古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第528話

 フルフの街に到着、直ぐに領主の館に案内されて応接室に通された。暫くの休憩後、領主であるキャストン伯爵が挨拶に来るだろう。

 流れ的にはキャストン伯爵の歓迎の挨拶の後に、ロンメール様からの御言葉が有り晩餐会に流れる。晩餐会に参加出来るのは、ロンメール様とキュラリス様、それと僕の三人だけだ。

 正式に結婚式に招待された国賓は三人だけだし大臣達は実務者間の食事会兼交渉の場が有る。ロンメール様はアウレール王の名代だが僕は指名された、どうしても国外に誘導したかったのだろう、事前情報で暗殺計画も掴んでいる。

 

「これはこれは、芸術家と名高いロンメール殿下を我が屋敷に招けた事を誇りに思いますぞ」

 

「久し振りですね、キャストン殿。また一泊世話になりますよ」

 

 先触れで執事が訪問の旨を伝え、その後でキャストン伯爵が訪ねて来た。礼儀に則っている対応だ、特に不備も不足も無い。慇懃な態度だが、相手に悪感情を抱かせない。

 第四王女のミッテルト王女派か、それとも第三王女のパゥルム王女派か分からないが内政向きの優秀そうな人物だな。そして主賓への挨拶の後で、僕に値踏みの視線を向けて来たか……

 僕を子供と侮ったか?僅かでも心情を知られるのは外交的失点だよ。まず未成年が此処までの地位に登り詰めた事を怪しめよ、普通じゃないと分かっていた筈だぞ。

 

「お初にお目にかかる、噂のリーンハルト卿に会えるとは嬉しいですな」

 

 噂ね?昨日や一昨日の件も知っているのだろう、まさか第四王女がハニートラップ紛いな事を仕掛けて来るとか笑えない。そしてキャストン伯爵は、その王女様の仲間っぽい。

 

「リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイです。エムデン王国宮廷魔術師第二席の任に就いています」

 

 ロンメール様とキャストン伯爵は面識が有るみたいだが、僕は初めて会う相手だ。故に貴族的礼節に則り正式に礼をした。

 これには向こうも驚いたみたいだな、神経質そうな表情が崩れた。もっと強気な交渉をするとか思われたか?子供と侮っていた相手の態度に驚いたか?

 僕に対して色々な情報を仕入れていると思うが、武闘派の派閥No.4だから脳筋かと思ったか?いや違うみたいだな、弱小国家の伯爵に対して大国の侯爵待遇の僕が礼を尽くしたからだな。

 

 神経質そうな顔が僅かに笑顔になった。蝙蝠外交のツケか弱小国家だからか、甘く見られたりと酷い対応をされる事も有るのだろう。

 しかも自国よりも大国の力の象徴、短期間で宮廷魔術師第二席になった僕だから礼儀的な事や外交的な事は苦手と思っていた。増長もしていると考えていた、その僕が礼儀的な挨拶をする。

 残念ながら礼儀は尽くすが対応は悪いよ、僕等は貴方達の国を属国化しようと目論んでいるんだ。蝙蝠外交のツケを払って貰う、ウルム王国に組した責任は重いのですよ。

 

「見事な砦ですね。土属性魔術師として、錬金術を得意とする者としても興味深いです。パッと見だけですが、相当古い時代の魔法の残滓を感じますね」

 

「ふふふ、そうですか?我々も未だ調査が行き届かない部分も有るのですよ。古文書によれば昔は軍事要塞としても機能していたらしいのですが、規模が小さく拡張性も無い。

この岩山全体が川の流れで削られる事の無い様にか、強固な固定化の魔法が掛けられているので掘れないのです」

 

 自分の居城の不利益な情報を話すだと?公開されている情報なのか、それとも何かの伏線か?その表情から真意は読み取れないな。

 チラリと横目で見た、ロンメール様は苦笑している。腹黒い殿下からすれば、キャストン伯爵の会話の進め方は合格ラインには届いていないのかな?

 この殿下の人当たりの良さや人畜無害さは擬態だぞ、騙されると痛い目に遭うんだよ。腹黒で多分だが僕よりも冷酷だ、自国の為になら顔色変えずに、どんな判断でも下せるだろう。

 

「はい、それも感じました。凄い強度の固定化の魔法です、火属性魔術師のビッグバンやサンアローでも破壊するのは厳しいでしょうね」

 

 調査が進まないのは均一に強固に掛けられた固定化の魔法の所為だ、探索魔法で内部を探れない。均一だから内部に何か有っても調べる切欠すら掴めない、片っ端から壊して調べるには頑丈過ぎる。

 噂では幾つかの隠し通路や小部屋が見付かったらしいが、多分ダミーだな。攪乱用に分かり難い罠を幾つか仕掛けた記憶が有る、まぁ敵対派閥や諜報要員用に用意した餌だけどね。

 しかし本来なら機密事項である事を何故話す、何故話を振ってくる?何か意味が有りそうだが分からない。まさか古代の魔法やマジックアイテム好きな僕の為の懐柔策か?

 

「現代最強といわれた土属性魔術師である、リーンハルト卿なら秘密に辿り着くのでは有りませんか?」

 

 一瞬だけ目が細まった、回答を待つみたいだが期待と不安それに打算を感じたのは間違いかな?

 

「僕に調べろ?そう言う意味でしょうか?」

 

「ええ、どうですかな?」

 

 即答?まさか気付いている?僕がこの砦の建造に携わった事を……なんて事は無いな、僕は二百年以上前の屋敷の秘密を解き明かした実績が有る。

 此処でも跳ね上げ式の橋の金具の秘密を暴いた、その辺の話を考え合わせて砦の謎が解けるのでは?そう考えたな。

 もし食い付けば懐柔の取っ掛かりとなるし、王族の警護中に自分の欲望に流されれば評価が下がる。それに謎を解いても見付けたモノは、現在の領主であるキャストン伯爵かバーリンゲン王国のモノになる。

 好奇心は満足するがデメリットしかない、僕が魔法関連では自重しないと知っているからの罠か。勿論今夜調べるけど、残念ながら貴方達には内緒でだよ。

 

「魅力的な提案ですが、今の僕は任務中です。他の事に気を取られる事は出来ません、それに状況が許さないでしょうね。ですが、何時か叶えば良いとは思います」

 

 真面目な顔を心掛けてキャストン伯爵に告げる、状況が許さないは現状ロンメール様の警護中って事と……エムデン王国とバーリンゲン王国との関係を匂わせた、友好的には程遠いまやかしの中立。

 そんな相手の利する事を僕がすると思うか?確かに魔法関連には傾倒するが立場を弁える事は出来る、餌をぶら下げれば無条件に食い付くと思ったなら浅はかだよ。

 向こうも言葉に込めた裏の意味を理解したな、軽く頭を下げて謝意を表してくれた。政治的な僕の立場の悪化を招く事を知られたからの謝罪だな……

 

 後は今後の予定を確認し挨拶は終了、晩餐会の後は休んで終わり。明日からは森林地帯を通過する、距離の関係で一泊は野営になるが準備は万端だ。

 そして行きで仕掛けて来るなら最良の場所でもある、妖狼族の好む山林の中での野営だ。月の眷属は夜の種族でもあるし様子位は見に来るかな?

 どちらにしても油断はしない、襲撃されれば捕まえて一方的に証拠を押さえての開戦も有りか?未だ少し弱いかな、やはり王都までの道順や国家の中心に居る連中の雰囲気を掴んでおきたいな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 堅苦しい晩餐会を終えて強制的な風呂にも入った、他国故に入浴の手伝いは不要と一人でゆっくり入れたので少しはリラックス出来た。

 まぁ全裸の入浴時が一番無防備になるのだが、アインやツヴァイ、それにドライが警備してくれるので大丈夫だ。イーリンの手伝いましょうか?提案には本気で叱った、未婚の淑女が何を考えているんだ!

 ゼクス達はイーリンとセシリアの警護に回した、ユーフィン殿が羨ましそうにしてイーリン達がドヤ顔で自慢していた。チラリと僕を恨めしそうに見たのは、仮初めでも婚約者の私を優遇しろか?

 

 だがユーフィン殿にはローラン公爵が手配した護衛も居るから、余り僕が構い過ぎて彼等の仕事を奪うのも問題だ。

 そして貴族令嬢のイーリンとセシリアだがメイド服を着てやがる、しかも似合ってるしゼクス達とお揃いだし。何故かと言えばゼクスが彼女達に渡したから……

 アイン達とは違う方向にゼクス達も成長している、僕はそんな機能は組み込んでないし期待もしてない。だが日々成長する娘達を見るのは少し嬉しい、これが親心ってヤツか?

 

「漸く自由な時間が取れたな……」

 

 僕には人間の護衛は居ない、イーリン達は隣の控え室に居るけど用が無ければ来ない。アイン達が警備するこの部屋に突入する事は不可能だろう、だから探索は可能だ。

 グルリと部屋を見回す、此処は貴賓室に当たる重要区画。故に地下の施設に移動する為の入り口は個室に設置した、廊下や広場だと誰が見てるか分からない。

 秘匿性が重要だし、大勢が一度に出入り出来る大門も用意している。当然だが、コウ川の先に行ける脱出通路も有る。

 

「この部屋だと……此処だな」

 

 部屋の隅に有る壁を触ると過去に細工した秘密の入り口だと分かる、開ける為には壁に魔力を通して開口部に作り替える事だ。

 厚さ30㎝の固定化を重ね掛けした壁だから入り口だとは気付かれない、扉自体が無いのだから探し出すのは無理だろう。

 魔力探査で魔力構成を探り、干渉して上書きし開口部に錬金し直す。中には幅1m程の通路になっていて、少し先に縦穴が有り梯子で下に降りる構造になっている。

 

 通路に入り開口部を壁にして塞ぐ、流石に見られたら誤魔化せないからな。仮に僕が居なくても誤魔化せるが、秘密の通路が有りましたじゃ無理だ。

 魔力による光球を照明代わりにして20m程進む、三百年以上手入れをしてない為か埃っぽいな。暫く進むとポッカリと真っ黒な口を開く縦穴開口を見付けた、深さは80m以上有るのに梯子で降りるから体力を使う。

 だが僕には黒縄(こくじょう)が有る、身体に纏わせて下ろす事が可能なんだ。転生前は頑張って梯子を使ったのに、一気に楽になったモノだ。スルスルと真下に降下する、三分程で足が床に着いた。目的地に到着だ……

 

「此処が大広間だったかな?記憶が曖昧だけど、確か軍艦も何艘か繋留させていた筈だ。だが少し暗いな、魔力の光球よ!」

 

 五十個程の光球を周囲に浮かべてクルクル回した後で、均一に天井付近に浮かべる。漸く全体が見渡せる程に明るくなったが、懐かしい。確かに記憶に残る風景のままだ……

 剥き出しのゴツゴツとした岩肌、南側の下流側に軍艦が二艘。何艘か無くなっているのは出撃したのか?残っていた軍艦は河川専用で外洋には出れない、だが固定化の魔法を重ね掛けしたから防御力は高い。

 帆は補助でオールを使い漕ぐタイプだが、ゴーレムを使えば人力より遥かに速度が出る。主に資機材の搬入出や脱出用で戦闘には使わなかった筈だったか?

 

「さて、大広間はどうだろうか?」

 

 パッと見回しても大広間には軍艦以外は何も無い、隅の方に待機小屋や倉庫が幾つか見える。その先に居住区に続く入り口が有るが、扉が開けっ放しだな。

 先ずは待機小屋の中に入る、二十人以上が入れるスペースに六人用のテーブルが四組。幾つかの椅子が倒されているし配置も乱れている、中身が無くなった食器類も散らばっているし……少し嫌な予感がしてきたぞ。

 更に隣の倉庫の中を確認する、予備の帆やロープ。整備用の錆びた工具類が整然と並んでいる、此処は荒らされてないが傷みも激しい。

 

「次は居住区か……」

 

 居住区、厨房に大食堂、十人用の大部屋にトイレ、大浴場と倉庫類が一般兵の区画。貴族や士官達は専用の食堂やトイレ、それに個人用の浴場や娯楽室等が与えられていた。

 後は作戦室や会議室、資料室等の軍事関連の施設。それと一番大切なのは、この軍事要塞の制御室だ。僅かに残る警備装置や隠し通路等を維持する為の魔力を確保している制御用の魔力石と制御装置。

 その制御装置を今の僕の魔力反応に書き換えて、この地下要塞を自分の管理下に置く。それが最大の目的だ、余談だが軍資金用の金庫も有し更に隠し金庫も有る。

 

 それら重要区画のセキュリティーも管理している、つまりは魔法による施錠と防犯装置の管理をしているんだ。財貨は無くても管理システムが貴重な資料になる。

 最初は宝探し気分だったが、大広間の乱雑さや休憩室の散らかし方を見ると最悪の予想をしてしまう。過去の僕の配下の手掛かりとかを見付けてしまったら?

 

「僕は冷静で居られるか自信が無いな……」

 

 少しずつ改善されているとは思うが、僕は未だ精神的に弱い。特に転生前の事に関わると涙腺が弱くなるんだよな……

 


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