古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第451話

 皆でオペラを堪能した後、ジゼル嬢をデオドラ男爵家に送り自分の屋敷に帰り執務室に籠もる。

 だが僕は彼女達の中ではゴーレムクィーン錬金で怪我をしてヤラかした前科者なので、当然だが一人で錬金などさせてくれないで監視されている。

 

「リーンハルト様の錬金する姿を見るのは楽しみですわ」

 

「本当、毎回驚かされるもん!」

 

「お邪魔にならない様に大人しくしていますので、安心して錬金をして下さい」

 

 アーシャ・ウィンディア・イルメラが期待に満ちた目で並んで座っている、因みにエレさんは参加していない。

 最近の彼女は僕に恩を返す為にと、冒険者としての活動の合間にメイド長のサラの元で修行している。たまにメイド服を着て手伝いをしてるのだが妙に似合っているんだ。

 メノウさんは微妙な顔をしていたが、彼女は裁縫が得意らしく繕い物の手伝いをしていた。お世話になるだけでは心苦しいと色々と仕事を探しては手伝ってくれている。

 エレさんも新しく入った同世代のリィナと特に仲良く仕事に励んでいる、『野に咲く薔薇』のアグリッサさん達と魔法迷宮バンクの六階層を攻略中らしい。

 

 彼女はイルメラとウィンディアとは違い側室予定じゃないから、パーティメンバー且つ家臣としての一線を引かれた関係だ。

 勿論だが側室や妾にするつもりもないので助かる、母親のメノウさんは少し不満みたいだ。娘のサクセスストーリーがどうとか言っていたが流石に無理が有るぞ。

 パーティメンバーに誘った時も、実はエレさんも僕に嫁ぐのかと考えて許可したらしいが……

 まさか僕が宮廷魔術師第二席の伯爵に叙されるとは考えなかったそうだ、身分の違いが激し過ぎて混乱したらしいし。

 

「そんなに楽しそうにされると照れるな、先ずは『魔法障壁のブレスレット』を作るよ」

 

 淑女らしく振る舞おうと騒がないが興味津々だな、やはり女性は装飾品が好きだ。だから錬金し甲斐が有り、贈り甲斐が有るんだ。

 

 レベル50の恩恵は伊達じゃない、今迄の展開する魔法障壁はレベル30程度だったが今は自身と同等のレベル50以上の魔法障壁を展開出来る物を錬金出来る。

 このクラスになると高位魔術師の上級呪文も防げる、ビッグバンやサンアローも短時間なら大丈夫なので防御面では安心できる。

 先ずは空間創造から上級魔力石を取り出して、両手で包み込む様に持つ。

 魔力構成を思い浮かべながら魔力を込める、全ての魔力構成を刻み込んでから一気に錬金すれば完成だ。

 無色透明な水晶の内側に深紅の魔力が波打っているのが分かる。装飾の無いシンプルなデザインだが、だからこそ内包する魔力光が目立つ。

 レベル30の時は内蔵魔力はピンク色だが、レベル50になると深紅なのか。

 自らが光り輝くので暗い場所だと目立つな、防御系マジックアイテムはバレない事が最大の効果なので少し考えるかな。

 

「成功だ、今の僕と同程度のレベル50の魔力障壁を三十分は展開出来る。だが魔力の補充は出来ない使い捨てだ……」

 

 固定化の魔法を重ね掛けして完成、魔力構成が複雑で魔力補充の機能を組み込めなかったので使い捨てだが性能は高い。

 アーシャにジゼル嬢、イルメラにウィンディア、エレさんにニールで六個。

 ザスキア公爵にアウレール王とリズリット王妃、ミュレージュ様にセラス王女に献上するから合計十一個必要だ。

 

 因みに我が屋敷の防御の要のベリトリアさんの魔法障壁は僕と同等なので不要だ、流石は先輩魔術師だけあり底の見えない強さを持っている。

 レベル30の廉価版は多目に錬金し、アーシャ達と同行で外出する時に使用人達に装備させれば良い。これが廉価版と思えるとは、大分力を取り戻しているな。

 狙われる危険が有る彼女達と同行するなら、巻き添えを食う可能性が高いし最悪は人質か嫌がらせで殺される。

 なので惜しみなく防御系マジックアイテムは装備させる、それが雇用者の義務であり使命だ。

 

「凄い綺麗ですね、防御系マジックアイテムなのに装飾品と変わらないです」

 

 イルメラは僕の行動に対して大抵は肯定してくれるんだよな。腕を胸の前で組んで、キラキラした目で見詰められると照れるんだ。

 

「本当に素晴らしいですわ、透明な水晶のブレスレットの中に深紅の輝き……これは装飾品としても最高品質ですわ」

 

 アーシャもイルメラと同じ匂いがする、基本的に同じく僕に肯定的だ。それに錬金した『魔法障壁のブレスレット』を貰える事が純粋に嬉しいのだろう。

 

「うーん、でも防御系マジックアイテムは存在を隠してこそ効力を発揮するから残念だけど他の人に自慢出来ないよね?」

 

 そうだ、ウィンディアの言う通り自然界の宝石とは違うから錬金した物だと分かる。そうなれば効力を探られる、レジスト系だと考えるだろうな。

 僕の調べた限りでは『魔法障壁のブレスレット』と『召喚兵のブレスレット』は現代に伝わっていない、エムデン王国の宝物庫にも無かった。

 単発で物理攻撃完全無効なマジックアイテムは有ったが、魔法は防げない。それに物理攻撃一発では連続攻撃をされたら終わりだ。

 貴重だが使い勝手が悪い、だから現代まで残っていたのだろう。

 

 この二つのマジックアイテムは、転生前の僕でも自作以外は手に入れられなかった希少品だから現代にまで伝わらなかったと思う。

 または発動して既に効力を失っているかだな、自分の命を守る物だから未使用で後生大事に保管する物でもないし……

 

「はい、先ずはアーシャからだよ」

 

 彼女の左手首に『魔法障壁のブレスレット』を嵌める、これで確実に不意打ちは防げる。アーシャが一番狙われる可能性が高い、準備は万端に過剰な位が良い。

 

「旦那様、有り難う御座います」

 

「次はイルメラの番だよ」

 

 未だ存在に気付かれてないが、勘の良い連中なら冒険者時代の事も調べるから何れ彼女に辿り着くだろう。

 

「リーンハルト様、有り難う御座います」

 

「最後はウィンディアだ、手を出して」

 

 最後はウィンディアだ、自分で魔法障壁は張れるが強度的な意味で装備して欲しい。特に自分と僕との能力差に嫉妬はしていないのが助かる、彼女に嫉妬されたら僕は……

 

「うん、有り難う。凄く嬉しい」

 

 自ら彼女達の左手首に『魔法障壁のブレスレット』を嵌める、軽く手を握る位の御褒美は許されるだろう。スベスベと柔らかくずっと握っていたいが我慢だ。

 魔力が枯渇し目眩を覚えたのは、レベル50になって転生前の八割の力を手に入れても未だ未熟だって事だ。

 此処で体調不良を訴えたら自宅では錬金させて貰えないと思い何とか耐えた、少し魔力が減ったので仮眠すると言ったら全員が添い寝すると寝室に着いて来た。

 

 結果的に起きたら再び全知全能感と多幸感を味わい、更に調子に乗ってしまった。

 ゴーレムナイト三十体を召喚し、十二体を守りに、残りの十八体に簡易命令が出来る『召喚兵のブレスレット』を全員分作ってしまった。

 この状態はやはりモアの神の加護だと思う、能力にプラス補正が入るみたいなんだよな。

 

「この三人の匂いがミックスされた魔香の威力に、僕は逆らえない……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 調子に乗って現代では国宝級のマジックアイテムを大量生産してしまった、ダウングレードした物も作っておくか。

 この最高品質のマジックアイテムは、最初に決めた十一人以外に渡すのは危険過ぎる。バレたら色んな方面から色々と言われる、早めにリズリット王妃に相談しなければ駄目だ。

 

 三人同時添い寝による魔香の調査は始めたばかりだが、効果が出ると普段と違う行動を取るので困る。

 自分で自分が制御出来ない異常な状態なのだが、何故か周囲からの受けが異常に良い。普段よりもハイテンションなのだが、普通の僕は大人し過ぎるのか?地味なのか?

 前回のバーナム伯爵とライル団長との模擬戦の後、派閥所属の貴族連中が妙に持て囃してくる。

 ルーシュとソレッタもそうだ、まるで仕えし主に対する態度で接してくるのには困った。他家の貴族令嬢に恭しく扱われるって何が有ったんだ?

 

 噂では正式には『ゴーレムマスター』なのに『狂喜の魔導騎士』とか酷い渾名(あだな)で影で呼ばれている。

 これは狂気の笑顔を浮かべながら、喜々としてバーナム伯爵とライル団長の二人に対して殺し合い(殺試合)をした事が原因だそうだ。

 あの隔絶した人外共を前に笑って戦える事が評価された、派閥№4迄は共に同類で人外と認定されたそうだ。

 

「酷い風評被害だ……何故に冷静沈着な魔術師の頂点たる僕が、狂気を纏う魔導騎士なんだよ!」

 

 そもそも騎士じゃない、鎧は纏うが模擬戦で剣は使った事も無い。魔導騎士とか複合職みたいだが聞いた事が無い、普通なら魔法戦士じゃないのか?

 

「やり過ぎたのよ、リーンハルト様はバーナム伯爵の派閥を構成する貴族達に認められた。あの脳筋馬鹿共も漸く認めた、いえ認めるしかなかったのよ。

常に冷静沈着で一歩引いていたいけ好かない相手は、一皮剥けば自分達の派閥当主達に笑いながら殺し合いを仕掛ける程の危険人物なのよ」

 

 自分と同類達の更に上の連中と同類、これ以上の力の示し方は無かったのよね?と最後が疑問系の答えを返してくれたザスキア公爵。

 相変わらず僕の執務室にあるソファーを独占している、彼女の両手首にはリボンが結ばれて二つのブレスレットを隠している。

 だがいけ好かない相手とは表現でも酷くないかな?

 

「徹夜明けで精神的に変だったんです、しかも大雨だったし大変だったんです。もう狂気じみた模擬戦は無いですよ」

 

 あのハイテンションな時の自分は、ある意味で黒歴史だ。冷静沈着な魔術師を目指す僕が、戦いを楽しいと感じていたんだ。

 魔香恐るべし、検証しないと大事な場面で失敗する。だが彼女達との添い寝を断る事は出来ない、それは別問題で添い寝を断るのは愛情を疑われる行為だ。

 

「む、ウェラー嬢からの親書だな」

 

 飾り気の無いシンプルな水色の封筒だ、彼女は僕の下位互換な魔術師であり期待出来る逸材だ。内容は『自在槍』を習得したので一度見て感想が欲しいか……

 

「ユリエル殿の御息女ね、マテリアル商会にキツいお仕置きをしたそうね」

 

「下級の魔導書を中級と偽って高値で売りつけたんですよ、だからもう一冊貰ったんです。距離を置く商会ですし、まぁ問題は無い筈ですよ」

 

 魔導の研鑽の為ならば肯定しなければならない、彼女なら僕の後継者候補にはなれる筈だ。

 だが上級貴族の令嬢に簡単に会いに行くのも問題だ、何か理由を付けて第三者の立ち会いが必要なんだよな。主に身の潔白的な意味でね。

 

「王宮に呼びなさいよ、彼女も魔術師としては有名で有能なんでしょ。下手にお互いの屋敷に行き来するのは問題よ」

 

 真顔のザスキア公爵を見て思う、確かに親密さをアピールするのは危険だよな?子弟関係を結んでもないし、年の近い同僚の娘さんだし当然の配慮だな。

 

「そうですね、王宮に呼んで練兵場で成果を見るのも良いかな。サリアリス様にも紹介しよう、彼女の魔導を極めようとする真摯な姿勢は評価出来る」

 

 ベリトリアさんの件も有るし将来有望な若手魔術師の存在は貴重だ、そして水属性魔術師で毒特化なら気が合うだろう。

 知り合いを王宮に招くには同行するか招待状を渡すかだが、今回は招待状の方が良いかな。

 申請の書類を取り出して必要事項を記入する、後はオリビア経由で父親に渡せば妨害はされない。

 そしてオリビアの父親を僕が信用し重用している事実が、中級官吏の取り込みに役立つ。ザスキア公爵が大分エグい噂を広めたらしく、僕に嫌がらせをする連中は激減した。

 だが一度は邪魔した連中に僕関連の書類は渡さない、オリビアの父親を経由する事は未だ許さない証だ。

 

「ウェラーちゃんね、一度リーンハルト様に楯突いたんでしょ?」

 

「宮廷魔術師団員五十人と戦った時より苦戦しました、彼女はユリエル殿の後継者として認めざるをえない実力が有ります」

 

 短時間で僕に三度も仕掛けたんだ、最後の無味無臭で無色透明な麻痺毒は気付かれなければヤラれていた。

 ある意味では『毒霧』のカーム殿より強力な魔術師だ、宮廷魔術師団員第三席よりもだ。

 

「そう、リーンハルト様が認める女なのね……警戒が必要かしら?」

 

「え?何ですか?」

 

 小声で呟かれた言葉が聞こえなかったのだが、凄く気になった。警戒とか何とか聞こえたが、ザスキア公爵が警戒する程じゃないと思うんだが……

 


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