古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第472話

 アーシャ襲撃の翌朝、僕の腕枕で眠る彼女の額に軽くキスをする。昨夜はデオドラ男爵家に泊まった、メルカッツ殿には事情を説明し先に屋敷に帰って貰った。

 今回の襲撃でゴーレムクィーンの有用性は理解した、イルメラ達に専属で一体ずつ付けるとして自分も含めると五体は必要だ。

 幸いツインドラゴンから見付けた宝玉には余裕が有る、込める魔力の関係で一日一体しか作れないが急ぐ必要があるな。

 最高品質のゴーレムクィーンは彼女達分の五体しか錬金出来ない、セラス王女やリズリット王妃が欲しがるか?

 ダウングレードして何体か作る必要が有るかな、いや五体しか作れないって言うか。流石に強引に取り上げたりはしないだろう。

 

「気丈に振る舞っていたそうだが、本当は怖かったのだろう」

 

 腕の中で規則正しく寝息を立てている彼女が、側室に迎えてから随分と強くなったと感心する。

 メルカッツ殿に指示を出し、ヒルデガードに一喝して落ち着かせたそうだ。

 メルカッツ殿が凄く感心していたな、深窓の貴族令嬢が自分が襲われているのに取り乱さずに冷静に的確に指示を出す。

 邪魔をせずに怯えずに自分に全てを任せてくれた、メルカッツ殿も護衛冥利に尽きると言っていた。

 

 まぁゴーレムクィーンに良い所を持ってかれて、自分達は賊共しか相手に出来ずに不完全燃焼だとボヤかれたけどね。

 ゴーレムクィーンは最初に魔術師の片方を殲滅してからは馬車の護衛をしていた、あの馬車は防御力は高いが馬車ごと持ち攫われるのが弱点なんだ。

 

「アーシャに怖い思いをさせた落とし前はつける、百倍返しだぞ」

 

 彼女の控え目な体臭を胸一杯に吸い込む、ジゼル嬢も昨夜は一緒に添い寝はせずにアーシャ姉様を可愛がって下さいと真面目に言われた。

 怖い思いをしたのなら、殿方の大いなる愛で上書きするのが良いと何処かで聞いた事を言われたな。確かに昨夜のアーシャは普段よりも少しだけ大胆だったかな?

 

「不味い、にやけてしまう。これでは只の好色家だ、反省しろ!」

 

 スリスリと胸に頬を寄せてくるアーシャって、実は起きていて僕の独り言を聞いていたのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝六時に起きて、アーシャとアーリーモーニングティーを楽しんでから二人で風呂に入った。

 色々と洗い流して身嗜みを整える必要が有ったから、いや僕は野獣じゃないが色々と溜まっていたみたいだ。

 

 そして朝食前に恒例の模擬戦を行う事になった、デオドラ男爵は戦闘狂だけに『待て』が出来なかったんだ。

 もう昨夜から模擬戦が待てずに何かが漲(みなぎ)っていて大変だったと、艶っぽく教えてくれた本妻殿や側室殿達がツヤツヤしていた。

 ジゼル嬢やアーシャに新しい弟か妹が出来るかもしれない、一晩に八人も相手に出来るとは羨むべきか呆れるべきか……

 

「ふははは、楽しみで楽しみで待ち切れなかったぞ。狂喜の魔導騎士と言われたリーンハルト殿の本性を俺にも見せろよな!」

 

 久し振りの模擬戦、久し振りの中庭、変わった事はアーシャが木の陰から見ずに屋敷二階のベランダから余裕の笑みを浮かべて観戦している事か。

 アーシャとジゼル嬢、それにニールも一緒だ。彼女達に軽く手を振って大丈夫だとアピールする。

 

「僕の二つ名はバルバドス師が名付けてくれたゴーレムマスターです、今日は最強の自律行動型ゴーレム。ゴーレムクィーンと共にお相手します」

 

 デオドラ男爵クラスに通用するか試す事にする、僕の技術の結晶であるゴーレムクィーンはレベル70以上の戦士と同等の強さを持つ。

 本来は複数のゴーレムを操る指揮官タイプだが、単体戦力も馬鹿には出来ない。

 

「頼むぞ、ゴーレムクィーン!」

 

 僕の呼び掛けに応えてドレスの両側を摘まみ、片足を引いて腰を下げてカテーシーと呼ばれる淑女の礼をとる。

 その後で巨大なハルバードを取り出し、頭上で一回転させて構える。軽く足を開いているのでスカートが広がり少しだけ扇情的か?

 

「ほぅ、中々の迫力だな。だが俺はゴーレムじゃ倒せないぜ!」

 

「今迄とは違います、ゴーレムクィーンは僕の最高傑作ですから!」

 

 ゴーレムクィーンが真っ直ぐデオドラ男爵に突っ込み、直前で飛び上がり勢いをつけてハルバードを振り下ろす。

 デオドラ男爵が真後ろに跳び去るが、当たった衝撃で地面が陥没し瓦礫が周囲に飛び散る。

 そのまま引き抜いたハルバードを水平に振ると衝撃波が生まれ、デオドラ男爵に襲い掛かる。

 一撃、二撃、三撃と弓形の衝撃波が襲い掛かるが、デオドラ男爵はロングソードを振り難無く攻撃を弾く。

 

「おぃおぃ、面白い人形だな!」

 

「全く攻撃が通じないって何ですか?」

 

 今度は仕返しとばかりに襲い掛かる、片手でロングソードを軽々と操りゴーレムクィーンに襲い掛かる。

 力任せに振り回している様で洗練された斬撃、それに鋭い突きまで混ぜてくる。

 ハルバードでロングソードを受ける度に、激しい金属音が鳴り響く。刃を合わせる度に衝撃波が生まれ、デオドラ男爵とゴーレムクィーンの身体に僅かな傷が生まれる。

 

「ハーッハッハァ!楽しい玩具(おもちゃ)だな、俺の本気の斬撃を受けても無事とはな」

 

 ゴーレムクィーンは話せない、それに感情は無い筈なのにデオドラ男爵の誉め言葉に対して優雅に一礼する。

 そして右手に持っていたハルバードを垂直に振り下ろし大地に突き刺した。

 腰に吊り下げていたロングソードを引き抜き、肩に装着していた六枚のフロートベイル(浮遊盾)を展開する。

 

「ほぅ?ルーシュとソレッタに与えたドレスアーマーと同じ浮く盾か、自動に防御する盾とは珍しい」

 

「これもゴーレム道を突き詰めて生まれた副産物です、その盾は攻撃だけじゃなくて……」

 

 花弁の様にフロートベイルを周囲に展開し、凄い速さで突進。偽・剣撃突破を仕掛ける。

 

「本家本元に偽物は通じないぜ、剣撃突破!」

 

 互いの突進系の大技、お互いの距離は20mと離れてないので助走不足か?互いの剣先が衝撃波を纏い破壊せんとするが弾け飛んだ。

 デオドラ男爵は10mも後ろに弾かれて片膝をついたが、ゴーレムクィーンはフロートベイルを船の帆みたいに広げ衝撃波を受けてフワリと浮き上がった。

 

「クハ!クハハッ、何だよ、何なんだよ?毎回驚かされる、それだけのゴーレムをジゼルやアーシャの為だけに作り上げたのか。それで俺で性能試験か?」

 

「そうです。どうですか、ゴーレムクィーンの性能は?」

 

 服に付いた汚れを払いロングソードを肩に担いで凶悪な笑みを浮かべている、一応模擬戦は終了で良いんだろうか?

 時間は十分を過ぎた、だが今回は審判を指名していないから当事者が判断するしかない。期待に満ちた目でデオドラ男爵を見る、もう終了で良いですよね?

 

「さぁ二回戦と逝こうか、前座は終わりだ。なぁ、狂喜の魔導騎士殿?」

 

 駄目だ、目が爛々と輝いて鼻息も荒い。涎さえ流しそうな勢いだ、もう止められないか……

 ゴーレムクィーンが僕の肩を軽く叩いてから首を振った、僕は君にそんな感情豊かな機能を備え付けたっけ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二回戦か、ロングソードを肩に担いでニヤリと笑う。ストレス発散は不完全だったらしい、これからが本番だ。

 ゴーレムクィーンを後ろに下げる、共闘の筈が何故か二人だけで戦う事になってるから。

 中庭の中心に向かう、歩きながらハーフプレートメイルを錬金し身に纏う。もうバレたので両肩にフロートベイルも装備する、魔力障壁が抜かれた場合の最後の守りだ。

 

「楽しいなぁ、リーンハルト殿?」

 

「性能試験は済んだので、次は僕の鍛錬の成果の確認をさせて下さい」

 

 デオドラ男爵相手に接近戦を挑み凌ぐ、または接近させずに倒す事が出来れば戦争の最前線に身を置いても大丈夫だ。

 ジウ大将軍クラスと同等以上の武力を持っているからな、バーリンゲン王国の武官について調べたが少数民族との小競り合いが多い為か武力自慢な将軍が多い。

 ゴッドバルド将軍やピッカー将軍クラスなら苦労はしないが、それよりも強いと問題だ。

 

「逝きます!」

 

「掛かって来い!」

 

 先ずは僕の接近戦の技量がどうかを確かめる、真っ直ぐ突っ込みながら両肩に巨大な腕を錬金する。

 

「いきます、巨人の腕(かいな)。連撃、破壊の拳!」

 

 巨人の腕は全身装甲のゴーレムキングの応用、部分的にパーツを錬金して操作する技だ。

 握り締めた拳の大きさは1m近い、これを両手で連打する!

 

「ははっ、魔術師が接近格闘戦だと?だが未だ甘い」

 

 巨大な拳の連撃に対して正確に殴り返して来た、大きさなど関係無いとばかりに構わず殴ってくる。

 高い金属音が鈍い音に変わった時、僕の錬金した拳の指の付け根部分が砕けた。

 

「ならば、貫き手!」

 

 面の制圧の拳が駄目なら貫く点の攻撃に変える。手刀は駄目だ、モーションが大きく隙が多い、振り抜いた腕を戻す間に反撃される。

 その点殴るや貫くは腕を伸ばして引き戻すだけだから、動作が少なく隙も少ない。

 

「ふん!」

 

「何て不条理な!」

 

 巨大な拳による貫き手による攻撃を腕の一振りで弾いた、人差し指と中指が吹き飛び腕が真横に弾かれる。

 拳による連撃の防御の片側が無くなった、ニヤリと笑うデオドラ男爵が空いた場所に潜り込んで来る。

 

「オラァ、オラオラァ!仕返しだぁ!」

 

 鋭い踏み込み、背筋が凍るプレッシャー、迫り来る死を予測する拳による攻撃。

 反射的に目を逸らし瞑りたくなる感情を抑えて魔法障壁に魔力を込めて三枚張る、通常の魔法障壁では抜かれる予感がヒシヒシとする。

 

 デオドラ男爵の拳が魔法障壁にブチ当たった途端に魔法障壁が……ガラスが割れる様な音と共に一枚目が破れた。

 

「オラオラオラァ!」

 

 更なる打撃による攻撃を二枚目の魔法障壁に魔力を込めて強度を増す、殴る度に障壁が揺れるが破られはしない。

 だが障壁は破られないが衝撃は消せない、ジリジリと後ろに後退する。だが耐えている間に仕込みは終わっている、これから反撃だ!

 

「黒縄(こくじょう)」

 

 両腕に展開した黒縄を左右から八十本展開し自分を中心に周囲30mにうねらせる、この結界は先日の鍛錬の成果だ。

 

「これは、山嵐じゃないな。新しい魔法か?しかも同系統か?」

 

「先日覚えた魔法です、切り札用に鍛錬して来ました。今日が初お披露目です」

 

 制御範囲は半径30m、制御本数は最大八十本。だが先端に魔力刃は纏わずに丸めてある、流石に魔力刃は不味い。

 デオドラ男爵を絡め取る様に拘束の触手を展開し、自分に巻き付けた黒縄を操り距離を取る。

 高く上に持ち上げて自分を支えている以外の黒縄を操り、四方八方から攻撃を繰り返す。

 

「捕まえちまえば、コッチのものってな!」

 

 数本の黒縄を掴み取り僕を引き寄せ様と引っ張るが、途中でブツリと切り離す。切断面から新たな黒縄を伸ばし攻撃の手を休めない、そして更に攻撃の種類を増やす。

 

「大地の槌よ、巨人の一撃!」

 

 両手を広げて巨岩を左右に二つ錬金する、一個5tonの重量は破壊力バツグンだ!

 

「潰れろ!」

 

 両手を振り下ろして巨岩を投擲する、地面に激突すると陥没し周囲に粉塵を撒き散らす。

 視界が悪くなるが位置を予測し連続して五個目を投げる、六個目を投げようとした時に魔法障壁が自動展開した。

 

 粉塵を切り裂く様に何かが向かってくる、不味い見えない攻撃だぞ。

 黒縄を使い自分を引っ張る事で見えない攻撃を避ける、何度目かの攻撃の後に風により粉塵が晴れた。

 前にも見たがデオドラ男爵は手刀でも衝撃波を飛ばせるらしい、周りに展開していた黒縄も千切れ飛んで減っている。再生はするが間に合っていないのか?

 

 デオドラ男爵が僕に向かって腕を振る、当然だが衝撃波が飛んで来る。だが動作が見えれば避けるのは簡単だ、腕を振り抜いた直線上にしか衝撃波は飛ばせない。

 

「おぃおぃ、嘘だろ?」

 

 衝撃波では埒があかないと感じたのか、今度は投げ付けた巨岩を投げ返してきた。

 一個5tonだぞ、軽々と地上20mまで投げられるのか?どれだけ怪力なんだよ、ふざけるなよ!

 

「くっ……黒縄よ、魔力刃を纏え!」

 

 衝撃波と違い避けても軌道上の黒縄が切れずに当たって諸共飛ばされる、故に避ける訳にはいかない。

 五本の黒縄に魔力刃を纏わせて、向かって来る巨岩を細切れにする。流石に五個目を細切れにして投げる物が無くなると落ち着いたのだろうか?

 肩で息をして乱れた呼吸を整えている、模擬戦を終えるなら今だな。シュルシュルと黒縄を操り地上に降りる、両手を上げて戦う意志は無いとアピールし近付く。

 

「少し熱くなり過ぎましたね、模擬戦は引き分けにしましょう」

 

「む、そうだな。段々とえげつない攻撃を覚えてくるな、全くバーナム伯爵やライル団長はストレスが発散出来たと言ったが嘘じゃないか?」

 

 言えない、あの時は魔法の試しじゃないし魔香の効果で精神的に怪しかったとか……言えない。

 

 僕は誤魔化す様に胡散臭い笑みを浮かべた、しかし苦労して鍛錬した黒縄が全く通じないとは自信が無くなるな。

 

 


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