古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第458話

 コッペリス様の件で、アウレール王に配慮をして貰った。原因を辿れば、リズリット王妃の僕とザスキア公爵に対する警戒と牽制を含んでいた。

 コッペリス様はリズリット王妃が認める程の謀略の才能が有り、後宮から解放されて自由になっても実家の思惑で再婚され他家に拘束される事を嫌った。

 リズリット王妃の息の掛かった僕に嫁げば彼女の才能を十全に使える、だが僕の本妻は男爵令嬢で彼女は侯爵令嬢。

 本妻の入れ替えの危険を孕んでいたんだ、それに気付いて無いとは言わせない。圧力に負けたら、僕はコッペリス様を本妻にする事となっていた。

 貴族的常識から言えばアリだったろう、だが僕的にはナシだ。

 

 結果的にはザスキア公爵がアウレール王に直談判し、この話は流れた。彼女に大きな大きな借りを作らせてしまった、アウレール王に、国家に借りをつくった公爵家は……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これを詫びだと渡すのか?二つもだと、普通に渡せば恩賞は望みのままだぞ」

 

 常に暗殺を心配しなければならないアウレール王にとって、魔法障壁による物理・魔法の完全防御とレベル50相当のゴーレムナイト二十四体の守りは今後も必要不可欠になる筈だ。

 

「臣下である僕とザスキア公爵の不手際の尻拭いを国王にさせてしまったのです。お詫びの品として、お受け取り下さい」

 

 深く頭を下げる、これでザスキア公爵の借りは相殺で良いだろう。あとは毒殺対策の回避率100%レジストストーンと、魔法迷宮バンクで手に入れたエリクサーを渡せば完璧だ。

 

「信賞必罰は上位者の義務だ、しかも詫びなら一つで十分なのに何故二つも渡すんだ?」

 

「残りは研究中ですが、毒回避率100%の完全無効化レジストストーンの作成。それと魔法迷宮バンクの最下層のレアドロップアイテムである状態異常完全回復のエリクサーの入手を計画しています」

 

 これで暗殺の心配は最小限になる、流石の魔法障壁もゴーレム兵団も口に入れる料理までは監視出来ない。毒殺は古来よりの常套手段だ、防ぐ事と治療する事を両方準備すれば万全だ。

 でも護衛を司る近衛騎士団には仕事を取るなと文句を言われそうだけどね、アウレール王も一人になりたい時も有ると思うしゴーレムはプライバシーには干渉しないから最適だ。

 

「違う、更に増やすな!何故二つも渡す、これを受け取って何も報いないなど有り得ないだろう。お前は俺を信賞必罰を行えない無能な王にするつもりか?」

 

 結構本気で怒ってるぞ、支配者なのに一方的な搾取っぽいから嫌なのだろう。義理堅いと言うか真面目と言うか、仕えるのには申し分の無い御方だ。

 

「この二つは公表出来ません、防御系マジックアイテムは秘匿が大原則です。そしてセットだから役に立つのです、分けて渡す意味は有りません。

そして恩には恩で返す事にしています、アウレール王とザスキア公爵にです。僕は敵味方には拘ります、だから最大限の感謝を示したいのです」

 

「ザスキアの貸しを清算しても有り余る功績だぞ……」

 

 ガシガシと髪の毛を毟る勢いで掻いているけど痒いのか?毛根を傷めるとハゲやすいと聞いたけど、大丈夫なのだろうか?禿げ王は威厳的な意味でマイナス査定だと思うんだ。

 

「リーンハルト!」

 

「はっ、はい」

 

 大声で名前で呼ばれた、普段はゴーレムマスターなのにだ。だが不機嫌そうだし苛ついてないかな?対応を間違えたか?

 

「コッペリスの件は、お前達に落ち度は無い!断って当たり前の話だ。あの女が有能かは知らんが、お前からの忠誠心を失うなら捨てて構わない些末な事なんだぞ。

お前は出来た臣下だ、既にお前無しでは俺の考えている今後の政策は纏まらん。お前は既に俺の右腕なのだ、少し早いが宮廷魔術師筆頭予定のお前は国王の補佐と助言もする立場なんだぞ」

 

 お前は既にその位置に居る、サリアリスの後継者なのだからと言われてしまった。僕がアウレール王の右腕として国政を担う?いや、無理だし頑張っても左腕だろう。

 横目で確認した、リズリット王妃が固まっている。まさかアウレール王がそんな事を考えていたとは思わなかったな、僕だってそうだ。

 緊張して喉は渇くし手のひらは汗で濡れてきた、眩暈までしてきたがどうしよう。国家の中枢近くに食い込んでいる自覚は有ったが、まさか中枢を担う事になってるとか驚愕の事実だぞ。

 

「その、期待は嬉しく頑張りますが……」

 

 む、ギロリと睨まれてしまった。まさかとは思うが暴露話をして拗ねてないよね?

 

「これ以上は爵位はやれん、今は宮廷魔術師の席次も上げられん。金に興味は薄く、惚れた女以外には興味が無い。何故、この俺がお前の報奨で悩まねばならないんだ!」

 

 両手でテーブルを何度も叩いたけど、欲望が薄いのは問題なのか?

 

 僕はと言うか臣下は幾ら出世しても伯爵止まりだ、侯爵は七家しかなく一族にはなれても血縁者以外は家を継げないんだ。

 公爵五家は準王家だから更に厳しく、直系の血縁者しか継げない。五年後に宮廷魔術師筆頭となる、未だ先の事だから席次も上がらない。

 

「アウレール王、僕は感謝しているのです。少し前は廃嫡されて冒険者として好きな人達と自由に生きるのが夢でした、現実離れした儚(はかな)い夢でした。

だからある程度の自由を得る為に、大切な人達と幸せに生きる為に……僕は最短で力を求めたのです」

 

 もう僕も正直に本音の暴露話をするしかない、嘘や建て前など不要だ。黙って聞いているアウレール王と、驚いたままのリズリット王妃、突然に臣下が国王に向かって心情を吐露し始めたら驚くだろう。

 

 途中で止められない、アウレール王には真実を話す必要が有る。

 

「僕達が幸せに生きるにはエムデン王国が必要不可欠です、僕はこの国が大好きで戦火に曝す事は我慢出来ません。

そして、この国を守る為にアウレール王は絶対に必要な御方なのです。だから僕は……僕はこの国を守る為に、自分達の幸せを守る為に、アウレール王に絶対の忠誠を誓ったのです」

 

「お前、今凄い本音をぶちまけやがったな!貴族の意義とか教義とか臣下の立場とか義務とかを全く無視して、自分の幸せの為だけに俺に忠誠を誓っただと?」

 

 不敬じゃないよな、他の連中だと自分の家の繁栄を願い国家に尽くすのだから。逆に損得勘定の忠誠心より……いや、余り変わらないな。

 

「はい、僕は自分の幸せの為になら何でもする身勝手で強欲で我儘なのです。僕の幸せはエムデン王国の繁栄と名君たるアウレール王に掛かっています」

 

「くはは、確かに忠臣だな。国と俺の為に忠誠心を誓う、対価は自分達の幸せかよ。しかも本心から思ってやがる」

 

 あれ?右手で両目を覆って仰け反りながら笑い始めたけど、随分長く笑ってるけど大丈夫だよな?壊れてないよな?

 

「リーンハルト!」

 

「はい」

 

「お前の大事な女はジゼルとアーシャだけか?」

 

 大事な女?恋人括りならイルメラとウィンディアだが、普通に大切ならニールやエレさんにリプリーとか沢山居るぞ。

 

「何を呆けてるんだ?本妻はジゼルで側室はアーシャ、他に惚れた女が居るのかと聞いている」

 

 突然狂った様に笑ったと思えば、今はニヤニヤと僕の恋愛事情を聞いてくる。だが嘘は言えない、此処まで来たら真実を話すしかない。

 

「未だ廃嫡予定だった頃から僕を支えてくれた女性が居ます、彼女は平民ですが僕は……」

 

「お前、大本命はそっちかよ。ジゼルを本妻にと拘るから本命だと思っていたぞ。

ふむ、他の貴族の娘達を拒む本当の理由は純愛か。その為の出世と権力、確かに身勝手で強欲で我儘だな」

 

 腕を組んで考え始めてしまった、だがモア教の僧侶とはいえ平民で孤児のイルメラの存在をアウレール王は認めてくれるのか?

 ウィンディアはデオドラ男爵の元家臣だし、まだマシな立場だから大丈夫だよな?

 

「リズリット、今後リーンハルトには女絡みの悪さはするな。コッペリスの押し付けが成功した時点で、俺はコイツを失う事になっていたんだぞ!」

 

「申し訳有りませんでした、謝罪致します」

 

 不味い、王妃に謝罪させるとか重罪だろう。物理的に首が飛ぶレベルの不敬罪だ、眩暈の他に胃までシクシクと痛んで来たぞ。

 

「謝罪など不要です、僕は何とも思っていません」

 

 真面目な顔で否定したが、実際は嘘だ!

 

 僕とザスキア公爵を警戒して首輪を嵌めにきたんだ、それにザスキア公爵は引っかかってアウレール王に借りが出来た。

 だが既に相殺したから安心だ、代わりである未だ渡す予定がなかったあの二つのブレスレットは防御の要だが、何時かは渡す予定だったし早まったと思って諦めるか。

 

「ふん、まぁ良いか。謎だらけのお前の本音が聞けただけで良しとするぜ、その大切な女の為に俺の力は必要か?」

 

 必要って言ったらどうなるのか気になるが、そんな博打は打てないぞ!

 

「いえ、既にバーナム伯爵とライル団長との養子縁組を進めてます。派閥の結束と拘束の意味でも問題は無いので大丈夫です」

 

「バーナムとライル?お前の大本命は二人か、結構お盛んなんだな。その二人を娶る時は、俺からも祝いの言葉を贈ろう。国王の承認を得たならば立場は固まるだろう」

 

 えっと、臣下が側室を迎える時に国王から祝いの言葉を貰う?どう言う対応なんだ、聞いた事も無いが断る事は不可能だよな。

 

「有り難う御座います」

 

 取り敢えず深く頭を下げる、満足そうに頷くアウレール王と少し不満な感じのリズリット王妃。この二人の対比が珍しい、大抵は同じ目的で合意しているからな……

 

「まだ足りない、俺は自分の安全の為に莫大な費用を費やしている。このマジックアイテムはそれに匹敵する、今後も必要になる。何か欲しい物や頼み事は有るか?大抵の事なら聞いてやるぞ」

 

 ここで具体的で個人的な願いは駄目だ、曖昧で私利私欲に走らない物が望ましい。

 余りに変な願いは、リズリット王妃を刺激する。彼女は協力者としては申し分ないのだが、無条件で信じていい相手でないのは今回の件で分かった。

 

「この国の平和と繁栄が願いです。出来るならば、バーリンゲン王国の対処は僕とザスキア公爵に当たらせて下さい」

 

 自分の幸せの為にエムデン王国の繁栄を願ったんだ、希望としては間違ってない。

 

「む、分かり易い功績を積んでから要求を通すのか?お前達二人で、バーリンゲン王国を何とか出来る自信が有るんだな?」

 

「占領は人数的に無理なので、降伏して貰い属国化が望ましいかと。彼の国の周辺は小競り合いが多いので旨味も少なく、面倒事は彼等にやって貰った方が良いでしょう」

 

 ザスキア公爵と答え合わせをする予定だが、少数精鋭の僕等が多民族国家っぽいバーリンゲン王国を占領統治するのは不可能だ。

 ならば属国化して旨味だけ吸い上げれば良い、その為のノウハウは転生前に学んだから問題は少ない。

 

「ふん、俺に貸しばかり作らせるのは気に入らんぞ。その話には乗ってやる、だが成功した後の褒美は一切の文句を言わずに受け取れよ」

 

 ニヤリと笑うアウレール王は、悪の黒幕みたいに怪しさ満点だった。褒美を渡すだけなのに、邪悪な笑みって何でしょうか?

 


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