古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

46 / 1000
第46話

 二回目の実地訓練の目的、それは生き物を殺す経験をさせる事だと思う。

 冒険者として生きるのに避けては通れない事だ、流石は冒険者養成学校だけはあり基本的な事から教えてくれる。

 だけど表の目的はソレなら裏は何だろう?多分事前に情報を与えられたビックビー討伐だと思うんだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「取り敢えず集まって方針を決めよう」

 

 リーダーを任されたからには最低限のパーティ行動をしなければならない。何組かは既に森に向かっているけど出たとこ勝負過ぎるだろ?

 

「他の連中に遅れを取るぞ、早く行こうぜ」

 

「ゴブリンなんかに方針も無いじゃん」

 

 うん、文句を言われた……リーダーって実は苦労ばかりで損してないか?

 別にランクアップのポイントなんて一般依頼を受ければ良いじゃん!とか思考がネガティブに向かってしまうな……

 口では文句を言うが一応集まってくれる臨時パーティの連中を見て何とも言えない感情が沸いてくる、これは慢心とか見下すとか駄目な感情だ……反省。

 

「一応聞いておくけど一人でゴブリンと戦って勝てる自信が有る人は教えてくれ。自信が無ければサポートするけど」

 

 集まった皆の顔をグルッと見回す、男性陣はプライドの関係か無言だがエレさんは小さく手を上げた。

 暫く待つが他の連中は大丈夫みたいだな……

 

「エレさんの分はサポートするよ、具体的にはゴブリンを瀕死状態にするから止めを刺すんだよ」

 

「分かった、ありがとう」

 

 囁く様な小声だが隣に居るから聞き取れる、周りが五月蝿いと聞こえないかも。

 

「パーティ行動が原則だからバラバラにはなれないのは良いよね。じゃ見付けた順番に一人ずつ倒して行こうか。

ゴブリンが三匹以上なら残りは僕が引き受けるよ」

 

 男性陣では一番レベルの低いバックスが不安そうな顔をして僕を見る、なら最初からサポートしてくれって言って欲しい。

 

「危なくなったらフォローするから大丈夫。先ずはゴブリンを探そう」

 

 野性のゴブリンの生態は大体知っているが実際に探すのは初めてだ、魔法迷宮は通路を歩いていればポップするけどね。

 僕は探査系の魔法は使えない、複数のゴーレムを放って探す事は出来るから発見出来なければ考えるか……

 などと考えていたらエレさんにローブの袖口を引っ張られた。

 

「何かな?」

 

 小声の彼女の声を聞く為に顔を寄せる。

 

「コッチの60m先にゴブリン六匹居る」

 

 60m先に?指差された方向を見るが生い茂った樹木の為に分からない、目を凝らしても木々の間にゴブリンなんて見えない。

 

「盗賊志望だけに目が良いの?僕には全く分からない」

 

 ベルベットさんもギルさんも目が良かったから盗賊固有の技能かな?

 

「私のギフト(祝福)は鷹の目、半径150m範囲なら目標を見付ける」

 

 ギフトの鷹の目か……これは盗賊職と組み合わせると凶悪だな、鑑定もギフト絡みかな?

 だけど大事なギフトの情報を教えてくれるのは嬉しい、でも無闇に教えない様に……

 

「なに仲良く喋ってるんだよ、早く行こうぜ」

 

「もう周りには俺達しか居ないぞ、遅れてるぞ」

 

 顔を寄せ合い小声で話してる為か僕等の会話は聞こえてないみたいだ、口々に文句を言われた。引率の先生を見れば苦笑いだし……

 

「よし、60m先にゴブリンが六匹居る、行こう」

 

 手に持つカッカラで方向を示して歩き出す、何事かと男性陣も何も言わずに付いてくる。

 森に入って残り20mを切った辺りで僕等もゴブリンもお互いの存在を確認した!

 ゴブリンが逃げずに武器を構えて走ってくる、幸い飛び道具は持っていない。

 木々は適度に離れているので森の中に入ってしまえば戦える広さは有る。

 

「右側の三匹は任せろ、左側を頼む。行くぞ、ストーンブリット!」

 

 飛ばす石の大きさを拳大にして威力を落としてゴブリンの手足を狙い連続して打ち出す!

 更に倒れた所を追撃し完全に抵抗力を奪う、なぶり殺しみたいで嫌だが反撃の力を残したらエレさんが危ない。

 

「エレさん、止めを……」

 

「分かった」

 

 目を合わせて力強く頷くと腰に差していたダガーを引き抜き、ゴブリンの首を手際良く掻き切る。

 ダガーは刺す事も出来るが骨とかに当たると欠けたりするので首を掻き切るのが効率の良い使い方だ。

 彼女は躊躇なく三匹共に息の根を止めた、返り血も浴びていない……

 

「お見事、先ずは三匹だね。それに比べて男達は……」

 

 苦戦している、ゴブリン三匹に……連携は……している、だけど……

 

「ストーンブリット!」

 

 殺さない程の威力でゴブリン三匹にそれぞれ一発ずつ当てる。

 

「態勢が崩れた、押し込め!」

 

 各々の相手に躊躇なく止めを刺す事が出来た、彼等も冒険者としての心構えは出来ているんだな。

 

「すまない、助かった」

 

「魔法って便利だな、やっぱりサポート頼むよ」

 

 手の平を返す様にサポートを頼んで来たが僕としても課題の不達成は嫌だし時間も掛かるから丁度良い、恩も売れるから円滑に物事が進むだろう。

 

「ん、分かった。エレさん、次の敵は?」

 

「コッチ、60m先に五匹。近付いてくる」

 

「おいおい、索敵役に砲台役がセットとは先生驚いたな。やるなら課題達成一番乗りを目指せよな」

 

 先生のあざとい発破にやる気を漲らせる男性陣を見て思う、冒険者ギルドは僕等のギフトを承知でパーティ編成をしている。

 この展開は読んでいる筈だ、つまり冒険者ギルドと盗賊ギルドは何某かの取り決めが有り僕と盗賊ギルド推薦の彼女達を順番に組ませて相性を見させている……と考えるのは穿ち過ぎか?

 

「僕等なら楽勝だが下らないミスをしない様に気を引き締めて行こう」

 

 次の獲物を狩る為に武器を構えて歩き出した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ノルマ達成おめでとう、多分一番乗りだな。森を出て休憩しよう」

 

 あれから何回かの小休止を挟んでゴブリンを狩り続けてノルマを達成した。

 全部で52匹のゴブリンを倒し証明部位の右耳を剥ぎ取った、倒したゴブリンは放置だから辺りに血の匂いが蔓延してるみたいだ。

 

「血の匂いか……」

 

 僕は中距離攻撃、エレさんは後ろから首を掻き切るから返り血は浴びてない、だが接近戦の三人は所々に返り血を浴びている。

 

「血の匂いに釣られて他のモンスターが来ない内に森を出よう。タクラマカン平原にはゴブリンの他に……」

 

「ビックビー、数匹が近付いてくる」

 

 エレさん、本当に便利だ……

 ビックビーは女王を頂点に探査役に食料調達役、そして攻撃役と分かれている。多分だが今近付いて来てるのは探査役で、奴等は餌を見付けると食料調達役に連絡する。

 すると群れが現れて彼等を攻撃すると攻撃役が来るシステムだ。

 

「お前達は早かったから逃げればOKだが、未だ規定数を達成してない連中は森に留まらないといけない。裏の課題はビックビーの対処方法だったんだけどな」

 

 ガシガシと頭を掻きながら教えてくれた裏情報、一応虫除けや解毒薬とかも用意してあったんだけど使わなくて済む?

 

「授業で事前に教えてくれてましたからビックビー対策も用意してますよ。でも使わなくて大丈夫みたいですね」

 

 ほぅ、と目を細める先生を見て余計な事を言ってしまったかなと反省する。

 アレは、ならやらせてみようか的な事を考えている感じだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 平原に戻り休憩をする、折角なので錬金で六人掛けのテーブルと椅子を用意した。

 固い石の椅子だが地面に座るよりは疲れが取れるだろう、本当に疲労したバックスは草むらに大の字に寝転んでいる。

 

「本当に俺達が一番だな」

 

「リーダーのサポートのお陰だよ、半死のゴブリンに負ける訳ないし……」

 

「一番活躍したのはエレさんだよ。いち早くゴブリンを見付けたから時間短縮になった。

あてもなく森を徘徊するのは奇襲対策の警戒とかを考えたら精神的にも疲労したと思うよ、本当にエレさんが仲間で良かった」

 

 人間って共に何かを成し遂げると連帯感が生まれる、朝より雰囲気が変わったな。

 ノンビリと持参した紅茶を味わう、疲れた身体に温かい紅茶は格別だ。

 隣に座るエレさんは水筒から直接飲んでいる、意外に大胆だが体力の無さは問題だと思う、一番疲れているし……

 確かに荷物を減らさないと行動に支障が出るんだろうな。

 解決策は幾つか有る、単純に身体能力を向上させるか収納系のマジックアイテムを用意する、仲間に荷物を持ってもらう。

 

「仲間……にして欲しい」

 

 下を向いて聞き取れるギリギリの小声で喋った台詞、やはり彼女も盗賊ギルドから遣わされた子か……

 

「エレさんも盗賊ギルドから遣わされたんだよね?」

 

「知ってたの?」

 

 少しだけ声に驚きが含まれているが、顔は下を向いたまま……質問に質問で返された、彼女は僕が知らないと思っていたのか?

 

「偶然知り合った『マップス』のヘラさんとマーサさんからね。

エレさんは無愛想で人見知りだから自分を売り込むのは苦手だから宜しくって……良い友達を持ったね」

 

「ヘラとマーサが……そうなんだ……」

 

 並んで前を見ながら会話する二人に気を利かせたのか他のメンバーがテーブルから離れて行った。

 

「僕としてはエレさんが仲間になってくれたら嬉しい。でも僕等『ブレイクフリー』にはもう一人メンバーが居るんだ。

彼女と上手くやっていけるかが大事なんだ、パーティ内でギクシャクするのは嫌だからね」

 

 ギルさんとベルベットさんは万能型、攻撃もそつなくこなせる。エレさんはスキル特化型だ、鷹の目や鑑定眼は有効なスキルだ。

 

「私は……人付き合いが……」

 

「お試しで冒険者ギルドの依頼を請けてみようよ。勿論ギルさんとベルベットさんとも一緒に請けるつもりだけどね。

僕はエレさんとでもコミュニケーションは取れると思うよ」

 

 この強制参加実地訓練は後三回、週一だから一ヶ月有る。その間に一般の依頼を五回達成しEランクになってみせる。

 バンクには連れて行けない、未だ僕のギフト(祝福)は教えられない。

 そして冒険者養成学校の座学を学び級友達と冒険者ギルドの依頼をこなす。

 20回達成でDランクになったら自主卒業だ、何としても15歳になる迄にCランク迄上がってみせる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「さて、慌ただしくなったな。他の連中が苦労し始めたぞ」

 

 確かに森が騒がしくなってきている、ビックビーの餌となるゴブリンの死体が沢山有るからな。食料調達役が出て来たのか?

 だが彼等を殺せば攻撃役が出張ってくるぞ、数が多いビックビーは脅威だぞ。 何組かのパーティが森から逃げ出して来た、コレはマズいかも……

 

「先生、呑気に構えていて大丈夫ですか?ビックビーは単体では弱いけど数が多いと脅威ですよ、どうしますか?」

 

 僕等も警戒して武器を手に取り森を見詰める……木々の間を縫う様に飛ぶビックビーが見えた。

 

「エレさん、ビックビーは何匹居るんだろう?」

 

「前方だけで27匹、まだ増えてる」

 

 27匹か……女王蜂には大体200匹の配下が居るらしいからな、まだ食料調達役の連中だ。

 手を出さなければ餌を見付けてソッチを優先するだろう。

 

「引率の先生方も森から避難してきた。ビックビーは僕等が倒したゴブリンを餌として回収するのが忙しい、下手に攻撃しなければ大丈夫。

つまりノルマを達成出来なかった連中は……」

 

 僕の話をニヤニヤしながら聞いている先生にイラッとする、割と本気で。

 

「リーンハルト、そこまで分かったか。

そうだ、今回の裏試験は夜営だよ。周りにはビックビーがウヨウヨしてる場所で野宿をするんだ、楽しいだろ?」

 

 冒険者にとって日帰り依頼とかは少ないから泊まり掛けは常識だ、だから夜営訓練は間違ってない。

 

「でもノルマを達成した僕等は違いますよね?」

 

 先生が目を逸らした!

 

「団体行動は足並み揃えるのが大切だと先生は思うぞ、うん。まさかノルマを達成する奴が居るとはな……スマン、これも試験の内だから諦めてくれ」

 

 何だと?

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。