古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第56話

「良かったの?彼等の事?」

 

 少し不思議そうな顔で僕を見るウィンディア。

 

「ん?良かったかって何が?」

 

 ゴブリンの死体を確認して仲間を呼ぶ探査役のビックビーを追う、小走りしないと離されてしまうな。

 

「あのゴブリン、多分だけど名有りよ『口裂け』だと思うわ。確か報酬金が金貨五枚よ」

 

「気付いてたんだ……あそこで時間を喰うのは嫌だったからね。ビックビーを呼び寄せられたのも彼等のお陰でもあるしお礼かな。

残念、巣まで戻らずに途中で合流したか」

 

 20m程先では探査役の二匹の他に食料調達役と思われるビックビーが十匹以上居る。

 走るのを止めて屈み込み息を整える、僕は未だ大丈夫だがウィンディアは少し苦しそうだ。

 しかし奴等は、どうやって連絡し合っているのだろうか?目の前では変な軌道で飛び合うビックビーが居るのだが……

 

「ビックビーは円を組み合わせた飛び方で意思の疎通をするらしいわよ。ビーダンスって言われてるけど確証はないわね」

 

 ビーダンス?俗説か仮説か分からないけど確かに理由としては有りだな。

 ひとしきり飛んだ後に僕等の方に……ゴブリン達の方に飛んで来る。

 

「ウィンディア、隠れてやり過ごすよ。これはゴブリン達を肉団子にして巣に運び込むのを待たないと駄目だな」

 

 屈み込んでるだけでは見付かってしまう為に大きな木の陰に身を隠す。

 ビックビーは全部で十八匹、ゴブリンの三分の一は肉団子に変えられるだろう。

 奴等の顎は力強く頑丈だから骨も簡単に噛み砕く。

 

「時間がかかるわね、そう上手くはいかないか……暫らくは待ちね」

 

 都合良く巣に戻ってはくれないみたいだ……

 

「ああ、ゴブリンの解体シーンは見たくないが仕方ないね。暫く待つけど我慢だな」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 待つ事一時間、あれから更に二十匹近いビックビーが集まりゴブリンを肉団子に変えていった……正直グロい。

 『ザルツの銀狐』達はゴブリン達の武器や防具、『口裂け』の頭まで切り取って持ち去っていった。

 確かに汚れは酷かったがそれなりの品質の武器だったな、手入れをすれば初級冒険者なら十分だろう。

 

「凄いわね、壊れた鎧兜まで剥いでいったわ。戦士職は武器や防具は消耗品だから大変ね」

 

 魔術師だが武闘派のデオドラ男爵の配下だけあり武器や防具に関しては詳しそうだ。

 そう言えば彼女はドワーフの工房に魔力の付加された武器や防具の買い出しに行く位だったか……

 ドワーフ工房『ブラックスミス』か、行ってみたいな。

 

「そうだな、数打ちのロングソードは叩き斬る様な使い方をするから傷みは早い。

特にシルバーはパーティの壁役みたいだったし壊れた鎧兜でも部品交換用に使うんじゃないか?

装備品もかなり継ぎ接ぎして使い込んでいたし……」

 

 彼の装備していた防具を思い出してみる、一部が壊れたから新しい鎧兜を買い替えるなんて普通はしないからな。

 その点ゴーレムは常に新品同様だから便利だけどね。

 

「肉団子を抱えて飛び立ったわよ!」

 

「よし、追うぞ。巣が特定出来たら状況を見て襲うか決めよう。僕等なら明るくて視界が良い時に攻めた方が良いかもしれないな」

 

「火力が有るものね。でもウィンドカッターじゃビックビーの外殻には通用しないわよ、牽制にはなるけど……」

 

 攻撃役は僕だけ、だがエレさんの時と違うのは自衛が出来る事。

 前回は初めてで勝手も分からず慎重に挑んだ、守る仲間も居たので除虫草を燻して煙攻めにして弱らせてから視界の悪い夜間にしたが……

 慢心しなければ大丈夫だ、周辺をゴーレムポーンに警護させれば確実にストーンブリットで倒せる。

 

「じゃサポート宜しく。攻撃役は僕だけで大丈夫だよ、上級魔力石も用意してあるから」

 

 そう言って懐から三個の上級魔力石を取り出して見せる、勿論使わないが魔力量の多さを誤魔化す為にだ。

 普通の魔術師より数倍も多くなった魔力を誤魔化す為に用意したんだ、強制実地訓練の時に変に思われたみたいなんだよ。

 遅いかも知れないけど……

 

「ふーん、上級魔力石ね。準備が良いわね、私も持って来てるわよ。学校に通ってると魔力が余るから作り貯める事にしているの」

 

 同じく三個の上級魔力石を見せてくれた。

 小走りしながら会話が出来るとはお互い魔術師ながら体力は有るんだなと感心する。

 そしてビックビーを追う事40分、漸く巣を見つけた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これが今回の巣か……前の時より二回り程小さいな」

 

 確かに土で出来た小山が見えるが大きさは直径15m高さ8m位か?今追ってきた奴等が巣の中に入っていく。

 

「え?普通に民家くらいの大きさよ、これで小さいの?」

 

 ウィンディアはビックビーは知っていても巣は初めて見るらしい、大きさに驚いている。

 巣は常に拡張してるらしいから年々大きくなるらしいが、木と違い年輪みたいな物が無いから分からないんだよね。

 

「日没まで二時間無いな……」

 

 木々の間から見える太陽は大地に近い、森の中だから暗くなるのは早いだろう。

 

「どうする?ヤルの?」

 

「女の子がヤルとか言うなよな!そりゃ勿論ヤルさ」

 

 日没に近いせいか方々からビックビーが巣に帰って来る、全部で120匹から130匹って所かな?

 マントを脱いで動きやすくしてカッカラを握り締める、魔力は満タンに近い……

 

「ウィンディア、僕から離れるなよ。

ゴーレムポーン六体に円陣を組んで守らせるが半自動制御にするから動きは悪くなる。

ゴーレムポーンの守りを抜けた奴の対応は任せる。僕は先ず周りの連中を倒すから……」

 

 一定の範囲内に近付いて来る敵を倒すだけの制御なら難しくない。

 

「半自動制御って、そんな高等技術を簡単に……はいはい、私はゴーレム達と連携してリーンハルト君を守れば良いのね?」

 

「ああ、そうだ。じゃ始めようか!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 隠れていた茂みから飛び出し巣に向かって20m手前まで歩いていく。

 ビックビーが僕等に気付いて羽音で威嚇をするが逃げないとみるや一斉に飛び掛かって来る。

 

「ストーンブリット!」

 

 真っ直ぐに飛んで来る敵を立ち止まって迎撃、打ち漏らした奴はウィンディアのウィンドカッターで怯ませてゴーレムポーンが叩き斬る。

 うん、連携は上手くいっている、ウィンディアのウィンドカッターは致命傷にこそならないがビックビーを弾き飛ばす事が出来るので動きの鈍った奴をゴーレムポーンが斬る。

 

「順調だね、攻撃役は三十匹位か……これで最後だ、ストーンブリット!」

 

 巣の周りに居たビックビーは粗方倒した。残りは巣の中に居る女王と世話役、それに幼虫と卵だな。

 

「呆れる位に簡単に倒すわね。何よ、そのストーンブリットの弾の大きさは……

一発でビックビーを倒せるなんて驚きね」

 

 お互い軽口を叩ける位に余裕が有る。

 

「む、風と違い岩には質量が有るからな。速度と重量、それに固さと大きさによって威力は上がる。

その分風と違い見えるから避けやすい、属性違いは一長一短だろ」

 

 これで第一段階は終了、ゴーレムポーン達にツルハシを持たせて巣を崩していく……

 

「何か、地味よね。効率的で便利だけど……火属性の爆発魔法とか派手じゃない、あれなら巣を破壊出来るのにね」

 

「それ言われたの二回目だな……地味で結構、土属性は汎用性が真骨頂だからね。

でも巣を爆発させたら女王達もバラバラだぞ、結晶が壊れて依頼未達成とか嫌だ。巣蜜も売れるんだし……」

 

 確かに火属性の広範囲殲滅呪文は魔術師の憧れなのは認める。

 僕だって憧れた時期は有った、自分の土属性と水属性って両方共に地味だし。

 特に僕は治療より毒に特化してるから余計に華々しさは無くて、こう……邪悪な暗黒さが……有るよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「黙祷を捧げるのね。敗者に対する礼儀?」

 

 女王の骸(むくろ)に向かい黙祷を捧げる。彼女も動けない身体ながら幼虫と卵を守る為に僕等に立ち向かって来たんだ。

 

「ああ、生物を殺す事を軽く考えない為に、自分の心の負担を軽くする為の偽善的行為。どっちでも良いよ……」

 

 巣を壊し女王を倒して幼虫と卵も処分した。

 前回の時よりも若い個体だったらしく一回り小振りな大きさの結晶を手に入れた。

 ビックビーは全部で127匹、巣蜜5㎏と成果も悪く無い。

 

「さて、完全に日が暮れたけど討伐部位を集めよう。それが終われば食事をして休もう、指名依頼は達成出来た。何も問題は無かったんだ」

 

 自分の周辺に魔力で複数の明かりを灯す、暗い森の中で自分達の周りだけボオッと昼間の様に明るくなる。

 周辺はビックビーの死体で一杯だが気に留める暇は無い、早く討伐部位を回収しこの場を離れたいんだ。

 

「有り難う、私レベルアップしたわ。レベル22になれたの」

 

 ウィンディアはナイフを器用に扱いビックビーの毒針を採取している、刃物の扱いも様になっているな。

 デオドラ男爵は魔術師の彼女にも護身術を仕込んでるのかもしれない、妙な手慣れさが有るし……

 

「僕も途中でレベルアップしたよ、同じレベル22だ」

 

 下級モンスターとはいえ流石に百匹以上も倒せばレベルアップもする。

 しかし素材採取って器用さと根気が必要だな、こればかりはゴーレムでは無理だ。

 ビックビーの腹を裂いて毒袋を傷付けない様にしながら針を取る。

 

「同じ?そっか……レベルは同じだったね、でも私とは全然違う。何か自信が無くなるよ、リーンハルト君を見ていると……」

 

 思わずビックビーの腹を裂いている手を止めて彼女を見る、僕を見ていた彼女と目が合った。淋しそうに微笑んでいるが……

 

「ウィンディア?」

 

「リーンハルト君に私は必要かな?私は……その、邪魔にはなりたくないの」

 

 む、こういう場合はどうしたら良いんだ?邪魔になりたくないって言葉は意味深だ、深く考えてしまうじゃないか。

 

 兄弟戦士曰く『都合の良い女でも良いから傍に置いて欲しい』って事らしいが、彼女は本気で僕の……

 

「君は、ウィンディアは僕に……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 困った顔で私を見るリーンハルト君。ジゼル様の助言通りに儚さを演出してみたけど効果有りかしら?

 デオドラ男爵一族及び関係者は第一条件が強い事……

 強さには色々有る筈なのに単純明快な肉体的強さを求める傾向に有る、つまり脳味噌まで筋肉で出来た様な馬鹿ばかり。

 ボッカ様など典型的なデオドラ男爵一族だわ。

 今はルーテシアが抑えてくれているから側室の話は有耶無耶になってるけど、万が一にもボッカ様が手柄を立てる事が有れば……

 

 『私はあの男の子供を孕まなければならない』

 

 それは絶対にイヤ!

 

 既に平民の女の子達を何人か囲って認知してない子供も居る性欲魔神の側室なんてお断りよ。

 私が欲しいのも単に他の兄弟達と違い派閥に魔術師が居ないからだし、自分の血筋に魔術師が欲しいだけ。

 だから何人も子供を産ませられそうなのもイヤ。だからデオドラ男爵様の申し入れは渡りに船だったの……

 この若い魔術師は貴族の長男として礼儀作法を身に付けているし外見も悪くないわ、いえ好みの部類。

 家庭内のゴタゴタで来年廃嫡されて平民になるそうだけど、冒険者ギルドに登録しランクCまで直ぐに駆け上がってくるだけの能力も有る。

 性格は……良く言えば冷静沈着、他人を見下してはいないけど何でも自分で出来るからやってしまう周りからは扱い辛いタイプ。

 自分から交流を深めるタイプじゃない、人付き合いに一歩引いている感じがするわ。

 でも懐に飛び込めば、何だかんだと面倒を見てくれるのよね。

 自分が周りと違う事を自覚してるのに他人から指摘されると悲しむの……

 

「貴方は優しくて不器用な人……何時か、その優しさが自分に跳ね返ってくるわ。

それが良い事か悪い事か分からないけど。だから私も少しは貴方の手伝いがしたいの、これが偽りない私の気持ち……」

 


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