古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第547話

 一旦練兵場からロンメール様の客室へと移動した、その際に周辺諸国の賓客達を確認したが概ねだが反応は半分に別れた。

 一方は好意的な感情、モア教を国教としている国々は感情的にバーリンゲン王国を嫌っている。それと親エムデン王国派の国々は友好国に強力な魔術師が居る事は心強い。

 同盟を組めれば更に良い、エムデン王国は無闇に周辺諸国に圧力は掛けない。敵対すれば容赦はしないが、友好的なら協力し合える。

 

 もう一方はエムデン王国に非友好的か、ウルム王国寄り。そしてエムデン王国と国土が隣接している国々だ。最初の友好的な国々は国土が隣接していない、だから脅威が少ない。

 だが国土が隣接している、つまり直ぐに侵攻される危険を孕んでいる。隣接した国家に永久の友好は無い。弱まれば吸収合併される、国家間の友好関係とは実に曖昧なモノだ。

 どんなに友好的でも協力し合っても、国王が変われば簡単に反故にする。どの国も国益を優先するから裏切り上等、弱みを見せた国の方が悪いのだ。

 

 今回の件を振り返って考えれば、バーリンゲン王国は最悪だろう。隣接する周辺最大国家に喧嘩を売られて、最大戦力たる宮廷魔術師は複数で挑んでボロ負け。

 その後での王女二人の謝罪だが、エムデン王国に誠意を見せたつもりでも、他から見れば王族が他国の臣下に頭を下げたんだ。体面や面子はボロボロ……

 もうバーリンゲン王国は孤立して詰んだ、ウルム王国の協力も期待は薄いだろう。エムデン王国が許さないから、実質自分達だけでエムデン王国と戦う事になる。

 

 幸いなのかは微妙だが、陸路で隣接している国家がエムデン王国だけだ。背後には未開のジャングルが広がり友好的でない少数部族が点在している。

 海路も有るが港も小さく、小国とは言え占領出来る戦力の輸送は無理。良くこの地理条件で、エムデン王国に喧嘩を売る気になったな。

 ウルム王国と旧コトプス帝国の連中に騙された、哀れとは思うが手は抜けない。上品に喧嘩は売れなかったが、ギリギリ理由は許容出来る内容だと思っている。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今回の件の報告と相談の為に集まったメンバーは僕を入れて八人。先ずはロンメール様とキュラリス殿、イーリンとセシリア。チェナーゼ殿と何故かユーフィン殿、最後にユエ殿だ。

 防諜対策は十分に行い、警備も厳重にしている。此処での話し合いが、バーリンゲン王国の未来に直結するから。バーリンゲン王国側も何とか情報が欲しい筈だ。

 既に複数のルートで伝令を放ったから全てを始末するのは不可能、伝書鳩も数羽放ったから今回の件は正しくアウレール王に伝わる。僕等を口封じで殺す意味は薄い、報復は熾烈だろうし人質とかの方が有効だが現実は不可能だろう。

 

 円卓に座り全員に紅茶が配られた、頭の回転には糖分が必要と思い砂糖を三杯入れてスプーンで掻き回す。幼女形態のユエ殿も隣に座り同じ様に砂糖を三杯入れた、僕を見上げて『お揃いですね』と笑うとか、あざといです。

 何故かイーリンとセシリアは鼻を押さえて顔を逸らし、キュラリス様は凄い笑顔を浮かべ、ユーフィン殿は不機嫌になった。何故、大切な話し合いに幼女が居るのかって怒ってるのかな?

 僕が話さないと何も始まらない、掻い摘まんで流れだけでも説明は必要だよな。全く内容を知らない人も居るし、認識を共通する必要が有るから。

 

「先ずはですね、おさらいとして当初の計画から説明しますが……」

 

 エムデン王国は最初からバーリンゲン王国に戦争を吹っ掛ける事は決めていた。この結婚式自体がバーリンゲン王国とウルム王国の軍事協定と同じ意味が有り、二方向から圧力を掛けて戦力の分散を狙ったモノだから。

 喧嘩を売る方法は、サルカフィー殿がユーフィン殿に懸想しているので、僕が仮初めの婚約者として彼を挑発し勝負を挑ませて開戦理由とする事。

 もう一つは妖狼族が僕の暗殺計画を進めている情報をケルトウッドの森のエルフ達から入手していたので、返り討ちにして責任をバーリンゲン王国に押し付ける予定だった事。

 

 だが予想を上回り、最初からバーリンゲン王国側から喧嘩を吹っ掛けて来た。ペチェットの威嚇、ミッテルト王女の夜這い、妖狼族の暗殺と立て続けに仕掛けられてお腹が一杯だ。

 後は今日の出来事と同じで、フローラ殿を必要以上に辱めたことを利用して『紳士たる者がする事じゃない、恥を知れ!』と喧嘩を売った。

 相手は最高値で買ってくれて、バーリンゲン王国の宮廷魔術師四人とウルム王国の宮廷魔術師一人の合計五人を倒して彼等の面子をボロクソにした。

 

 これにより周辺諸国の観客達は、エムデン王国の強さを心に刻んだ。武威を示すには十分だろう、内容はお粗末だが、十分にノルマは達成出来た。

 だがパゥルム王女とミッテルト王女が衆人環視の中で頭を下げるという、常識では考えられない行動で謝罪したから対応に困り、ロンメール様の判断を仰ぎたい。そう言って説明を終えた、緊張の為か喉がカラカラだよ。

 少し温くなった甘めの紅茶を一口含み舌の上で味わう。少し落ち着いたので、出席者全員を見回すが特に否定的な表情はしていない。

 

「王女が体面や面子をかなぐり捨てて謝罪はしましたが、肝心のバーリンゲン王国からの正式な謝罪は無いですね。つまり彼女達の思いは国家とは違う、彼等は未だウルム王国側です」

 

 違和感を感じていた王女二人の行動、国王と殿下達とは思惑が違っていたのだろうが中途半端だった。模擬戦の件で、ウルム王国からエムデン王国に乗り換えるならば公式の申し込みが必要。

 だが政略結婚で、レンジュ殿を受け入れたんだ。生半可な事では鞍替えなど不可能。彼等は未だウルム王国側寄りなのは間違い無い。

 なら何故、今夜の舞踏会に拘るのか?あのローカルなしきたりである、結婚式の後の舞踏会で踊る事は未婚者同士なら結婚の約束と同じ……アレを仕掛けて来る?

 

「国王と殿下達、それに対して王女二人は反発してそうですね。だが力関係から王女側は強硬策が取れずに対応が中途半端、今夜の舞踏会で何か仕掛けて来るのではないでしょうか?」

 

「正式な招待状は、私とキュラリス、リーンハルト殿とユーフィンの四人だけです。リーンハルト殿を引き離して残りの連中を人質にする?無理でしょうね。では我々を襲う?それも無理です」

 

 そうだ、周辺諸国の目の有る所で賓客達に何かするなど国家の常識が疑われ外交的に孤立する。舞踏会で僕やロンメール様達に恥をかかせても無意味だ、報復が熾烈になるだけだから。

 残された連中を襲っても、護衛兵にゼクス達が守るんだ。軍団規模でも短期間で制圧など不可能、僕が無言兵団を操り逆に王宮を制圧するぞ。

 

「やはり、あのローカルなしきたりを使っての一発逆転ですか?」

 

「リーンハルト殿が、ミッテルト王女と結婚するならば、バーリンゲン王国もウルム王国と手を切る可能性は高いでしょう。ですが、それでは我々に利が無い」

 

「勿論です、僕も嫌ですよ」

 

「ミッテルト王女だけでなく、パゥルム王女や他にも候補者は居るかも知れませんわ」

 

 キュラリス様から追加指摘が有った。確かに王女じゃなくても上級貴族の令嬢なら誰でも良いな。要は婚姻外交で、ウルム王国よりも条件が良いだけだ。

 エムデン王国に利など無い、こんな不安定政権の多民族国家など要らない。現政権を掌握しないと属国化は難しい、下手すれば群雄割拠時代が始まるよ。

 それに手を貸して勝ち抜くなんて面倒事は嫌だ!僅かなメリットは後ろからの圧力が無くなる程度だが、それなりの兵力を国境線に貼り付けるだけで済む。

 

「私が、リーンハルト様のパートナーとして舞踏会に出席すれば防げるのではないでしょうか?パートナー同伴の相手にダンスの申し込みをするのはマナー違反ですわ」

 

 ユーフィン殿がナイスアイデア的に提案してきた、当初の予定だと僕達は仮初めの婚約者同士だから間違いではない。

 だが既に目標は達成された、ユーフィン殿の婚約者の真似事はしなくても良いんだ。今夜の舞踏会で彼女と踊ると、公式に結婚すると各国の賓客達は思う。

 だがダンスの申し込みは紳士側からだし、僅かな可能性として逆申し込みも有るが断る権利も有る。最悪はローカルなしきたりを説明して断れる、強制婚姻は嫌ですとね。

 

「謝罪を受ける為の参加です。早々に引き上げる事も可能、ファーストダンスの方舞は国王夫妻と新婚の二人です。その後のポルカですが、ロンメール様は……」

 

「キュラリスと踊ります。相手の無礼に無礼で返すのは悪手、最低限の礼節は守るつもりです。その後に全員で引き上げましょう」

 

 ロンメール様の提案に、ユーフィン殿が絶望的な顔をした。国家主催の舞踏会でダンスを踊る事は、淑女達の垂涎の的なのは分かる。

 だが仮想敵国から敵国に進化した、バーリンゲン王国主催の舞踏会に参加する意味は薄いと思うぞ。沈み行く泥船国家の舞踏会に参加しても自慢にはならない。

 まぁユーフィン殿は、ローラン公爵やログフィールド伯爵から僕との婚約話を公言する為に努力しろ位は言われているのだろう。

 

 だが仮初めの婚約者話は使わない、もうノルマは達成したから要らないんだ。ユーフィン殿としては実家的に残念かも知れないが、僕は安心した。勿論だが、サルカフィー殿が絡んで来たら対処はする、だが彼もロンメール様に対して無礼を働いたんだ、縁切りの理由にも十分になる。此方も依頼達成だな。

 流石に同じ伯爵の令嬢で、世話になっているローラン公爵の縁者のユーフィン殿を無下には扱えない。曖昧な笑顔を浮かべて有耶無耶にする、申し訳ないが僕には無理です。

 ロンメール様の決定通り舞踏会には参加するが、ロンメール様とキュラリス様が方舞を踊り終わったら早々に退出する事に決まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最後の行動の確認の為に、父王や兄上達との打合せの場を設けて貰った。もう後戻りは出来ない状況に追い込まれているのは、皆が気付いていると思うわ。

 国家存続の危機、滅ぼされし国の王族の末路は悲惨。謀反の御輿となる男性は全員死罪、若く綺麗な女性は戦勝国の功労者に褒美として与えられ、残りは死罪……

 そんな悲惨な行く末しか望めない未来など私は掴みたくないわ、だが男共は破滅に向かって全力疾走中、本当に嫌になるわね。

 

「パゥルム、ミッテルト、お遊びが過ぎるぞ」

 

「全くだ、敵国の宮廷魔術師に媚びてどうするんだ?」

 

 王族のみが立ち入れるエリアの最奥の密談室、此処での会話は誰にも漏れない。厳重な防諜対策を施した王族のみ利用が可能な有事の際には避難先となる隠し部屋。

 故に本音で語れる、父王や兄上は未だウルム王国側なんだなと実感する。もう少しだけ全体を見渡せれば、未来の無い選択だと分かるのに……何故、ウルム王国に味方する事に固執するのかしら?

 参加者は父王に三人の兄上、パゥルム姉様に私とオルフェイスの七人。オルフェイスは新婚初夜とかほざいていた、レンジュから強引に連れ出した。

 

「エムデン王国に味方しても、バーリンゲン王国は発展性が無いのだ。我等が大陸の中央部を領土に望んでも、エムデン王国が立ち塞がる。故にエムデン王国を何とかするしか無いのだ、分かるな?」

 

 地政学的な意味で言っているなら確かにそうだ、でも今回の件でエムデン王国に勝つのは無理だと理解した筈よ。

 

「そうだぞ、我等は必ずや大陸の中央部に進出する。その切欠作りが、ウルム王国だ。勿論だが利用し尽くしたら奴等も食い破る」

 

「父王や兄上の言う通りだ、こんな大陸の末端で満足など出来るか!」

 

「全く、女共ときたら消極的な案しか言えぬな。もっと大きな視点を持つんだ、分かったな?」

 

 近衛騎士団三百人と王都防衛軍を配下に持つ父王、第一方面軍司令官の長兄クリッペン、第二方面軍司令官次兄コーマ、第三方面軍司令官末弟ザボン。

 バーリンゲン王国の軍事を仕切る四人が、揃いも揃って馬鹿ばかり。大陸の中央部に進出?夢はベッドの中で見なさい。軍事に関する空想遊びは殿方の特権かもしれないけど、現実から目を背けないで!

 バーリンゲン王国の戦力全てで挑んでも、リーンハルト殿は倒せない。ウルム王国が誇る大将軍が率いる五千人の軍団に単独で挑み勝てるリーンハルト殿が居るのよ、普通じゃないわ。

 

「分かりません!全く分かりません。国が無くなっては無意味です、ウルム王国は私達との約束を守る保証もありませんわ!」

 

 この大陸でバーリンゲン王国の位置する場所は確かに末端、後ろは未開の地で前にはエムデン王国が立ち塞がるのは理解しています。

 大陸の中央部を欲するならば、エムデン王国の領地を奪い取るしか方法は無い。だからエムデン王国を囲む国々で協力して強大な敵に挑むしか方法は無い。過去の大戦と同じ様に……

 無いのだけれども、エムデン王国は二方面作戦も可能な戦力を所持しているのを理解してますか?幾ら私達が頑張ってもエムデン王国は対処出来るのよ。

 

「俺は大陸の隅の小国の王で終わるつもりは無いのだ!大陸の中央部に進出する、それにはエムデン王国と戦う必要が有り、ウルム王国との軍事協定は必要不可欠なのだ。分かってくれ、エムデン王国と組む事は出来ない、無理なのだ」

 

 父王の呆れた野望の巻き添えなど、お断りよ!夢を見るのは自由だけど、私やパゥルム姉様を巻き込むのは止めて欲しい。

 そんな夢物語が実現する訳が無い、ウルム王国と手を組んでエムデン王国を倒しても……ウルム王国が約束を守る保証は無いのよ。

 あのレンジュの態度から見ても、奴等はバーリンゲン王国を見下しているわ。協力しても良くて属国扱い。彼等がエムデン王国を奪ったら、結局は私達は大陸の中央部には進出出来ないの……

 

 馬鹿な男達だわ、本当に馬鹿。自分の欲望丸出しなのに、先を考えられない単純な馬鹿共め!

 




日刊ランキング十四位、有難う御座います。

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