古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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GW特集として本日4/27(木)から5/7(日)まで連続投稿をします。


第七部
第514話


 ウェラー嬢とユーフィン殿の仲違いの回復は無理だった、可愛い嫉妬や対抗心かと思ったが微妙に違うっぽいし根が深そうだ。

 まぁ今度二人が会う時に僕が同席する機会など無いだろうから心配は少ないと思う、ユーフィン殿とは今回の件が終われば婚約は破棄されて縁は薄くなるだろう。

 逆に彼女達を放置して、自分の気持ちを改めて見直せた事が良かったかな。他人を不幸にしても自分の幸福を求める、人としては最低だが今更手垢の付いた妙な正義感など欠片も無い。

 

 そもそも転生した事自体が人の理(ことわり)に反しているんだ、今更何を取り繕う必要が有る?大切な人が出来たんだ、迷いは捨てるべきだ。

 実の父王に権力絡みの抗争で謀殺された事も軽くは見ない、転生前に近しい立場と権力を得たんだぞ。

 同じ失敗はしない、油断も慢心もしない。敵に情けはかけないし憐れみや慈悲から判断も間違えない。僕は我が儘に生きる、後悔しない為にも……

 

「ありふれた幸せを願うのは難しい事だな、皆仲良く幸せにとか理想より無謀か……結局は自己中心的な行動をしない限りは無理、自分を優先し味方の連中と幸せを共有する事が手一杯か。酷い奴だな、僕ってさ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 政務に追われ明後日にはバーリンゲン王国へ向かう、ゆっくり出来るのは今日と明日だけだ。仕事は屋敷に持ち帰ったし、此方に届いていた親書も多い。

 昨日は丸一日、自分の屋敷の執務室に籠もる事になろうとは……恥を忍んでジゼル嬢に助けを求めて正解だった。

 仕事は正解だったのだが……まさか遅くなり過ぎて安全の為に泊まっていく事になろうとは!アウレール王も結婚を認めた婚約者だし、既にドラゴン討伐で一緒に何日も泊まった事も有るから対外的にはギリギリ許容範囲か?

 

「添い寝、五人で添い寝。僕は多数との添い寝大好きの変質者、しかも謎の魔香の恩恵も授かる変質者……」

 

 イルメラ+ウィンディア+アーシャの魔香の効果は、全知全能感と多幸感だった。

 イルメラ+ウィンディア+エレさんの魔香の効果は、冷静沈着と寡黙だった。

 ならば、ジゼル嬢+アーシャ+イルメラ+ウィンディアの魔香の効果は……特に感じない、こう心の奥底から溢れてくるナニかを全く感じないんだ。

 

 添い寝の魔香効果は相手が三人限定か?二人や四人では効果が無いみたいだ、だがジゼル嬢に三通りの添い寝を試したいと言ったら?

 ジゼル嬢+アーシャ+イルメラ、ジゼル嬢+アーシャ+ウィンディア、ジゼル嬢+イルメラ+ウィンディア。この三通りの魔香の効果を試したいが流石に無理かな?

 でも偶然に添い寝になった場合、効果を理解しておかないとヤバい事になりそうで怖い。取り返しのつかない失敗をしそうなんだ、交渉事の前に寡黙の効果で一言も話せないとか交渉決裂で間違い無いと思う。

 

 親書を書き過ぎて痛む腱鞘炎の部分に回復魔法を掛けて痛みを和らげる、笑い話じゃないがペンダコも大きく固くなっている。これは怪我じゃないから回復魔法じゃ直せないんだ。

 意識を周囲に向ければ、時間帯は未だ深夜だな……窓の外は真っ暗なのかカーテンの隙間から光は差してこないし、屋敷の中も静まり返っている。

 時計を見たくても両手はガッチリと抱き締められている、左右の腕にはジゼル嬢とアーシャ、両足にはイルメラとウィンディアか?胸部装甲の薄い夜着は僕の目と感触を喜ばせてくれる、最近だが夜着のバリエーションが増えたんだ。

 

「両手両足が柔らかいナニかに包まれている、幸せだ。男の本懐、ここに極まれり」

 

 控え目な四人の体臭を胸一杯に吸い込む、嗚呼……新しき性癖が満たされている、端から見れば殆ど変態だが事実なので許容しよう。

 僕は好意の有る異性の体臭が大好きな変態性欲者、もうヘルカンプ殿下やガルネク伯爵を幼女愛好家の変態と非難出来無いな。

 だが対外的には隠せるから平気の筈だ、こんな性的嗜好の持ち主だとバレれば良い体臭持ちの淑女達が群がって来るだろう。それはマイナス評価でしかない……

 

 手足は身動きが出来無いので唯一動かせる首から上、左右に頭を動かすと近い位置にジゼル嬢とアーシャの顔が有る。

 残念ながら暗いので輪郭しか分からない、暫く見詰めていると暗闇に目が慣れたのか徐々にはっきり見えてきた。

 ジゼル嬢は僅かに唇を開けて寝るんだな、規則正しい寝息と仄かに香る口臭。いや吐息も良い匂いだ、今の僕は自覚の有る完全な変態だよ。

 

「過去では得られなかった幸せ、人は一度でも幸せに身を浸すと失う事を極端に恐れる。理解したよ、だから足掻くし努力する」

 

 その方向性が善か悪かは別問題だけどね、僕は確実に後者だな。さて、未だ三時間以上は寝れそうだ。今はこの良い匂いに抱かれて寝よう、良い夢が見れそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 目覚めの切欠は誰かに優しく身体を揺すられたからだ、ゆっくりと意識が覚醒する。既にカーテンは開けられ、外から眩しい陽光が差し込んでくる。今日は快晴みたいだな。

 愚図る瞼(まぶた)を何とか開けば、ぼんやりと周囲の景色が見える。フカフカな枕に真っ白なシーツ、微笑みを浮かべるアーシャ……

 上半身を起こして両手を上げて欠伸をする、新鮮な空気を胸一杯に吸い込むと漸く意識がはっきりしてきた。

 

「おはよう、アーシャ」

 

「おはようございます、旦那様。アーリーモーニングティーを用意してありますわ、皆さんお待ちになってます」

 

 軽く抱き締めて頬にキスをする、今の彼女達四人の序列は、一番上がアーシャで次がジゼル嬢、イルメラとウィンディアは同格だ。

 対外的にも伯爵夫人であるアーシャが筆頭だが、来年成人しジゼル嬢を本妻に迎えれば順位は入れ替わる。本当に貴族のしきたりって難しいし面倒だ、だが疎かには出来無い。

 軽く目を擦り完全に覚醒を促す、序でにお腹も覚醒したらしく空腹感が半端無い。デオドラ男爵家の伝統的な料理を食べ慣れた所為か、少しだけ大食いになったのか?

 

「今朝は妙にお腹が空いたよ」

 

「少食の旦那様にしては珍しいですわね、シェフが喜びますわ。普段は余り召し上がらないと残念がってましたから……」

 

「満腹だと思考が鈍る、魔術師は腹一杯で満足げにしちゃ駄目な人種だと思うんだよね」

 

 アーシャの細い腰を抱いて食堂に向かう、夜着にショールを羽織っただけの扇情的な姿だが家族にだけ見せる無防備さだろうか?

 本来のアーリーモーニングティーはベッドの上で飲むものだが人数が多いから無理だ。多分だが食堂に用意されている、皆で紅茶を飲んで雑談してから朝食の流れだな。

 ゆったりとした幸せに浸れる、僕は幸せだ。最近は人数が増えたのでお茶会みたいになっている。エレさんにベリトリアさん、たまにコレットやクリスも参加するから賑やかなんだ。

 

「今日はお屋敷で、ゆっくり出来るんですよね?」

 

「ああ、そうだね。予定は何も無いし、のんびり過ごすよ。明後日からは忙しくなるだろうし……」

 

 潜在的な敵国に悪意を隠されて招かれたんだ、向こうも準備万端で受け入れるだろう。アーシャ達には内緒だが、ジゼル嬢には暗殺の件も含めて説明している。

 他国の結婚式に招かれた僕が挑発紛いの上品な喧嘩を売りに行くし、向こうも暗殺しようと万全な体制で待ち構えている。即開戦でもOKとアウレール王からの承認も貰っているんだ、間違い無く忙しくなる。

 だがアーシャ達は知らないし教えない、今も結婚式に憧れると嬉しそうに目を輝かせて話しているのは……側室に迎える時に結婚式を行わなかったから悲しんでいるのだろうか?

 

「アーシャ、他の人達には内緒で僕逹だけで結婚式を挙げようか?ウェディングドレスとか着たいだろ?僕もアーシャのウェディングドレス姿を見てみたい」

 

 他にもイルメラやウィンディアにもウェディングドレスを着せてあげたい、他人には知らせずに自分達だけで結婚式をすれば良くないかな?

 アーシャは嬉しそうな、困ったような複雑な表情を浮かべた。もしかして僕に負担を掛けたくないとかかな?それとも他に理由が有るのだろうか?

 迷ったけど何かを決断した感じがする、立ち止まり向かい合って真面目な表情をするのは……断るつもりだろう、その理由を知りたい。

 

「貴族の常識では結婚式を挙げるのは本妻とだけです、側室の私と旦那様の結婚式は非常識だと非難されますわ。内緒にしてもウェディングドレスの仕立てとかから、どんなに秘密にしても漏れてしまいます。

旦那様には政敵が多いと聞きますし、もし側室と結婚式など挙げれば他の貴族の側室達にも影響を及ぼします。私も結婚式を挙げたいとか言われれば、他の貴族達からの非難は逃れられないでしょう」

 

「つまり貴族の常識を破り自分達だけ勝手に結婚式など挙げれば、他の淑女逹も我慢が出来無くなる可能性が有る。それを理由に非難されるから、下手な前例は作るなって事か……」

「私は幸せです。結婚式など不要な位に幸せなのです、旦那様が気にする必要など有りませんわ。さぁ皆さんを待たせていますから急ぎましょう」

 

「うん、変な事を言って困らせて済まない。ごめんね」

 

 謝る事は無いのですよ、そう言って笑って腕に抱き付いてくれた。浅はかな考えだった、良かれと思ったが逆に諭されてしまったよ。

 貴族の常識か、過去の僕は王族だったから微妙に考え方が違うんだよな。この誤差は危険だ、周囲が教えてくれるから今は問題にはなってないが今後は良く考えて話さないと駄目だ。

 食堂に行けば珍しく全員が揃っている。ジゼル嬢にイルメラ、ウィンディアにベリトリアさん、エレさんにコレット。クリスにニールまで全員集合だな。

 

「待たせたね、早速だけど今日は予定が無いから何をしようか?」

 

 所定の場所に座り話を振ると、皆が一斉に考え始めた。最初はアーシャ、次にジゼル嬢が希望を言うだろう。それが序列だが、アーシャは皆と一緒に過ごす提案をして、ジゼル嬢が内容を細かく決めるだろう。

 本妻と側室逹の関係は良好だ、ベリトリアさんやクリス達は側室じゃないけど護衛を兼ねて行動を共にしている。

 ゴーレムクィーンも簡易版のゼクス達も配置しているから大丈夫だ、もう襲撃などさせないぞ。この防御陣営ならば安心出来るだろう……

 

「旦那様のバイオリンの演奏を聞いてみたいですわ」

 

「ロンメール殿下が太鼓判を押す、リーンハルト様のバイオリンの演奏を聞きたいです」

 

「む、そうかい?少し恥ずかしいけどね、食後にホールで簡単な家族の音楽会を開こうか?」

 

 僕だけだと恥ずかしいが音楽会にすれば、貴族令嬢として育てられたアーシャやジゼル嬢、それにクリスは楽器を嗜むから参加する。

 壁際に控えている、サラやリィナまでも嬉しそうにしているので断れない。僕に音楽は似合わないと思うが、家族サービスと思えば良いか……

 女性陣はいそいそと紅茶を飲み干してから着替えに向かった、この後で朝食を食べてから音楽会の流れだな。頭の中で彼女達が喜びそうな曲の候補を考える、そんなにレパートリーは多くないんだよ。

 

 何でもない日常の幸せ、転生前では考えられなかった普通の幸せ。今の僕ならば、人生のやり直しをしている僕ならば……今度こそ普通の幸せって奴を掴んでみせる。

 食堂を出て行く彼女達の背中を見て、決意を新たにする。迷わない、悩まない、諦めない。今度こそは皆と幸せに生きる、死ぬのは老衰でベッドで皆に囲まれて死にたい。

 間違っても処刑台の露にはならない、エムデン王国を繁栄させて、アウレール王を補佐して、結果を出してみせるぞ。

 先ずはバーリンゲン王国、その次は旧コトプス帝国とウルム王国か……忙しくなるな、悪いが僕の幸せの礎(いしずえ)となり滅んでくれ!

 


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