古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第51話

「Fランクの僕に指名依頼ですか?」

 

「そうだ、君の実力に見合った依頼だよ。養成学校の授業は簡単過ぎるだろ?我々冒険者ギルドとしても有能な若者には早く現場に出て欲しいんだ……」

 

 ビックビー討伐から二日目の午後、僕は冒険者養成学校の校長室に呼ばれた。

 恰幅の良い貫禄の有る中年男性が校長だそうだ、入学式に演説したオールドマンさんは冒険者ギルドの代表で校長は別らしい。

 

 何か問題でも起こしたかと思っていたが、やっぱり知らない内に問題児として認定されたんだな。

 早く卒業させる手伝いをしてくれるそうだ。だがクラスの皆を誘う事は出来ない、彼等から隔離する為の措置が指名依頼なんだろう。

 断る事も出来た、だが遅かれ早かれ問題児になるのは分かってたし利害は一致している。

 僕も早くCランクまで駆け上がりたいのだから、この提案を利用させて貰おう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウィンディア、どうだ冒険者養成学校は?お前に足りない物を学んでいるか?」

 

「はい、デオドラ男爵様。順調です、私に足りなかった広い視野や不足していた知識等を学んでおります」

 

 リーンハルト君が私を出し抜きビックビー討伐をしてから二日目の午後、私はデオドラ男爵様の執務室に呼ばれた。

 体格の良い引き締まった筋肉と鋭い眼光を持つ中年男性が私の雇い主だ、入学式に演説したオールドマン代表に通じるものが有る。

 何か問題でも起こしちゃったかと心配したけど大丈夫みたいね……

 

「ウィンディアよ」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 黙っていれば立派な紳士だが一旦キレるとバーサーカーも真っ青な雇い主への対応は注意が必要、私も未だ肉塊にはなりたくない。

 

「お前の通っている冒険者養成学校にお前と同じ魔術師の少年が居るそうだな?」

 

 なっ?なんですって?何故、デオドラ男爵様がリーンハルト君の事を知っているの?私は報告していないわよ。

 

「はい、その、確かに私以外にも一人魔術師は居ますが……

私は、その、未だ一緒に実地訓練も請けてないので……彼を良くは知らないのです」

 

 何がバレたのかしら?何からバレたの?デオドラ男爵様の目が怖い、迂闊な事は言えないわ。

 

「黙れ、調べはついている。オールドマン代表にも裏は取っているぞ」

 

 一喝された、怒気は未だ無いけど……

 

「はっ、はい。申し訳御座いません」

 

 冒険者ギルドの代表まで話を通しているって事は『デクスター騎士団』の件がバレたのね。

 ごめんなさい、リーンハルト君。内緒に出来なかったわ。私の命の為に……いえ、命の恩人よ彼は、馬鹿な考えは駄目!

 

「お前も魔術師としてプライドが有るのだろうから黙っていた事は許す。だが俺は有能な若者が居たら教えろと言った筈だ」

 

「はい、その……彼は私では敵わない程、有能な魔術師……です」

 

 うむうむ、と頷いているけど『デクスター騎士団』の件ではなさそうね。

 単に私が彼の才能に嫉妬して報告しなかった事を怒ってる?もしかして彼を裏切らなくても平気?恋を知る前に殺されない?

 

「オールドマン曰く来年廃嫡される前に力を付ける為に頑張っているそうだな。自力で何とかしようとする意気は良いものだ!」

 

 嗚呼、調べは既に付いてるみたい……でもリーンハルト君の周りに集まる女性陣については知らない?

 私も割と一緒に居るから嫉妬してるとか勘違いよね……

 

「はい、生き急いでいる様な気もします」

 

 そう、今のリーンハルト君には余裕が無い。

 彼は秘密にしているし周りも軽々と実地訓練をこなす彼を余裕綽々とか思っている。

 でも彼は冒険者養成学校の課題なんかより先の何かに怯え焦っているの……

 

「生き急ぐか……怠惰な安寧に身を浸すより良いではないか!そこでだ、ウィンディア」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 勧誘ね、今は無理だと思う。デオドラ男爵様もバーレイ新男爵様も表向きな貴族的な力はそれ程差は無い。

 勿論、デオドラ男爵は従来貴族で領地持ちだから財力は天と地ほども差があるけど。

 でも仮にも廃嫡前の彼は次期当主の資格を持つ長男、そんな彼の引き抜きは……

 

「俺が直々に話をしたいと、我が屋敷に招待してくれ」

 

「はい?それは、どういう意味でしょうか?」

 

 屋敷に招く?不味いルーテシアに見られたら、あの娘は過剰な反応をしてしまう。

 デオドラ男爵様は有能な若者の引き抜きは自らが行う。

 普通は当主など出て来ないのに自らが勧誘してくれるのだ、武闘派で知られるデオドラ男爵様が自らよ。

 大抵の脳筋は感謝感激するけど、今回は要らぬ警戒を……

 

「貴族として招くのではない、我が娘の様に扱っているお前の親しき男を俺に紹介しろと言っているのだ。

男と男として話し合いたいのだよ。大分入れ込んでいるみたいだな、ウィンディア?」

 

 駄目だ、全てバレてるのね……でもデオドラ男爵様、私は彼に女の子として扱われてないです。

 

「な、なななな、何を……言ってるのですか?」

 

「照れるな、少し話したら簡単な仕事を一緒に請けて貰うだけだ。

冒険者ギルドに指名依頼をだしておいた、二人でタクラマカン平原に行って未だ居るビックビーを討伐してこい。勿論、夜営込みだぞ」

 

 ニヤリと親指を人差し指と中指の間に差し込む下品な仕草をする。

 さっきまでの威厳は霧散し、只のエロい中年親父に成り下がってますよ、デオドラ男爵様。

 私が彼に片思いしてるから色仕掛けで強引に此方に引き込めって事よね?

 確かに私はリーンハルト君に絡むけど、それは好奇心が殆どで恋愛感情は低いのよ。

 彼、イルメラって子に惚れてると思うから略奪愛は無理だと思うわ。

 

「私は別に、彼と……」

 

「これを持っていけ、渡せば分かるだろう」

 

 デオドラ男爵家の家紋が押された手紙を受け取る、家紋付きとは重たい親書だわね。

 もう話す事は無いと手を振られたので執務室から出る……不味いわ。

 リーンハルト君との約束を反古にした流れになっている、デオドラ男爵様は『デクスター騎士団』の件は知らないから仕方ないのだけど……

 

「リーンハルト君が指名依頼を請けるなら二人きりでか……」

 

 明日学校で手紙を渡せば良いか、今は考えてもしょうがないし。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「迎えの馬車まで用意してるとは、随分買い被られたものだな……」

 

「はい、デオドラ男爵様はリーンハルト君と会うのを楽しみにしていました」

 

 彼の威圧感が半端無いんですけど……私、約束は破ってないのに扱いが酷くない?

 

「何か?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 今朝学校に行く途中でリーンハルト君を捕まえた、クラス内でデオドラ男爵様からの親書なんて渡せないのを気付いたから……

 訝しげに親書を読んだ彼は丁寧に折り畳むと空間創造に収納した、便利よね。

 そして午後一でデオドラ男爵様の手配した馬車が来るからと教えて貰った待合せの場所に行く。

 その後の午前中は普通に授業を受けて、昼は予定が有ると私に目配せしてからクラスを出ていったの。

 そして馬車の中で不機嫌になり、罪無き私にプレッシャーを与えてくる。

 

「あの、何故睨むのでしょうか?」

 

「ウィンディアの婿に相応しいか試すと親書に書いてあるが?」

 

 婿に?私の?一瞬で顔が真っ赤に熱くなるのが分かる。デオドラ男爵様、何を書いているのですか!

 

「ちっ、違う、違うわ!私は、そんな事は頼んでないわ」

 

「知っている、こんな内容の親書を自ら渡して平気な程、君は恥知らずじゃない。

つまり理由は何でも良いから実力を知りたい、序でに自軍に引き込む切っ掛けくらいか?

校長からも指名依頼だと言われて請けたんだよ、全くやってくれる」

 

 馬車の中で不機嫌に足を組む仕草が様になって怖い、リーンハルト君の本性ってコッチかな?

 凄い慣れた感じがするのよ、権力者の威圧感って言うのが……

 

「それで私は何をすれば良いのでしょうか?」

 

「む、何故敬語なんだ?嗚呼、済まない。殺気を滲ませてしまったかな?」

 

 さっきまで馬車の中に充満していた威圧感が無くなって困った様に微笑むリーンハルト君が私を見ている。

 無意識の殺気?どんな達人なんですか!

 

「私、泣きそうになった……凄く怖かった!」

 

「む、悪かった。先日もバルバドス様に呼ばれたんだ、バルバドス塾生の二人を伸した件でね……それが済んだら今度はデオドラ男爵様だろ」

 

 バルバドス塾生を伸したの?また波乱万丈な生き方をして……

 

「それは大変だったんだね、でも私は約束を……」

 

 人差し指を口に当てるジェスチャー……この馬車はデオドラ男爵様の手配した物、つまり誰に聞かれるか分からないから喋るなって事ね。

 

「僕とウィンディアは冒険者養成学校で出会った。デオドラ男爵様はクラスで有能な者が居たら自軍に引き込みたいから教えろと言った。

だから僕は呼ばれている最中だ、良いね?」

 

「分かったわ」

 

 敵わないなぁ……結局彼はビックビーの時みたいに一人で解決するつもりなのよね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 貴族街の中心近くにデオドラ男爵の屋敷は有る。

 僕等は馬車寄せに馬車を停めて徒歩にて屋敷に向かう、屋敷の玄関に馬車を着けられるのは偉い人だけなんだよね。

 幾ら客人でも僕は新貴族の男爵の息子でしかない。

 馬車寄せから屋敷までの間は一寸した庭園になっており、訪問客の目を楽しませる趣向になっている。

 季節の花が咲き乱れる花壇の間を歩いていると、正面にフルプレートメイルを着込んだ男が僕等を睨んでいるが……案内役にしては剣呑な雰囲気だ。

 5m手前で様子見で立ち止まる。

 

「ボッカ様、どうしたんですか?」

 

 ボッカ様?ウィンディアが様付けならデオドラ男爵の関係者か?

 

「貴様が側室を傷物にした奴だな!デオドラ男爵家の力をその身に刻むが良い!」

 

 ちょ、お前!

 

 いきなり踏み込んできて腰に差したロングソードを振り抜きやがった!

 鋭い切っ先が僕の魔法障壁とぶつかり合い弾け飛ぶ。

 魔法障壁はレベル21で使える様になったのだが、常時展開は便利だが魔力を常に消費するのが地味に辛い。

 

「ボッカ様!いきなり何をするんですか?それに側室の話はお断りした筈です!」

 

「ウィンディア、お前は騙されているんだ!未だ15歳のお前に手を出したコイツは俺のお前への愛によって成敗する」

 

 あの親書の内容って本人達以外には知れ渡っているのか?

 ロングソードを構える男からは本気で殺す殺気が滲んでいる、言い訳や説得は無理そうだ。

 空間創造からカッカラを取出し構える。どうしたら無傷で無力化出来るか?難しい、奴のレベルは30は超えているだろう。

 張り慣れない魔法障壁が負けそうになった、気を抜いたら死ぬぞ。

 

「敢えて言わせて貰うなら、僕とウィンディアは清い交際で疾しい事は全く無いです」

 

 駄目だ、脳筋一族って噂は本当だ!話を聞いてくれない。

 

「名前を呼び捨ての時点で許しがたし。言葉は不要、次で決める!」

 

 この状況でウィンディアは両手を胸の前で祈る様にしている。

 目も潤んでいるが……「嗚呼、お願いだから私の為に争わないで」じゃないんだぞ!

 何処の痴情の縺れだよ、手加減したら僕が身体を真っ二つにされそうだ。

 

「悪く思わないで下さい!クリエ……」

 

「何の騒ぎだ!ボッカ、何をしておる?」

 

 野太い声が響くとボッカと呼ばれた襲撃者が直立不動になる、何か条件反射みたいだった。

 声の方を振り向けば、恰幅の良い……フルプレートメイルを着込んだ男が近付いてくる。

 僕も遠目から見た事が有るデオドラ男爵その人と……後ろにハーフプレートメイルを着込んだルーテシアが居た。

 

 ヤバい、詰んだかも知れない……

 

「良く来てくれたな、リーンハルト殿。歓迎しよう。俺がデオドラ、一応男爵だ。それとこいつは娘のルーテシア」

 

「お初にお目にかかります。リーンハルト・フォン・バーレイです」

 

 貴族的作法にて一礼する時にチラ見したルーテシアが挙動不審だ。僕を見て口を開けて固まっているぞ、しっかりしてくれ!

 

 


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