古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします。
今年の目標は完結まで書ききる事です。
完結までお付き合い宜しくお願いします。


第471話

 アーシャが賊共に襲撃された、幸いだがメルカッツ殿と警備兵それにゴーレムクィーンの活躍で事なきを得た。

 マグネグロ殿の取り巻きの火属性魔術師が実行犯の中に居た、数名が逃げ出したらしいが候補者は絞れる。

 それは宮廷魔術師団員が襲撃に絡んでいた事を示す、これは明日は休みを返上して出仕しないと駄目だな。

 

 火属性の宮廷魔術師団員の聞き取り調査は必須だ、本当なら疑わしき連中は直ぐにでも拘束したい。

 だが彼等は貴族だから確たる証拠も無しに拘束は出来ない、だが王都の門からは出れない通達が行ってるだろう。

 あの薄汚い男達は予想通りにスラム街の連中だ、フードで顔を隠した男に高額で依頼されたそうだ。

 

 前金で金貨百枚、成功報酬が金貨三百枚。スラム街にくすぶる連中からすれば人生が買える金額だからな、それに恨みの有るエムデン王国の貴族を襲う事も依頼を受ける動機だったそうだ。

 戦争の傷跡は根が深い、全員が中年だったのは戦後に奴隷として連れて来られた連中だったからか……だが許す事は出来ない。

 捕まった奴等は全員が死刑だが、死ぬ前に洗いざらい情報は吐かされるだろう。

 

「捕縛されるより、その場で殺された方が幸せだったろうな」

 

 エムデン王国の尋問官と拷問官は甘くない、死刑が確定している連中だから更に容赦は無い。

 後は警備兵と引き継いだ聖騎士団が、何処まで他の奴等を追い込めるかだ。だが暫くは大人しくなるだろう、次は僕が王都を離れる時が危険だな。

 

 次の襲撃は結婚式に呼ばれてバーリンゲン王国に行く時かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アーシャを伴いデオドラ男爵家に向かう、彼女が襲われた事を義父たるデオドラ男爵と参謀のジゼル嬢に伝えなければならない。

 既に先触れを出して情報を伝えているから正門の警備兵が直ぐに開門してくれた、暫く進めば正面玄関の前に使用人達が整列している。

 最奥にはデオドラ男爵とジゼル嬢が見えるが、今日は模擬戦はしないぞ。

 

 先に馬車を降りて、アーシャに手を差し伸べる。軽く手を掴んで降りる介助をして並んで立った時に軽く腰を抱く、彼女の震えは収まったみたいだ。

 腕を組んで睨み付けて来るデオドラ男爵を見て、愛娘を危険な目に遭わせた事を怒っているんだなと感じた。

 

「ご無沙汰しております、デオドラ男爵。それにジゼル嬢も変わりは有りませんか?」

 

「リーンハルト殿、バーナム伯爵とライル団長と三人で楽しい模擬戦をしたそうだな。笑いながら殺試合(ころしあい)が出来る、狂喜の魔導騎士って呼ばれてるぞ」

 

 え?そっちなの。アーシャの安全とか無事な事とか、今は他に色々と話す事が有りますよね?

 

「しかもルーシュさんとソレッタさんに与えたドレスアーマーですか、肩に装着した盾が自動展開で攻撃を防ぐとか……異常過ぎるマジックアーマーですわ」

 

 ジゼル嬢も最初に出す話題がそっち?確かに魔香の効果で変だったのは認めるけど、デオドラ男爵が拗ねてジゼル嬢は呆れている。

 流石は武門の一族ですねと誉めるべきか呆れるべきか、悩むが今はアーシャの事が最優先だよ。

 

「その話は後にして、今はアーシャが襲われた件について話し合いがですね」

 

「俺だけ仲間外れは嫌だからな!明日の朝に模擬戦だぞ、約束だからな!」

 

 いや、あのですね。確かに役職も爵位も僕が上になって強制模擬戦が出来難くなったからと言って、大の大人が約束とか力説されても……

 

「旦那様、それにジゼルも玄関先で話し込まないで下さい。ささ、リーンハルト様。応接室の方に行きましょう」

 

「そうですわ、リーンハルト様はお疲れなのですから」

 

 本妻のラザレル夫人や側室のジェニファー夫人が執り成してくれた為に漸く話し合いが出来る環境になったみたいだ、この戦闘狂に意見出来るのは数人なんだよな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵とジゼル嬢、僕とアーシャの四人で応接室に籠もる。少し細かい話になる為に四人だけにして貰った、隣にアーシャ、向かい側正面にデオドラ男爵、その隣にジゼル嬢が座る。

 メイドが全員分の紅茶を用意して退出したのを確認してから、事情を分かる範囲で細かく説明する。

 流石に愛娘の襲撃に現役宮廷魔術師団員が含まれていると聞いて真剣になった、金で雇われた奴だけでなく身分確かな貴族が動いた。

 怨恨の線が有力だが、余りに杜撰過ぎる襲撃には色々と裏を考えさせられる。

 

「そうですか、現役宮廷魔術師団員が二人も襲撃に参加していたのですか」

 

「はい、メルカッツ殿は二方向から五個のファイアボールが飛んで来たと言っていましたから三人は逃がした訳です」

 

 道路の両側の屋敷に襲撃犯は籠もっていた、多分だが馬車と護衛を魔法で攻撃したら逃げる予定だった筈だ。

 ゴーレムクィーンが問答無用で屋敷ごと破壊したから片方の二人は倒せた、残りの三人は直ぐに逃げ出して足止めの雑兵が攻めて来た。

 ファイアボールは同等規模だったらしい、つまり逃げ出した三人も倒した二人と近い実力の持ち主だと思われる。

 

「残りの三人も宮廷魔術師団員の可能性が高いですね、マグネグロ殿とビアレス殿の縁者が怪しいと思いますが……既に逃げ出した三人は潜伏したか、口封じに殺された可能性が高いですわ」

 

 ジゼル嬢の言葉に飲もうと持ち上げたカップが止まる、確かに費用が掛かっている割には杜撰な計画だ。

 見知っている宮廷魔術師団員の犯行、一人でも捕まれば芋づる式に関係者が発覚する。だが隠れたり口封じで殺されたら彼等の上の存在は分からないか……

 

「相当の費用を掛けた襲撃です、新貴族街の末端とはいえ二軒の購入資金は金貨三千枚以上。賊共は四十人は居た、前金で一人金貨百枚。屋敷の購入費と合わせても金貨七千枚、決して安くはないね」

 

「疑わしいのはマグネグロ殿とビアレス殿の関係者、ですが簡単に繋がりが発覚し厳しく問われるでしょう。

彼等が首謀者とは思えません、更に爵位や立場が上ですとアルノルト子爵とウィドゥ子爵です。ですが両家共に財政は豊かでは有りません」

 

 アルノルト子爵はスラム街関連で追求が行くが、借金塗れで金貨七千枚など用意出来ない。仮に用意してアーシャを害しても彼に利益は生まない、逆に反撃されて没落一直線だ。

 ウィドゥ子爵は敵討ちが出来ず爵位を剥奪されて貴族院も相続を認めなかった、完全なる逆恨みだが同じく財政に余裕が無い。

 動機は有るが捨て身の報復だと弱い、手駒として扱われた感じがする。

 

「その上だとクリストハルト侯爵だが更に財政難だ、王宮の執務室の備品を売ろうとした程だよ。それにニーレンス公爵からも攻められているから余裕は無い」

 

 クリストハルト侯爵は直接没落に追い込んでいない、流石に金貨七千枚も費やして嫌がらせ紛いの襲撃はしないだろう。

 冷めた紅茶を半分飲む、今更気付いたがミルクも砂糖も入れてなかった。デオドラ男爵達も間を開ける為に紅茶を飲んでいる、最後の容疑者は大物だからな。

 残りの紅茶を一気に飲んで気持ちを落ち着かせる、いよいよ国内最大の敵が直接的に攻撃して来たか……

 

「後はバニシード公爵ですね、領地を四割減ぜられても未だ資産には余裕が有る。他の公爵四家から攻められても耐えられる体力が有る、マグネグロ殿やビアレス殿の縁者を唆して金を渡せる可能性は一番高い。

だが長年に渡り宮廷内で生き残っていたんだ、証拠は残していないと思います。今回の件は完全な嫌がらせでしょう、今後は身内の守りを固めないと襲われるぞって警告を含んで……」

 

 長期に渡り襲撃に怯えるのは相当のストレスだし資産も消費する、僕は身内に対して過保護なのは周知の事実だから効果は高い。

 でもね、自分が常に襲う側だと思うなよ。同じ事をされても逆恨みはするな、僕を甘く見るな!

 

「リーンハルト様、もう一つの可能性が有ります。旧コトプス帝国の陰謀です、直接手を下した者達も亡命を約束されていれば身元が特定されやすくても荷担します。

逃げ出した魔術師達も襲撃犯と分かっても関係なかったのです、だから直接手を出した。私は一番可能性が高いと思います」

 

「陰謀家のリーマ卿か……」

 

 旧コトプス帝国の残党共か……確かに僕が一番怨みを買ったのは奴等だな、ザルツ地方のオークの異常発生にハイゼルン砦の件。

 それに旧クリストハルト侯爵領の反乱と三回も謀略を破り所属するピッカー将軍とゴッドバルド将軍の二人を倒して更に配下の兵士二千人も殲滅した。

 次はウルム王国とバーリンゲン王国を巻き込んで、エムデン王国に戦争を仕掛けるんだ。確かに一番邪魔なのは僕だな、消耗させる気か……

 

「ですがバニシード公爵の疑いも濃厚です、末端を切り捨てれば自分は安全です。僕はバニシード公爵を没落に追い込んだ張本人ですし、リーマ卿も彼との接触をしないとは思えない。

最悪は両方を相手に戦うしかない、獅子身中の虫の可能性は高くないでしょうか?」

 

 僕の言葉にジゼル嬢が考え込んだ、デオドラ男爵は早々に考える事は僕等に任せた感じだな。

 エムデン王国で僕を憎む最大の相手はバニシード公爵だ、リーマ卿が彼を謀略から外すとは思えない。

 でもジゼル嬢は違うみたいだな、他に考えが有りそうで頭の中で纏めているみたいだ。何も入ってないカップに口を付けたまま考え込んでいる……

 

「私も彼等がバニシード公爵には接触したと思います、ですが没落し後が無い方々とは違い未だエムデン王国内で強い力を持っているのです。

エムデン王国の滅亡に助力はしないと思うのです、私の予想ですが話を持ち掛けられても保留か引き伸ばしていた筈です。

そして自分の都合の良い時期に彼等を売ってエムデン王国とリーンハルト様に恩を売る、名誉挽回にもなりますわ」

 

「言われてみれば確かに……今の苦しい状況から抜け出す最善手ですね、旧コトプス帝国の連中と繋がっている膿を叩き出す事が出来ればハイゼルン砦の失敗は相殺。

序でに狙われていた僕にも恩が売れる訳ですね、ですがアーシャの襲撃は黙認したんですよね?危機感を煽る意味で!」

 

 拳を思いっ切り握り締める、もしジゼル嬢の予想が正しければ結構前から接触されていた筈だ。

 もっと早く言ってくれれば、アーシャの襲撃は抑えられた。だが確かな罪状の確定と、僕を焦らせる為に黙認した。

 序でに意趣返しも含んだな、僕はエムデン王国に必要な駒だがアーシャは関係無い。

 

 最愛の側室は失ったが、僕を狙っていた謀略は暴いた。恩に着ろって事か、ふざけるな!

 

「リーンハルト様はアーシャ姉様の安全には万全の準備をしていました、それは周知の事実です。

もし恩着せがましく言ってきたら、襲撃の前なら感謝したが今更言われても仲間を売ったとしか思えない。そう言って構わないでしょう、バニシード公爵は状況から黒に近いですから保身の為に仲間を売ったと思われますから」

 

 しれっと怖い事を言ったぞ、可能性としては婚約者のジゼル嬢もアーシャと同じ位の危険性は有った。

 それに実の姉を意趣返しで襲われるのを黙認したと考えた、そこまで読んでの冷たい対応か。

 

「分かりました、明日は王宮に出仕します。アウレール王に謁見を求めてみます、駄目ならリズリット王妃かな。貸しが有るから手を貸してくれるでしょう、駄目でも交渉材料は有る。

バニシード公爵を追い込みます、貸しを作るつもりが更に悪意を持たれた。策士策に溺れるを体験して貰います」

 

 流石はジゼル嬢だ、僕なら借りを作ってしまう所だったがバニシード公爵の疑いを更に高める事になりそうだ。

 あとはザスキア公爵とも相談すれば見逃している部分もチェック出来る、この二人の才女との出会いは本当に感謝している。

 

 問題は……模擬戦やる気満々なデオドラ男爵をどうするかだ、出仕前に疲れる模擬戦は遠慮したいけど無理か?

 話し合いに一切参加せずに爛々とした目で僕を見詰めるデオドラ男爵に、清々しい迄の戦闘狂の本質を見た……

 

「話は纏まったな、では冒険者ギルド本部のオールドマンに話は通しておく。『無意識』に依頼すれば色々と調べられるだろう、奴は重複して依頼は受けないから直ぐには無理かも知れないがな」

 

 む、デオドラ男爵を相当甘くみていた。確かザルツ地方のオーク討伐の時のスキル持ちの諜報員だな、彼ならザスキア公爵の諜報員と同等以上に優秀だろう。

 

 


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