古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第519話

 ロンメール殿下を主賓に据えたエムデン王国の使節団が我が国にやって来た。他にも過去に模擬戦で負けた相手、リーンハルト殿も名指しで指名して主賓として招待した事に国家の思惑を感じる。

 能力や思考の調査、可能ならば引き抜きだろうか?過去に他国の宮廷魔術師を引き抜いた事例など幾らでも有る。

 有るのだが、余りあるメリットを提示されたからだ。エムデン王国よりも弱小であるバーリンゲン王国に引き抜かれるとは思えない。

 

 何よりアウレール王の一番の忠臣といわれたリーンハルト殿が裏切るなど考えられない。大国の宮廷魔術師第二席を引き抜ける条件すら思い浮かばない、権力?財産?女性?どれも無駄だと思うわ。

 今回の結婚も私は反対だ、悲しいかなバーリンゲン王国は小国故に大国の間を上手く渡り歩かないと滅んでしまう弱小国家。

 それを過去に滅んだコトプス帝国と縁が深い、シュトーム公爵の長男であるレンジュ殿を我がバーリンゲン王国の王族の一翼に迎えようなど……

 

 第五王女のオルフェイス様は未だ八歳、レンジュ殿は二十八歳。政略結婚に年齢など関係無いが、オルフェイス様は未だ異性を受け入られる身体ではない。

 未婚の二十歳の第三王女のパゥルム様や十四歳の第四王女のミッテルト様を断り、八歳のオルフェイス様を指名するなんて、レンジュ殿は幼女愛好家の変態性欲者だ!

 この結婚は祝福出来無い、我が王は何を考えていらっしゃるのだろうか?エムデン王国と戦争状態になれば、我が国の未来は……

 

「ほぅ?漸く来たか。この俺を待たせるとは罪作りよな。早く我が愛しい婚約者に会いたいのだ!」

 

「同行者で宮廷魔術師はリーンハルト殿だけと聞いていたが、魔力を隠蔽してるとはな。臆病者なのだろう、エムデン王国の宮廷魔術師第二席殿も大した事は無いな」

 

 この妄言を吐いて笑い合う男二人が頭痛の種、正式に断られているのに未練たらしく言い寄る馬鹿な小太り禿がレオニード公爵の息子である、サルカフィー殿。

 大言壮語の自信過剰、だけど私よりは実力が有るバーリンゲン王国宮廷魔術師第二席、『炎波』のペチェット殿。同じ火属性魔術師、炎の壁という面攻撃が可能な次期宮廷魔術師筆頭予定の嫌な男。

 未だ三十代半ばの見た目は良いので国内での人気は高いが、性格が自信過剰で傲慢な嫌な奴。同じ宮廷魔術師第二席で次期宮廷魔術師筆頭予定の、リーンハルト殿を一方的にライバル視している。

 

「サルカフィー殿、ユーフィン殿に絡むのは今は止めて下さい。私達は、エムデン王国使節団の護衛と案内役として来ているのです。ペチェット殿も、リーンハルト殿に絡むのは止めて下さい」

 

「ふむ、特定のお相手の居ないフローラ殿では男女の機敏は難しいでしょうな。ユーフィン殿は照れているだけで、我が婚約者に変わりないのですよ」

 

「俺が絡む?格下に絡むかよ、だからお前は弱いんだ。あんな格下に負けやがって、バーリンゲン王国宮廷魔術師の面汚しが!」

 

 唾を吐き散らす馬鹿と自分の能力を把握出来無い馬鹿、直接戦った私には分かる。ペチェット殿ではリーンハルト殿には勝てない、何を根拠に勝てると夢を見た?

 だけど我が栄光のバーリンゲン王国宮廷魔術師は、筆頭のマドックス様以下十人。高齢のマドックス様は同じ火属性魔術師の中で一番強いペチェット殿を次期宮廷魔術師筆頭として明言した、故に増長が酷い。

 そんなペチェット殿だが戦争の切り札的な扱いなので、余り実戦経験を積んでいない。お膳立てされた場所に、安全を配慮された上で大規模殲滅魔法を撃ち込むだけ。

 

 それではレベルは上がるけど本当の実戦経験は積めない、安全圏から一方的に攻撃するだけなんて命の危険が無い、故に危機感が無い。

 命の遣り取りを経験していない者が、戦う者として認められる訳が無い。私だって野盗の討伐や少数部族との戦いに最前線で参加して掴んだモノが有る。

 純粋培養で温室育ちのペチェット殿は確かに才能は豊かだしレベル62と高い能力を持ってはいるけど……なっ?何をしてるんですかっ!

 

「魔力の完全解放とか、敵対行動と思われます!止めて下さい」

 

「ははは、魔力の隠蔽など姑息な奴に俺との力の差を教えているんだ。レベル52?宮廷魔術師にしては低い、低過ぎる。魔力に殺気は練り込んでないから良いだろ?

此方の戦力を示す魔力の解放は、俺との戦力差を否が応でも分からせる為に必要なのだよ」

 

「ほほぅ?これが魔力によるプレッシャーですか……なるほど、胸が押し付けられる不快感ですな」

 

 確かに魔力の隠蔽は誉められた行動ではない、だが完全解放も同じ事。相手はエムデン王国王位継承権第二位の、ロンメール様も居るのよ。

 

 こんな示威行為が認められる訳が無いわ!

 

 即開戦とは言わないが、相手だって文句の一つは言うだろう。周辺の部族勢力が不穏な動きをしているのに、エムデン王国に喧嘩を売るみたいな行動は止めて欲しい……

 だが、相手は此方の挑発に乗ってしまった。ペチェット殿より膨大で攻撃的な魔力、こんなに強かったの?

 

「ぐっ、これがリーンハルト殿の魔力の完全解放?凄いプレッシャーだわ、前回の模擬戦の時とは比較にならない巨大な魔力の奔流……」

 

「くそっ!何だよ、何なんだよ。この俺より魔力総量が倍以上も多いとか有り得ないだろ!イカサマだ、こんな事って教えて貰ってないぞ」

 

「あがががが……」

 

 飲まれる、呑み込まれてしまうわ。これ程の魔力を身に付けているなんて、本当にレベル52なの?どう見てもレベル100オーバーでしょ?

 今回は遠慮無しなのだろう、王族が同行しているのだから舐めた真似はするなって警告を含んでいる訳ね。

 悠然と馬に乗って単騎で近付いて来るのは、場合によっては許さないって事。膨大な魔力に濃密な殺気も込めている、サルカフィー殿は恐怖で顔面蒼白だわ。金魚みたいに口をパクパクさせているし。

 

「ご、誤解を解かないと……私達はエムデン王国に喧嘩を売って、ませんと……私が、言わないと……駄目なのよ」

 

 ガクガク震える膝に力を入れて何とか耐える、私が跪いてしまったら……栄光有るバーリンゲン王国宮廷魔術師が、エムデン王国の宮廷魔術師に屈した事になる。

 同じく耐えてリーンハルト殿を睨み付ける馬鹿な同僚の脇腹に、手に持つロッドの先端を突き入れて敵愾心丸出しを止めさせる。

 この馬鹿が涙目で私を睨み付けるが無視する、とにかく今はリーンハルト殿に誤解だと言わねばならないから……

 

「久し振りですね、フローラ殿。中々楽しい出迎えですが、趣向を凝らしてくれたのは其方の方でしょうか?」

 

 嗚呼、笑顔って脅迫だったのね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モレロフの街の前で出迎えてくれてるのかと思った、バーリンゲン王国宮廷魔術師第八席、フローラ・フォン・テュース殿の隣に並ぶ男が、魔力を完全解放しやがった。

 殺気は込められてないが膨大な魔力のプレッシャーに、馬が怯えて隊列が僅かに崩れる。このタイミングで威嚇行動とはな、呆れてモノが言えないが未だ足りない。

 この程度では嫌みや文句は言えども戦争の切欠としては弱い。遠目でも分かるニヤけた顔を見れば、これが国家的思惑なら威嚇行動、個人的行動なら自己顕示欲だと分かる。

 チェナーゼ殿に一声掛けてから、ロンメール様の乗る馬車に近付く。途中で窓を開けたのは、僕が来るのが分かったのだろうか?

 この品行方正で人畜無害を装う王位継承権第二位殿は、結構腹黒く謀略好きだ。エムデン王国の王家の闇の為に、王位継承権第一位のグーデリアル様の予備として行動している。

 

「リーンハルト殿、前方から不快なプレッシャーを感じますね」

 

「どうやら、バーリンゲン王国の宮廷魔術師らしいです。隣に前に会った第八席殿も見えますが、困惑してますね」

 

「私に対する威嚇行動と捉えても良いですね。だが未だ弱い、文句は言えども開戦理由には弱い」

 

「ロンメール様に対する威嚇よりも、僕に対する牽制かな?魔術師として力量を問われた、ならば応えるのみです。少し暴力的なプレッシャーを発しますので御容赦下さい」

 

 そう断りを入れて隊列の先頭まで移動する、途中で女官のベルメル殿にも断りを入れておく。僕は未だ指向性の有る殺気は発せられない、何となく前方に殺意を向けるだけだ。

 これ見よがしに魔力の放出を続ける馬鹿にはお仕置きが必要、フローラ殿の慌て方が奴の単独行動だと確信した。

 高位魔術師にはたまに居る、自信過剰な傍迷惑な奴がな。だがこれも社会勉強だと思って諦めろ、お前は威嚇だが僕は喧嘩を売りに来たんだ。

 

 隊列の先頭まで来た、左右に副官のグリーグ殿とボルグ殿が控える。事前に護衛部隊の騎馬を抑える様に言っておく、僕が魔力を解放すれば此方の馬も驚いてしまう。

 だから馬から降りてもらい、愛馬が興奮したら宥める様に頼んでおく。ここで馬が暴走とかしたら笑えない、だがこれで準備は整ったぞ。

 隊列を止めて自分だけ10mほど前に出る、相手との距離は大体50m位かな?心の枷を外し体内に向けていた魔力を前方に向けて放つ、勿論だが殺気を込めてだ……

 

「久し振りの完全解放だな。エルフ族のレティシアやファティ殿にしか向けてないのに、人間相手は初めてだから感激にむせび泣け!」

 

「さ、流石はリーンハルト殿ですな。直接浴びせられてないのに、身体が硬直する」

 

「気を抜くと倒れそうだ……これが武闘派の№4の実力か、戦場ならば動けなくなり負け確定だぞ」

 

 一番近くに居た、グリーグ殿とボルグ殿も硬直している。サリアリス様には及ばないが、僕の殺気を込めた魔力完全解放も中々みたいだな。

 馬ゴーレムをゆっくりと前進させる、更に魔力を練り込み放出する。相手との距離は30m、フローラ殿の隣にいる三十代の美形が僕の敵だな。

 その隣の豪華な服を来た太った中年男性は大臣かな?グラグラと身体が揺れているが、先に敵対行動を起こしたのは其方だぞ!

 

 更に馬ゴーレムを進める、距離は20m。ついに太った中年男性は膝をついた、此方を見る目に怯えが滲む。此方に魔力を放出したが、魔術師は頑張って耐えている……ふむ、ではその心意気に敬意を評してプレッシャーを集中しよう。

 前方に広範囲に放っていた魔力を魔術師の男に集中する、馬ゴーレムを進める事により更にプレッシャーが集中するだろう。

 手に持ったスタッフを支えに何とか膝を付かずに耐えている、迂闊な行動をした男だが評価を少し上げた。

 多分だが、フローラ殿よりは上位の宮廷魔術師だろう。額に脂汗を滲ませているが、戦意は失っていない。強い意志は魔術師として必須、侮(あなど)ると手痛いしっぺ返しを食らうか……

 

「久し振りですね、フローラ殿。中々楽しい出迎えですが、趣向を凝らしてくれたのは其方の方でしょうか?」

 

 固まった笑顔を向けるフローラ殿に黒いと評価された笑顔を浮かべて話し掛ける。ゴーレムとはいえ馬上からの詰問調の会話だったな、反省して魔力の放出を止めて馬ゴーレムから降りる。

 太った中年男性が跪いたまま荒い息をしている、見回せば警備兵達も全員挙動不審だ。僕も魔力を練り込めば殺気による威嚇も可能みたいだが、使い勝手は悪い。

 さて、今回の件の真意を聞いてみるか。他国の王族に対して敵対行動とも取れる事をしたんだ、悪戯とかじゃないだろ?

 




日刊ランキング五位、有難う御座います。

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