古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第473話

 デオドラ男爵との模擬戦を終えた後、軽く朝食を頂いた。

 デオドラ男爵は運動した後は腹が減ると朝から重たい肉料理を食べている、何故に朝からケーニヒスベルガークロプセと呼ばれる直径5cmも有る煮込み肉団子をバクバク食えるのですか?

 いえ、物欲しそうに見ていませんから。フォークで刺して僕に向けないで下さい。僕はホッペルホッペルと呼ばれる豚肉とジャガイモの入ったオムレツにクロワッサンだけで十分に満足です。

 

 模擬戦というか総評だが、ゴーレムクィーンについては合格点を貰った。

 単体最強ゴーレムの戦闘力は戦闘狂のお墨付きを得た訳だ、本来は指揮官タイプなのだが今は言わないでおく。

 また手加減したのかと言われそうだ、本来のゴーレムクィーンはゴーレムナイト(騎士)を従えるクィーン(女王)なのだから……

 

 僕の黒縄(こくじょう)については最後に見せた魔力刃を最初から使って無い事が大変不満らしい、でも使っていたら黒縄掴んだ時に指が切断されて大惨事だったぞ。

 デオドラ男爵の話を信じるならば、もし魔力刃を纏っていたら直ぐに分かるから掴まなかったそうだ。

 野生の勘か武人の勘か分からないけどね、だが困った事に無条件に信じられるんだよ何でも有りな人だ。

 野生の獣みたいな戦いに置ける嗅覚、やはり付け焼き刃では接近戦でデオドラ男爵クラスには敵わない。

 だが普通の相手ならば十分だと、此方も一応お墨付きを貰えた。この人からお墨付きが貰えれば一安心だ、黒縄(こくじょう)の鍛錬は一応の完了かな?

 

 実り有る模擬戦だった、後はゴーレムクィーンの残り四体を錬金するか。自宅だとイルメラ達に止められそうだから、王宮内の執務室か魔術師ギルド本部の研究室かだな。

 だが魔術師ギルド本部だと魔力を感知されて色々と調べられそうだな、そういう人種の集まりなのが魔術師ギルド本部だ。

 変に注目を集めるよりは、素直に王宮内の執務室で錬金しよう!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先にアーシャを自分の屋敷に送り届けてから王宮に向かう、上級貴族の側室が襲われたからか貴族街を巡回する警備兵が多くピリピリとした緊張感が伝わって来る。

 ウィドゥ子爵の時も増員されていたが今朝は更に多い、僕は伯爵で侯爵待遇の宮廷魔術師第二席だ。

 その側室の襲撃犯に現役宮廷魔術師団員が含まれていたから大変だ、昨夜の内に何人かの容疑者の屋敷に聞き取りに行っただろう。

 宮廷魔術師になったばかりの頃に五十人以上の火属性魔術師達と戦い倒した、そのまま容疑者候補に上がった筈だ。

 

「思った以上に大事だな、擦れ違う警備兵達が気遣わしげに立ち止まり頭を下げてくれる。被害者の僕に気を使っているのか?」

 

 窓から軽く手を振って謝意を伝えておく、僕は彼等に余計な仕事を増やしているからな。

 あれ?聖騎士団員も小隊規模で行動してるぞ、しかも完全武装の十人編成って何と戦うんだ?ジョシー副団長の姿も見えたけど?

 

 王宮に到着、跳ね橋を渡り正門を通過する。幾つかの関所を通り上級貴族専用の停車場に入る、今朝は何時もよりも馬車が多い。

 ニーレンス公爵とローラン公爵、ザスキア公爵の家紋が付いた馬車も確認出来る。他にも侯爵クラスが何人か来ているのか、思わぬ大事になっているぞ。

 御者が扉を開けてくれたので降りる、その時に独り言を呟いてしまった。

 

「参ったな、被害者と言えども王都を騒がせたと責任を追求する連中も居そうだな」

 

 御者が近くで話し込んでいる仲間の御者達に状況を聞いてくれた、彼等の情報網は馬鹿に出来ない。一分程で情報を仕入れて教えてくれた、仕事が早いな。

 

「リーンハルト様。御者仲間より聞き出しましたが、昨夜の内に既に何人かの宮廷魔術師団員が聖騎士団により捕縛されています。

複雑な派閥の絡みも有るので、釈明の為にと公爵五家及び侯爵七家の当主の方々が自主的に集まっておられます」

 

 御者が周囲に分からない様に囁いてくれた情報に唖然とする、謹慎中のクリストハルト侯爵まで王宮に来ている。

 つまり謹慎が解けたか呼び出されたかだな、捕縛された連中と関係が深かったと見るべきか?

 今回の捕縛劇だが公爵五家や侯爵七家まで動かすとなれば主導したのは、彼等よりも上位者なんて一人しか居ない。

 

「まさかアウレール王が?」

 

「はい、勅命にて聖騎士団を動かしました」

 

 勅命だと?それに逆らう事は国家反逆罪と同等。何故だ、何故こうも迅速に未遂の段階でアウレール王が動いた?

 マグネグロ殿やビアレス殿の配下や縁の有った火属性魔術師の宮廷魔術師団員達は各派閥から引き抜きに有った。

 そうか、自分の派閥に引き抜いた奴が襲撃に関係していたとすれば責任を追求されて最悪は襲撃に荷担したと思われる。

 だから身の潔白の為に自らが王宮に出仕して身の潔白をアピールしている、考えられるな。

 

「ありがとう、何時も助かる。貰い物で悪いが飲んでくれ」

 

「こ、これは……アスマンスハウゼンの16年物赤ワイン?リーンハルト様、有り難う御座います」

 

 空間創造から赤ワインを一本取り出して御者に渡す、価値は金貨二十枚程度だが何時も正確な情報を教えてくれる御礼だ。

 深く頭を下げる彼は相当の酒好きらしく毎晩晩酌は欠かさないと言っていた、だから金貨より現物の方が喜ぶんだ。

 

 自分の執務室に向かいながら考える、今回の襲撃は末端の実行犯は捕まえたが首謀者は無理だと考えていた。

 バニシード公爵か旧コトプス帝国の残党共迄は辿り着けないと諦めていた、次に僕が王都を離れる時に必ず何か仕掛けてくると予測した。

 バーリンゲン王国に結婚式に出席する辺りが怪しいと睨んで、準備を進めるつもりだったんだ。

 

「だがアウレール王が動いた、悠長に待てない事情が有ったのか?宮廷魔術師団員絡みだと、サリアリス様も動いたのかな?」

 

 参ったな、ニーレンス公爵達には僕が火属性魔術師達の引き抜きを頼んだんだ。敵対勢力の力を削ぐ為だったのに、まさか内通されて裏切られるとはな。

 

 ああ、だから公爵自らが王宮に来たのか。理由が分かって少しだけ落ち着いた、これはアウレール王に謁見を申し込んで話し合わないと駄目だ。

 それに各公爵達とも会って僕が不信感を持っていないと伝えよう、今回の件は起こるべくして起こった。

 有る意味では自業自得、だから準備を進めていたんだ。

 

 因みに僕の少し後ろには非武装のゴーレムクィーンが歩いている、一番最初に錬金した彼女には僕のサポートをして貰う。

 だから御披露目を兼ねての同行だ、単独で彼女が王宮内を動く可能性も有る。正式に許可を取る必要も有る、アウレール王にお願いするのは気が引けるけど仕方無いな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 執務室に入る、専属侍女は全員揃っている。そして執務室には公爵五家全員からの親書、バニシード公爵までか?

 

 挨拶を手早く済ませて親書のチェックを……

 

「おはよう、リーンハルト様!昨夜は大変だったわね。あらあら綺麗な子が居るわね?」

 

 バンって勢い良く音を立てて開く扉、ノックも無く異性の執務室に入るザスキア公爵を苦笑いと共に迎え入れる。

 この諜報と謀略を司る淑女が真面目な顔をしている時は要注意だ、何時もの貼り付けた柔和な笑みが無い。

 そしてゴーレムクィーンが優雅に一礼する、この子には感情機能が無い筈だが喜怒哀楽が分かり易くないか?

 

「オリビア、悪いが濃い目の紅茶をくれ。あと何か甘い物も欲しいかな」

 

 壁際に控えるオリビアに名指しで頼む、食べ物関係に強い彼女に頼むのは不思議ではない。

 

「はい、承りました。リーンハルト様」

 

 各公爵家から遣わされたハンナ達は、ザスキア公爵と僕の会話を聞きたいだろう。僕も話を聞いて伝えて欲しい、それが正しい諜報要員の使い方?

 

「杜撰な襲撃だと思ったけど、裏は深いわよ」

 

 ゆったりとソファーに座る彼女の表情に注目する、未だ真面目な表情だな。結構重たい話となれば、バニシード公爵よりも旧コトプス帝国の謀略の方が正解か?

 向かい側に座るとゴーレムクィーンが背後に立つ、今は僕の護衛任務だからだな。

 

「最初は黒幕をバニシード公爵かと思いましたが、旧コトプス帝国の謀略の方が濃厚ですか?僕はリーマ卿の謀略を三回潰してますし、残党の将軍二人に雑兵二千人を殺している。恨みを買うには十分過ぎる理由でしょう」

 

「そして戦争の最大の障害たるリーンハルト様の動揺を誘う罠ね、今後も定期的に襲撃は有るわよ、次は結婚式に出席する為に王都を離れる時ね」

 

 辛そうに言われるとザスキア公爵への好感度が地味に上がる、でも色々と僕や僕の周囲の事も調べているんだな。

 

 そしてジゼル嬢の予想通りだ、流石だよな。そしてザスキア公爵も同じ考えだが、もう一歩先を読んでいるみたいだぞ。

 

「準備はしてました、例え正規軍クラスが百人や二百人位では負けない戦力を張り付かせていました」

 

「その子の事ね?完全自律型のゴーレムクィーン、世の中の常識を引っくり返す程のゴーレムよね。でも妙に親近感を覚えるのは何故かしら?」

 

 年上なのに頬に指を当てて首を傾げるとか、ザスキア公爵も相当あざとい仕草をする。

 だが王宮には初めて連れて来たのに既にゴーレムクィーンの名前を知っている事が凄い、そして親近感を覚えるのは貴女の体型を忠実に再現したからです。

 

「彼女はゴーレムクィーンの長女、名前は……アインにします」

 

 即興で名付けたが良くないかな?うん、悪くない。結構良くないか?

 

「アイン、一番目で長女って意味ね。うーん、でもまぁリーンハルト様だし仕方ないのかしら?それで彼女を量産するの?」

 

 名付け方が単純過ぎたか?僕はその手のセンスが悪いらしいんだよな、アイン・ツヴァイ・ドライ・フィア・フンフで五人姉妹の予定なのだが駄目か?

 

「錬金に必要な素材が高価で稀少な物ばかりですから、量産は厳しいかな?」

 

 曖昧に誤魔化す、彼女が欲しいと言ったら作っても構わないが際限なく欲しがる連中が居そうだ。

 流石にアウレール王には献上しないと駄目かな?いや、近衛騎士団が仕事を取られたと思うから無理か……

 

「そう?うーん、あらあらあら!この子ってイルメラちゃんと同じ顔ね、クィーンとは意味深だわ」

 

 何だろう?浮気がバレた旦那の気持ち?いや、もっと危険で焦る気持ちが溢れて来る。

 

 違う!何故、ザスキア公爵がイルメラの顔を知っている?僕の動揺が移ったみたいにアインも挙動不審だ。

 

 落ち着け、オタオタするな!

 

 僕は貴女に感情機能は与えてないだろ、黙って無表情に立ってるだけで大丈夫なんだぞ。

 

 ニヤリと笑うザスキア公爵に両手を上げて降参する、まさか仮面を見ただけでイルメラだと分かるって何だよ!

 

 直接イルメラを見た事は無い筈だ、当然だが会った事も無い。つまり誰かが短期間で調査して報告が上がったんだ、恐るべし諜報員達だな。

 

「ええ、子供の頃から僕を支えてくれた大切に思っている女性です。僕は大切な人達と幸せに生きていく為に、邪魔者を排除する為に、急いで魔術師の頂点を目指して力を手に入れたのです。

そして奴等は愚かにも僕の大切な人達に手を出した、この仕返しには一切の妥協も慈悲も無いでしょう」

 

 禍根を残さない為に、次に良からぬ事を思う奴等が出ない為に……僕はこの襲撃に携わった連中は徹底的に潰す。

 

「あらあら怖いわね、他の方々はリーンハルト様の事を優しいと評して侮っている部分が有るけど大きな間違いよね。敵対しても優しい対応をしてくれると思っているお馬鹿さんには良い薬かしら」

 

 ホホホホッて手を口元に当てて上品に笑っているけど、目は笑っていない。どうやらザスキア公爵は僕に協力してくれるらしい、関連する情報を集めてくれたんだな。

 

 僕等は暫くの間、今回の件と今後の件について事前に話し合った。

 その後にアウレール王から関係者に集まる様に指示が出た、どうやら公爵五家に侯爵七家、それに宮廷魔術師に何人か他の貴族も呼ばれたらしい。

 謁見室に集まれとなれば、それなりに長い話し合いになるのだろう。

 

「さて、当事者として気合いを入れて行きますか!」

 

「そうね、獅子身中の虫を炙り出しましょう。楽しい話し合いになりますわね」

 

 後で聞いた話だが、この時の僕とザスキア公爵の黒い笑みにイーリンがドン引きしたそうだ。全く失礼な専属侍女め、もっと僕を敬って欲しいぞ!

 


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