古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第495話

 王宮警備兵達との模擬戦、いや訓練になるのか。実際の護衛任務を想定し錬金した大型馬車六台を護衛して貰う、見ていれば一糸乱れぬ行動で配置に着いた。

 ちゃんと騎兵を先発隊として警戒させている、大事な騎馬兵を戦力低下を厭わず哨戒に出したのは高評価だ。

 

 副官の二人、アドム殿とワーバッド殿は中々の武人らしく嬉しい誤算だ。厳しい行軍になるだろうし、有能な副官と兵士の存在は頼もしい。

 どうやら各十人ずつの十班編成、前後に各一班で左右に各四班に別れたか。一列行軍は横っ腹に食い付くのが襲撃の基本、アドム殿は正統派だな。

 

「さて、襲撃は行軍距離の半ば辺りが定石か……」

 

 全体を見渡せる緩やかな丘の上で状況を確認する、最初の配置としては悪くない。

 晴天で無風、先の大雨の名残か大地は少しぬかるんでいる。草が生い茂っている場所も有るが、視界を塞ぐ程じゃない。

 まぁ今回は障害物の有無は余り関係無い、僕のゴーレムは三秒で錬金出来るから。咄嗟(とっさ)の対応が知りたいんだ。

 

「結構さまになってる、王宮警備兵も中々やるみたいだな」

 

 さり気なく隣に居るライル団長の評価も悪くない、王宮警備兵は聖騎士団より一段下の連中だ。共に貴族で構成されているが、王宮警備兵は平民でも入隊出来る。

 勿論だが、王都に住む裕福な家庭で貴族からの推薦状が必要になる。身元が確かでない者を王宮内に入れる訳にはいかないからだ。

 

「大分訓練していますよ、全員が全身傷だらけでした。それだけ今回の任務に気合いを入れているのでしょう」

 

 王族の王位継承権第二位、ロンメール様の護衛だから力も入るだろう。

 

「ふむ、リーンハルト殿ならどう攻める?」

 

 肩に担いだロングソードでトントンと肩を叩いている、本当に楽しそうだな。要人警護は聖騎士団も行っているし、お手並み拝見なのだろう。

 今回は聖騎士団員も同行するが全体警備じゃない、式典参加時の周辺警護だ。だから式典参加用の見た目重視の連中が騒いだ、でも参加はさせない。

 実力の有る若手の聖騎士団員を頼んでいる、いざという時の戦力にカウント出来る手練れが良い。

 

 さて、どう攻めるか?と言われて考える。ここは定石に従い隊列の中腹を攻める、何故なら標的たるロンメール様は隊列の中心に居るからだ。

 

「道程が中程に差し掛かった時に、隊列の中央を左右から各二十体のゴーレムポーンで攻めます。同時に前方にも同数の足止め部隊を配置、来た道を戻るには馬車を180度回さなければならない。

乱戦に持ち込まれた場合、その場に留まるのは悪手ですよね」

 

 素早く反転出来れば後方に逃げても良い、だが六台も連なる馬車が細い道で乱戦の最中に出来る訳が無い。故に取れる手段は、その場で迎撃か前方への逃走だ。

 今回用意した馬ゴーレムは他人の命令を聞く、反転したり急いだりも出来る。だから彼等の判断が問われるんだ!

 

「敢えて逃げ道を作るとは悪辣だな、その逃げ道を使う為には陣形を崩さねばならないから悪手だ。だから包囲網を真っ直ぐ突破するしかない、その判断が出来れば大したモノだが犠牲を割り切れるかが問題だな……」

 

 護衛対象を逃がす為に、何処まで冷静に割り切れるかだな。犠牲を嫌えば不利な状況に押し込まれ、結局は多くの犠牲を強いる事になる。

 転生前の僕は犠牲を嫌い精鋭部隊と無言兵団を頼った、力の弱い一般兵など怖くて使えなかったんだ。

 

「前方にも足止め部隊を展開しますが、それを素早く倒して逃げ延びれば良い。追って来る奴等は迎撃する、奇襲と違い身を晒して追い掛けて来る連中は倒し易い。留まれば三方から、逃げれば追い掛ける敵だけを対処すれば良い」

 

 狩る側から狩られる側に強制的に移動させられる、護衛部隊はロンメール様が生き残れば勝ちで捕まれば負け。無理な攻撃は無謀だ、要は守れば良い。

 

「手堅いし正道だな、三方からゴーレムが六十体とは少々酷だろ?」

 

 僕は定石や正統派の戦略を多用する、軍師みたいな知謀は無いから教わった戦法しか使えない。

 だがレベル20のゴーレムポーンは正規兵と同じ程度の強さだ、これでも十分に手加減している。

 

「まさか、彼等を甘く見ないし甘やかしもしません。僕なら襲撃は同数以下など有り得ない、奇襲は最初の一撃でどれだけ敵を倒せるかですよ」

 

「一か八かじゃないからな、確実性を求めるなら倍は欲しい。だがウルム王国側からバーリンゲン王国へと、他国に偽装兵を大量に送り込めるか?」

 

 ライル団長の言葉に少し考える、正規兵を偽装兵に変えて他国に送り込む。百人位なら時間をずらして少数のグループに分けて行けば良い、可能だと思う。

 数が少なければ現地で調達すれば良い、バーリンゲン王国内にもエムデン王国を良く思っていない連中は居る。

 その中から使える連中を雇えば良い、敵の過小評価は出来ない。僕が敵で攻めるならば三百人は用意する、だが僕の無言兵団は五百体。

 襲撃自体を防ぐのは僕なら問題無い、でも本気で戦争を仕掛けて来たら戦力が足りないので、彼等の力が必要なんだ。

 

「戦力は有る所から引っ張ってこれますよ、バーリンゲン王国の兵でも金で傭兵を雇っても良い。途中での襲撃の可能性は低いと思いますけどね」

 

「確かに有る所から戦力は賄える、だが作戦の秘匿が難しくなるぞ。ロンメール様を殺しても効果は薄い。最大の目標は……リーンハルト殿だろう、戦争の要である宮廷魔術師にしてエムデン王国の英雄だからな。

お前の存在は、我が国にとって非常に心強い。敵からすれば、絶対に殺したいだろう」

 

 ええ、理解してます。この結婚式への招待は、僕を国外に出す為の罠の可能性が高い。

 暗殺の可能性が高いからこそ、僕は黒縄(こくじょう)を練習し最終系の黒繭(くろまゆ)を編み出した。

 クリスの襲撃は良い鍛錬になったんだ、実際に襲って来る凄腕の暗殺者を捕縛出来た。

 問題点も改良点も洗い出せたから良かった、新しい技術は実戦が本番とか無茶だよ。トライ&エラーによる習熟が必要不可欠なんだ。

 

「この結婚式への招待は、僕を殺す為の口実でしょう。少数で国外におびき寄せる、しかも守るべき王族と言う足枷付きです。

だが野外の広い場所では襲わないでしょう、僕は単独なのに即一軍を展開出来る反則野郎ですから……」

 

 表舞台に現れてから既に半年近い、色々と調べているだろう。ゴーレムマスターの代名詞たる『リトルキングダム』も研究されている筈だ。

 だから広い空間では襲わない、多数のゴーレムを展開出来ない狭い場所で襲って来る。

 

「手段は暗殺だな、それ以外は成功率が低い。バーリンゲン王国としては招待客を暗殺されたなど恥でしかない、しかし成功すれば直ぐにウルム王国は戦争を仕掛けて来るから有耶無耶だぞ」

 

「勝ってしまえば構わないか……全く前大戦の教訓を生かせない愚かな者達の息の根を止めましょう。さて、話し込んでいたら襲撃ポイントに到着したみたいですね。

エムデン王国王宮警備兵の実力を見せて貰いましょう!」

 

 見下ろしている隊列が演習場の中程に到着した、一糸乱れぬ見事な行動だ。ではお手並み拝見といこうか!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 周囲には低い草花しか生えてない、視界は良好。足元は多少ぬかるんでいるが、足を取られる程でもない。

 無風に近いし日差しも柔らかだ、コンディションとしては悪くないな……

 

「周囲を警戒!僅かな魔素の輝きも見逃すな。左右を守る部隊は特に気を付けろ、リーンハルト様は三秒でゴーレムを錬金するぞ!」

 

 緩やかな丘の上で見下ろすリーンハルト様は、特に動きが無い。無詠唱で魔法を使えるらしいので、彼を見ても襲撃のタイミングは分からないだろう。

 

「右側、ジェクド部隊了解!」

 

「左側、ペシア部隊了解!」

 

 行進も演習場の中間地点まで進んだ、攻めて来るには良い頃合いだ。リーンハルト様のゴーレム錬成は三秒、魔素の光を頼りに素早く発見するしかない。

 警戒しながら更に進むと、前方の空間が歪み魔素が集まるのが確認出来た。いよいよ襲撃の開始か!

 

「む、前方に魔素の光を確認。周囲にも注意しろ!」

 

「右側にも、多数の魔素の光を確認したぞ!」

 

「左側も同じだ。十五……いや、二十個は光ってるぞ!」

 

 同時に三方からだと?

 

 馬上から後ろを振り向くが距離が離れて分からない、少なくとも後方のワーバッドの部隊が騒いでないから真後ろには敵は居ない。

 一瞬だけ反転して逃げようかと考えたが、罠の可能性が高過ぎる。ゴーレムが三方から迫ってるのに、馬車を反転させる暇など無い!

 

「ジェクドとペシアの部隊は敵に近付け、馬車から敵を離すんだ!俺の部隊は前方の敵を蹴散らす、前進有るのみだ!」

 

 小走りに敵に近付き馬車から距離を取る、護衛対象から離れるリスクより敵を近付けない方を取る。

 

「了解!敵を馬車から引き離した後に後詰めをする、アドム殿は後ろを気にせず前だけ見ろ!」

 

「四班は要らない、左右から一班ずつ応援を送る。時間稼ぎと足止めをしてから、後を追うぞ」

 

 十班に分けたが、左右三班ずつ六班が迎撃と時間稼ぎ。護衛は前方に三班、後方に一班か……

 

「騎兵は全員突撃しろ!敵を抜けて反転、挟み撃ちにするぞ」

 

 手持ちの騎兵は十騎、全員を突撃させる。そして反転して敵の背後を突いて挟撃だ!

 リーンハルト様のゴーレムはポーンと呼ばれる歩兵タイプ、オーソドックスにロングソードとラウンドシールド装備だ。

 弓兵が居ないのが幸いだな、馬が狙われたら防げないし逃げられなくなる。馬ゴーレムに弓矢が通じるかは謎だが、当日は生きた馬を使う。

 

「全員抜刀!これより突撃する、馬車の進路を確保する事を考えろ。馬車より先に出るぞ、俺に合わせて走れ、遅れるな!」

 

 続けざまに指示を出し、左手に装備したラウンドシールドを前方に構えて走り出す。先発の騎兵の突撃で陣形が乱れた、これで少しは有利に戦えるぞ!

 敵のゴーレムは目算で約三十体、此方は騎兵十騎と歩兵三十人。数では有利、勢いが有るのも俺達だ!

 

「どっせい!」

 

 目の前のゴーレムに向かいラウンドシールドを構えて体当たりをして弾き飛ばす、半歩よろけた隙を狙いフェイスガードにロングソードを突き刺す。

 勢い余って兜が外れ動きが止まったので、更に前蹴りを入れて仰向けに倒す。直ぐに次の敵を探せば仲間と切り結んでいるゴーレムを発見、真横から脇腹にロングソードを突き刺す。

 可動部分は装甲が薄く補助としてチェインメイルになっていた、鎖の部分に突き刺せたので魔素が流れだした。

 

「いけるぞ!馬車の前を開けろ、包囲網をすり抜ける」

 

 先行した騎兵が背後から再突撃をしたので、三十体のゴーレムも陣形が崩れた。多対一に持ち込んで何とか馬車の通路を確保した、直ぐ真後ろまで馬車が来ているからギリギリだ。

 

「騎兵は馬車の前方にて警戒を続けろ!四班は馬車の左右を守れ、残りは追撃して来る敵を倒す」

 

 半数を馬車の警備に付ける、六十体近いゴーレムだが未だ四十体は残っている。流石に強い、俺達の二割は戦闘不能で脱落した。

 直ぐにリーンハルト様が用意してくれた、水属性魔術師か僧侶によって治療されている。

 普通ならポーション飲ませて終わりなのに手厚いな、この好待遇に応える為にも試験は合格するぞ!

 

「一撃を入れたら馬車を追う、途中何度か立ち止まり迎撃を繰り返すぞ」

 

 目的は王族の警護、敵の殲滅は二の次だ。此処で馬車とはぐれたら二陣の襲撃に対処出来ない、馬車も有る程度距離が離れたら速度を落とすか止まる指示を出している。

 だが今回は距離が決められている、終わりはもう直ぐなんだ……

 

「頑張れ、あと少しで目標到達地点だぞ。あと少しで俺達の勝ちだ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふん、悪くない判断だな。三方から襲われている状況を把握して対処している」

 

 ライル団長の言葉は柔らかい、聖騎士団の団長からみても対応は成功みたいだな。確かに問題無くロンメール様を誘導出来るだろう、警備兵の能力に不安は無いな。

 

「左右のゴーレムには足止めを行い、前方のゴーレムには騎兵を突撃させて反転し挟撃。馬車は一定の速度を維持し、前方の障害を上手くすり抜けました。

後は馬車の周囲を警護しながら一緒に移動、適時追撃するゴーレムに対処しゴールを目指す」

 

 悪くない、十班に分けた事により命令伝達と連携が上手く噛み合っている。同程度の強さでも全金属製のゴーレムポーンは固い、その堅牢なゴーレムポーンに対して単独で挑まず多対一に持ち込んで戦う。

 多少の犠牲も割り切って、あくまでも護衛対象を優先している。実戦では更に同行する女官や大臣、それに世話係も増えるが基本は同じだ。

 

「リーンハルト殿なら、同じ条件でどう守る?無言兵団は常識が当てはまらない」

 

 む?僕ならどうするか?そうだな、無言兵団は普通とは違う。今回の場合ならば……

 

「その場で動かずに迎撃します、僕のゴーレムは任意で視界の範囲内に錬金出来ます。下手に動くよりは現れた敵を倒す方が容易い、警備兵は盾を構えて他の連中の防御に徹すれば良い。

馬車は僕が固定化の魔法を重ね掛けすれば、ファイアーボール程度なら傷すら付かないですよ」

 

 狭い場所でも見通しが悪い場所でも関係無い、上級の魔法で攻撃されたら危険だが魔力の発動を感知してゴーレムで押し潰せば何とかなる。

 サンアローもビッグバンも、現代の魔術師なら有効射程距離は精々100mから150mだ。詠唱を始めた時点で感知出来る、正面にゴーレムルークを錬金して盾代わりにしつつ攻撃すれば問題無い。

 

「やれやれ、奴等に説明しておけよ。連携は情報を共有するから可能なんだ、知らなければ定石に従い動くからな」

 

 バンって肩を叩かれた、結構本気らしく痛みはマジックアーマーが軽減してくれたから無いが衝撃が来たぞ!

 

「目標地点に到着しましたね、今回の訓練は成功です。さて労りと総評をしに行きますか……」

 

 問題は目標地点の周辺に見学人達が集まり出した事だ、口々に家族や親族らしい人達が警備兵達に声を掛けている。

 激励だとは思うが、妙に女性が多くないか?いや、彼等の妻や娘達だよな。旦那や父親の勇姿を称えているんだよな?

 

「何故、近付く僕を凝視するんだ?称えるべき相手が他に居るだろ?」

 

 あの副官達の妹と娘のギラギラした視線は何とかしてくれ、思わず歩みが止まったんだぞ!

 


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