古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第462話

 青水晶の間に集まった女官達は八人、レジスラル女官長に側近のベルメル殿ともう一人。初めて見る残りの五人が今回の結婚式に同行する連中か、または準備責任者だな。

 全員が上級の女官だろう、王族の外交に同行出来る連中だから当然だ。中には若い女性も居るがエリートなのは間違いない。

 

「紹介しましょう、彼女達は今回の結婚式に同行する責任者達です。総責任者として、ベルメルが同行します」

 

「「「「「リーンハルト卿、宜しくお願い致します」」」」」

 

 一斉に頭を下げられた、改めて良く見れば年齢差はバラバラで全員が年上だな。責任者になる位だから相応の経験を積んだ連中って事だ。一番左側に座る女性は最年少だが、それだけ有能なのだろうか?

 

 レジスラル女官長も側近の片方を同行させる力の入れ様だ、ロンメール様は王位継承権第二位。第一位のグーデリアル様に何か有れば次期国王候補だし、万全の体制を敷くのだろう。

 

「右から王族の方々の身の回りの世話を担当する、スプルースです。順番に自己紹介なさい」

 

「宜しくお願い致します、同行する女官達は私を含めて十二人です」

 

 三十代半ばだろうか?落ち着いて優しそうな雰囲気の女性だ、大きなタレ目が特徴かな?

 

 因みに配置だが向かい側に五人、僕の右側にレジスラル女官長、左側にベルメル殿達側近二人が並んで座っている。

 スプルース殿が世話をするのは、あくまでもロンメール様とキュラリス様だけだ。僕を含む大臣達の同行者は他の侍女達が行う。彼女達は三十人前後になるが、管理は僕じゃなく統轄してベルメル殿になるだろう。

 一応僕も専用の侍女やメイドを同行させて良いと言われている、ここの専属部分にザスキア公爵配下の諜報員を入れる予定だ。僕の個人的な専属メイドだからベルメル殿の管理下から外れる。

 イーリンとセシリアが同行するって張り切っている、あと今回もミケランジェロ殿は参加だ。若くて毒舌だが能力は高い。

 

「私はミナリエルと申します。衣装担当です、同行する女官達は八人です」

 

 衣装担当、つまり衣服に装飾品関連全てだな。何回も衣装替えが必要だから荷物は多いし、高価な品物ばかり扱うから大変だ。

 やはりベルメル殿と同世代の三十代半ば、この中では一番ふくよかで優しそうだ。人当たりが良い事も女官として重要なのか?

 

「シレーヌです、食事関連の責任者です。配下の女官は六人です」

 

 前の二人より若い、二十代後半位だが細目で神経質そうな感じだな。

 滞在先でも食事は用意されるが、自前で用意する場合も必要。それに出された料理の毒味も兼ねている筈だ。常に気を使う役職だから神経質そうなのだろうか?

 

 お世話係に衣装係と食事係か、流石は王族だけあり相当な人数になるぞ。

 

「私はチェナーゼです、女性警備隊を指揮します。配下は二十人です」

 

 女官?武官でも通じる鍛えられた肉体をしているな、髪を短く肩の上で切り揃えている。

 女官服を無理矢理着させられている感が凄い、武装女官とか変な言葉が浮かんだ。そう言えばルーシュとソレッタに渡したドレスアーマーがヤバい事になってるそうで詳細を聞きたくない。

 武器と防具が大好きな連中には、浮遊盾とか自動防御とか興奮モノのマジックアーマーだよな。あの時は変なテンションで深く考えずに渡したんだった、反省が必要だ。

 

 多分だが後宮警護隊と呼ばれる武装メイド達が配下なのだろう、彼女達の中には魔法兵も居るし忠誠心は近衛騎士団にも劣らない。

 そして何故だか分からないが全員が美女なんだ、見栄えも必要なのかな?前にセラス王女に宝物庫を案内して貰った時に同行していた女性達もそうだ。

 女性だけに必要な警備状況が有る、今回はキュラリス様も護衛対象だからな。後は僕の配下は全員が男だし、女官達の警備も含むが守れない時と場所も有る。

 

「最後になりますが、私はユーフィンです。貴重品の運搬担当で、空間創造のスキル保持者です」

 

 おお!冒険者ギルド本部では会わせてくれなかった、同じギフトを持つ者だ!

 

「それは僕と同じギフトですね」

 

 現代で初めて会った同じ空間創造のスキル保持者は、未だ十代後半の若い女性だった。

 癖の有る金髪を左右で纏めて団子状にして髪留めで押さえている不思議な髪型だ、好奇心旺盛な猫みたいな瞳の女性だな。

 魔力を感じるが身に纏う魔力の制御は並みレベル、精々中級レベルの魔術師だ。

 レアスキルを持っているからの役職だと思うが、彼女だけ制服が違うのは女官じゃないのか?

 

 高価な衣装や装飾品もそうだが、空間創造に収められた物には危害を与えられないので貴重な存在だ。

 毒殺の危険も有るし、ロンメール様達の口に入る物の管理には空間創造は最適なんだよな。

 調理済みで収納すれば、常に新鮮で温かい食べ物が出せる。野外での調理は手間暇掛けても厨房で調理した料理に負ける、野戦食など王族には出せない筈だ。

 

 ベルメル殿を含めて責任者を六人足すと合計で五十二人とは大所帯だぞ、流石に従軍する場合と違い外交官として恥ずかしく無い体裁は必要だから大人数になるか……

 

「リーンハルト様の空間創造には大きなドラゴンが百六十体以上、ワイバーンを含めれば二百体以上収納出来たと聞きました。

私は10m四方の立体空間しか収納スペースが無いのですが、どうしたら拡張出来るのでしょうか?」

 

 本気で困っている顔だな、同じスキル持ちだから相談したのだろう。空間創造は魔術師のみが授かるレアギフトで、僕は魔術師達の最上位近くにいるので相談するのに最適。

 改めて彼女の身に纏う魔力の精度や制御能力を考えてもレベル20前後だな……

 転生後の僕はレベルアップにより段階を経て五段階の保管階層が順次解放されたが、転生前は5レベルアップ毎に収納エリアが少しずつ増えてた筈だ。

 

「同じスキル持ちの方と会ったのは初めてなので違いは分かりませんが、レベルアップすると収納容量が増えました。

僕は他にも知力や精神力、保有魔力の量が関係していると考えています。ですが今は魔術談義は後回しです、良ければ後日にでも相談を受けますよ」

 

 今日は打合せに集まったので個人的な相談は駄目だ、そして現代で初めて会った同じ空間創造のスキル持ちだ。

 相談を受けて色々と自分との差異を調べる必要が有る、余りに異端過ぎるのも問題だからな。合わせる所は偽装でも合わせよう。

 

「有り難う御座います、私の収納スペースでは今回の収納量を考えると心許なかったのです」

 

 エムデン王国なら空間創造のスキル持ちを複数人抱えていると思ったが違うのか?それとも王族に同行出来る身分と、貴重品を預けるから信用出来る人材じゃないと駄目とか?

 

「空間創造の収納スペース不足なら自分も荷物運びを手伝っても構いません、どちらにしても保険として多目に物資は持ち込む予定です。

アウレール王から今回の結婚式に出席した際に、出来るだけ上品に喧嘩を売って来いと言われてます。お互いに敵対する事を前提に考える必要が有ります」

 

 此処で王命により他国に喧嘩を売る正当性を伝えておく、じゃないと僕が祝いの席で空気の読めない喧嘩っ早い粗野な男と思われてしまう。

 同行する大臣連中には、アウレール王から説明して貰う。同行者は意思統一をしておかないと、僕だけ浮いてしまうから。

 

「つまり無補給でも大丈夫な物資をリーンハルト卿は空間創造に収納して行くのですね?」

 

「上品に喧嘩を売れとは、アウレール王はバーリンゲン王国との開戦も視野に入れているのですね?」

 

「当然でしょう、今回の婚姻は我がエムデン王国を包囲する布石でしかない。わざわざリーンハルト卿を結婚式に招くのは意味が有る筈だ、勧誘か能力調査か事故に見せかけた暗殺の可能性も有る」

 

「そんな……事に……戦争なんて……」

 

 流石は上級女官達だ、戦争の可能性を聞いても全く動じてない。いや、ユーフィン殿は真っ青になって少し震えているぞ。

 やはり彼女は女官じゃない、スキル持ち故に今回同行するんだな。だから覚悟が弱い、一生懸命耐えてはいるが大丈夫だろうか?

 

「此方が私達の行動スケジュールです」

 

 ベルメル殿から資料を受け取り目を通す、詳細に纏められているので読みやすい。全体のスケジュールまで記載されているので、レジスラル女官長の方で関係各所とは調整済みかな?

 

「全体の行程まで記載されていますが、他の方々とも調整済みでしょうか?」

 

「途中で立ち寄る貴族達との調整は済んでいます、通過する街の代官達とも調整済みです」

 

 つまり今回と同等規模の遠征の行動速度に合わせた行程か、一日の移動距離は大体20㎞前後だろう……

 鍛えられた歩兵なら30kmは進軍出来る、大体六割位の距離を設定したのか、女性陣は全員が馬車で移動だが流石は余裕を持った王族用の日程だな。

 移動中でも十時と三時には一時間の休憩とティータイムが有る、時間に合わせているから街や村には立ち寄れない場合も有る。

 

 つまりは野営だよ、周辺警護も必要だがテントの設営とかは……チェナーゼ殿の担当か、僕は周辺の警護が担当だな。

 場合によっては陣地構築も含まれる、危険地帯で無防備なのは有り得ない。

 既に僕の空間創造の中には椅子やテーブル一式が収納されている、または錬金で作っても構わない。追々提案すれば良いだろう。

 

 転生前は王族だったが団体移動は基本的に軍事行動だった、今回みたいに外遊は殆ど経験していない。

 転生後の移動も今の地位での扱いでも、此処まで余裕を持った移動はしていない。てか、かなり余裕を持った行程だよ。流石は王族って言えば良いんだろうか?

 

「途中休憩時の警備についてですが……」

 

 前世の経験と大きな差異は有るが、先入観は捨てて現状の条件で必要な事を考えれば良いか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「流石はリーンハルト卿ですね、此処まで有意義な打合せは久し振りでした」

 

 気が付けば二時間以上話し合っていた、休憩の為にアイスティーが配られた。喋り疲れた喉には冷たい飲み物が最適だ、水滴の付いたグラスの半分を一気飲みする。

 警備の内容自体はチェナーゼ殿との区分分けで済んだ、基本的に僕が直接警護するのはロンメール様達だけだ。

 後は臨時に副官が二人配されて、各五十人の合計百人の警備兵が配下に加わる。僕は副官に命令すれば大丈夫なんだよな、それも事前に警備計画書を渡せば良い。

 王族の警備兵は一般と違いエリート揃いだ、僕は責任者としてお飾りだけど責任は取らされる。

 他にも移動中は通過する領地の領主軍が警備に当たるし、僕の配下外の同行する下級警備兵も居る。本隊とは距離を置いて先行したり背後を警備したりする別働隊だ。

 

「少し前にライラック商会の会長令嬢の花嫁行列に参加しました、他にもドラゴン討伐でデスバレーまで遠征してますから最低限の経験は積んでますよ」

 

 嘘じゃない、規模とグレードが高いだけで仕事は一緒だ。だが王族だけあり休憩は多く移動も遅い、追加警備で通過する領主軍も領地内の移動時は加わるから大所帯になるぞ。

 

「白銀ゴーレムのパレードですわね、一時期凄い噂になりました。絢爛豪華な花嫁行列は女性の憧れですから……」

 

 胸の前で両手を組んで神に祈りを捧げる仕草をしている、目もキラキラしているし結構なミーハーかもしれない。

 

「懐かしい思い出ですが噂になってたのか、結構恥ずかしいものですね」

 

 右手人差し指で頬を掻く、『エムデン王国の最強の剣』とか『王国の守護者』とか恥ずかしい呼び名は勘弁して欲しい。

 

「最初の打合せとしては十分です、出発前に最終確認として全体で打合せを行いましょう。個別の打合せは、各自でお願いします」

 

 レジスラル女官長の言葉により打合せは終了となる、僕の方は副官二人に今回の内容を伝えて終わりだな。

 

「ユーフィン殿、少し質問が有るので残って貰って良いですか?レジスラル女官長も同席をお願いしたい」

 

 今回の参加メンバーで一番心配なのが彼女だ、資機材の運搬は僕がフォローするとしても不安だ。

 出発前に解決しておかないと厳しい、最悪の場合だが彼女が誘拐されたら……ロンメール様達の着替えが全て無くなる。

 敵地での再調達は不可能に近い、一式予備を僕が持ち歩く方が良くないかな?

 

 


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