宮探索ですので持っていきましょう」

 

「いや、お弁当を持って魔法迷宮探索とか、ドンだけ余裕なんだ? 自分で行くと言っておいてアレだけど……」

 

 結局、アイスバインは半分以上、茹でジャガイモも6個残して箱詰めにして貰いイルメラの道具袋に入れてもらった。

 このマジックアイテムは中に入れると時間が止まったかのように入れた時の状態で取り出せるので便利だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 乗合馬車に揺られる事一時間、漸く魔法迷宮バンクに到着した。

 途中イルメラが僕の肩にもたれ掛かり寝ていたので周りの乗客から生暖かい目で見られてしまった。

 見た目が14歳前後の子供二人が一緒に行動している様は周りから見れば微笑ましいのだろう。だが乗客は全員年上の武装した冒険者なんだよね。

 

 乗合馬車の終点が魔法迷宮バンクの入口だ。

 此処には管理小屋とギルド出張所が有り、管理小屋には国から派遣された騎士団が常駐しギルド出張所にはギルド職員が魔法迷宮の入退出の管理や素材の買取を行っている。

 魔法迷宮探索コースが特殊なのは、モンスターが特殊だからで倒すと死体は魔素となりアイテムをドロップする。それを直ぐにギルドで買い取る為に出張買取所も併設されている事だ。

 直ぐに買い取るところが市場に直接流さずに冒険者ギルドを通してくれって事なんだろうな。

 独占して価格競争をおこさせず利益が減るのを防止するのだろう。手厚いサービスの裏には意味が有るのが大人の常識だ。

 イルメラが管理小屋にて手続きをするのを見て覚える。本来はパーティリーダーである僕がやらなきゃ駄目なんじゃないかな? 手続きと言っても冒険者ギルドカードの提示と迷宮に入った日付と時間、それに名前を書くだけだ。

 魔法迷宮を終えて出てきた時に日付と時間を書くらしい。

 高レベルの冒険者パーティは何日も魔法迷宮に篭ってモンスターを倒してドロップアイテムを集めるそうだ。

 受付の中年の騎士が僕とイルメラをジロジロと眺める。

 

「子供だけで迷宮探索とか平気なのか?僧侶と魔術師なんて後衛職ばかりだぞ。冒険者ギルドで前衛職を募ってから出直して来た方が良いぞ」

 

 言葉はキツイが目は優しかったので本気で心配してくれているのだろう。

 

「大丈夫です。前衛はゴーレムに任せますので……クリエイトゴーレム!」

 

 カッカラを一振りして下級ゴーレムのポーンをロングソード装備で三体、盾装備で一体召喚する。

 大地よりモコモコと盛り上がるように魔素を青銅に変換して人型を形成していく。

 

「おお、凄いじゃないか坊主。前衛職がゴーレムなら肉の盾ならぬ青銅の盾だな。じゃ頑張って稼いでこいや」

 

 豪快に笑うと軽く肩を叩いて魔法迷宮の中へと押し出してくれた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンク、これは僕の魔法迷宮と随分違う。僕が造った迷宮は石をメインに迷宮を構築したが此処は自然の洞窟っぽい造りだ。洞窟っぽいとは壁の形成が甘く凹凸の多い手造り感が溢れている。

 僕は壁に永久に消えない燈篭を用意したが、この迷宮にはそんな物は無い。仕方なくライトの呪文を唱えて自分の周囲に30cm程度の光の玉を五個浮かべている。

 前方にロングソードで武装したゴーレム三体、5m後ろに僕とイルメラが並んで歩き3m後ろに盾持ちゴーレムが一体のフォーメーションで歩いていく。

 100m程歩いた時、前方の床が淡く光るとモンスターが浮き上がって出てきた。エート……アレだ、今の時代風に言うとモンスターがポップするって奴だっけ?

 300年は自分の常識が非常識になるには十分な時間なんだね。

 

「ゴーレムよ、前方のモンスターを攻撃しろ!」

 

 発生したモンスターはゴブリンが六体だ。冒険者ギルドで剥製を見たから間違い無いが自然発生系よりはレベルが高くて強いんだっけ?

 ゴーレムはロングソードで簡単に三体を袈裟懸けに切り殺す、そこに迷いは無い。ゴーレムの間をすり抜けてきたゴブリンに水の初級魔法、ウォーターダガーを見舞う。

 このウォーターダガーは比較的簡単で消費魔力も少ないので攻撃力が低い代わりに弾幕として複数撃ち出す事が出来る。

 僕の場合はオリジナルで構成する水の刃に即効性の毒を混ぜている。

 今回は致死性が高く即効性の毒だが、他にも麻痺や眠りの毒を使い分けている。

 防御力の弱い顔を目掛けて発射した10発以上の毒の刃に当り傷口を押さえながら魔素となり消えていった。

 

「リーンハルト様、毒ですか?」

 

「ああ、即効性の有る致死性の高い猛毒さ。魔素となったモンスターがアイテムをドロップしたぞ……」

 

 彼女の優れない顔を見ると、もしかしたらイルメラは毒殺された母上の事で毒に対してわだかまりが有るのかもしれないな。

 だが属性魔法が水と土の僕は単純に火力が少ないので毒は重要な要素なんだけどな。

 

「はい、ドロップアイテムです。コレは普通のドロップアイテムのポーションが二個。

コッチはレアドロップアイテムのハイポーションが一個です。

ポーションはギルド買取価格が銅貨5枚、ハイポーションは銀貨5枚です。レアドロップアイテムは中々出ないんですよ。最初からなんて凄い幸運なんですよ」

 

 イルメラが興奮気味にしているがポーションは今の僕でも大量のストック品を取り出せるので嬉しくないんだよな。

 なる程、コレがギフト(祝福)のレアドロップアイテム確率UPの効果か……

 イルメラが渡してくれた試験管に入ったピンクとグリーンの液体を見ながら思った。これは迷宮探索には持ってこいのギフト(祝福)かも知れないな。

 




感想有難う御座います。返信は控えさせて頂いてますが全て読んでいます。
申し訳ないですが感想の中で多い「榎本心霊調査事務所」の方ですが、データ消えてしまって未公開の8話分しかないので此方での再連載は厳しいです。

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