古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第53話

 デオドラ男爵の屋敷に招かれた、冒険者ギルドを経由して指名で依頼をくれたのだ。

 だがデオドラ男爵一族は問題児が多いと言う噂は本当だった、僕とウィンディアの仲を誤解したボッカがナチュラルに殺しに来たのだ。

 有り得ない事だぞ、幾らバーレイ男爵家が新貴族とはいえ長男を殺されたら大問題だ。

 しかしデオドラ男爵の機転で有耶無耶にされ、しかも僕は腕試しとして模擬戦をしている。

 昔、大型モンスターとの戦いで生み出した円陣を使いデオドラ男爵を追い込んだ様に思えたが、彼を本気にさせたみたいだ。

 手に持つ剣から膨大な魔力を感じる……

 

 だから次の一撃に勝負を掛ける!

 

「流石は武闘派の重鎮、デオドラ男爵!ならば一斉に攻め掛かるだけだ!」

 

「行くぞ!リーンハルトよ、受けてみろ」

 

 互いの気迫が最高潮に達しぶつかり合う……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「時間です、両者武器を下ろして下さい!双方武器を下ろして」

 

 最高潮に盛り上がった所で執事さんが何かを言いながら割り込んで来たけど、時間ってなんだ?

 

「おお、そうか。引き分けは久し振りだぞ」

 

 そう言ってデオドラ男爵は何事も無かった様にロングソードを鞘にしまった。

 周りから盛大な拍手が沸き上がるが、現当主を見世物みたいに扱って大丈夫なのか?

 僕は現状が理解出来ずに呆然としてるのだろう、突然の事に何も考えられない。

 

「盛り上がった所をすまんな、リーンハルト殿。我等デオドラ一族は熱くなると己を抑えられず見境がなくなるのだ。

だから模擬戦は5分と決めていて手の空いている者は観戦し、暴走したら止めるのが決まりなのだ。

俺が初手で倒せずに無傷で引き分けなど本当に久し振りだ。ウィンディアを任せるに十分な実力だな、安心したぞ」

 

 もの凄い力でバンバンと肩を叩かれる、革鎧越しでも結構痛い。

 

「はぁ、有難う御座います。指名依頼、頑張ります」

 

 カッカラを一振りしてゴーレムポーンと転がっている岩を魔素に還す。良く分からないローカルルールにより引き分けになったみたいだ。

 

「凄いな、リーンハルト殿!まさか父上と引き分けるなんて驚きだ。私でさえ未だ一分も保たないのに……」

 

「デオドラ男爵様と戦われて無傷だったのは数人しか居ないんですよ!凄い事なんですよ!

一族の実力者達だって誰も勝てないんですから」

 

 興奮状態で詰め寄ってくる困ったお嬢様達に気付かれない様にため息をつく……

 ルーテシア嬢、君はやっぱり心配した通りに僕に絡んでくるんだな。

 ウィンディア、彼女を止めるのが君の役目だろ。

 彼女達から少し下がり距離を取る、ちゃんと線引きをしてる事を周りにも分からせる為に。

 

「いえ、今回の模擬戦は多勢に無勢ですから、引き分けとは言えないでしょう……」

 

 周りを見渡すと皆さんの表情は様々だ、驚いていたり喜んでいたり祝福してくれていたり……悔しそうな顔で睨んで来ていたり。

 特にボッカは親の仇みたいに睨んできている、完全に敵対されたな一方的に。

 

「過ぎた謙遜は不敬だぞ、俺が攻め切れなかったのは事実だ。それに本気で倒そうとすれば投網や鎖で動きを封じれば良かった。

あの変幻自在な包囲網には流石に参ったぞ」

 

 自分の愛娘が僕に絡んでいるのにデオドラ男爵の機嫌は良さそうだ。

 まぁルーテシア嬢は僕の強さを褒めているだけだし武闘派のデオドラ一族としての受けが良かっただけか……

 

「手加減されてましたし、デオドラ男爵なら剣で衝撃波を飛ばせますよね。あの包囲網は六体セットで三回迄はローテーションが組めます。

それ以上の早さでゴーレムを壊されたら包囲網は成り立ちませんから」

 

 あの時、デオドラ男爵はロングソードに闘気か魔力を漲らせていた。

 ロングソードの一振りで遠距離に衝撃波を飛ばせただろう、つまり一振りで二体近くを倒せた。連続で振れば簡単に包囲網を崩せただろう。

 

「全く……子供が謙遜する事は無いぞ。リーンハルト殿は俺と引き分けた、模擬戦だろうと負け無しの俺にな。誇れ!」

 

 ワシワシと頭を撫でられたが痛いんですよ、ガントレット着けてるの忘れてませんか?

 

「有難う御座います。では明日から依頼を受けさせて頂きます。ウィンディア、明日の朝八時に冒険者ギルド本部の前で待ち合わせよう。

指名依頼とは言え受付処理が必要だからギルドカードを忘れずにね。では、デオドラ男爵。失礼します」

 

 長居は危険だ、早く立ち去ろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「どうでしたか、リーンハルト殿は?デオドラ男爵のあれ程楽しそうな顔は久し振りでしたぞ」

 

 久々に有能な若者を見付け何とか接点を作ったが予想以上に楽しい奴だった。

 ウィンディアも多少は役に立ったな、『デクスター騎士団』の不始末の件を帳消しにしても良い。

 

「うむ、俺は魔術師としての力量は分からんがな。ゴーレム兵を指揮する能力は高い、度胸も有る、自分の立場も弁えていて頭も良い。

直情傾向の高い俺達一族には必要なタイプだ」

 

 ボッカを筆頭に感情で動く馬鹿が多い、勿論扱い易い駒としては有能だがな。圧倒的に参謀役が少ないのだ、ウチには……

 

「魔術師としてなら、あの年とレベルにしては破格ですね。私では彼と同じ事は出来ません、あの包囲網は……

円陣または円殺陣と呼ばれた古い戦法ですが、ゴーレム複数の高度な制御と連携が必要な我等ゴーレム使いが目指す戦い方。

しかし今は複数のゴーレムを操るより少数、人型より異形が主流ですが……古の魔術師であるツアイツ卿が考案し最も好んだ戦法の一つですね」

 

 嗚呼、バルバドス殿のキメラとかか……

 アレは確かに強かったが面白味に欠けるな、人間と違う動きに最初は戸惑ったが技が未熟なのだ。

 長いリーチで鎌を振り回そうが単調な動きしか出来ない。

 フェイントを織り込んでこそ生きるのだが、所詮は武を修めてない魔術師が操る人形でしかない。

 だがリーンハルト殿のゴーレムの槍術は、古い型を多用していた。

 ゴーレムの足運びや距離や間の取り方、俺の剣の捌き方とか人形の動きではない。

 騎士団に所属するバーレイ男爵の息子なら多少の武術は修めているだろうが、現代の騎士の戦い方ではない。

 古の魔術師が好むゴーレム戦術に古武術の型か……何か関連が有るのだろうか?

 

「どちらにしても有能なのは分かった、だが今はウィンディアに任せておけば良い。問題は廃嫡後だな、取り込みは難しいか……

ルーテシアは無理だが、アーシャかジゼル位なら嫁がせても良いな」

 

 アーシャもジゼルも側室の娘だが俺の血を引いているし見た目も悪くない。年も近いし丁度良いだろう。

 未だ14歳でアレだけ戦えるのだ、廃嫡後にデオドラ一族に迎えても大丈夫だな。

 それと……あの何処にでも売ってそうな革鎧だが、相当の魔力が付加されている。俺が本気で叩いた衝撃を緩和していた。

 あれ程のマジックアーマーをあんな量産品に掛けるなど聞いた事が無い、必ず金を掛けるに値する素材を用意する。

 今風のデザインと造りだから遺跡からの発掘品でもないだろう。

 つまり、リーンハルト殿の周辺には魔力付加が出来る者が居るな。

 人間族では無理だろうからドワーフかエルフが手掛けたのだろう?ドワーフ工房『ブラックスミス』に聞いてみるか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵の屋敷を出て貴族街を歩く、最近バルバドス氏の屋敷を訪ねたばかりだと言うのに……

 ローブを目深に被り早足で歩く、早く帰ってイルメラに説明しなければならないな。

 指名依頼は『ブレイクフリー』ではなく僕個人にだ、つまりイルメラは対象外になっている。

 最初にオールドマン代表から話を持っていき、言質を取って断れない様にしてからデオドラ男爵の名前を出してきた。

 ウィンディアと二人で依頼を請けたからと言って原則男女混合パーティは当たり前だから、責任を取れ云々と強くは言えないだろう。

 未だ僕は貴族だしウィンディアは平民、デオドラ男爵の家来とは言え身分違いだ。

 

 途中で果物売りの屋台が有ったので冷やかしがてら覗いて見れば、朝採ったばかりの新鮮な果物が並んでいる。

 貴族街の端に店を出すだけ有り品質は良さそうだ……

 ライムとオレンジを五個ずつ買って銀貨三枚、市場の倍近いが仕方ないだろう。

 

 整備された石畳の歩道を暫く歩いていると我が家に到着、普段は図書館で自習して帰りは夕方だから早く帰ったら彼女は驚くかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま、イルメラ。今帰ったよ」

 

 玄関扉を開けて声を掛ける、暫くすると庭からイルメラが小走りに近付いて来た。

 どうやら洗濯物を取り込んでいたらしい、彼女は家事から料理までを一人でこなす万能メイドだ。

 

「早かったですね、何か有りましたか?」

 

「む、冒険者ギルドの代表に呼ばれた、僕個人に指名依頼が来たんだ。少し説明したいのだが……これはお土産だ」

 

「では紅茶を煎れますので応接室の方へ、頂いたオレンジは冷やして夕食後のデザートにしますね」

 

 僕は彼女には何故か勝てない気がするが尻に敷かれている訳ではないぞ。

 暫くソファーに座り待っているとイルメラが紅茶とクッキーを運んできた。クッキーは彼女の手作りだそうだ。

 

「む、サクサクして旨いな……後味がキリッとしているがジンジャーか?」

 

 最初は甘いが後からピリッとした味が舌に残る。

 

「はい、甘過ぎるのもどうかと思いまして……」

 

 紅茶を飲んでジンジャークッキーを三枚食べてから説明をする。

 

「実はな……」

 

 デオドラ男爵家での出来事、ボッカの襲撃からデオドラ男爵本人との模擬戦、そして冒険者養成学校で一緒のウィンディアの事。

 そしてルーテシアに興味を持たれた事をデオドラ男爵に知られた事。

 

「すみません、バンクで私が彼女達を助けて欲しいとお願いしたばかりに……」

 

 両手を膝の上に乗せて握り締め、弱々しい声で謝る彼女がとても幼く見える。

 

「バンクの件と今回の件は関係ないよ。原因は冒険者養成学校で派手に行動した僕の所為、つまり自業自得だな。

デオドラ男爵はウィンディアに有能な人材をスカウトしろと言い含めていた。

だけど彼女は僕の事を約束通り秘密にしたんだが、違う方面から情報が流れたんだ。

冒険者ギルドの代表であるオールドマンから漏れてしまっては何をしても無駄だよね。

まぁ冒険者ギルドも僕をデオドラ男爵に庇護させたかったか分からないが……

結果、デオドラ男爵はウィンディアが僕に嫉妬してると勘違いして仲直りと勧誘を兼ねて二人切りでの依頼を出した。

後は模擬戦で引き分けてしまったから、強さを求める一族だから注目されて当然だよね」

 

 ははは、と乾いた笑いをする。完全な自業自得だが状況を考えれば仕方ないと思いたい。

 

「だからイルメラが気に病む事は全く無い、分かったね?」

 

 黙って頷いてくれた、少しでも彼女の心への負担が減るなら僕は何でもするつもりだ。

 

「でもリーンハルト様は、その……ウィンディアさんと一緒に……」

 

「ビックビー討伐は基本的に夜襲だから夜営してる暇は無い。依頼品は女王の結晶だけど既に持ってるから大丈夫だ、何の問題もない」

 

 手順を間違えなければ危険な相手ではないし他に現れるモンスターもゴブリンだけだ、危険度は低い。

 ウィンディアも魔術師だし火力は多過ぎる位だ……

 

「では食事は多めに用意します、飲み物もデザートも……」

 

「ハンバーガーが食べたい。僕はイルメラの作るハンバーガーが大好きだ」

 

 空間創造の最大の恩恵は温かい食物や冷たい飲み物を何時でも食べられることに尽きる。

 状況によっては火を使えずに冷たい食事をしなければならない時もあるけど、このギフト(祝福)さえ有れば解決だ!

 

 そう言えば昔、能力の無駄遣いって言われた事が有ったな。

 良くマリエッタに「これだから王子様は状況や場所を考えずにグルメで困ります」とか呆れられた事を思い出した。

 


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