古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第476話

 アーシャの襲撃事件はエムデン王国に潜む売国奴共の炙り出しは成功した、現役侯爵や子爵の当主達が旧コトプス帝国の残党で謀略家であるリーマ卿の罠に嵌まる。

 アウレール王としては思う所が有るだろう結果となった、臣下が裏切り国家の危機を招く。僕にも責任の一端が有る、更なる献身が必要だろうな。

 

「さて話は終わりだ、詳細は追って通達する。お前達も配下や派閥の構成員達に良く言い含めておけ、裏切り者は極刑だ」

 

 全員が頭を下げる、リーマ卿の謀略は終わりではない。今回の件は僕への警告と圧力を掛ける事だろう、未だ襲撃は有る。つまり裏切り者は未だ居る筈だし、多分そっちが本命だ。

 

「ゴーレムマスターは残れ、少し話が有る」

 

 全員が僕を見るが特に何も声を掛けずに退室した、残った者は僕以外はアウレール王とサリアリス様だけだ。

 上級侍女が予(あらかじ)め用意して有った水差しを下げて紅茶を用意してくれた、アウレール王と一緒に紅茶を飲んで寛げだと?

 

「あの……これはどういう状況なのでしょうか?」

 

 近付けと手招きされたので席を移動し詰める、不思議な雰囲気だ。サリアリス様はニコニコしている、全員分の紅茶が用意されるのを待つ間が精神的に辛い。

 

「ん?ロンネフェルト産の最高級茶葉だぞ、先ずはストレートで飲めよな」

 

「はい、頂きます」

 

 お前は大酒飲みなのに甘党なんだってな?とか気楽に会話を振ってくれるのだが、国王と紅茶を飲んで雑談とか摩訶不思議だぞ!

 味わう余裕は無いが、何とかゆっくりとカップを口に運び一口飲む。やはり緊張で味など分からない、だが美味しいですと何とか無難な返事は返せた。

 

「さて、今回の件では辛い思いをさせたな。お前の大事な女を危険な目に遭わせた、俺はお前が怒りに任せてバニシードの屋敷に殴り込むかと心配したんだぞ」

 

 冗談みたいに苦笑いっぽく言われたが、僕って其処まで危険だと思われていたの?それなりに理性的な行動をしていましたよね?

 

「襲撃犯を速やかに鎮圧した手際は見事じゃな、予想していたと言ったが儂にも相談位はして欲しかったな」

 

 おお!まさかアウレール王に心配されて、サリアリス様から愚痴を言われるとは思わなかった。本当に仕えるに相応しい国王と師匠だ、こんなに心配してくれるとは嬉しくて泣きそうだぞ。

 

「有り難う御座います。アルノルト子爵の息子のフレデリックの怪しい動きは掴んでいました、スラム街に出入りしているとなれば旧コトプス帝国出身の連中と接触している。

僕も敵と定めて冷たい対応でしたから、暴発は想定の内でした。宮廷魔術師団員の火属性魔術師達も同様です、彼等は四属性最強の座から転落させた僕が憎くて堪らない。

ですが簡単に敵の誘いに乗るとは思いたくなかった、今回の件は警告だと思います。本命の売国奴は他に居ますね」

 

 リーマ卿が直ぐにバレる謀略など行わない、今回は上級貴族ですら裏切らせる事が出来るって脅迫だ。

 国内の貴族連中が疑心暗鬼になる、結束を求められる戦時に味方である仲間を疑わなければ駄目とか最悪の状況だろうな。

 

 単純な結果じゃなくて、それが切欠で色々拡散していく方が厄介だ。

 

「そうだな、杜撰過ぎる。だがゴーレムマスターに精神的な負担を強いる事は出来る、嫌がらせと警告だな」

 

「国内の馬鹿貴族連中も疑心暗鬼になろう、派閥のトップ連中に釘を刺したが効果が有るかどうか悩むぞ」

 

 流石に僕の考えた事など予想の範疇みたいだ、ニーレンス公爵達にも釘を刺したなら大丈夫じゃないかな?

 次は派閥のトップ連中にも連帯責任が及ぶだろう、何よりアウレール王が配下や派閥の連中を監視しろって厳命したんだ。

 二口目の紅茶は味わう事が出来た、だが僕を残した意味はなんだろう?途中経過の報告だけじゃないよな。

 

「何を不思議な顔をしている、お前はサリアリスと共に俺の補佐をしろと言っただろ。今後の事も話し合う必要が有る、先ずはだな……」

 

 あれ?あの右腕の件って本当だったの?僕はザスキア公爵と相談した作戦内容を伝えた、幾ら上品にとはいえ他国に宣戦布告紛いの喧嘩を売るんだ。

 バーリンゲン王国の属国化の方法と手順を話すと、呆れられたり感心したり幾つか質問されて一部内容の修正もされた。

 だが国王と宮廷魔術師筆頭の了承と協力は得られた、彼等は僕に驚かされるのは嫌だから事前に内容を教えろ!その代わり協力はしてやるって事だ。

 

 後はロンメール様にも僕に協力する様に下話をしてくれるそうだ、同行する臣下が他国に宣戦布告紛いな行動を取れば心配だろうし諫めるかもしれない。

 後は今夜の食事会で、ローラン公爵とユーフィン殿の件について話し合う事になっている。過去に僕の配下だったログフィールドの子孫である彼女の事は無碍には出来ない。

 

 最後にだが、アルノルト子爵の処罰について、エルナ嬢に被害が行かない様にお願いした。第二の母であり、現在僕の弟か妹を妊娠しているんだ。

 実家のゴタゴタに巻き込んで悲しませる訳にはいかない、アウレール王も悪くはしないと約束してくれたので安心した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 過去に何度か訪れた事の有るローラン公爵の屋敷、今回は夕食会であり込み入った話し合いになるから僕一人だけだ。

 同じ貴族街に有るので馬車なら一時間も掛からずに到着する、なのでローラン公爵とユーフィン殿、それとログフィールド伯爵との関係を確認する。

 

 先ずは過去にログフィールド伯爵家はレオニード公爵家に仕えていた。

 二家は既に滅びたオランベルド王国に仕えていたが、滅亡時に御家の存続を賭けて周辺国家を頼った。

 レオニード公爵家はバーリンゲン王国に、ログフィールド伯爵家はエムデン王国に仕える事となった。

 この二家の付き合いは長く、オランベルド王国の前にはルトライン帝国に仕えていたらしい。

 ローラン公爵家に家宝として伝わる、ルトライン帝国魔導師団の鎧兜はローラン公爵家と婚姻関係を結ぶ際にログフィールド伯爵家から贈られた物だ。

 つまり、あの鎧兜はログフィールド伯爵家が所有していた物で、先祖である、僕に仕えていたログフィールドの物なんだ。

 シリアルナンバーはNo.448、土属性特化魔術師の『土壌』のログフィールドの子孫がユーフィン殿だ。

 

 過去の関係からレオニード公爵家はログフィールド伯爵家に婚姻外交を迫った、仮にサルカフィー殿とユーフィン殿が結婚しバーリンゲン王国がエムデン王国と開戦すれば……

 ローラン公爵とログフィールド伯爵はユーフィン殿を切り捨てる、それが貴族的な常識で国家を優先するのが当たり前と思われている。

 そしてローラン公爵は間違い無く自分の立場とユーフィン殿を天秤に掛ければ自分を取る、だからこの婚姻外交の意味は双方が薄い。

 

 なのに強引に迫る意味が分からない、その分からない部分を埋めるのが今夜の話し合いだ。

 

「リーンハルト様、到着致しました」

 

「ん、ご苦労様」

 

 おぃ!身分上位者の屋敷を訪ねたのに正門から玄関に直行で横付けかよ、いくら誘導されたとはいえローラン公爵夫妻が自ら出迎えって……

 急いで馬車から降りる、正面にローラン公爵夫妻。後ろにユーフィン殿と多分だがログフィールド伯爵だな、豪華な出迎えに胃が痛くなる。

 

「本日はお招き頂き有り難う御座います、楽しみにしておりました」

 

 貴族的礼節に則り一礼する、今夜は貴族服を着て魔術師のローブは羽織っていない。宮廷魔術師第二席の立場での来訪だが、懇親会を兼ねた夕食に招かれた建て前での行動だ。

 

「良く来てくれた、リーンハルト殿。それは此方も同じだぞ」

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。少し会わない間に色々と活躍なさってますわね」

 

 満面の笑みで両手を広げて歓迎してくれるローラン公爵、妖艶に微笑むメラニウス様。今夜はヘリウス殿が居ないな、あの天然の善人振りには何度も助けられた。主に空気を読まない行動で……

 

「そうだ、紹介しよう。彼がログフィールド伯爵だ」

 

 ここで紹介されたが、やはりログフィールド伯爵か。彼の意見も聞いて確認しないと駄目なんだよな。自分の家の歴史と娘に関係する話だからな。

 

「エルクレス・ブラッセル・フォン・ログフィールドだ、噂は色々聞いているぞ」

 

 色々ね、それは好意的とも敵対的とも取れる言い回しだ。普通に御世辞を混ぜるならば、活躍は聞いているだけどね。

 

「リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイです。宜しくお願いします」

 

 お互いに余所行きの笑みを浮かべる、ローラン公爵の派閥構成員だが面識は無かった、確か親書の遣り取りだけだったな。

 親書の内容は一般的で礼儀に則ったモノだったかな、特にお近付きになりたいとか下心は無かった。義理で遣り取りをしている感じだった、と思う。

 中肉中背だが鍛えられた肉体に精悍な顔立ち、四十代前後で歴戦の戦士の雰囲気を醸し出している。

 武闘派のローラン公爵の派閥構成員だけあるな、敵意は感じないが凄く値踏みされている。正直デオドラ男爵に近い匂いがする、だが武力は人間としての常識の範疇内かな?

 あの三人は既に人間の範疇を超えたナニかだよ、他の人と比べるのは双方に失礼なレベルだ。

 

「こ、今晩は。リーンハルト様」

 

「今晩は、ユーフィン殿。ドレス姿は初めて見ますが、とても良く似合ってますね」

 

 リップサービスも含むが、王宮の侍女や女官の衣服は主役より地味だと決まっている。今夜の彼女は今風の胸元が大きく開いたドレスを着ている、淡い緑色をベースにした女性本来の魅力を押し出した感じかな。

 活発な感じがする彼女とは合わないと思う、胸元には見事なエメラルドのネックレスが映えていて標準より小振りな胸を誤魔化している。

 

 うーん、無理矢理色気を優先したコーディネートだが隣にメラニウス様が居るから完全に負けている。

 直ぐに視線を外し心の中で彼女の慎ましい努力に泣いた、出来るだけ協力してあげようと決意を新たにする。

 

「有り難う御座います、凄く嬉しいです!」

 

 元気良く返事をくれた、やはり快活な感じがする。彼女ならオレンジ系統の……いや、令嬢のファッションチェックは不要だよな。

 そのままローラン公爵を先頭に食堂に向かう、例の執事が緊張しながら側に控えていたので視線で挨拶だけしておいた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石は公爵五家の第三位、食通で有名なローラン公爵の主催するディナーは素晴らしい味だった。

 産地から調理方法まで説明されたが、正直半分しか分からない。凄い拘りを感じたが、そこに突け込まれて過去に実の弟から毒鳥であるピトーフィの肉を食べさせられたんですよね?

 

 前菜はドゥイア(サラミペースト)のカナッペだがカラブリアからの直送、水牛のモッツァレラチーズ入りの茄子のインボルティーニ(野菜巻き)のチーズはカンパニアからの直送。

 通常の量産品は乳牛だが飼育の難しい水牛の乳を使うのは最高級品だとか何とか……

 冷製カッペリーニは雲丹とフレッシュトマトとパッパルデッレ(幅広のパスタ)鴨肉のラグーソース、この料理の語源のパッパーレは食いしん坊らしく豪快に食べるのがマナーだとか全ての料理に講釈が入った。

 

 次に出されたのがボルチーニのリゾット、だが茸であるボルチーニの産地から延々と話を聞かされた。本来なら食事中は話はしないのがマナーなのだが食通・食道楽は関係無いのか?

 開始から述べ二時間以上、主菜の肉料理と魚料理も長々と話を聞いて相槌を打ち簡単な感想を述べて漸く解放された。ログフィールド伯爵やユーフィン殿は慣れてるみたいだ。

 もしかしてヘリウス殿が居ないのって、逃げたのでは?

 

 本題は食後、紅茶を飲みながらになる。貴族のマナーは大変だ、本題に入る前に手順を踏まねばならない。

 

 貴種たる我等は慌てるなど恥ずかしい行為、常に優雅で余裕を持つ事を心掛けるべし!

 

 緊急時は無視するが今は平時、この屋敷の使用人達にも他の貴族達の息の掛かった連中も居るから屋敷の中でも気が抜けない。

 幾つか時事ネタで会話を交わし各家の事を誉める、会話が途切れた時を見計らい身分最上位のローラン公爵が話題を振る。

 

「来月だが、バーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様と、ウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様との結婚にユーフィンは侍女として同行する」

 

 漸く本題に入ったか、全員の視線がローラン公爵に集中……しない?何故、ユーフィン殿は僕を見詰めているんだ?


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