古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

495 / 999
第494話

 大雨の対策の為に王宮に詰めたのだが、色々と悩ましい問題が発生している。

 一つ目はローラン公爵とログフィールド伯爵の企みによる、ユーフィン殿との仮初めの婚約話。それを既成事実化しようとしている動き、伯爵令嬢で公爵家の縁者を無下には扱えない。

 

 二つ目はレジスラル女官長の孫娘である、クリステル殿の襲撃。これは解決済みだが、未だ周囲に蟠(わだかま)りを残している。

 結果的には有能な暗殺者として鍛えられた彼女を配下に出来たし、レジスラル女官長とその一族に貸しが出来た。

 

 三つ目、これが大問題だ。一度謀略と言うか悪戯を仕掛けて来て返り討ちにした、元アウレール王の寵姫で現エリアル領の領主であるコッペリス男爵がパミュラス様のお付きの侍女を唆した。

 後見人の僕に対する要求はレジスラル女官長を通すと決めたのだが、他の女官や侍女を使い直接僕に手紙を渡せと唆(そそのか)したんだ。

 

 僕は正規の手順じゃなくても要求されれば応えなければ駄目な立場だ、多少の事なら追加で援助しても良い。

 だが不正規なルートでアウレール王の寵姫と手紙の遣り取りをする事実を敵対派閥の連中に知られたら、僕とパミュラス様の不義密通の証拠と言われてしまう。

 無実を証明するのは難しいから追い込むのは簡単だ、そんな事すら考えられない愚かな女達がパミュラス様の付き人とは呆れてしまう。

 または唆し方が絶妙だったのか?追及するには問題の侍女と会わねばならないから嫌だ、全く女性問題は問題事しかおきなくて嫌だ。

 

 しかし僕の失脚を狙うにしても別の意味でも問題だぞ、アウレール王宮の寵姫を巻き込むとか危険過ぎる。

 直接的な証拠が無いからと、敵対した奴を許すとか思っているなら馬鹿だ。

 正々堂々と罪を暴いて公正に責任を追求するとか思っているなら大間違いだぞ、そんな間抜けなら楽なんだが……

 

「何度かザスキア公爵を負かした相手だ、こんな単純な罠など仕掛けてこないだろう。裏が有る、そう考えた方が良いな」

 

 全く悩ましい、ヤル事は一杯有るのに時間が無い。僕に残された期間は半月だ、その後はバーリンゲン王国に向かう。

 行き帰りと滞在を含めれば、約一ヶ月は掛かる。この間は殆ど何も出来ない、敵対者が動くならこの時期だろうな。

 

 パミュラス様の侍女の件と、エリアル男爵の件は親書に内容を認(したた)めた。送り先はザスキア公爵とレジスラル女官長、それにリズリット王妃だ。

 ザスキア公爵とレジスラル女官長には今後の対策として、パミュラス様の侍女達の牽制のお願い。

 リズリット王妃には直接的な表現は控えたが内容はクレームだ、一度目は不問にしたが二度目は無い。

 

 コッペリス殿の真意を尋ねる様に頼んだ、敵対するなら容赦はしない。リズリット王妃と距離を置いても構わない、信用出来ない相手とは付き合えない。

 表面上の付き合いに終始する事になっても構わない、僕が忠誠を誓うのはアウレール王だけだし問題は無い。

 ああ、でもセラス王女の件もあるな、彼女との縁が切れるのはデメリットの方が大きい。やはり何処かで手打ちが必要なのか……

 

 今出来る事は揺さぶりを掛けてみて相手の出方を待つ、グンター侯爵も絡んでいる筈だから慎重に対応するしかない。

 

「やれやれ、本当に女難の相が出ているのかも知れないな。モア教の神殿でお祓いを受けた方が良いかもしれない」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大雨の日から数日が経った、エリアル男爵の件は特に進展が無い。パミュラス様の侍女達については、何人かが祖国に帰されるらしい。

 新しい人員と交代、主を失脚させようとしたのだから当然の処置だろう。甘いと思う位だが、祖国に帰ってからが本番の処罰だな。

 手紙を送り状況を説明し、新しい人材を選んで交代する。一ヶ月以上掛かるだろう、謹慎せずに働かせるのは人材が居ないからだ。

 パミュラス様が情に絆(ほだ)されて間違った対応をしないかが心配だ、未だエリアル男爵は彼女に会いに行っているらしいし……

 

 大雨の被害は僕の知り合いの所にまで及んだ、モア教の教会と孤児院の一部が壊れたので見舞金を贈っておいた。

 あの大雨で死者こそ居ないが、結構な数の怪我人が出ている。数名の孤児も怪我をした、家屋の補強の手伝いの最中にだ。

 幸いと言うか、治療魔法が使えるシスター達が居たので大事にはならなかったが……

 

 そしてバーリンゲン王国に護衛として同行する警備兵百人との模擬戦が始まる、事前に通達してたからか見学人が多い。

 王都から馬車で一時間以上も離れた野外の演習場なのに、遠巻きに見学人が並んでいる。三百人以上は居る、半数は貴族達だが警備兵の親族や関係者らしい。

 子供も居るのは父親の勇姿を見たいのだろう、警備兵達もヤル気が漲っている。少し力が入り過ぎな気もするが、家族に良い所を見せたいんだな。

 

『リーンハルトさまぁー!此方を向いて下さい』

 

『私は副官の妹の、キスティナです!是非ともお側に仕えさせて下さい』

 

『お父さまぁ!カサレリアをリーンハルトさまに紹介して下さい』

 

『リーンハルトさまぁー!私を御屋敷で働かせてくださーい!』

 

『私もリーンハルト様のお屋敷で働きたいです、全てを捧げますのでお願いします』

 

 家族の勇姿を見に来たんだよな?欲望にまみれた声援しか聞こえないのは何故だ?

 見学人達を見て固まってしまう、あの最前列の少女と幼女は副官二人の家族らしく必死にアピールしている。

 それに妙に露出の多い女達が居るが、何だよ全てを捧げるって?意味が分からないと言うか知りたくない。

 

 真面目で堅物と思った二人の顔が引き攣っている、どうやらカサレリアと言う幼女とキスティナと言う少女は……

 

「アドム殿?ワーバッド殿?」

 

「我が娘が大変失礼な事を……お許し下さい」

 

「妹の言葉は気にしないで下さい、妄言なんです。本当に気にしないで下さい、お願いします」

 

 腰を90度に曲げて頭を下げているけど、家族に情け無い姿は見せないで下さい。

 しかも何人かの警備兵達も同様に頭を下げているのは、あの連中の親族って事か?

 二人の肩を叩いて頭を上げさせる、そこで気付いた。副官二人もそうだが、後ろに整列する警備兵達は全員が何処かしら怪我をしている。

 打ち身に打撲、これは鍛錬による怪我だな。この模擬戦の為に厳しい訓練をこなして来たのか?

 

「ふむ、ヤル気は満々みたいですね。直ぐにも始めたいのですが……」

 

 僕の視線の先には、完全武装のライル団長と聖騎士団員が四十人ほど並んでいる。ライル団長、勤務以外の非番の連中を全員連れて来ましたか?

 

「よう!模擬戦だってな、俺達も参加しに来たぜ」

 

 鞘に収まったロングソードを肩に担いでいますが、その様な威嚇する態度は良くないと思います。後ろに控える聖騎士団員は苦笑いだけど、本心では楽しそうだな。

 

「演習場の使用許可、有り難う御座います、今日はロンメール様の護衛陣形の練習ですよ」

 

「練習の後で良いぜ、リーンハルト殿との模擬戦は効率が良いんだ。近衛騎士団と模擬戦をやったら、次は俺達だろ?」

 

 幸いと言うか不幸と言うか、抑え役のジョシー副団長も父上も居ない。ただ聖騎士団員達は全員知っている、僕に好意的な連中だ。

 定期的な模擬戦という肉体言語を使った対話による効果が高かったのだろう、困った事に彼等にとって僕は同族らしい。

 『狂喜の魔導騎士』って噂が本当に困る、僕が戦闘狂の無差別な男になっているんだ。僕は魔術師で『ゴーレムマスター』であって、他の呼び名は要らないんだ。

 

「少し待たせる事になりますが大丈夫でしょうか?」

 

「構わないぞ、何なら襲撃役をやっても良い。どうせ襲ってくる奴等は、バーリンゲン王国かウルム王国の正規軍だろ?」

 

 ニヤリと男臭く笑うライル団長の予想は、半分間違いではないな。確かにエムデン王国の正規兵が守る王族を襲う奴等は、只の野盗なんかじゃない。

 偽装兵の可能性が一番高いんだ、だが奴等の狙いがロンメール様ってのも納得出来ない。

 確かに王族を害されても、エムデン王国の国威は下がるが直接的な戦力低下にはならない。可能性が有るとするなら、ロンメール様を守る為に無理をする僕を殺したい。

 

 旧コトプス帝国の連中にとって、僕は憎むべき敵でしかない。だから罠を張って待っているだろう、危険なのは行きだな。

 招待された結婚式に不参加だと、バーリンゲン王国としても正式に文句が言える筈だ。例え自国内で襲われても、全滅だったらエムデン王国は責任を有耶無耶にされて文句は言えない。

 

「身元が分からない様にした偽装兵、そして決死隊だと思います。此方を全滅させる為と、失敗しても身元が分からない様にする為に……」

 

 ただ襲撃自体の可能性は低いと思っている、今は極端に敵意を向けられる事は避ける筈だ。婚姻同盟後だな、積極的に動くのは。

 

「まぁその話は後にしましょう、今は訓練が最優先です。僕が錬金した馬車六台を守って演習場の端から端まで移動して下さい、馬車の扉を開けられたら負け。最後まで移動出来れば勝ちです」

 

 馬ゴーレム六体引きの大型馬車を錬金する、演習場は広いのだが見学人が居るので移動距離の全長は1㎞位かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お前等、鍛錬を思い出せ。絶対勝つ、死んでも勝つぞ!」

 

「「「オゥ!」」」

 

 ライル団長と聖騎士団員達が邪魔だが、この訓練という勝負には必ず勝つ!

 

 リーンハルト様が錬金した大型馬車は六台、これを護衛対象に見立てる。我等の殆どは徒歩だから馬車を走らせたら追い付けない、全員で足止めして逃がしても別働隊が居たら終わる。

 だから歩兵として守らねばならない、この見通しの良い演習場なら普通は奇襲攻撃は有り得ない。

 

 だがゴーレムマスターは三秒でゴーレムを錬金する、一応20m以内には錬金しないと言われた。20m以内は絶妙な距離だ、道中左右の森や障害物の影から襲われる事に近い。

 実際に三秒で錬金されたゴーレムが20mの距離を詰めるのに何秒必要だろうか?俺が完全装備で20mの距離を走れば十秒も掛からない、つまり魔素を確認して十五秒程度で戦闘開始か……

 なんて厄介なんだ、リーンハルト様のゴーレムは反則気味の能力だ。味方だと頼もしいが敵だと恐ろしい。

 

「隊を十班に分けるぞ。先頭は俺、最後尾はワーバッド。左右に四班ずつの配置にする」

 

 基本に忠実に行動しよう、先ずは我等の錬度を確認して貰うべきだ。でも鎧兜の魔力付加は絶対にして欲しい、その為に奇抜な策は弄したくない。

 

「アドムよ、前後の守りが弱くないか?前後各二班、左右各三班の方が良くないか?」

 

 む、だが襲撃なら横っ腹に食い付く筈だ。正面は足止め、後方は追撃だから初撃は左右だと思うぞ。

 

「それも有る、だが襲撃なら初撃は隊列の横っ腹を襲う筈だ。その後で足止めの前方、追撃の後方だろう。

訓練通り最初は左右四班編成、状況に応じて先頭と最後尾の班がフォローに入る。守るべき馬車は六台だし左右三班では守り切れないぞ」

 

「納得した、だが訓練なら前方に騎兵の先発隊を出そう。訓練とはいえ実際の陣形で行うべきだ」

 

 そうだな、確かに訓練だから実際の護衛任務と同じ配置が望ましい。先触れと警戒は必須、これを行わなければ減点だよな。

 だが我等に配置される騎馬は十頭、交代要員と予備を考えると出せるのは最大四騎か……

 

「騎馬による先触れと警戒は四騎だ、配置が完了したら始めるぞ!」

 

「「「オゥ!任せてくれ」」」

 

 さて、リーンハルト様よ。我等の意地を見せて差し上げましょう、必ず鎧兜の強化はして貰いますぞ!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。