古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第509話

 王立錬金術研究所に与えられた新たな課題は身体能力up系のマジックリングだ。

 具体的には筋力up・敏捷up・耐久upの複合系、所員で20%から30%up。僕で初回50%、頑張って80%upに設定する。

 だがデオドラ男爵達には本気で錬金した物を渡す、up率は150%。模擬戦で使われたら引き分けすら難しい強化だが戦争なので出し惜しみは出来ない。

 

 今回の魔導書は一冊、前半が各能力upのマジックストーンの構成、後半が三つの能力同時upの為の制御方法。単発では不要だが複数の効果を問題無く発揮するには調整が必要、これが難しい。

 だがこの魔導書を読んだレニコーン殿とリネージュさんから待ったが掛かった。性能が良過ぎて市場に流通させる事が危険だからだ。

 それと教え込む所員達から情報が漏れたら一大事、一財産どころか人生が三回位遊んで暮らせる価値の有る禁書だそうだ。

 

 知識欲旺盛な魔術師とはいえ、金銭欲に弱い奴等も居る。この魔導書は未だ完全に信用し切れない所員には見せられない、所員達も危険に晒す。

 故に複合型は僕だけ錬金可能とし、所員達には単発の能力upのマジックリングを作成させる。

 単発でも上級マジックアイテムの範疇には入る、魔導書もレジストストーンよりは格段に難しい。

 

 段階を踏んで覚えさせる必要が有る、三種類を三班に分けて錬金させて一人で全てを覚えさせない。

 それ位の用心は必要、魔導書の管理と運用を一任すると言った手前、レニコーン殿とリネージュさんの判断に任せる。

 まぁ近衛騎士団と聖騎士団の上位陣には僕が錬金した物を、他の団員達には悪いが所員が錬金した物を渡すか……

 

「三班に分けて競い合わせます、お互いに切磋琢磨する事で良い結果を導くと思います」

 

 レニコーン殿が少し意地の悪い笑みを浮かべて提案してきた、確かに魔術師が人から教わるだけでは駄目だ。

 その辺を指摘する為の伏線かな?つまり嘆(なげ)かわしい事だが所員の中に増長した者か、現状で満足した者でも居るのだろう。

 確かに覚えたレジストストーンの製作技術だけでも一生食うには困らない、だが安寧な立場に満足しては魔術師として駄目なんだぞ!

 

「あとは腕輪のデザインも各自に任せる予定です、少しは遊びの要素を組み込みます。拘る連中も居ると思いますが、上級マジックアイテムならば見た目も重要です。一番良いデザインをリーンハルト様に決めて頂きます」

 

 技術的な競い合い以外にセンスが必要なデザインまで絡めてきたか、確かに技術的な完成度は誰でも分かる。

 だがデザインは個人の感性も有るし比較は難しい、僕は過去に幾つかのデザインを考案し組み合わせているだけだ。

 性能重視とか言うのは駄目なんだろうか?シンプルイズベストって、過去の偉人が言っていたぞ。

 

「そうですね、ですが性能別にデザインは分けましょう。採用は三種類、これは班でなく個人で競いましょう。受賞者には褒美を用意します」

 

 だが所員を競い合わせるとなれば班の責任者が必要になるな。シルギ嬢にマーリカ嬢、技術的にはリプリーだが性格が大人しく無理だ。

 ならば、アイシャ嬢が適任かな。イヤップとダヤン?だっけ、彼等二人が殆ど手下みたいに懐いているし人を纏める力は有る。

 難しい顔をして考え込んでしまった所為か、二人が不安そうに僕を見ている。いや反対じゃないですよ、逆に良いアイデアだと思います。

 

「良いアイデアですね、二人に全てお任せします。また早急に所員を集めて下さい。レジストストーンの成果の確認と、一番出来の良い者に褒美を与える約束なのです」

 

「有り難う御座います、明日か明後日には所員を全員集めます。それと今回の御礼についてですが……」

 

 魔導書一冊に金貨五万枚と破格の対価を貰った、流石に耐火硝子製のカップは貰えなかった。

 より高い性能の物を持っている相手に劣化品は渡せないよな、レニコーン殿も僕に渡す対価に色々と頭を悩ませているのだろう。

 金貨だけでは駄目だとか、王都魔術師ギルト本部としての面子とか色々複雑な事情が有るのだろうな。

 

 因みに土属性魔術師達の確保については快諾してくれた、彼等も僕の配下として組み込まれる事は大歓迎らしい。

 家庭持ちも多いが今迄も砦の補強や補修で長期に拘束される事も多く、嫁や子供達も手当ての多い長期派遣を喜ぶとか何とか……

 一家の大黒柱って辛い。『旦那元気に長期派遣、手当て割り増し嬉しいな』みたいな歌まで有るそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 有耶無耶の内に何故か僕(非公認)の研究室に押し込まれた、長期滞在も可能とする執務室や寝室も併設。

 部屋付きのメイドまで完備され衣食住は全て魔術師ギルト本部の負担だそうだ、メイドと言っても若手女性魔術師だから普段は本部の職員なのだろう。

 簡単に室内の設備を説明して、レニコーン殿とリネージュさんは退室していった。ごゆっくりどうぞって、少し休んでくれって事か……

 

「何か研究してくれって事だな、全く押しが強いな」

 

 用意された執務机も椅子も最高品質だ、僕の屋敷の物より立派だよ。本部経費って僕個人に使って良いのか?先行投資ってか?

 頭を抱えたくなるのをグッと我慢する、何故なら期待に満ちた目を向けるメイド(魔術師)が二人もいるからだ。

 レベルは低い、多分だが20前後だな。彼女達は見目の良さと信用度、それに諜報力に優れているのだろう。パッと見回したが他に感知魔法の類は仕掛けられてない。

 

「ふむ、どうするかな?」

 

 腕を組んで考える、折角用意して貰ったんだ。使わないのも気が引けるし、メイド(諜報要員)の彼女達にも悪いだろう。

 武器や防具の錬金は駄目だ、此処でやってしまえば今後もお願いしますって事になる。アレは魔術師ギルド本部とは別で錬金する必要が有る。

 能力upのマジックリングは今更だな、魔導書も見本も渡しているから情報収集の意味は薄い。

 

 武器や防具でなく見せても構わない、見られても困らないモノか……余り量産せずに需要も少なく錬金し辛いモノが良いかな?

 フッと彼女達を見て思う、着ているメイド服は首元や手首まで覆う正統派タイプ。ロングスカートに編み上げのブーツ、黒地に純白のエプロンと正に王道だ。

 イルメラとウィンディアに着せたい、着せて見たい。彼女達はメイド服が似合う、特にイルメラは似合い過ぎる。だが貴族令嬢になるから不可能だな、伯爵夫人(内定)に使用人の仕事着など着せたら大問題だ。

 

「決めた、ゴーレムクィーンのダウングレード版にしよう。どうせ後々必要になる、用意しておくか……」

 

 完全自律行動型ゴーレム、現状では僕しか錬金出来ずゴーレムクィーン五姉妹しか存在しない。

 だが護衛として最適、欲しがる連中も居るだろう。勿論だがアイン達を誰かに渡す事などしない、彼女達はイルメラ達の守りの要だ。

 販売や譲渡も無理、ならば短期貸出用のダウングレード版を錬金してみよう。悪い考えじゃないよな、さてどんな仕様にするか?

 

 部屋の真ん中に立ち腕を組んで考える、指揮官タイプとしてじゃなく攻防一体だが守備寄りの方が使い勝手が良い。

 護衛対象者の近くにいても不審者として見られない事が重要だ、ならば……彼女達みたいなメイドなら大丈夫だろう。

 主に仕えるメイドなら護衛対象者の近くに居ても不審がられない、護衛とも思われないだろうし……

 

「あの、ジッと見詰められると嬉しいのですが困ります」

 

「その、閨(ねや)のお相手は恥ずかしいです。私達は未だ未婚です、結婚する迄は清い関係で……」

 

 モジモジしながら真っ赤になり見詰められるという謎の対応をされた、まさかのハニートラップを仕掛けられるとは久々なので驚いた。

 もしかしたら彼女達は下級貴族の可能性も有るぞ、手を出すなら結婚とか実家に括るつもりだし。

 勿論そんなつもりは一切無い、だが僕をそう言う目で見ていた事が悲しい。この人選は失敗だぞ、下心が丸見え過ぎて逆に萎える。

 

「そんな事は全く考えていない、だがメイド服は参考にさせて貰う。要人警護用の単騎自律行動型ゴーレム、見掛けは使用人(メイド)なら護衛とは思われ難いだろう」

 

 要らない気遣いのメイドは放置して両手を突き出す、核にするのはツインドラゴンの宝玉だ。

 両手で包み込むように宝玉を握り締めて魔力を注ぎ込んでいく、もう六回目だから大分慣れたな。

 必要な魔力が溜まったら魔力構成を考えて錬金していく、限り無く人型に近い造形。金属製の鎧兜特有のガチャガチャした音が出ない構造。

 

 関節部分には皮を緩衝材にして極力音を発しない構造にする、球体関節は馬ゴーレムで多用したから滑らかな動かし方も慣れている。

 女性的な丸みを帯びた体型をメイド服で包む、足元は革製の編み上げブーツ。両手は絹製の手袋、人毛を模した付け毛を被せればパッと見は人間の女性だ。

 だが成人男性の十倍以上の筋力を持ち、全金属製のボディは鎧兜と変わらない強度を持っている。強さを戦士職に換算するとレベル50以上、ゴーレムビショップと同等くらいの戦闘力かな。

 

 武装はスカートの中に隠した二本の雷光のショートソードタイプと投擲用のナイフ、両手首の中に麻痺毒を仕込んだ棘付きの鞭も装備して襲撃者の捕縛も可能にする。

 因みに仮面は僕の家のメイド長のサラを参考にした、他の女性だと色々と問題が発生しそうだし本職のメイド長だから一番向いているって意味で良いだろう。

 名前は六番目の娘だから、ゼクスにしよう。更に四人作る予定だ、名前はズィーベン・アハト・ノイン・ツェーン。自律行動型ゴーレム護衛タイプ五姉妹の完成だが、現状はゼクスだけだ。

 

「メイド型自律行動型ゴーレム護衛タイプ長女、名前はゼクス。戦闘特化のゴーレムクィーン五姉妹とは別に要人警護用に作ったんだ」

 

 興味津々かつ情報収集が目的の二人に説明する、ゴーレムクィーン五姉妹が戦闘特化なのは嘘だけどね。

 彼女達は護衛特化だが、この娘達を欲しがる連中は護衛が欲しいんだ。だからダウングレード版である、ゼクス達を護衛特化と偽る。

 今の僕に無理強い出来る連中用のダミーの意味も含む、王族に公爵、侯爵以下は断れるかな?勿論だが譲渡はしない、短期貸出を条件にするつもりだ。

 

「初めて感じた膨大な魔力……」

 

「私達では何をしたのかも分かりません、流石はゴーレムマスター様です!」

 

 魔術師故の感動か、だが何をしたのかは全く分からないだろうな。僕だって馬鹿じゃないから錬金する時に、見て魔力構成が分かる様にはしない。

 両手を握り合って飛び跳ねる彼女達を見ると少し和む、年相応の態度だとは思うが魔術師としては失格だぞ。

 これでは監視の意味が無いだろう、質問とかする位はしないと知的探求心が珍しいモノが見れた楽しいに成り下がっている。

 

「ゼクス、帰るよ」

 

 魔力総量の三割近くを消費したが、アイン達の三分の一程度か。フロートベイルも魔力障壁のブレスレットも組み込んでないからな、帰ったらもう一体を錬金するか……

 両手を胸の位置で組んで深々と頭を下げた、見た目も行動も人間と遜色が無いな。これなら実用にも耐えれるだろう、納得出来る仕上がりだ。

 帰りにレニコーン殿とリネージュさんが並んで送ってくれた、一応の説明はしたが期待外れ感が凄いな。彼女は彼女で凄いのだが、魔術師ギルド本部としては絡めないから辛いのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 世の中の常識を覆すゴーレムを従えて帰る最年少宮廷魔術師の少年を見送る、近くに居ても分かった膨大な魔力。

 レベル50?嘘だな、余裕でレベル100に届いているんじゃないのか?レベルに比例して魔力量は増える、レベル50で今の状態ならレベル100の時はどうなる?

 流石は現代最強の土属性魔術師と言えば良いのだろう、あの保温機能付きのポットとカップも凄い。

 

「確かに用意した研究室で錬金はしてくれました。ですが自律行動型ゴーレムなど我々では錬金など不可能です」

 

「そうだな、思惑通りには動かぬ相手だ。だが我が魔術師ギルド本部に研究室が有り、あのメイドゴーレムを生み出した事実だけでも十分だ」

 

 魔術師は拠点となる研究室には重きを置く、魔法知識は秘匿が大前提だから安心した場所以外では研究はしない。

 それが常識だ、そして我が魔術師ギルド本部でアレを錬金してくれた。つまり我々は、リーンハルト様に信用されている。

 実際は転用不可能なアレを錬金し、メイドで魔術師で諜報要員の彼女達の目の前で錬金する所を見せてくれた。

 

 我々はリーンハルト様から信用されていると示してくれたのだが、同時に武器や防具の研究や錬金には絡ませないと言われたのと同じ。

 一筋縄ではいかぬ、だが恩ばかりが増えるのも困る。この魔導書を含めて新規に書かれた魔導書が五冊もある、隣国の魔術師ギルド本部からの問合わせも段々と増えている。

 他国の魔術師ギルド本部に融通はしないと思うが、友好国ならば政治的に外交圧力も掛けてくるだろう。

 

「マゼンダ王国の魔術師ギルド本部の動き、少し怪しいと思いませんか?」

 

「確かにな、我々ですら半信半疑なリーンハルト様の能力を全く疑っていない。あの女狐王妃が絡んでいる、間違い無くな……」

 

 リーンハルト様はエムデン王国に所属する宮廷魔術師第二席なのだ、他国の魔術師ギルド本部に協力などしない。

 マゼンダ王国も他国の宮廷魔術師に何かを依頼する事を良しとはしない、自国の宮廷魔術師に頼むのが筋だ。

 だがマゼンダ王国の宮廷魔術師達が、リーンハルト様より優秀だとは思えない。特に土属性魔術師としてなら、現代最強と言っても間違いじゃない。

 

「少し前に噂になった、マゼンダ王国の宝物庫から見付かった古代の魔導書の件ですが……覚えていますか?」

 

「む、確かに噂は覚えてはいる。マゼンダ王国の魔術師ギルド本部が解析不能、再現不能と言っていたアレか。だが噂話の域を出ないぞ、古代の超兵器とか笑わせるだろう?」

 

 確か戦艦を一発で破壊する雷撃だとか何とか、だが魔力石の改良も必要だとか不明瞭な点が多い。

 それに高位魔術師が居れば戦艦など破壊出来る、サンアローやビッグバンなら100mまで近付けば問題無い。

 無いのだが海洋での艦隊決戦に貴重な高位魔術師は乗船させぬ、戦いは陸戦が基本だ。船の上で勝っても戦争には勝てぬ、敵国を占領しなければな。

 

「汎用性の高い攻撃用マジックアイテムとも聞いています、マジックアイテム関連ならばリーンハルト様が適任です」

 

「ふむ、リズリット王妃の祖国マゼンダ王国に伝わる古代の魔導書か。我等も調べてみよう、手配を頼む」

 

 リーンハルト様はエムデン王国所属の宮廷魔術師、他国に協力するとは思えない。今は我等が協力を独占している、利益も馬鹿にならない。

 他国に協力などさせたくはないな、リーンハルト様の関心が他国の魔術師ギルド本部に行くのも業腹だ。

 調べて事実ならば妨害も辞さない、だが不興を買うのも困る。ならば……

 


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