古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第467話

 久し振りに『ブレイクフリー』として魔法迷宮バンクを攻略する、最近は単独行動が多くてパーティ行動は新鮮だ。

 特にイルメラやウィンディア、エレさんと一緒なのが嬉しい。しかも昼食は彼女達の手料理だ、俄然張り切るだろう。

 先ずは第六階層のボスである『徘徊する鎧兜』を『黒縄(こくじょう)』を使って倒す。これは敵の高レベル騎士団との接近戦の練習と、『黒縄』の習熟度を上げる為にだ。

 

 色々な戦う場面を想定する必要が有る、攻めか守りか、近距離か遠距離か。単独か複数か、ゴーレムを使えるか使えないか……

 戦う状況や条件は数多(あまた)有るだろう、だから少しでも色々な状況や条件に対応する必要が有るんだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボス部屋の前に到着、先客は居ない。どうやら僕等が今日来る情報が伝わった時点で、他の冒険者パーティは敢えて避けている気がする。

 冒険者ギルド本部は強制していないが、上級貴族の僕との揉め事を嫌ったのだろう。

 後は今日魔法迷宮バンクを攻略している連中の殆どが、貴族をリーダーとしている冒険者パーティ達だ。

 彼等は僕と偶然でも接触出来れば利益は有る、顔を覚えて貰うとか会話でも出来れば好感度も上げられるとか……

 

 ああ、そうか。平民の冒険者パーティが少ない理由は、彼等との揉め事も嫌ったんだな。

 今日の魔法迷宮バンクは貴族の冒険者パーティで混んでいる、だが第六階層以降まで探索出来る連中は少ない。

 基本的に貴族の冒険者パーティで高レベルの連中は少ない、冒険者全体での割合も低いし全員貴族の高レベルパーティは数組しか居ない。

 

 『野に咲く薔薇』のアグリッサさん達は稀有な存在だ、冒険者ランクCまで上げたのは政略結婚を嫌い実家から自由になる為にだ。

 僕の最初の目標だったんだが、目立ち過ぎて駄目だった。反省はしているが後悔はしていない。

 

「ではボス戦に挑もうか!」

 

 入口の扉の取っ手を強く握り締めて右に回して引く、ゆっくりと扉を開けて中を見る。

 薄暗い室内にライティングの魔法を唱えて光球を十個程飛ばして照明を確保、自分が最初に入り残りのメンバーが続く。

 薄暗い室内が明るくなり湿って冷たい空気が身を包む、さて戦いの準備を始めるか。

 

「悪いが僕一人で戦わせてくれ、護衛にゴーレムナイトを二十体用意する。手出しは無用だが……いや、アレだ。危なくなったら助けてくれると嬉しい」

 

 手出しは無用と言った時のイルメラの悲しい顔に負けて、危なくなったら助けてくれと言葉を続けた。

 目に涙を溜めて両手を胸の前で組まれて見上げられたら、僕は拒否など出来ない。あざとい、あざといですよ、イルメラさん!

 僕も彼女達も『魔法障壁のブレスレット』を装備しているから防御は完璧だ、一撃を凌いで反撃する事が出来る。

 

「全てはリーンハルト様の御心のままに……ですが危険と判断したら介入させて頂きます」

 

 三人を代表して?機嫌を直したイルメラが返事をしてくれた、これで心置きなく戦う事が出来る。

 

「ありがとう。では土属性魔術師の新しい戦い方を見せるよ、エレさん扉閉めて」

 

 新しく手に入れた魔法、『黒縄(こくじょう)』による全方位攻撃を試してみるか……

 

「自在槍変形、黒縄!」

 

 両手を水平に持ち上げて拳から肘までの間で直径3㎝の黒縄を左右で三十本ずつ錬成する、繭みたいな楕円形でウネウネと動く新魔法にイルメラ達は無言で息を呑んだ。

 

「徘徊する鎧兜がポップするな、一斉攻撃をする」

 

 ランダムな位置に淡い光の魔素が集まり人型を成していく……距離間はバラバラで近くて8m、一番遠くて15m位かな?

 

「唸れ黒縄!」

 

 両手を前に突き出す、楕円形にウネっていた合計六十本の黒縄を三体の徘徊する鎧兜に二十本ずつ向かわせる。

 先端から1m位を魔力刃で包み、先ずは真っ直ぐに飛ばして突き刺す!

 

「む、流石に反応するか。だが未だ終わらないよ」

 

 無抵抗の的と違いレベル30オーバーの徘徊する鎧兜は、ラウンドシールドやロングソードを使い防御する。

 構えた盾は貫通したが、ロングソードで払われた黒縄は目標を貫けずに他の黒縄に当たって魔素の火花が散った。

 

 三体中一体を蜂の巣にして引き抜くが、二体は致命傷を与えられなかった。引き抜いた黒縄を残り二体に振り下ろす、ロングソードを水平にして防ごうとしたが、それごと縦に切り裂く。

 固い床石に黒縄の先端が埋まった、殺傷能力は高いが制御が難しい。黒縄同士が干渉すると両方千切れるんだ、触れない様に制御するか魔力刃の出力を抑えて干渉力を弱めるか……

 

「凄いですね、新しい魔法は!」

 

「流石はリーンハルト君だね!オーバーキルだけど、そこに痺れるし憧れるよ」

 

「少し怖いけど、凄いとしか言えない」

 

 基本的に三人共に誉めてくれた、だが僕は納得出来ない。未だ全然使いこなしていない、未熟も良い所だよ!

 

「ありがとう、でも習熟度が全然足りないんだ。黒縄同士が干渉して千切れたし制御が甘いから弾かれる、動かない的と違うから難しい。練習あるのみだよ、エレさん扉開けてくれる」

 

 イルメラがドロップアイテムを拾ってくれた、徘徊する鎧兜のドロップアイテムはノーマルが武器でレアが防具。

 どちらも必ず魔力付加が有るマジックアイテムで、今回はレアドロップアイテムの防具だな。

 

「はい、リーンハルト様」

 

「ありがとう、レアドロップアイテムだね……ふむ、硬化のカイトシールドだな」

 

 イルメラからカイトシールドを受け取り鑑定し、空間創造に収納する。武器や防具のマジックアイテムは需要が有るから、冒険者ギルド本部が喜ぶ。

 

「さて、二回目の訓練を始める。エレさん、扉を閉めてくれ」

 

 扉を開けて待機していたエレさんに声を掛ける、序でに外の警戒も頼んでいる。これは他の冒険者達の無用な接触を回避する事と、情報漏洩の防止の為だ。

 

「さて、改善すべき点は理解した。後は技術が追い付くかだな……」

 

 前方に集まる魔素に神経を集中し、両手の周りに蠢く黒縄の制御を始める。先ずは魔力刃の出力の調整だ、当たったら双方千切れるのは頂けない。

 それと互いに干渉する動かし方は駄目だ、効率的に敵の逃げ場を塞いで包み込む動きを心掛ける。

 

「敵を屠れ、黒縄!」

 

 数を減らし左右各二十本、合計四十本の黒縄を錬成する。ポップする場所は正面が8mの距離、右側が更に近くて5m左側が一番遠くて15m位かな?

 実体化するタイミングは同じ、先ずは正面と右側を目標にする。

 

 両手を振り上げてから一呼吸置いて振り下ろす。目標に対して直進十本、左右から五本ずつ水平に薙ぐ様に操作する。

 水平に薙いだ攻撃は、段差を付ける事で互いの干渉を無くした。

 

「成功だ、二体は輪切りに出来た!」

 

 真っ直ぐ向かってくる最後の一体に、引き戻した黒縄を全て時間差を設けて直進させる!

 

 流石にロングソードを振り抜いても一陣しか弾き飛ばせず、二陣の黒縄により穴だらけとなった徘徊する鎧兜が魔素に還る……

 

「まぁまぁかな、でも未だ熟達の域には到達してない。エレさん、扉を開けてくれるかな?」

 

 三回目の訓練を開始する、だが確実に手応えは有る。今は雑念を捨てて鍛錬に励むか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りのボス狩りは午前中の三時間で休憩を挟んで三十回、九十体を倒した所で終了。

 ノーマルドロップアイテムの武器が二十二個、レアドロップアイテムの防具を二十六個手に入れた。

 

「そして御褒美タイム!イルメラ、早くナイトバーガーを出してくれ」

 

 待ちに待った昼食、既にテーブルと椅子が用意され真っ白なテーブルクロスをセットしているイルメラを急かす。

 

「少し落ち着いて下さい。完璧なマナーだと噂される、リーンハルト様らしくないですよ」

 

「気持ちは嬉しいな、だって頑張ってつくったもん」

 

「私はデザートのオレンジしか剥かせて貰えなかった……」

 

 おお、久し振りにウィンディアの『もん』が聞けた。そして両手を床に付いて落ち込む、エレさんも久し振りに見た。

 皿に置かれたナイトバーガーをひっくり返して軽く押し潰す、これがバーレイ男爵家に伝わる正しいナイトバーガーの食べ方だ。

 

「いただきます!」

 

 両手で持って一口……美味い!

 

 口の中に広がる肉汁の旨味、シャキシャキのキャベツの食感、チーズの塩気が混ざり合って最高に美味い!

 

「コレだよ!コレが食べたかったんだ、マナーなんてクソ食らえ。手掴み最高!」

 

 二口三口と食べては噛み締める、暖かく見守る女性陣に気付いて我に返るが既に手遅れか……

 

「蜂蜜とレモンを絞った果汁水です」

 

「口の脇に肉汁が付いてるよ」

 

「む、子供っぽくて申し訳無い。だけど久し振りのイルメラ達の手料理に興奮しちゃったよ」

 

 イルメラが用意してくれた果汁水を受け取る、ウィンディアが甲斐甲斐しくナプキンで口の周りを拭いてくれるのが嬉し恥ずかしい。

 

「午後もボス狩りを続けますか?」

 

 最初のナイトバーガーを完食するまで女性陣は食べずに僕を見ていたが、僕が二個目に手を出すと漸く食べ始めた。

 

「うん、未だ黒縄の習熟度が足りない。今日は『徘徊する鎧兜』を倒す。明日は第七階層に降りてジャイアントスパイダーを倒す、大空間での大量の敵を倒す事で黒縄の制御範囲を広げる。

仕上げは第八階層のボスである蒼烏(あおがらす)に挑んで対空戦の経験を積む予定だ」

 

 先ずは『徘徊する鎧兜』を相手に基本制御を高める、次に罠である無限地獄の『ジャイアントスパイダー』の群れを相手に広範囲での大量の敵の対処を学ぶ。

 最後に蒼烏(あおがらす)を相手に立体的な高速機動力を持つ敵の対処を学べば、僕の黒縄は完成する。

 明日はジャイアントスパイダーを倒し続けて、来週仕上げとして蒼烏に挑む。

 

 食べながら会話するという、貴族的マナーに真っ向から喧嘩を売る楽しい昼食は終わった。

 

「リーンハルト様、どうぞ」

 

「はい、リーンハルト君!」

 

 魔法迷宮バンクでの昼食で楽しみの休憩、それはイルメラとウィンディアが交代で膝枕をしてくれたからだ。

 だが膝枕とは一対一の癒やしの行為、二対一は物理的に不可能なんだ。だからと言って……

 

「ズルい、添い寝ってズルい」

 

 ボス部屋に不釣り合いなマットを敷いて並んで横になる、イルメラとウィンディア。

 その真ん中の少し空いた空間に僕が入るの?だってエレさん見てるのに、三人だけで添い寝?

 

「はい、リーンハルト君。どうぞ!」

 

「リーンハルト様、遠慮はしないで下さい」

 

 ポンポンとマットを叩くウィンディアに急かされて、その魅惑的な狭い空間に身体を横たえる。

 左右から抱き付く彼女達の匂いと柔らかい感触に、理性という防壁が砕けそうだよ!

 

「やっぱりズルい、仲間外れは嫌だ」

 

「ちょ、エレさん?」

 

 エレさんが、右足に抱き付いて来た。頭がだな、腰の位置に来ると危険な事に……

 

「あらあら、エレさんもですか?」

 

「添い寝だけだよ、それ以上は駄目だからね」

 

「分かった、他は我慢する」

 

 あ、コレって不味いパターンだ。イルメラのミルクみたいな匂いに、ウィンディアの柑橘系の匂い。

 そして、そしてエレさんはお菓子みたいな甘い匂いがする。マズいぞ、我慢しないと三人の匂いが混ざり合った魔香の効果が……

 

 

 

 イルメラ+ウィンディア+アーシャの魔香の効果は、全知全能感と多幸感だった。

 

 イルメラ+ウィンディア+エレさんの魔香の効果は、冷静沈着と寡黙だった。

 

 一言も何も喋らず表情も替えずに黙々と敵を倒す、感情的にならず合理的で物事に動じず淡々と敵を倒す。魔術師としては理想だが、傍から見ればどうだろうか?

 

 僅か十五分の昼寝で午後の三時間は効果が持続した。これには女性陣も驚いていたが、ボス狩り六十回が終わった時点で元に戻ったので魔香の件は疑われなかった。

 

 何でも『真剣に黒縄の習熟度を上げる為に、寡黙に取り組む僕は素敵です!』だそうだ、照れるが魔香の効果中は頭の中がスッキリして効率的に学べた気がする。

 だが副作用が寡黙か、使い勝手は良いが誤解を解くのが大変そうな効果だな。寡黙は無愛想とか冷たいとか、イルメラ達に勘違いを抱かせる可能性が高い。

 

 恥ずかしいが、イルメラとウィンディアには真実を伝えてフォローして貰う必要が有る。

 アーシャやエレさんには教えられない、冒険者パーティの一員で恋人だからこそ黙っている事は裏切り行為だ。

 

「だけど鍛錬に効果的だからと、朝から効果を高める為に夜に寝る時に三人添い寝とかは……」

 

 イルメラなら笑顔で肯定する、彼女は僕の為なら何でもする怖い一面を持っている。有効だからと、エレさんを説得するだろう。

 エレさんも仲間外れは嫌だからと、側室になりたいとか言っていた。あれは恋愛感情じゃなく、パーティメンバーとして待遇の差を気にしている。

 僕はエレさんを妹か娘みたいに思っている、鍛錬に有効だからって理由で側室や妾には出来ないぞ。

 


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