古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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これも皆様のお蔭です、感謝感激です。本当に有難う御座いました、凄い励みになります。
拙い素人小説ですが今後も宜しくお願い致します。


第469話

 魔法迷宮バンク攻略二日目、第七階層のエレベーターホールに仕掛けられた『無限増殖の毒蜘蛛地獄』を逆に利用して『黒縄(こくじょう)』の習熟度を上げる鍛錬をしている。

 集中し過ぎると周囲が見えなくなる悪癖は早く直さないと駄目なのだが、分かっていても中々直らない……

 

「全く改善の余地が無い。駄目だ、僕は魔法関連以外は本当に駄目な男だな」

 

 空腹と喉の乾きにより漸く戦いを止めたのが開始から三時間を過ぎていた、今はジャイアントスパイダーの相手をゴーレムポーンに任せてドロップアイテムの回収をしている。

 

 六体三組にジャイアントスパイダーの相手をさせて、十二体のゴーレムポーンにアイテム集めをさせている。

 目の前に山の様に積まれた『蜘蛛の糸』と『蜘蛛の卵』だが、前者は錬金の素材として残し後者は売る。

 実は『蜘蛛の卵』も錬金素材だが必要が無いので売る、一個金貨一枚銀貨五枚と他のドロップアイテムに比べれば安いのだが……

 

「蜘蛛の糸が六十八個で蜘蛛の卵は六十個か、どれだけジャイアントスパイダーを倒したのか分からないな」

 

 多分だがジャイアントスパイダー平均四体を五分で倒して、一時間に大体十二組で四十八体。

 三時間で百四十四体、ドロップ率は30%として各四十五個だけど計算が合わない。

 黒縄の制御に集中して倒した敵の数にまで意識を向けていなかったから仕方無いか、だが敵にだけ意識を向けていては駄目だ。

 自動展開型魔法障壁頼りでは何時か抜かれる、黒縄を扱いつつ他の魔法や周囲の警戒を同時に行える様にならなければ駄目だ。

 

「はい、リーンハルト様。蜘蛛の糸と蜘蛛の卵です」

 

 三人が抱えて持っているドロップアイテムを空間創造に収納する、てか抱えて渡さなくても地面に置いた状態でも収納出来るんだよ。

 

「半日戦って蜘蛛の卵だけ売って金貨九十枚か、少ないと思うのは贅沢なんだろうな」

 

 昨日は金貨一万九千枚を越えていたが今日は百枚未満だ、午後も頑張っても金貨三百枚以下だろう。差が激し過ぎる。

 そして貴族としての体面を守る為だけに余計な費用が嵩む、本当に貴族の柵(しがらみ)って大変だ。そろそろ新しい屋敷で舞踏会を開かないと駄目なんだよな。

 使用人を増やして自前の楽団を用意して、やる事は山積みだ。だが圧倒的に使用人が少ないのに下手な人材は雇えない堂々巡りの状況……

 

「それは仕方無いでしょう、今日はリーンハルト様の魔法の鍛錬の為に来ています」

 

「普通の冒険者パーティなら半分以下だよ、全然少なくないよ」

 

「逆に何もしてない私達が心苦しい」

 

 む、良くない話し方だったな反省。少し強欲になっていたのだろうか、自分達の成果にケチを付ける言葉だったな。

 

「ごめん、反省する。じゃ美味しい昼食を食べる為にボス部屋に行こうか、もうお腹が空いて我慢出来ないよ」

 

 昼休みは長目に取って彼女達と会話を楽しむか、自分だけの為に時間を取り過ぎた。

 三時間もエレベーターの前で待たせていたんだ、これはパーティリーダーとして反省すべき点だろう。

 

「うん、任せて!今日の料理は自信作なんだよ」

 

「お昼寝用のマットも大きい物を用意しました」

 

「添い寝、嬉しい」

 

 あれ?ウィンディアの言葉は良いよ、料理が楽しみだけど……イルメラとエレさんの言葉は少し、いやかなり変じゃないかな?

 何故、そんなにキラキラした目で僕を見るの?何も言えなくなるじゃないか!

 

「その、お手柔らかにね。じゃボス部屋に行こうか」

 

「「「はい!」」」

 

 やはり退屈だったんだな、急に元気になったし。だが午後もジャイアントスパイダー狩りだ、何となくコツを掴めてきた気がする。

 黒縄を制御しつつ同時にイルメラ達の様子を見たり、他の魔法を使ってみよう。

 明日は休みにして、来週第八階層のボスである『蒼烏』と戦って高速且つ空中から攻めて来る敵との戦い方を鍛錬しよう。

 

 嬉しそうに足早にボス部屋に向かう三人の後ろに付いて歩く、添い寝の場所について笑顔で牽制しながら会話するのはどうなんだろう?

 左側が本妻の正位置らしい、ウィンディアが交代制を提案するもイルメラが譲らない。

 エレさんが僕のお腹の上を希望して二人に叱られている、これってモテモテで羨ましいと思われるのか?この胃痛が羨ましいのか?だが代わらないぞ。

 

「「「リーンハルト様は、どう思いますか?」」」

 

「いや、僕は君達の決めた事を尊重するよ」

 

 どうせ僕には拒否権が無い、彼女達に悲しそうな目で見詰められると肯定するしか選択肢が無いのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「最終的に『蜘蛛の糸』が百四十八個に『蜘蛛の卵』が百五十二個でしたね、合計金貨二百二十八枚になりました」

 

「蜘蛛の糸は売らないし、ポイズンスネークのレアドロップアイテムのスケイルメイルも売らずに確保してますから仕方無いです」

 

「あのスケイルメイルは鑑定したら魔力付加が『物理攻撃防御:小』だから、オークションなら金貨四百枚前後で売れる」

 

 緊張の昼食と昼寝を終えた、三人の匂いがミックスされた魔香の効果は抜群だった。

 冷静沈着と沈黙、黒縄を使いながら他の事に意識を割く事も可能となった。だが殆ど無言なのは困る、話したくとも口が開けないのは相当のデメリットだ。

 意思の疎通も出来ないし無詠唱で魔法が使えなければ、その場で詰んでいただろう。だがエレさんとの添い寝が嫌だと断るのも難しい、真実を話すのも恥ずかしい。

 

 だが本当に無詠唱魔法が使えなければ、魔法の使用を封じられた事と変わらない。いやそれ以上に、イルメラ達とのコミュニケーションが円滑にならない。

 不審に思われ始めたので最後は軽いボディタッチで誤魔化した、彼女達も無言で肩を抱かれたり背中を軽く押されたりした事に多少の違和感を感じていたが総じて嬉しそうだった。

 夕方になって漸く魔香の効果が薄れて喋れる様になったんだ、恐るべし新しい恩恵……

 

「明日はバンク攻略は休もう、午前中は屋敷で溜まった仕事を処理しないとアシュタル達に叱られるからね。午後はゆっくりしようか、夕方からローラン公爵家の食事会に呼ばれてるけどね」

 

 熾烈な場所取りの結果、右側がイルメラで左側にウィンディアが座っている。二人共に肩が密着する程近い、エレさんは向かい側に一人で座っている。

 狭い馬車内で彼女達の匂いが籠もるが、添い寝と違い魔香の効果が無い。この条件の違いは何だ?添い寝がキーワードだろうか?

 未だ謎の多い魔香の条件だが何度も試す事は難しく、また関係者に事情を話す事も躊躇われる。

 

 複数の女性と添い寝をして匂いを嗅ぐと色々な恩恵が発動するとか、新しいギフト(祝福)じゃないよな?冒険者ギルド本部で調べて貰うのも躊躇するし、そもそもギフト(祝福)なら本人が分かる。

 

「朝はゆっくり休まれて午後から仕事をしてはどうでしょうか?」

 

「たまには朝寝坊も大事だよ、どうせ今晩は遅くまで仕事するんでしょ?」

 

「私も手伝えれば良いけど……」

 

 朝寝坊、イルメラとウィンディア、アーシャの組合せの魔香の効果が切れる前にローラン公爵の屋敷に向かう?

 大事な話し合いの席で全知全能感と多幸感は危険が一杯だな、避けるべきだろう。でもアーシャは、もしかしたら今日は実家に泊まるかもと言っていたな。

 

「今夜は疲れたから早目に寝るよ、なんか朝寝坊って罪悪感が有るからさ」

 

 何とか誤魔化して、いや少し疑われているかな?でも魔香の効果を夕方まで引き摺るのは不味い、今夜は早目に寝て明日の朝から頑張れば良いかな。

 両肩に感じる至福の感触に顔がニヤけるのを何とか堪えるが、表情筋が引き吊りそうだ。イルメラは当てているだけだが、ウィンディアは挟んでいる。なんて高度な技術を駆使するんだ、僕の鉄壁の理性がだな?

 

「あの、ウィンディアさん。少し刺激がですね?」

 

「サービス?」

 

 あのグリグリと動かすの禁止!頭の中が桃色に染まってしまいます。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ウィンディアに張り合ってイルメラまでナニかをグリグリし始めた、僕の理性と忍耐力は強くないが何とか屋敷に着くまで堪えきった。

 

「今の自分を誉めてあげたい、良く頑張れたよ」

 

 疲労困憊な僕の言葉に全員が不審な顔をしたぞ。失礼な、僕は桃色の欲望に打ち勝った勇者なのに不審者扱い?

 

 御者の顔を見て正門を守る警備兵が門を開く、だが通行する際に馬車の中を警戒していた。

 メルカッツ殿とニールが厳しく鍛えた成果は如実に現れている、他家と比べても引けを取らない練度だろう。

 使用人達が整列する正面玄関前に馬車を停めて最初に降りる、敷地の外からは見えないので女性陣に手を差し出して降りる手伝いをする。

 先ずはイルメラ、次にウィンディア、最後はエレさんだ。生暖かい目で見るサラと、少し羨ましそうに見るリィナ。

 

 エレさんがドヤ顔を浮かべていたので、頭に手を乗せてクシャクシャと撫でる。君は側室にも妾にも迎えないよ、我が子か妹みたいな感覚なんだ。メノウさんは責任を果たして下さいと言ったが、どんな責任だ?

 

「リーンハルト様、先程ニーレンス公爵様より使者がいらして親書を預かっております」

 

「ニーレンス公爵から?」

 

 リザレスク様やメディア嬢でなく、ニーレンス公爵からの親書?舞踏会の誘いは既に受けている、お茶会ならメディア嬢からだろう。

 来週には舞踏会で会えるのに、敢えて親書を寄越す意味は何だ?

 

「分かった、執務室で読むよ。でも先ずは応接室で紅茶と、何か甘い物が食べたいかな」

 

 難しい話なのは間違い無い、でもニーレンス公爵とは友好的な関係を結んでいるから無茶な話ではない筈だ。

 玄関先での立ち話は皆を不安にさせるから、笑顔でイルメラとウィンディアの背中を押して屋敷に入る。

 因みにだが、アーシャは用事が有り外出中だが、念の為に護衛にメルカッツ殿とゴーレムクィーンを同行させている。

 彼女の元には僕との伝手を求めて沢山の誘いが来ている、僕の屋敷には来ないで実家であるデオドラ男爵家に来ている事が狡猾なんだ。

 僕は断れるが、デオドラ男爵は断れない相手も居る。僕は義父たるデオドラ男爵には配慮する、親族から攻めるのは貴族間では良く有る事だ。

 

 エムデン王国の武の重鎮にゴリ押し出来る相手とは誰だろう?親戚筋か恩師の類か、長年男爵家を守って来たならば付き合いも多いだろうな……

 

「む?ゴーレムクィーンに繋げたラインから……戦闘を開始しただと?」

 

 アーシャに同行させたゴーレムクィーンが、ラインを通じて戦闘を開始したと伝えて来た。距離は……それほど遠くない、新貴族街の入口近くか?

 

「イルメラ、屋敷に籠もり防御を固めてくれ。アーシャが襲われている、僕は彼女を助けに行く!」

 

「了解しました、私達の事は心配しないで下さい。ベリトリアさんも居ますし大丈夫です」

 

 イルメラの言葉に安心して馬ゴーレムを錬成して飛び乗る、飛ばせば十五分位で合流出来る筈だ!

 

 


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