古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第502話

 クリスの件も無事に纏まり、漸く時間的余裕が出来たので資金稼ぎの魔法迷宮バンクの攻略と他の貴族との交流をしている。

 貴族街に屋敷を構え使用人達も仕事に慣れ初めている、最初の舞踏会は所属派閥であるバーナム伯爵達を招く事にした。

 ライル団長やデオドラ男爵、それに派閥構成貴族の中で僕に友好か中立の連中を呼ぶ。

 

 残念な事に同じ派閥に所属しながら、僕と非友好的な連中も少数ながら居る。

 武闘派だから戦士以外の魔術師は認めない、そういう考えの連中も居るんだ。だが否定は出来ない、考え方は個人の自由だから……

 当然だが非友好的な連中とは距離を置く、下手に出る必要も無いし好き嫌いで自分が不利になる事も厭わない連中とは付き合いたくはない。

 

 殆どが親の世代で、バーナム伯爵の派閥に加入し相続した息子達が僕に反発した。

 狙っていたアーシャとジゼル嬢を奪った憎い相手と思っているらしいが、自分達はデオドラ男爵が怖くてアプローチしていない。

 それでも他人に奪われた気持ちになれる幸せな連中だ、因みに残っているルーテシア嬢にはアプローチしていない。

 

 そして運良くか実力かは分からないが、ルーテシア嬢を射止めた相手にも嫉妬するのだろう。

 武闘派故に情けない連中とは必然的に距離を置く、孤立した連中が縋る相手は……

 僕と明確に敵対しているバニシード公爵家か、中立のバセット公爵家位しか無い。他の連中は粗方アーシャ襲撃事件の時に潰した。

 

 既に彼等がバセット公爵に接触し断られ、バニシード公爵にアプローチしたのは確認済みだ。

 情報収集の為にバーナム伯爵の派閥に残っているが、一番調べたい僕との接点は無いから殆ど無駄なんだ。

 その内に成果無しと焦るか、または諦めるのか?どちらになるのか楽しみだ。バーナム伯爵達も気付いていて、わざと泳がせているのだから……

 

 友好関係の狭い僕には、友人と思える仲の良い貴族の同性は少ない。同世代はローラン公爵の息子のヘリウス殿しか居ない、ニーレンス公爵の息子であるレディセンス殿は一回り年上だ。

 ザスキア公爵の甥のミケランジェロ殿は、友人かと言われれば正直微妙だ。他には居ない、爵位持ちの僕には同世代の同性が寄って来ない。

 来るのは同世代の異性が、保護者同伴で寄って来る。しかも生々しい側室話になる、貴族の常識だから無下にも出来ない。

 

 唯一のヘリウス殿も友人と言うよりも、何故か僕に対して崇拝に近い感情を感じるから正直少し怖い。

 そんな僕に下心なく接してくれる貴重な人達は……人達は、全員が僕の父親世代だ!

 おかしいだろ、おかしいのに笑えないんだよ、何故なんだよ。モアの神よ、お願いですから僕に同世代の同性の友人を与えたまえ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「だからだな、俺は敵共に言ったんだ。此処を通りたければ、俺を倒すんだなと!」

 

「ダーダナスの自慢話は百回は聞いたぞ、もう耳にタコが出来た。そのオチは、お前の体力が限界で詐術(さじゅつ)で敵を引かせるしかなかったんだろ!」

 

「ふざけるな!俺は体力も気力も充実していた、百人や二百人の雑兵など蹴散らせたんだ。だが奴等は俺を恐れて逃げ出したんだよ!」

 

「リーンハルト殿、話半分で構わないぞ。もう何年も同じ話を聞かされているし、年々話の内容が変わるんだ」

 

 近衛騎士団の部隊長三人に健全な夜の遊びに誘われた、場所は王都でも高級歓楽街の中心に有る『夜の帳(とばり)亭』という高級料理店だ。

 部隊長の三人、ダーダナス殿にワルター殿、それにビショット殿は全員が領地持ちの従来貴族の子爵。

 僕は領地持ちの伯爵で宮廷魔術師第二席、子爵とはいえ近衛騎士団の部隊長は超エリートだ。

 

 この四人が集まっているんだ、周囲からの注目度が凄い。序でに店員一同の視線も集めている、粗相が有れば一大事だろう。

 料理も一流、ワインも一流、落ち着いた店内の雰囲気も悪くない。華美にならず、だが高級感溢れる内装は本来なら落ち着いた会話が楽しめるだろう。

 巨大なオーク材から切り出した、一枚板の見事なテーブルの上には大量の空の皿とワインボトル。

 

 エムデン王国一番の酒豪と言われた僕と同じ位に飲んでいる、そろそろ呂律が怪しくなってきたな。

 既に相当酔っ払って出来上がった三人が、自分の自慢話を始めて止まらない。

 今もダーダナス殿の旧コトプス帝国との戦いで、エムデン王国に侵攻して来た略奪部隊との戦いの話を聞いていた。どうも彼は略奪部隊の殲滅に力を注いでいた感じがする。

 

 彼等は全員が四十代後半、三十代の時に旧コトプス帝国との戦争に参加した。当時は未だ近衛騎士団の平団員だったそうだが、最前線で奴等と戦った事の有る古強者(ふるつわもの)だ。

 実戦経験者、しかも凄惨だった前大戦の経験者だ。その言葉には重みが有り、内容も為になるモノも多い。

 流石は歴戦の勇者達だ、だが他の客も負けない位に自慢話が有るみたいだ。何故ならば、この店は近衛騎士団員達の貸切だからだ!

 

「しかし皆さんの武勇伝は凄いですね、流石は実戦を経験した古強者は違うなと感心してしまいます」

 

 その身体には幾つもの古傷が有る、致命傷に近いモノも有るのは激戦を潜り抜けた証拠。

 彼等はエムデン王国を勝利に導いた勇者なんだ、僕では未だ到底及ばない。本来の王国の守護者達なんだよ……

 

「昔話だ、リーンハルト殿の話も聞きたいぞ」

 

「そうだ!あの憎い旧コトプス帝国の将軍、神の槍ゴッドバルドと千の腕ピッカーを倒した時の事が知りたいぞ」

 

「当然だが名乗りを上げたのだろう?戦場での名乗りは戦う男の誉(ほまれ)だぞ」

 

 円卓に四人で座っている訳だが、正面と左右から酔っ払いが迫って来る。目が尋常じゃない位にギラギラしている、そんなに僕の恥ずかしい名乗りを聞きたいのか?

 さり気無さを装いながらも周囲の近衛騎士団員達や、店の従業員達まで注目している。騒がしかったのに、一斉に会話が止まるとか有り得ないだろ!

 だが名乗りは戦う男の誉と言っていた、恥ずかしいから言わないとかは駄目なんだろうな。仕方無い、正直に教えるか……

 

「コトプス帝国など地上に存在しない!亡国の残党共よ、敗残兵共よ、その耳で確りと良く聞け。僕はエムデン王国宮廷魔術師第二席ゴーレムマスターのリーンハルト・フォン・バーレイ!我がゴーレム軍団に挑む愚かさを嘆いて滅べ」

 

 そう言いましたと言った途端に、左右から肩をバンバン叩かれた。手加減無しの本気の力の入れ具合だぞ、正直痛い。

 周囲の近衛騎士団員達も興奮気味だ、戦場での名乗りは近年中々無いからな。野盗等には名乗りすらしないで即討伐するし……自分達も言ってみたいとか?

 

「中々どうして、初めての名乗りとしては素晴らしいぞ!」

 

「ヤバい位に格好良いな!流石は敵兵二千人に単独で戦いを挑むだけの事は有る、俺も嘆いて滅べとか言ってみたい」

 

「本当に魔術師なのか?最前線で戦うからこその台詞だな、後方から中遠距離攻撃だけする連中には言えないぜ」

 

 何故、万歳が唱和される?何故、店全体がお祭り騒ぎなんだよ!従業員まで興奮気味だな、僕は相当恥ずかしいんだぞ。

 失敗した、この話は明日には周囲に広がる。また僕の恥ずかしい話が広まるんだ。

 だが世論誘導には必要なネタだ、エムデン王国は旧コトプス帝国の残党とウルム王国、それにバーリンゲン王国と四つ巴の戦争になる。

 

 故に厭戦気分が蔓延しない為にも戦意高揚の為にも、この手の話題は常に提供し続ける必要が有る。

 戦争は貴族だけでは出来ない、平民を含めた国家が一丸となり行わなければ簡単に負ける生産性の無い消耗戦だ。

 貴族も平民も等しく痛みを分かち合わねば駄目なんだ、前王は自分の偽善だけを周囲に押し付け滅亡一歩手前まで追い込まれた。

 

「そうだ!ボーディック卿が教えてくれた、アレも話してくれないか?」

 

「アレとは?」

 

 騒ぎ過ぎて喉が渇いたのか新しいワインボトルを各自一本ずつ頼んでいた、何時の間にか後ろに店員が控えていて注いでくれる。

 軽めの白ワイン、フルーティで口当たりが良い。飲み過ぎに気を付けないと駄目なのだが……

 この三人はバーナム伯爵達より各段に酒が強い、既に各自ワインボトルを五本は空けている。

 

「ジウ大将軍の卑劣な罠に掛かり話し合いと言われ、ハイゼルン砦の外に呼び出された時の事だ」

 

「交渉の為に呼んだ使者に騙し討ちをする、しかも聖堂騎士団五百騎にだろ」

 

「正規騎士団は一軍に相当する国家の最大戦力、それを一瞬で殲滅する。それは我々では不可能な事だ」

 

「リーンハルト殿はボーディック卿達が、僅かな護衛と共に身を挺して時間を稼ぎ逃がそうとした時に……」

 

「彼等の前に移動し、五百騎もの騎士団の突撃に一人で立ち塞がった」

 

「敵を恐れもせずに、有名な台詞を言った後に広域殲滅魔法で聖堂騎士団を壊滅させる。コレがジウ大将軍は、リーンハルト殿に勝てないと思い逃げた要因だと思っている」

 

 アレってコレか?まさか冷静沈着で大人の男と思っていた、ボーディック卿が周囲に言い触らしているのか?

 そう言えば戦勝祝いとして、ボーディック卿やレディセンス殿にミケランジェロ殿、ゲッペル殿も相当数のお茶会や舞踏会に呼ばれたと言っていたな。

 ゲッペル殿は清楚系美少女娼婦を身請けして幸せ一杯な新婚生活を送っていると親書(報告書)が来た、彼は平民だから可能だった。僕じゃ娼婦を奥さんにとか自殺行為だ。

 

「馬鹿が、大地に立つ限り僕に負けは無い。僕に勝ちたければ空でも飛ばないと無理と思え!ですね」

 

 もう知れ渡っているから今更照れて隠しても意味が無い、仕方無く教えれば先程と同じ様に盛り上がる。

 これは転生前の僕の決め台詞でも有る、だが吟遊詩人の詩(うた)にも無かったから広まらなかったんだ。

 流石に決め台詞まで、本人なのだが過去の偉大な魔術師であるツアイツ・フォン・ハーナウを真似たとは言われたくない。

 

「「「リーンハルト殿、万歳!リーンハルト殿、万歳!リーンハルト殿、万歳!」」」

 

「何故、万歳三唱?」

 

 先程よりも更に酷い、リーンハルト殿万歳って何だよ?彼等の中での僕って、一体どういう立ち位置なんだ?

 父親か下手したら祖父みたいな年齢の男達が、一斉に自分の名前を叫んで万歳三唱とか訳が分からないんだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 謎の盛り上がりを見せた飲み会は三時間程で終了、だがダーダナス殿が自分の屋敷で飲み直すぞと強制的に招いてくれた。

 ワルター殿もビショット殿も結構酔っていたが、彼等は女性が給仕してくれる楽しい店に行くので別行動だ。

 今夜の参加メンバーは、近衛騎士団でも年配者が多かった。四十代後半が中心の脂の乗り切った男盛りの連中だ、全員が前大戦の経験者だそうだ。

 

「リーンハルト殿、此処が我が家だ。遠慮無く入ってくれ」

 

 辻馬車を拾って何とかダーダナス殿の屋敷に到着、二十二時を過ぎた頃だが屋敷には煌々と照明が灯っている。

 警備兵も屋敷の主が飲み歩いているのに慣れているのか、辻馬車でも普通に対応してくれた。

 玄関先には老執事と若いメイドが三人、それと四十代前半の貴族の淑女が出迎えてくれた。彼女がダーダナス殿の奥方だろう、少し驚いた顔で僕を見ている。

 

「夜分遅くに迷惑をかけます、僕はリーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイです」

 

 貴族的礼節に則り一礼する、酔っていても必要最低限のマナーは行いたい。

 奥方殿は目をパチクリとして僕を凝視している、そんなに驚く事か?

 老執事やメイド達も驚いている、近衛騎士団の副長と宮廷魔術師第二席の接点が分からなくて不思議か?

 

「り、リーンハルト様?」

 

 む、一瞬だが困ったような嫌なような顔をしたぞ。それから笑顔になった、初対面の筈だが嫌われる様な事をしたかな?

 逆に老執事やメイド達は嬉しそうだな、有名人が屋敷に訪ねて来る事は貴族としての格に関わるから嬉しいのだろう。

 僕は余り他の貴族の屋敷に行かない事でも有名だし、それが主人と親しそうに尋ねてくれば……

 

「はい、僕はリーンハルトです。ダーダナス殿に屋敷で飲みたいと誘われて、夜分遅くに悪いとは思いますがお邪魔させて頂きました」

 

 それでも夜分に身分上位者が来るなんて迷惑だったんだ、年の離れた友人とはいえマナー違反だったかな?

 足元が覚束ないダーダナス殿に手を貸して馬車から降ろす、直ぐに老執事が代わってくれたが大分酔ってるぞ。

 ふらついているが意識はハッキリしている、でも今夜は帰った方が良さそうだぞ。

 

「ほら、ターニャよ。呆けてないで、リーンハルト殿を応接室に案内してくれ」

 

 ふらついているが自分の足で立っている、だが少し休んだ方が良さそうだぞ。此処は一旦断って、後日訪ねて非礼を詫びた方が……

 

「は、はい。ささ、リーンハルト殿。ご案内致しますので此方にいらして下さい」

 

 ご迷惑なら出直しますよって言う前に、屋敷に押し込まれてしまった。だがターニャさんは僕に対して何か含みが有りそうだ、メイド達は嬉しそうだな。

 つまり屋敷の中で公(おおやけ)に僕を嫌っている訳じゃない、彼女の胸の内だけでだ。

 親書の類いは貰ってない、ダーダナス殿の娘や親類からも招待状や恋文も貰ってない。

 

 何がだ?何が彼女が僕を嫌う理由なのだろうか?分からない、だがあの顔は僕を良くは思っていない。

 深夜に連絡無く訪ねたからとかでも無さそうだ、旦那であるダーダナス殿とは友人関係を築けたのに……

 それとなく探るしかないな、生理的に受け付けないとか言われたら悲しいが我慢するしかないか。

 


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