古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

57 / 996
第57話

 ビックビーの群れを倒した、行きの馬車で冒険者パーティ『ファング』から聞いた情報ではタクラマカン平原にビックビーの巣は二つ。

 縄張り争いをしているそうだから、そう離れてない場所にもう一つも有るだろう。

 だが誘き寄せる餌となるゴブリン狩りをしても夜にはビックビーは巣から外に出ない。だから明日の朝、日が昇ってからが勝負だろう。

 出来ればギルドランクを上げる為のポイントを稼ぎたいので倒したい。

 数の多いビックビーは二十匹でポイントが貰えるから効率が良いんだよな。

 ウィンディアと折半にしても既に6ポイント、既に7ポイント持っているから直ぐにEランクに上がるだろう。

 Dランクに上がるのに必要なポイントは20、残り17ポイントだが今回の指名依頼達成で1ポイントは貰えるな。

 だから残り16ポイントか、もう一つの巣を襲いビックビーを倒せば……

 

「リーンハルト君、疲れたわ。もう今日は休みましょう」

 

 僕が倒してもないビックビーのポイントまで考えていると、疲労困憊って感じでウィンディアが地面に座り込んでいる。

 討伐証明部位である毒針集めは意外と神経を使うから疲れるんだ。

 うっかり毒袋を破いたり針で怪我をする可能性も有るからね。

 

「休むにしても此処からは移動するよ、出来れば森からは出たいけど……はい、これで手を洗って」

 

 空間創造からタオルと水の入った瓶を取り出す。

 

「ん、有り難う。助かるわ、手が体液でベタベタして気持ち悪かったのよね。うわっ、冷たい」

 

 瓶から水を流して手を洗わせる、モンスターの体液だから害が有るかもしれないし……

 綺麗に体液を流してタオルで拭く、序でにお湯で絞った暖かいタオルを渡して顔や首筋等を拭かせる。

 

「良いな、空間創造のギフト。何でも入れられるから便利よね。

私のは『消費魔力軽減』よ、地味に便利だけどリーンハルト君より魔力総量が低そうだもの」

 

 『消費魔力軽減』は魔術師なら欲しいギフト(祝福)の一つだ。

 魔術師にとって戦闘中の魔力の枯渇は死に直結するから、普通はどうやって消費を抑えるか効率を上げるかを考える。

 確か呪文に必要な魔力を三割位減らせるんじゃなかったかな?

 

「それは魔術師にとって必須のギフトだろ。魔力総量が増えるのと同じ効果が有るからな。

確かに空間創造も便利だけど、どっちが有効か比べるのは難しいと思うぞ」

 

 空間創造は珍しく利便性が高いから欲しがる者は多いが、能力の底上げとしてなら消費魔力軽減の方だと思う。

 同じ魔力量で咄嗟に魔力が必要な時に空間創造から魔力石を取り出して使うよりも行動手順が少ない分早く行動出来る。

 勿論比較対象とレベル差が有れば比較自体が無効だけどね。

 隠してはいるが僕は転生の影響で人より魔力総量は多くなってるからな、彼女からしてみればギフト込みでも負けてるのが悔しいのだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局見通しの悪い森の中で夜営するのは危険と判断し平原に造った拠点まで移動する事にした。

 周辺に出現するモンスターはゴブリンとビックビーだけだが、麓の村にはオークも現れるらしいから用心は必要だ。

 エレさん同様、ウィンディアを毛布に包んでお姫様抱っこで運ぶ……ゴーレムがね。

 

「リーンハルト君有り難う、楽だし暖かいわ」

 

「一応風の探査魔法は頼む、夜間の奇襲攻撃や出会い頭の戦闘は避けたいからね」

 

 時刻は午後八時過ぎ位だろうか?森の中、正確な月の位置が分からないので時間の特定も難しい。

 ゴーレムポーンを前後に三体ずつ配置して警戒しながら森の中を進む……

 

「ねぇ、リーンハルト君は来年にはバーレイ男爵家から廃嫡されるんでしょ?その後の事は考えているの?」

 

 廃嫡後の身の振り方か……

 

「む、早くギルドランクをCにして余計な干渉をされない様にする。後は冒険者として自由気ままに生きて行きたいかな」

 

 既に進路は狭められてはいるが未だ軌道修正は可能と思いたい。

 既にバルバドス氏とデオドラ男爵には目を付けられているし冒険者ギルドも同じだ。

 バルバドス氏の屋敷で会ったエルフだって接触してきそうだな、問題は山積みだぞ!

 

「どうしたの?急に真面目な顔になったり頭を抱えたり?」

 

「いや、人生って上手く行かないモノだなって思ったら悲しくなってね」

 

 命に関わる問題までは行ってないが将来の選択が狭まる事は確実だ。

 特に貴族絡みは問題だろう、対応を間違えれば直ぐに詰むだろう……

 

「未だ14歳じゃない!大丈夫よ、何ならデオドラ男爵を頼ってみたら?」

 

 このタイミングで勧誘してきたか、やはり彼女はデオドラ男爵から言われてるんだろうな。僕を引き込む様に……

 

「いや、デオドラ男爵には頼らない絡まない関わらないで行きたい。既にボッカ殿に嫌われているしデオドラ男爵は僕を抱え込む気なんだろ?

何よりルーテシア嬢の行動が不安だ、約束したのに……アレじゃ『デクスター騎士団』の件がバレるじゃないか?

ウィンディア、しっかり手綱を引いてくれ!」

 

 あはははっとか誤魔化さないでくれ!

 何故、不用意に僕に絡むんだ?愛娘が興味を持った男は父親として調べるだろ?

 僕には秘密が多いし自身もウッカリが有るから心配で仕方ないぞ。

 

「あの子にとってデオドラ男爵様は絶対の存在なのよ。兄弟姉妹が誰も勝てない父親に無傷で引き分けた男に興味を持つのは当然でしょ。

それにデオドラ男爵の娘達もリーンハルト君の事を調べ始めてるわよ。

父親が興味を持った相手なら当然よね、婿に迎える可能性が有るもの。特にジゼル様やアーシャ様とか興味津々だったわよ」

 

「何ですと?デオドラ男爵は何人子供が居るんだ?」

 

 僕の質問に指折り数え始めたウィンディア……流石は領地持ち、雇われ新貴族のバーレイ男爵家とは違うな。

 普通は子供は沢山産ませない、何故ならお金が掛かるから……

 普通は跡継ぎの長男と予備の次男位だ、じゃないと相続の時に揉める。

 遊びで産ませた認知しない子供は多いがウィンディアは10人近くを数えているぞ。

 

「全部で17人かしら……男が11人で女が6人。既に何人かは他家に嫁いでいるわ」

 

 驚いたな、長男と次男は調べていたが認知した子供が10人以上とは普通なら伯爵クラスだぞ。そんなに居たら相続の時に揉めるだろうに……

 

「17人とは驚いたな、伯爵並みじゃないか!流石は領地持ち、財力が違う」

 

「本妻3人側室8人妾腹6人で合計17人ね。特にジゼル様は腹心としても有能で頼られているわ。ジゼル様はリーンハルト君と同い年、アーシャ様は歳上で共に綺麗な方よ」

 

 む、腹心か……脳筋一族の中で知略に秀でる実子は大切だろうな。アーシャ嬢は今年成人か、18歳前後で嫁ぐのが普通だからデオドラ男爵は……

 いや、自惚れだな。まさか自分の娘を与えて迄は僕を欲しくはないだろう。ウィンディアだけでも破格の条件だ、手は出さないが。

 

「まぁ冗談はそれ位にしてくれ。デオドラ男爵の娘婿にとか笑えないな。さて、拠点に着いたな。夕食はイルメラが用意した物を食べて貰おうか」

 

「冗談って、リーンハルト君は自分を低く見過ぎてるわよ。デオドラ男爵様は絶対に狙ってると思うわ」

 

 14歳にしてハニートラップとか笑えない、愛の無い利権絡みの婚姻など二度としたくないんだよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「思ったより時間が掛かったわね、もう昼過ぎよ」

 

「だが手順は慣れたろ?この調子で他の場所でもビックビー狩りをするかな。纏まった数を倒せるから効率的だ」

 

 二つ目の巣は割と早く見付ける事が出来た。

 最初のと変わらない規模だったから縄張り争いは拮抗していたのかも知れない。

 成果は女王の結晶の他に巣蜜が5㎏、毒針が131本だった。

 合計で結晶が2個、巣蜜が10㎏で毒針が258本と大量だな。ウィンディアと折半にしてもギルドポイントが7は美味しい。

 Dランク迄は予定より早く上がれそうだな。

 

「今日中に帰るのは厳しいな。麓のラコックの村に一泊して明日の朝の王都行きの馬車に乗ろうか?」

 

「うん、お風呂に入りたいけど村の宿泊施設じゃ無理かな?でもお湯で身体は拭けるから良いわね」

 

 やはり年頃の女の子だな、身嗜みに気を遣っている。

 冒険者として何日も風呂はおろか身体も拭けない事だって有ると思うが、その時は我慢すれば良い。

 僕も一緒に行動する子が不衛生なのって嫌だし……

 

「では麓の村まで行こうか。指名依頼は達成したし討伐証明部位も大量だ。折半でも直ぐにEランクにはなれるよ」

 

「良かった、デオドラ男爵様からも早くDランクになる様に言われてるのよね。プレッシャーを感じていたのよ」

 

 ウィンディアと二人、どうなるかと思った初めての指名依頼は大成功だ。

 後は王都に戻りデオドラ男爵と冒険者ギルドに報告するだけ。僕は清々しい達成感を味わっていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕の記憶するラコック村とは人口200人程度の小さな村だ。

 冒険者ギルドの出張所も無く住人の殆どが周辺に畑を持つ農民だったと思う。

 確かフーガ伯爵の領地で割と善政で有名な住み易い場所だ。

 だが疲れた体を引き摺って村の入口に辿り着けば、物々しい雰囲気を醸し出している……何か有ったな。

 行きは門番なんて居なかったのに今は村の自警団みたいな簡素な鎧を着て槍を持つ壮年の男性が二人立っている。

 

「こんにちは、何か有りましたか?僕らは冒険者で、この先のタクラマカン平原でゴブリン討伐を終えた帰りです」

 

 不審に思われない様にギルドカードを見せながら話し掛け、ウィンディアも僕に習いカードを取り出して見せる。

 

「おお、レベル20越えの魔術師さん達ですね。実は昨晩村の外れでオークの群が現れて撃退しましたが……

冒険者ギルドから派遣されたパーティの内、二つが壊滅的なダメージを受けてしまって。

儂らも手伝いに駆り出されているんだ。良かったら手伝ってくれないか?

村長の家に生き残りの冒険者達が居るんだ」

 

 『ファング』達が言っていたオークとゴブリンの事か……野生のオークは最大50匹前後の群をなす油断ならないモンスターだ。

 

「リーンハルト君、どうしようか?」

 

「そうだな、状況把握の為に村長の家に行ってみようか。生き残りが居るらしいから詳しい話が聞ける筈だ。

フーガ伯爵は領民思いで有名だから既に領主軍か冒険者ギルドに応援の通達が行ってるだろう。ここは王都にも近い穀倉地帯だ、対応は早いと思うよ」

 

「そうよね、でもオークって山岳地帯に生息するモンスターでしょ?何故、人里に下りて来たのかしら……」

 

 確かにオークは山岳地帯に生息するが定期的に場所を移動するし、餌となる家畜や繁殖の為に人間を攫いに来るんだ。

 一度は撃退したけど狡猾で執念深い連中らしいからな、警戒は必要だと思う。

 村人の教えてくれた道を進むと他よりも大きな木材と土で造った大きな民家が見えてきた。

 

「あれが村長の家みたいね、でも怒鳴り声が聞こえるわよ」

 

「殆どの村の家は戸口をしっかり閉めて外に出ていない。だが男手は周囲を警戒しているけど……

彼等じゃオーク相手には戦えない。群だと最大50匹は居るらしいし、レベル20以上の戦士が20人は欲しいな」

 

 村は広い、完全に守りを固めるのは無理だ。

 外周の柵も低いから侵入は簡単だし民家の扉なんて奴等からすれば簡単に壊せるだろうな……

 

「ウィンディア、不味い時に村に来てしまったかもしれない。

最悪は防衛に参加しなければならないが配置は二人一緒じゃなきゃ断るよ。

変に同情して別々にとかは無しだ。あの怒鳴り声の内容からすると増援を頼んでないな、何故だ?プライドか?」

 

「このまま立ち去りたいけど無理よね。

冒険者ギルドの決まりにも緊急時に住民からの依頼は極力請ける様になってるし、既にギルドから派遣されたパーティも居るんだし……」

 

 面倒な事に巻き込まれたと思いながら村長の家の玄関扉を力一杯叩いた!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。