古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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 昨日は久し振りに午前中の日刊ランキング1位になれました。有難う御座います、チョロチョロと日刊ランキングには入ってましたが1位は久し振りでしたので嬉しかったです。


第482話

 ロンメール様の護衛の警備責任者として副官二人に初めて会って打合せをした、連れて行くメンバーのリストを一週間後に提出しろと言ったのだが……

 

「翌日に提出とは早いですね、既にメンバーの目星は付けていましたか?」

 

 執務机の前で直立不動で腰の後ろで手を組んで立たれても困る、堅物だろうグリーグ殿とボルツ殿を見て溜め息を吐く。

 そこまで畏まられると自分の方が困るのだが、それが身分差の上下関係か。諦めてメンバーリストを上から読めば、見事にニーレンス公爵とローラン公爵の派閥構成員で纏められている。

 どうやらグリーグ殿がニーレンス公爵派で、ボルツ殿がローラン公爵派みたいだな。特に問題は無さそうだ、頭紙に自分のサインをしてから返す。

 

「承認します、各メンバーに準備を進める様に通達して下さい。支度金の申請をするので用意して下さい」

 

「はい、ですが自分の方で申請しておきます」

 

 約一ヶ月の外遊に同行するのだ、基本的に食事や寝床の面倒は見るが着替えや身の回りの物は自己負担になる。

 道中では洗濯など出来ないので着替えは多目に用意する必要が有る、場合によっては使い捨てだ。基本的に移動中は着のみ着のままで目的地の手前で身嗜みを整える、常に身綺麗で移動出来る者は限られている。

 着替えはしないが、水場の有る場所で泊まる時は自分達で寝る前に洗濯する。同行する女官や侍女達は当然だが彼等の洗濯などしてくれない、僕のだって無理だ。

 

 上級貴族は自分の身の回りの世話をする連中を自費で同行させる、僕はザスキア公爵からイーリン他数名をお世話係として同行させると言われている。

 諜報要員を兼ねてだが、お世話係も確かな身分が必要だから仕方無く許可した。彼女に身の回りの世話をされるなど、変な気分になる。

 それに自分で何とでもなる、空間創造は思った以上に万能なのだ。一ヶ月以上軍団で行動をしても大丈夫な物資は収納しているから問題は無い。

 

「ふむ、では申請書類が出来たら提出して下さい。僕から中級官吏に渡した方が、スムーズに処理出来るでしょう」

 

 オリビアの父親経由で処理をさせる、下級官吏には渡さない。下級官吏共は未だ取り纏めの最中だし、僕がオリビアの父親を優遇すれば彼が連中を纏め易くなる。

 

「以上ですね、退室しても良いですよ」

 

 彼等は僕から終了と言わないと、直立不動のままみたいだ。部下の扱いって難しい……ゴーレム達は無言で文句も言わないから苦労は無いが、人間の部下は感情が有るから。

 

「ん?まだ何か有りますか?」

 

 何だろう?言い難そうに僕の顔を伺っているが、未だ何か相談か問題事か?

 

「その、選抜者を集めて事前に合同訓練を行いたいのですが……」

 

 途中まで話してから相方を見た、二人共同じ考えか?

 

「出来れば、リーンハルト様に視察に来て欲しいのです」

 

 ふむ、実力を確認してくれって事だな。自分達の武力に相当の自信が有るのだろう、確認しに来いって事だな。

 流石は武人達だな、序でに僕と団体模擬戦でもしたいのだろう。良かろう、受けて立つ!

 

「聖騎士団の野外練兵場を借りましょう、その自信は素晴らしいので僕と僕のゴーレム達とで実戦形式の模擬戦を行います。ライル団長には僕から話を通しておきますので、日程は後日連絡します」

 

 あれ?変な顔をしてるが違ったのか?いや、訓練を見に来いって事だから間違い無いよな。近衛騎士団との模擬戦の噂も広がってるし、自分達も戦いたいのだろう。

 

「実際の移動中の陣形を貴方達が取り、僕が攻める役をします。守り切れたら褒美を出しますが、負けたら鍛錬を増やします。

そうですね、褒美は貴方達全員の使用している鎧兜に固定化の魔法を掛けましょう。素材の強度が二倍の中級程度のマジックアーマーにはなりますよ」

 

 素材の鎧兜から錬金するより、装備している鎧兜に固定化の魔法を施す方が楽だ。それでも流通している『硬化の鎧兜』シリーズよりは各段に高性能だ、装甲の強度が二倍程度にはなる。

 

「え?中級で二倍?それはもはや上級では?」

 

「それは……宜しいのですか?固定化の魔法による強化は、最低でも金貨三百枚以上の費用が必要です。それを百人全員ともなれば……」

 

「勝てればです、それで任務も楽になるなら問題は無いでしょう。宮廷魔術師の僕なら三日間程度で全員分を強化出来ますから、大した手間でもないですよ」

 

 堅物かと思ったが、ニヤニヤが止まらないな。やはり武人はマジックアーマーが大好きだろう、しかも自分の愛用の鎧兜が強化されるなら尚更だな。

 

「一週間、準備期間を頂けませんか?」

 

「それまでに連携を叩き込みます!」

 

「では一週間後の午後にしましょう、期待していますよ」

 

 分かり易い飴と鞭だ、実力を計ったら勝っても負けても固定化の魔法は掛ける。護衛の能力の底上げは必要だし、それで連帯感が生まれれば更に良い。

 妙なテンションで退室して行ったが、選抜者に気合いを入れるのだろう。これも一時的とはいえ配下になる者とのコミュニケーションだ、円滑な関係は任務にもプラスに働く。

 

 気持ちを切り替えて仕事を再開する、セイン達が戻ったら実力を確認し新しい訓練計画をやらせる。

 今回彼等は僕とは別行動で、ウルム王国攻略に参加する事になる。何とか平均的なゴーレムの大量運用を叩き込んで無事に生き残れるだけの力を身に付けさせる。

 その為の訓練計画を考えているが、中々難しい。どちらかと言えば人型ゴーレムの有効性を分からせる、意識改革の方が重要かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「やべぇぞ、全員に気合いを入れさせろ!リーンハルト様謹製の鎧兜には劣るが、固定化の魔法だけで防御力二倍とか有り得ないだろ?」

 

「バーナム伯爵の所の女二人のドレスアーマーだっけか?浮遊盾とか伝説クラスの鎧兜を錬金する方だ、嘘じゃないだろうよ」

 

 俺達だって下級のマジックアーマー位は持っている、『硬化の鎧』シリーズは無理をすれば買える。だがアレらは精々が防御力二割増しだ、中級だって五割増し前後。それが二倍?つまり十割増しだぞ、価値なんか計り知れないぞ!

 

「勝つ、死んでも勝つぞ!防御力二倍、その伝説クラスの鎧兜を手に入れられるチャンスが有るんだ!」

 

 ヤバい、テンションがヤバい。王宮警備隊の司令官だって中級の五割増しのマジックアーマーしか持ってない、それが百人全員だぞ!

 これから猛特訓するぞ、死に物狂いで頑張れば勝てる。単独で近衛騎士団と引き分けたと聞いたが、人間死ぬ気で頑張れば何とかなる筈だ。

 

「死に物狂いで頑張る、全員頑張らせる。だけど視察にかこつけて我が子や妹と引き合わせるのは中止だよな?」

 

「万が一、機嫌を損ねて褒美無しとか泣くぞ!やはり無理だよな、他の連中に袋叩きに合う」

 

 俺達の家族の為に、マジックアーマー無しとか言ったら殺される。何と言って諦めさせるか悩む、そもそも下級貴族が上級貴族に会って話がしたいとか最初から無理だ!

 

「そうだ、無理なんだよ。普通に無理だと伝えれば良いよな、俺等じゃ無理だ。だが視察に来る時に遠目で見る事は出来る」

 

「それだ!直接は無理だが遠目で見れれば良いよな、お側に召されたいとか欲張り過ぎなんだよ」

 

 元々政略結婚を嫌うと聞く、美少女の側室と婚約者と大恋愛中との噂だからな。身内の女性を紹介するのは嫌がるだろう、だから仕方無いと割り切ろう。

 

「何かご機嫌伺いに買ってやれば良いだろ?薄情とは思うがマジックアーマーの為だ、頑張ろうぜ」

 

「オゥ!忙しくなるが、ヤル気は溢れてるぜ」

 

 流石はバーナム伯爵の派閥No.4だけの事は有る、武人の気持ちが分かる上司で良かった。年下だが全然構わない、臨時の関係なのが残念だが俺等は魔術師にはなれないからな。

 先ずは選抜者全員を集めて相談だ、どうやって勝つかが難しい。だが絶対に勝って、マジックアーマーを手に入れるぞ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、そろそろ出発のお時間が迫っています。お召し物のお着替えを……」

 

 目の前にセシリアが立っていた、集中すると周囲が見えなくなる癖は治らないな。まぁ不意打ちは防げるから、問題としては先送りにしているのだが……

 

「ん?もうそんな時間か。有り難う、手伝いは不要だよ」

 

 セイン達の鍛錬計画の他に、ライル団長宛の練兵場の使用許可の要望書を書いていたら結構な時間が過ぎていた。

 今日は同じバーナム伯爵の派閥構成貴族の御子息が事故で亡くなったので葬儀に参列する、未だ十歳の子供だった。

 落馬による頭部損傷、即死に近かったらしく回復魔法もポーションも間に合わなかったそうだ。武門の家らしく子供の頃から乗馬の訓練をしていた、その訓練中の事故死。

 幸いとは言えないが次男で後継者は他に居る、年の離れた兄と年の近い姉が居るそうだ。

 問題なのは兄の出来が悪く死んだ弟の方に期待が寄せられていた事、意地の悪い噂では弟が亡くなって兄が喜んでいるとか事故に見せ掛けた他殺とか……

 

「全く悪意ある噂話とは嫌なものだな」

 

 セシリアが出て行ったのを確認し、仮眠室で喪服に着替える。白のシャツに黒の上着、魔術師のローブも真っ黒。黒は好きな色だが、やはり喪服を着るのは嫌な気持ちになる。母上の葬儀を思い出すから……

 既に馬車も用意されていて、着替えが終わったら馬車に乗せられて目的地に直行だ。

 

 ノウズバリィ・フォン・キンドルフ男爵家は、バーナム伯爵の派閥では古参の一人だ。新貴族男爵だが、現当主はバーナム伯爵と共に最前線で戦っていた武人。

 だが六十歳に近付き肉体的な衰えを自覚し長男である、ゴース殿に引き継ぎをしている最中だ。

 このゴース殿だが前にバーナム伯爵主催の武闘会で仲間と共に敵意を向けて来たが、模擬戦を誘ったら逃げ出した奴の一人だ。

 

 アーシャの誕生日会の時に敵意を向けて来たキラルク殿やアメン殿、バスケス殿は戦いを挑んで来たのにな。

 それにバーナム伯爵の養女のエロール嬢を狙っていた筈だ、確かに後継者としてバーナム伯爵の派閥でやっていけるかは微妙だな。武を尊ぶ連中だから、弱者は派閥の下位に落ちる。

 噂話では亡くなった、ヤーディ殿は利発で武術の才能はゴース殿を上回っていたとか。噂の域を出ないが、周囲の連中が成人すればゴース殿を廃嫡させて彼を次期当主にしたらとキンドルフ男爵に提案し容認したらしい。

 他家の相続争いなどに首を突っ込む気など無い、だが僕はバーナム伯爵の派閥では新参者だ。だから代理は立てずに自ら葬儀に参加する、これも人間関係を円滑にする処世術かな……

 

 考え事をしていたら目的地に到着した、今日はキンドルフ男爵の屋敷で皆に最後の別れを行う。

 明日はモア教の教会で葬儀を行い、そのまま貴族専用の墓地に埋葬される。因みに上級貴族は自分の屋敷の一角に霊廟が有り先祖を祀っている、僕の屋敷には無いが何時かは建てる必要が有る。

 キンドルフ男爵は領地が無いので財政は豊かではない、だから下級貴族用の墓地に埋葬されるんだ。

 

 葬儀の際は上級貴族といえども屋敷の玄関前には停められない、専用の馬車停めで皆と同じ様に乗り降りする。今夜は亡くなったヤーディ殿を偲ぶ……

 

「良く来て下さった、リーンハルト卿」

 

「本当に有り難う御座います、ヤーディも喜ぶでしょう」

 

「リーンハルト様、ヤーディの……弟の為に来て頂き、有り難う御座います」

 

 喪主であるキンドルフ男爵夫妻と長女が出迎えてくれた、この厚遇って駄目じゃない?葬儀の際は明確なルールが有り、例え上級貴族でも他の貴族と同じ扱いになる。

 血族を大切にする貴族だからこそ、家族の葬儀は故人を想う事を重要視する。そこに爵位や序列は関係無い、それが嫌なら代理人を立てれば良い。

 

「お悔やみ申し上げます。ヤーディ殿とは直接の面識は有りませんが、将来を嘱望された逸材だと聞いておりました」

 

 貴族的礼節に則り一礼した後に、お悔やみの言葉を述べる。後は故人に白い花を手向けて終了、別室に酒や食事が用意されているので生者は故人の思い出を語りその死を悼む。

 派閥の結束と懇親を兼ねた催しだ、僕は故人と面識が無く語る思い出も無いから直ぐ帰るけどね……

 

 キンドルフ男爵夫妻と令嬢と共に葬儀会場に向かう、大ホールにモア教の祭壇が飾られヤーディ殿の棺(ひつぎ)が置かれている。

 最後の挨拶を終えたのか棺の周囲には誰も居ない、空間創造から一輪の白い花を取り出しヤーディ殿の胸の上に置く。

 外傷は分からず穏やかな表情だ、未だ子供ながら鍛えられた肉体を感じさせる。なる程な、次男ながら次期当主にと推されるだけの器量を感じた。

 

「ヤーディ殿の魂が、モアの神のお導きにより幸せで有る様に……」

 

 お決まりの言葉を紡ぎ短い祈りを捧げる、思わずだと思うが令嬢が僕の腕に抱き付いて泣き出した。

 む、困ったぞ。振り払う訳にもいかず、抱き寄せて慰めるのも問題だ。しかも視界の隅に、マーリカ嬢まで居る。

 派閥違いの、しかも黒い噂の有る彼女が相続争いの疑いの有るキンドルフ男爵の屋敷に何故居るんだ?

 

 


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