古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第49話

 疲れてはいたが精神が高ぶっていたのか考える事が多過ぎた為か殆ど眠れなかった。東の空から光が差し始めてきた、夜明けは近い。

 冒険者養成学校での僕の立ち位置は微妙だ、低レベル初心者の中に居る高レベルの一人前の魔術師。

 前回もそうだったがパーティを組んで挑む実地訓練を単独で達成可能な奴が一緒に居るのって果たしてどんな気持ちなのか?

 同じ魔術師のウィンディアや盗賊のギルさんとベルベットさん、エレさんの場合は前提条件が違う。

 彼女達は僕が有能な方が良い訳だし自身も高い能力を持っている。

 仮に……仮にだが五人でパーティを組んだ場合、冒険者養成学校の連中が請けられる依頼など簡単に達成出来るだろう。

 ならば他の連中が積極的に仲良くなろうと近付いてはこないのは何故か?

 畏怖や嫉妬の感情が有るのはよく分かったが、まさか先生までも……僕を良く思っていないとは。

 

「悲観的になるな、学生に混じるから異端児扱いだが世間に出ればもっと凄い奴等は沢山居る。早く学べる事は学んでしまおう……」

 

 しかし、エレさんは寝相が悪いな。僕の毛布まで巻き取ろうとするなんて……完全に蓑虫みたいに毛布に包まっている、ある意味凄い。

 彼女にもう一枚毛布を掛けてあげる、まだ一日の付き合いでしかないが悪い子じゃなさそうだ。

 能力的にも申し分ないので知り合った三人の中から仲間を決めよう、先ずはイルメラとの相性だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝になり各パーティで朝食を済ませた後、僕とエレさんがビックビーを倒した事が皆に伝えられた。

 

「ビックビーの脅威は昨夜の内に特別依頼を請けた生徒により無くなった。

たった二人で170匹を超える奴等を倒したのだ。君達は残りのノルマを達成する様に努力しろ!」

 

 騒めく連中を先生方が一喝したが、動揺させる様な事を最初から言わなければ良いだろうに……

 あんな言い方をすれば動揺もするだろうし名前を言わなくても容易に連想出来るだろう、見張り番にはバレてるんだし。

 唯一昨日の内にノルマを達成した僕等は朝食の後、先に王都へ帰る事を許された。

 裏試験の夜営も一応は達成したし留守番連中は見張り番もしたので他のパーティとの連携も一応クリア。

 僕が提供した食事は結構旨いって言われた、あの軍用の保存食がだ……空腹は最高の調味料って本当なんだね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 問題児達を先に王都に帰したので俺はフリーだ。他の教師達は引率兼保護者としてパーティに同行しノルマの確認をしている。

 俺は奴等が倒したビックビー達が気になり確認しに教えられた場所に来たんだが……

 

「何だこれは……この惨状を奴等が……いや、索敵役の小娘に戦闘力は無い。奴だけで倒したのか?」

 

 ゴーレムを召喚し戦わせるのを得意とするとは聞いていた。

 だが昨日はストーンブリットを使いサポートに徹していた、ご丁寧に武器を使えない様に逃げ出さない様に手足を潰していた。

 約50匹に平均三発は当てていたな……だがコレは殆ど一発で倒している。

 ゴーレムの攻撃じゃない魔法の一撃だな……巨大な巣山の中心に女王が倒れ周辺にはビックビーの死体の山、死屍累々ってのはこの事だ。

 

「ビックビー程度、一人で倒せる連中は他にも居るし別に難しい事じゃない。だが14歳の餓鬼が一人でとなると別だ……」

 

 素材採取と移動の時間を考えれば正味一時間程度で倒した事になる。

 だがレベル21の魔術師が初級とはいえ攻撃魔法を何百回も唱えられるのか?

 少なくとも昼間150回位唱えていた時は魔力石で回復していなかった。

 

「冒険者ギルド本部から直々に配慮しろって言われたが、なる程な……ふざけた力を持つ奴だ。

これだけの実力が有りながら何で養成学校に通う必要が有るんだよ?僕は常識を知らないからだって?ふざけるな!」

 

 定例報告会でも議題に出そう、早く追い出さないと他の生徒が駄目になる。

 こんな規格外の奴を間近で見てしまっては自分の無力さを思い知る、卑屈になるか絶望するか……

 全く厄介者を押し付けられたモンだぜ、面倒臭いな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 乗合馬車に揺られて王都に帰って来た、カシー達男性陣とはそれなりな関係を築けたとは思う。

 別れ際に握手をして又一緒になった時は頼むと言われた。他の連中よりも早くノルマを達成し先に帰れた事も嬉しいのだろう。

 彼等と王都の乗合馬車の停留場で別れた後、エレさんを家に送る事にした。この子、半分寝呆けてるんだよな。

 今もフラフラだけど街中でゴーレムポーンを召喚してお姫様抱っこをさせる訳にもいかず、だからと言って僕がオンブするのも無理。

 精々が手を繋ぎ引っ張る事しか出来ない。

 

「エレさん、自宅どっち?そろそろ住宅街に着くよ」

 

 商業区を抜けて一般でも裕福層の集まる区画に着いた、彼女は良い所のお嬢さんか?

 言われて見れば小綺麗だし身嗜みもしっかりしている。貴族的な作法は身に付いてないので平民だとは思うが……

 

「コッチ、この先……」

 

 住宅街に入ってからは彼女が僕の手を引っ張って歩く……アレ?もう手は放しても良いよね?手を繋いで歩く男女……誤解を招くよね?

 

「あの、エレさん。手を放しても……」

 

 結構力強く握ってくるが僕が逃げるとでも思っているのだろうか?小柄な彼女と僕では周りは兄妹と思っているだろうな。

 

「此処が家、到着した」

 

 あれから10分ほど歩いて到着、見上げた家の感想は……

 

「綺麗な家だね」

 

 石造りの未だ新しい家だ、建物の規模の割に馬車寄せが有るのが不自然だ。

 この造りは建物内に入る人が馬車から直接周りに見られずに……貴族や豪商のお妾さんを囲う時に使う家に似ている。

 

「エレさん、僕は此処で。お疲れ様、明日からも宜しくね」

 

「駄目、お礼にお茶を飲んでいって欲しい」

 

 腕を掴んで放さない、いや振り解けば簡単に離れる程度の力なんだが……

 強引に振り払うと罪悪感がわく様な目で見上げられているんですけど。

 

「エレ?帰って来たの?あら、あらあらあら?お客様かしら?」

 

 大声で騒いでいた訳ではないのだが玄関が開いて妙齢の美女が出て来た。

 エレさんと似ている珍しい黒髪を腰まで伸ばした30代半ば位の儚げな感じの人だ。

 

「お初にお目にかかります、僕はリーンハルト・フォン・バーレイ。エレさんとは冒険者養成学校の仲間です。

今日は夜営明けで体調不良な彼女を心配して家まで送るつもりで来ました。

エレさん、御母上が迎えてくれたなら大丈夫だね。では、僕はこれで失礼します」

 

 貴族として礼儀作法は叩き込まれているので、咄嗟の挨拶としては悪くない筈だ。

 玄関先で愛娘が知らない男の腕を掴んでいるなど心配してしまうだろう。

 

「ご丁寧な挨拶、有り難う御座いますわ。私はエレの母親、メノウです。

今日はわざわざ娘を送って頂き重ねてお礼を言わせて下さいね。

エレ、リーンハルトさんを客間にお通しして。私はお茶を用意するわ」

 

 魅惑的に微笑まれたが、娘の友達に向ける笑みじゃないと思う。この人、絶対に誰かに囲われて寵愛を受けてるな……

 

「うん。リーンハルト君、入って」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 品の良い調度品を設えた客間に通された。華美でなく、しかし見る者が見れば金を掛けているのが分かる。

 エレさんは着替えに部屋に行き母親はお茶の用意で奥へと行ってしまった。

 どうやらメイドやお手伝いの人は居ないみたいだな……夜営明けで汚れたローブを空間創造にしまい新しいローブを羽織る。

 

「お待たせしましたわ。あら、エレったらお客様を放っておいて……駄目ね」

 

 手際良くカップを並べ紅茶を注いでくれる。中々の高い茶葉だろう、芳醇な匂いが室内を満たす……

 

「どうぞ」

 

「頂きます」

 

 暫く無言でお茶を飲んでいたが、彼女……メノウさんが見詰めてくるのが恥ずかしいのだが。

 

「あの、何か?」

 

「いえ、大人しいエレが家にまで招いた男の子の観察よ」

 

 当然だが警戒してるんだろうな。エレさんは絶対自分から異性に話し掛けないタイプだと思うし。

 

「申し訳ないのですが学校が始まって一週間、エレさんと話したのは昨日が初めてでした。同じパーティを組んで実地訓練に挑みましたから」

 

 黙って僕の話を聞いているだけだが、どんな事も聞き漏らさないと真剣だな。

 

「第一の試練はゴブリン討伐、第二の試練は夜営……裏試験はビックビーの討伐でした。

僕等のパーティは火力の高い魔術師の僕と索敵が出来るエレさんがコンビを組んだ為、ノルマ達成は一番乗りでした」

 

「ビックビーって群れをなす昆虫モンスターでしょ?初心者には無謀な、Dランク相当のモンスターだわ……」

 

 む、メノウさん詳しいな、ビックビーがDランク相当の相手だと知ってるなんて。

 

「ええ、確かに無謀な課題だと思いますが先生方は魔術師が居るなら大丈夫と判断し僕等に話を持ち掛けました。

結果、僕とエレさんの二人で挑み無事に討伐達成。しかし深夜まで戦っていたので寝不足気味な彼女を家まで送って来ました。

すみません、家の前で別れるつもりがお茶までご馳走になってしまい……」

 

「な、何を……あの子はレベルも低い初心者よ。いきなりビックビー討伐なんて……」

 

 メノウさん、かなり怒ってるな。母親からしたら無謀を通り越して自殺行為に近いだろう。怒るのは当然だ……

 

「何故、そんな無謀な……」

 

「リーンハルト君、お待たせ。お母さん、どうしたの?」

 

 てっきり部屋着にでも着替えたかと思えば、可愛い水色のワンピースを来て前髪を左右にセットし顔を出している。

 本当にメノウさんに良く似ている美少女だな、母親としては心配で仕方ないだろう。

 

「貴女が無謀な行動をした事を聞いたのよ!初心者がビックビー討伐なんて……」

 

 何故怒っているのか分からないとキョトンとして見上げている仕草に毒気を抜かれたのか、メノウさん頭を抱えてしまった。

 

「エレさん、あのね……」

 

「リーンハルト君のお陰でレベルも10になった。危なくなんかなかったよ、全然大丈夫だった」

 

「リーンハルトさん、詳しくお話を聞かせて下さいね」

 

 長い話になりそうだ……

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者になりたいと言われた時、頭の中が真っ白になった。

 内緒で幼なじみのヘラちゃんとマーサちゃんと盗賊ギルドに加入し素質は高いと言われたと喜んでいたけど……

 人目を忍ぶ妾の子供だからと殆ど外に出さなかった為かレベルは6と低かったわ。

 あの子の本当の父親は私が身籠っている時に帰って来なかった、レベル25の冒険者だった……

 三年間待ち続けたけど結局は生死も行方も分からず、蓄えが底を尽き生活に困窮した私は豪商の妾になる事になったわ。

 待つ事に疲れ果てて、でも幼いエレを抱えて働く事など難しくて、流されてしまった……

 八年間囲われたが年と共に寵愛が減っていき去年、この家と纏まったお金を貰い縁を切られた。

 あの人はあの人なりに私達を愛してくれたわ、家もお金もくれるなんて普通は無いでしょうし……

 新しい妾が出来たら古い妾は捨てるのが常識なのですから。

 冒険者は何日も家を空けるのは普通だけど私はエレが心配で玄関でずっと待っていた。

 あの子の声を聞いて無事を確認して嬉しくて……でも男の声を聞いた時に、あの子が家に招くと言った時に、黒い感情が芽生えた。

 たった一週間外に出しただけで悪い虫が付いたのかと……話してみれば普通に良い子、でも14歳にしてレベル21の魔術師。

 あの人だって苦労したビックビー討伐をエレを守りながら一人で達成する程の使い手。

 しかも貴族の長男なんて、母親としたら諦めさせなければ駄目な相手。平民と貴族など結ばれても不幸しか無い。

 でも引っ込み思案な恥ずかしがり屋なエレが初めて仲良くなった男の子。

 

「あなた……私はエレの為にどうしたら良いの?」

 


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