古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第515話

 バーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様と、ウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様との結婚に名指しで招かれた。

 ファティ殿からの情報によるとバーリンゲン王国内の獣人族の『妖狼族』の一部が、旧コトプス帝国の策略により僕の暗殺に動いているらしい。

 動機と理由は自分達種族の待遇の改善と向上、それと次期族長争いらしく血の気の多い若手連中が暗殺計画を主導している。

 

 もう一方の獣人族である『魔牛族』の方は、レティシアの友人であるミルフィナ殿が族長の娘らしく交渉の余地が有るのが救いだ。

 バーリンゲン王国内にもケルトウッドの森にエルフ族の里が有り、ゼロリックスの森のエルフ族とは交流が有る。

 人間を嫌うエルフ族だが、レティシアとファティ殿が不要な干渉はしない様にと一報を入れてくれた。

 

 元々は人間の事には不干渉が基本だが、獣人族が絡むと種族間の交流が有るから微妙らしい。だから変に干渉しない事だけでも有り難いんだ。

 これでバーリンゲン王国と暗躍する旧コトプス帝国の残党に唆(そそのか)された『妖狼族』の対処だけで済む。

 今回はバーリンゲン王国に上品に喧嘩を売る様に、アウレール王から王命を受けている。

 

 なので喧嘩を売るネタは多い方が良い、ユーフィン殿の件と『妖狼族』の件は使える。

 流石にユーフィン殿の婚約者として、レオニード公爵の縁者であるサルカフィー殿に喧嘩を売るだけじゃ理由としては少し弱いと思っていたんだ。損得勘定で考えればサルカフィー殿を切り捨てて時間稼ぎも考えられる。

 だから自分の暗殺の件は使える、相手は『妖狼族』絡みだから暗殺計画自体の中止は無いと思っている。貴族待遇でもてなす部族の不祥事だから、バーリンゲン王国にも付け込む隙が有る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いよいよバーリンゲン王国に乗り込む日が来た、僕としては結婚を祝う呑気な外遊でなく戦争の為の準備の仕込みだ。

 国賓として招待されたのが、ロンメール様と側室のキュラリス様。それと異例の名指しで招待されたのが、エムデン王国宮廷魔術師第二席の僕だ。

 僕を含めた三人が国賓として招待された、本番の結婚式に出席出来るのも僕達だけだが少数の側近や護衛は伴える。

 

 今回のメンバーだが総責任者として、ベルメル殿が同行し全体を取り仕切る。僕は賓客の一人だが、警備責任者も兼任する。配下は百人、主にはロンメール殿下の護衛だが同行者の護衛も含む。

 別働隊の護衛として隊列の前後に騎兵隊各百騎が、別の指示系統で同行する。露払いと殿(しんがり)だな。

 エムデン王国の領内の移動中は、通過する各領地の領主達が私設軍を案内と護衛として同行させる。だがバーリンゲン王国領内に入れば、このメンバーで対処しなければならない。

 

 ベルメル殿の配下の女官達だが、王族の方々の身の回りの世話を担当するのは、スプルース殿で配下の女官達は彼女を含めて十二人。

 三十代半ばの落ち着いて優しそうな雰囲気の女性だ、大きなタレ目が特徴だな。

 スプルース殿達が世話をするのは、あくまでもロンメール様とキュラリス様だけだ。僕を含む他の同行する大臣達の世話は別の侍女達が行うか自分で用意する。

 ロンメール殿下達以外の世話をする侍女達は三十人前後になるが、管理は僕じゃなくベルメル殿になるだろう。また上級貴族は自分の配下を同行させる事も有るが、その場合の管理は自己責任だ。

 

 次が衣装担当のミナリエル殿で、同行する女官達は八人。彼女達はロンメール様とキュラリス様の衣装担当だ、何回も衣装替えが必要だから荷物は多い。

 しかも高価な品物ばかり扱うから大変だろう、やはりベルメル殿と同世代の三十代半ば、この中では一番ふくよかだ。

 十五歳で結婚し六人の子供を育てた偉大な母親でもある、母性と包容力が半端無い。

 

 食事関連の責任者はシレーヌ殿、配下の女官は六人。二十代後半位だが細目で神経質そうな感じだ。

 滞在先でも食事は用意されるが、自前で用意する場合も必要。それに出された料理の毒味役も兼ねている。

 三食常に警戒しなければならない、有る意味では一番大変な部隊だ。流石に手伝う事は出来ないが、頼まれれば協力は惜しまないつもりだ。

 

 警備責任者のチェナーゼ殿と配下の女性警備隊は二十人、所謂(いわゆる)武装女官隊みたいな存在だ。

 チェナーゼ殿は相当鍛えられた肉体をしている、髪を短く肩の上で切り揃えている冷徹そうな美人だ。

 女官服を無理矢理着させられている感が凄い、普段は後宮警護隊と呼ばれる武装メイド達が配下なのだろう。

 

 彼女達は魔法兵も居るし忠誠心は近衛騎士団にも劣らない、そして何故だか分からないが全員が美女なんだ、見栄えも必要なのだろうか?

 女性だけに必要な警備状況が有る、今回はキュラリス様も護衛対象だからな。

 後は僕の配下は全員が男だし、女官達の警備も含むが守れない時と場所も有るから重要なんだ。

 

 最後に僕の仮初めの婚約者でもあるユーフィン殿、貴重品の運搬担当で空間創造のスキル保持者でもある。

 衣装担当のミナリエル殿が直属の上司になるらしい、彼女達が使う衣服や装飾品を空間創造に収納してるからだな。

 他に二人の大臣が同行するが、祝辞やその他の行事はロンメール殿下が行うので裏方の調整役だ。彼等にもアウレール王が直々に今回の趣旨を説明しているし、僕に対して比較的に友好的らしいのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 他国の結婚式に招かれる、公式行事だが国民の意識高揚にはならない。故に出陣式みたいな事はせず、王宮内の広場に全員が集まり粛々と出発するだけだ。

 先導は騎兵部隊百騎、次に歩兵五十人、近衛騎兵隊に守られた同じ仕様の大型馬車が六台。ロンメール殿下とキュラリス様は毎回順番を変えて違う大型馬車に乗り込む、これは標的となる彼等の乗る大型馬車を特定させない為だ。

 他の大型馬車に乗るのは大臣とベルメル殿以下の女官達と上級侍女達だ、その後に物資を積んだ馬車。更に後ろには同行する連中の世話をする侍女達が乗る馬車が続く、此方の馬車には大臣や僕が個人的な世話をさせる侍女達も含む。

 

 つまり僕の世話役と諜報要員として同行する、イーリンやセシリアは此方の馬車だ。勿論だが僕謹製の特殊な馬車だし、護衛としてゼクス達五姉妹も同乗している。

 ゴーレムクィーン三体はロンメール殿下の馬車に護衛として同乗させている、因みに僕は護衛部隊の指揮官として騎乗している。

 行きの道中で襲撃は無いと思うが、騎乗しながら周囲を確認したいんだ。馬車の中からだと窓からしか見れない、それでは情報が限られるのだが……

 

「失敗した、国境を超えてから騎乗するべきだったか?」

 

『リーンハルトさまぁ!私をお側に置いて下さい』

 

『英雄様だ、リーンハルト様だぞ!急げ早くしろ、見れなくなるぞ』

 

『リーンハルト様、こっちを見て下さい!私をお屋敷で働かせて下さい、お願いします』

 

 商業区に入ってから歓声が凄い。人気者なのは嬉しいが、今回はロンメール殿下が主役なのに僕にだけ黄色い歓声が集中するので困る。

 これには同じく騎乗し並んでいる、チェナーゼ殿も苦笑いを浮かべている。ロンメール殿下が主役なので、不敬とか思われたくはない。

 だが無愛想に無視も出来ず、子供達や年配の御婦人達とかには軽く手を振って応える。流石に出発の日時等は公布してないから数は少ない。

 

「流石は国民に大人気のリーンハルト殿ですね、正直羨ましいです」

 

「茶化さないで下さい、慣れないと恥ずかしいんですよ。しかもロンメール殿下がいらっしゃるのに、僕だけ声援を貰うのも困りますし……」

 

「私も武人だからな、偉業を成し遂げて凱旋したリーンハルト殿には憧れる。しかし近衛騎士団と聖騎士団としか模擬戦をしないのはどうかと思う、私達とも模擬戦をお願いしたい」

 

「私達って、後宮警護隊とですか?王宮内の武装女官達と模擬戦は、色々と問題が生じますよ。勿論ですが、貴女達の武力は疑ってませんが口を挟む馬鹿も多いですから……」

 

 最初はお世辞か冗談かと思ったが、真面目な顔で模擬戦の申し込みがきた。後宮警護隊は近衛騎士団や聖騎士団と違い魔法戦士が多い、筋力の低さを補う為に多彩な武器や魔法を使うからだ。

 王宮内という限定空間で最大限の戦力を発揮する守りに重きを置く淑女達だ、逆に両騎士団は場所を問わず攻撃に重きを置く紳士達だ。

 見目麗しい淑女達と模擬戦とはいえ戦う事は、フェミニスト達からは理由はどうあれ叩かれる。多分だが貴族の紳士とは云々(うんぬん)だな、彼女達も戦う者なのに全否定して変な擁護をする。

 

「それでは内密で場所を用意すれば……」

 

「見目麗しい貴女達との密会だと騒ぐ馬鹿も居ます。アウレール王が認めない限りは無理じゃないかな、僕も政治的地盤の固まらない時に不用意な行動はしたくないです」

 

「政争ですか……リーンハルト殿は王宮内での活動に異様な慣れを感じます。リズリット王妃が多才で一を教えれば十を知る天才と言うのも納得しますね……それでも私達はリーンハルト殿と戦いたいのです」

 

 む、ジゼル嬢やザスキア公爵、レジスラル女官長以外にも、僕の事を怪しむ連中が居るのは間違い無いな。だがわざと失敗する事の方がデメリットが多かったんだ、一つの失敗が連鎖するし付け込まれる。

 そんな魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣窟では、呑気な事は出来無い。隙を見せずに完璧でなければならない、普通に考えれば元新貴族男爵の長子には経験不足で無理だよな。

 モリエスティ侯爵夫人に教えを請い指導して貰った事にしているが、短期間では不可能だと思われている。自分でも無理だとは思う、二十年以上王族として振る舞っていた結果と実力だ。

 

「ウルム王国との戦争が一段落すれば、アウレール王にお伺いを立てて許しを乞いましょう」

 

「模擬戦は待ちます、ですが待てない事がもう一つあるのです」

 

「待てない事、ですか?」

 

「そうです!来年度の予算に申請しますが、私達にもドレスアーマーを錬金して欲しいのです。私達は仕事柄、全身甲冑は無理なのです。

ルーシュやソレッタが自慢する、リーンハルト殿謹製のドレスアーマーが欲しいのです!」

 

 おっと、またマジックアーマー絡みか……近衛騎士団も聖騎士団も固定化の魔法を掛ける事になったが、まさか後宮警護隊までとはな。

 ルーシュやソレッタの名前を出した事を考えれば、彼女達は知り合い以上の関係。呼び捨てられる仲なのだろう、しかしルーシュとソレッタも自慢はしないで欲しかった。

 確かに後宮警護隊は全身甲冑は無理だ、侍女服や女官服の下に軽装鎧を着込むだけだろう。ドレスに部分甲冑を組み込んだドレスアーマーは、後宮内でもギリギリ着用OKなのかな?

 

「一式金貨三万枚、それに個人で不足分を補います。ですから私達に、リーンハルト殿謹製のドレスアーマーを錬金して頂きたいのです」

 

「チェナーゼ殿、頭をあげて下さい!往来で不味いです。ライル団長達にも言いましたが、既得権絡みを整理して貰えるなら良いですよ」

 

「そうですか!私達は特定の鍛冶ギルドから納品していませんから大丈夫です。個人装備は予算を申請し自分で使い易いモノを調達するのです」

 

「つまり完全なオーダーメイドですか?各個人の要望に合わせると時間が掛かりますよ、規格を統一しないと一ヶ月で数人かな……」

 

 何時も厳しい表情を浮かべるチェナーゼ殿が、花が咲き誇ったみたいな笑顔を浮かべているけど……理由はマジックアーマーが欲しいって、色恋沙汰とは対極の願い(物理的欲求)なんだよな。

 自分が錬金した高性能の武器や防具は王宮内での地盤固めに利用する予定だから思惑通りなのだが、予想以上に大事になってしまった。

 エムデン王国の主要な武人達の武器や防具を一手に扱うともなれば、帰ったら鍛冶ギルドに行って話し合いをしないと駄目かもしれないぞ。

 


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