古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第500話

 ケルトウッドの森のエルフ族とゼロリックスのエルフ族とは同族ネットワークが構築されていた、そしてケルトウッドの森のエルフ族はバーリンゲン王国に里を築く獣人族とも懇意にしている。

 あの国の周辺には獣人族の他にも独自の文化を持った少数部族が多い多民族国家なのだ、故にバーリンゲン王国の統治下に収まらない連中も多い。

 その中でも種族的な強さで他の部族を圧倒しているのが、魔牛族と妖狼族だ。彼等は懐柔策として族長に子爵位を与えて貴族として遇している、勿論だが内外からの不満も多い。

 

 そして妖狼族の一部は旧コトプス帝国の連中に唆されて、僕の暗殺を計画しているらしい。

 見返りは更なる優遇措置らしい、年々人口が減少するのは長寿種の共通の悩みだが、周辺の部族との諍いも多く小競り合いで命を落とす者も少なからず居る。

 より強固な繋がりを持ちたい、辺境でなく王都周辺の住み易い場所に領地を持ちたい。そんな動機に付け込まれたのだろう。

 

 現在の部族長は現状維持が方針だから、一部の若い者逹には物足りない。だから劇的な変化を求めて分の悪い賭けに出た、その思いは妖狼族の未来の為にだが……

 ケルトウッドの森のエルフ族は獣人族逹のまとめ役みたいな位置付けだ、当然だが人間になど配慮はしない。

 だから妖狼族の族長も一部の跳ねっ返り逹もエルフ族に詳細を報告、跳ねっ返り逹は助力も申し込んだが却下された。

 

「困ったな、一部とはいえ攻撃的な妖狼族が敵に抱き込まれた訳だ。倒す事は不可能じゃないが、跳ねっ返り逹を害すれば妖狼族全てを敵に回すぞ」

 

 酷い話だが数少ない同族を殺されたら

反発するだろう、跳ねっ返り逹に暗殺されかけて返り討ちにしたら一族全てが敵対したとか笑えない。

 僕の独白に、メディア嬢は同情的な視線をくれるが、エルフ族の二人の表情に変化は無い。

 

「構わないだろう、妖狼族は強さが全てな種族だ。族長は老い始めているから若手の実力者が反発している、今回の件も族長の後継者争いだな」

 

「リーンハルトなら油断しなければ負けはしまい、下手な同情や情けは掛けるなよ」

 

 やはり表情に変化は無いが、結構酷い事を言ってるぞ。僕なら負けないから襲って来た奴等は皆殺しにしろって言ったんだぞ。

 

「ですが仲間意識が強ければ反発すると思います、それに油断はしませんが勝てる保証は無いのです」

 

 余りに気楽な言い方をした、レティシアとファティ殿を睨む。少数部族は仲間意識が強い、自分達に非が有っても仕方無いねじゃ収まらないぞ。

 ましてや人間に友好的とも思えない、仲間の敵討ちの流れになる確率は高いと思う。

 それに獣人族と戦うのは初めてだが、人間を遥かに超えた身体能力を持つ連中だ。連携されたり罠を仕掛けて来たら勝てるか分からない、簡単にはいかない連中だぞ。

 

「まぁ我等エルフは人間逹の事は不干渉だ、国家間戦争になろうともな」

 

 ファティ殿の言葉は当然だ、数は少なくとも全員が宮廷魔術師以上の力が有る連中だ。

 そんな奴等が積極的に干渉してくれば、それこそ大陸制覇も可能だろうし……そもそも人間逹は滅ぶか衰退する、不干渉だから有り難いんだ。

 つまらなそうに紅茶を飲むファティ殿と、何かを思案中のレティシア。

 ファティ殿はこの話題は終わりにしたいみたいだな、髪の毛を弄り始めた仕草は全種族の女性共通の『この話は飽きた』だ。

 

「リーンハルト、この指輪を預ける。私は魔牛族の族長の娘である、ミルフィナとは友人なのだ。お前と争う所はみたくない、何か有れば指輪を見せれば話位は聞いてくれるだろう」

 

 細い蔦が絡んで輪になっている、それに金髪が編み込まれて強い魔力の構成を感じる。コレってレティシアの髪の毛か?

 受け取った時に、掌に乗せた時に何かの探索魔法が走った。悪い感じはしなかったし何かしらの洗脳や拘束系でもない、感情面に訴える様な不思議な感覚だ?

 

「この指輪は?」

 

「制約の指輪だ、私に悪意が有るか無いかにより効果が変わる。要は私への悪意が無い証だな、ミルフィナは私の親友だしリーンハルトは仲間だ。この指輪を持ち私に悪意が無いと分かれば、悪くはしないだろう」

 

 彼女は未だ百五十歳だから妹分みたいなモノだと笑ったが、それでも転生分を含めて僕より三倍以上も年上だぞ。

 妖狼族の伝手は無いが魔牛族とは話し合いが出来そうだ、これで敵の戦力や襲撃者の情報が分かったな。

 当初の計画でも可能な限り接触し不干渉を持ち掛ける予定だった、獣人族は強いので敵対は避けつつバーリンゲン王国への牽制を頼むつもりだったのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 過度な干渉は不可と言いながら、レティシアは色々と面倒を見てくれた。彼女の仲間発言には、ファティ殿が驚いていた。

 基本的に人間に好意的じゃないのがエルフ族全般だ、過去に関係していたレティシアは例外。

 ファティ殿も随分と優しい対応なのだが、更に仲間認定している事に驚いていた。

 幸いと言うか、色恋沙汰な関係ではないので変な誤解はされなかったが最初は疑っていた。だが十四歳と三百五十歳の年齢差は無いな、無いだろう。

 

「本当に泊まらずに帰られるのでしょうか?」

 

「はい、体調的には問題有りませんから大丈夫です」

 

 メディア嬢が心配そうに聞いてくるが、ニーレンス公爵の別宅に泊まる方が大変だ。

 あの話し合いの後、ニーレンス公爵とリザレスク様に経過報告とお互い問題が有るので秘密にしましょうと話を纏めた。

 秘密を共有する関係だなって笑われたが、お互いの進退に関係する問題だったんだ。だから双方不問で秘密、結果として僕にとってはメリットが大きかった。

 

 自分の限界を知れた事、獣人族の動き、魔牛族との伝手が出来た事と大きな収穫を得られた。

 一番は懸念していた暗殺問題が実際に計画されている事が判明した、この情報価値は大きい。

 相手がバーリンゲン王国でも辺境に住む妖狼族ならば、道中での襲撃の可能性は低い。本来ならば野外の方が有利だ、だが行軍中は僕以外にも戦力が居る。

 

 如何に一騎当千な獣人族とは言え正規兵が多い場所では不利だ、確実に暗殺するなら宿泊時に襲うかバーリンゲン王国の王都に着いてからだ。

 行軍中の夜営時も可能性は有るが、警戒を敷いている夜営地に侵入するのは厳しい。

 バーリンゲン王国の王宮内ならば僕は個室に泊まるし内通者も居る、何より正規兵逹とは別行動だから僕だけに集中出来る。

 

「やれやれ、計画の変更が必要。だが自分の暗殺計画を謀略に組み込むのは、ザスキア公爵が反対しそうだな」

 

 身元を隠す為に家紋も付けない豪華な大型馬車に一人だけ乗っているのは寂しい、だが早く自分の屋敷に帰りたいんだ。

 未だ王都に向かう途中、月明かりの中で麦畑の中を突っ走っている。前後に護衛の騎兵を合計十騎も付けて貰った、正直過剰戦力だ。

 遠くに王都の城壁が見える、後一時間も走れば到着する。王都周辺の治安は良い、定期的に兵士が巡回しているから野盗も殆ど居ない。

 

「制約の指輪、細い蔦が絡まって輪になったマジックアイテム。それに精霊樹の種。まさかファティ殿まで五年後に再戦しろとか、エルフ族は戦闘民族じゃないだろ?」

 

 レティシアの指輪は分かる、僕を気遣ってくれたんだ。魔牛族のミルフィナ殿も、レティシアが指輪を託した相手となら話し合いをしてくれるだろう。

 だがファティ殿の精霊樹の種は、今回は役に立たないだろう。バラ撒けば樹呪童(きじゅわらし)が生えて戦ってくれるらしいが、そんな精霊を支配下に置ける様な危険な種など使えない。しかも二十粒も貰ったがどうしろと?

 

「樹呪童か、雷光装備のナイトじゃ相手にならずクィーンなら倒せた。レベル60以上のビショップと同等の戦闘力かな?」

 

 直径3㎝程の褐色の球体、手に持って転がす程度では変化が無いが地面に撒けば発芽する?

 魔力を加えるとか衝撃を与えるとか説明も無かった、これは空間創造に死蔵して五年後に返すかな。

 布地の小袋に入れて空間創造に収納する、これを研究するのは精霊魔法に繋がるからエルフ族と揉めそうだからしない。

 

「漸く王都の城壁が近付いたな、中に入るのは日付が変わる時間に近いだろう」

 

 基本的に夜間は城門を閉めるが警備兵は二十四時間常駐だ、かなり遠くから馬車の存在を察知していたのだろう。

 矢倉には弓を装備した兵士が顔を出しているし、城門の前にも槍を装備した兵士が並んでいる。遠目でも分かる高級な大型馬車だ、上級貴族のお忍びと思ったか?

 

「夜遅くすまない、宮廷魔術師第二席のリーンハルト・フォン・バーレイだ」

 

 馬車の窓から顔を見せて名乗る、深夜に王都に侵入する者など警戒の対象でしかない。いくらニーレンス公爵の手勢が警護しても、僕が名乗らないと信用度が違う。

 

「はっ!直ぐに開門致します、暫くお待ち下さい」

 

「リーンハルト卿をお待たせするな!直ぐに門を開けろ」

 

 直立不動で敬礼した後、キビキビと指示を出してくれたが待遇が良過ぎるんだ。僕は本当に侍女と兵士には人気が有り、役人には不人気なんだな。

 

「ご苦労様、助かります」

 

 返礼し労(ねぎら)いの言葉を掛ける、篝火に照らされた目がキラキラしている様に見えるのは気のせいじゃないよな。

 城門が開けられて中に進むと、左右に大勢の警備兵が整列し敬礼してくれている。君達は持ち場を離れていないよね?矢倉の連中まで降りてるけど駄目だろ!

 貴族街の屋敷まで警護してくれた騎兵達に礼を言って別れる、結局自分の屋敷に帰れたのは深夜二時過ぎだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ニーレンス公爵の馬車と騎兵達を見送る、ウチの警備兵達も屋敷の主の帰宅に慌ただしく動き出した。

 そろそろメルカッツ殿も帰って来る頃だ、僕が不在の時の警備責任者だ。だが風の噂なのだが、仲良くなった村娘を娶ったとかなんとか。

 僕の知る年の差婚の最大だ、メルカッツ殿は六十歳を過ぎていた筈だが、相手は十六歳だそうだ。

 

 孫どころか曾孫だろ?配下の連中に村娘達と仲良くなったら責任を取れって言った時、妙に真剣に応えたのは自分もだからか!

 貧困生活から一気に抜け出して王都での新婚生活、相手は伯爵家の警備責任者。玉の輿には間違い無いけど、相手の女性は信用出来るのだろうか?

 いや、家庭の事だし、メルカッツ殿の妻がどうだからと言って僕に関係が有るかと言えば……大丈夫かな?

 

 魔力反応?おい、自分の屋敷の玄関前で敵襲かよ!

 

 僕の侵入防止対策を潜り抜けて来やがった、かなりの手練れって貴女ですか。

 

「クリス、何故今夜来たんだ?待ち伏せは感心出来ないな」

 

 背後に黒装束を着込んだ、クリスが全くの気配を感じさせずに佇んで居た。フードを深く被り口元しか見えないが、ニヤリと弓なりに歪んでいる。

 普通に怖い、深夜に暗殺者と向かい合い相手は笑っている。魔力反応を覚えてクリスと分からなければ、即攻撃か逃げるかだ。

 

「昼間訪ねたが留守だったから、帰って来た時に脅かそうと思った。なのにバレてしまった、失敗」

 

「いや失敗は、その行動だよ。深夜に上級貴族の屋敷に忍び込み当主の背後を狙う、駄目だぞ」

 

 僕の敷いた警備網は甘かったか、結構自信が有ったのだが残念だ。凄腕の暗殺者は侮れないぞ、万全の体制で駄目だったんだ。

 他国の王宮で手引きをする奴等が居るならば、もっと酷い状況に追い込まれる。

 全方位感知魔法に全方位攻守魔法の『黒繭(くろまゆ)』だけじゃ足りないか?

 

「クリス、我が屋敷の警備の穴を教えてくれ。君が入り込めるなら、他の連中が入り込める可能性が有る。自慢の防御網だったのに、自信が無くなるよ」

 

「ん、分かった。でも最初に後ろに並んでいる人達に紹介して欲しい、何故か分からないけど凄く睨まれている」

 

 ん?後ろ?振り向くと、アーシャにイルメラにウィンディア。それに何故かジゼル嬢が並んでいるが、全員が無言で睨んでいる。

 アレか?深夜まで帰りを待っていたのに、不審者と会話が弾んでいるからか?

 帰りが遅いのを心配して起きていたのに、帰って来たら知らない女性を連れているからか?

 

「その、ただいま。遅くなって済まない、あと言い訳はしないが弁解は聞いてくれ」

 

 前にも言った様な台詞しか言えない、僕は女性絡みだと本当に大した事は言えない情け無い男だよな……

 


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