古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第449話

 ザスキア公爵の財力と権力を再確認した、自分の屋敷の敷地内に劇場が有りオペラの人気歌手を引き抜いたり王宮楽団顔負けの私設楽団も持っている。

 オペラに誘われたが、まさか自分の屋敷に用意してるとは想像の埒外だ。どれだけ貴族にとってオペラって重要なのだろう?

 

 流石は王都で一番の人気オペラ歌手だけあり、歌声は素晴らしいの一言だった。

 実は彼女はザスキア公爵の親族の娘さんで、名前をアンヌマリーと言う。ザスキア公爵の事をお姉様と呼んで慕っている、彼女の親族には有能な(腹黒い)女性が多いよな……

 

 因みに僕は余りオペラに興味が無いので素晴らしかったの一言で終了だ、また観たいとかの気持ちは悪いが薄い。現代の貴族としては駄目な思考かもしれないが魔術の研鑽の方が良いんだ。

 だが楽しい時間を過ごせた事は確かだ、ザスキア公爵には感謝が尽きないな……

 

 思わぬサプライズでオペラを堪能した、鑑賞後にオペラの主役歌手と一緒にお茶も飲んで雑談をした。

 彼女から劇場支配人宛に紹介状も書いて貰えたので、明日以降なら王都の貴族専用のオペラ劇場で彼女主演のオペラが特別席で観られる。

 この特別席は金を積めば買える席じゃないらしく、王族の方々も使われる程に格式が高いので本来は事前予約で審査が必要らしい。

 

 貰ったからには公演中に行かなければならない、公演後は楽屋まで入れる権利も有る。

 これはお互いに利益が有る、僕は今話題のオペラ歌手に同行者を会わせる事が出来る。接待としても使えるし、家族を同行しても喜ばれる。

 上級貴族は芸術にも精通している(と思われる)必要が有るそうだ、本当に面子って大変なんだよな。

 少なくとも伯爵以上ならば乗馬・楽器・ダンスは必須、その他にも芸術関連に造詣が深くなければならない。全くの無茶振りだ……

 

 アンヌマリー嬢は僕と懇意にしていると周囲から思われるのが利益、彼女達芸術関連の人達はパトロンが必須。

 勿論、僕はパトロンになるつもりは無いが良い意味でも悪い意味でも有名な僕と懇意にしていると周囲に思わせるのは有効だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日目も丸々オペラを観て潰れた、お茶会が思ったより長引き魔術師ギルド本部に寄るには中途半端になってしまった。

 なので自宅に帰りゴーレムクィーンを錬金する事にした、幸い必要な材料は全て集めてあるしルーシュ達のドレスアーマーの錬金で練習もしたので問題は無い。

 

 イルメラ達と団欒した後で、新しいゴーレムを錬金するからと断ってから執務室に籠もる。

 ツインドラゴンの腹から取り出した一番巨大な宝玉を目の前に腕を組んで考える、構想は出来ているし魔力も十分だ。

 

「では始めるか……ゴーレムシリーズの最終段階、ゴーレムクィーンを錬金する」

 

 両手に握っていた直径15cm程の薄緑色の宝玉に魔力を徐々に込める、元々膨大な魔力を秘めていたが自分の魔力と混ぜて親和性を高める。

 全体的に魔力を込めて馴染ませたら一気にゴーレムクィーンの核を錬金し、更に外核となる鎧兜を作れば完成だ。

 宝玉に込められた魔力が予想以上に膨大だ、集中力を切らすと暴発するぞ……

 

「不味い、暴発すれば屋敷が無くなるぞ」

 

 暴れて制御下から逃れ様とする魔力を何とか支配下に置いて魔力構成を刻む、少しずつ膨大な術式を刻んで支配域を増やす。

 何とか半分を刻み終えた辺りで抵抗が弱くなり、七割を超えた時点で抵抗は無くなった。

 

 後は一気に仕上げるぞ!

 

「出来た、自律行動の指揮特化型だ。自分でも戦闘をこなせるが、最大の特徴は百体のゴーレムポーンを支配下に置いて行動出来る事だ」

 

 宝玉に最大出力で魔力を込め続けていた両手は耐えられなかったのか毛細血管が破れて血だらけだ、爪も何枚か捲れている。集中していたので痛みは感じなかったが、今はジクジクと痛む。

 上着の袖も破れて血が染み込んでいる、錬金して自分の身体に負荷が掛かったのは初めてだな。

 

「ぐ、集中力が切れたら痛みが……」

 

 ゴーレムクィーンの錬金成功の引き換えならば安い代償だ、ヒールを掛けて傷を治す。治療も終わり痛みも引いたので、ゴーレムクィーンをじっくりと見詰める。

 

 ドレスのデザインはクラシカルな物、ゴシックタイプにした。生地には強固な固定化の魔法を重ね掛けした上で自動修復機能、各種レジスト機能に加えて刃物程度なら防げる防刃性能もプレートメイル並みに付加した。

 鎧としての部分はフルフェイスのヘルメット、両脇に翼飾りをあしらい額部分の深紅の宝玉がポイントだ。

 喉を守るゴルゲットを太めのネックレス状にした、肩当てのポールドロン、胸部を守るキュイラス、腰回りにフォールド。

 ドレスのスカート部分にタセットを縫い付け腰から太股を防御する、腕は肘から下をロウアーカノンとガントレットを組み合わせた。

 

 足元は膝から下を膝を守るポレイン、脛を守るグリーブ、鉄製ブーツのソールレットで固める。

 鎧のパーツを黄金で統一し深紅のドレスに合わせた、緻密な彫刻を施し装飾にも拘った逸品だ。

 前回遊び心と実験的な意味で錬金した両肩の二枚の浮遊盾の代わりに花弁を模した六枚の浮遊盾を装備、全自動で攻撃に反応する。

 この浮遊盾は家紋である鷹をデザインしている、黒地に金色の鷹のエンブレムは戦場で目立つだろう。

 

 転生前に錬金したゴーレムクィーンは天使の羽を背中に配置したが、現代で再現するには宗教的に危険なので変更した。

 メインの武器はハルバード、槍と斧の性能を併せ持つ。怪力を発揮出来るゴーレムならではの破壊力重視の武器だ、因みに雷を纏い麻痺と雷撃の両方の効果が有る。

 サブの武器は腰に吊したロングソードだが、厚みは通常の二倍。刀身は漆黒、十種類の毒を同時に与える凶悪な状態異常を引き起こす。

 予備の武器と言うか本命は両手と爪先から魔力刃を生やせる、ゴーレムクィーンの真骨頂は指揮官タイプではなく接近格闘戦だ。

 

 ゴーレムナイトなら五十体、ゴーレムポーンなら百体を制御下に置いて行動出来る。体内に下級魔力石を仕込んでいるので、何時でも配下のゴーレムを召喚出来る。

 召喚ゴーレムは使い捨てだが空間創造系のマジックアイテムを併用する事でゴーレムナイトは五十体だが、ゴーレムポーンは三百体運用出来る。

 

「完璧だ、序でに魔法障壁のブレスレットも両手首に仕込めば更なる防御力向上に繋がる」

 

 ゴーレム故にフルフェイスの下の顔はイルメラの顔を参考にした磁器質の白い仮面だ、女性らしい体型はザスキア公爵と寸分変わらない所謂ナイスバディ。

 後は深紅に金糸と銀糸で縁取りをしたマントを羽織らせる。

 

「更に完璧だ、ゴーレムシリーズも一応の完成だ。これから宜しく頼むよ」

 

 僕の言葉にゴーレムクィーンは優雅に一礼する、彼女は僕以外の命令は受け付けない。ゴーレムキングを纏う僕の為だけのクィーンだからだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昨日は屋敷中が大騒ぎになった、ゴーレムクィーンを御披露目したからじゃない。

 両手は治療したが服は弾け飛んでいたし大量の血が付着していた、イルメラとアーシャにバレて本気で泣かれてしまった。

 私達に内緒で危ない事はしないで下さい、そう言って抱き付かれて本気で泣かれながら治っているのに治療魔法を掛け続けられた。

 ウィンディアは拗ねるし、ゴーレムクィーンはオロオロしていた。単体最強のゴーレムクィーンも女性の本気泣きには狼狽する、大切な女性の前では最強のキングとクィーンも形無しだった。

 

 結果的に心配させたお詫びとして、ジゼル嬢を交えた五人でオペラを観に出掛ける事となった。

 デオドラ男爵家に立ち寄りジゼル嬢を迎えて王立劇場に向かう、事前にオペラを観に行く事は伝えてある。紹介状の件も伝えたので特別室を押さえてくれる筈だ。

 彼等にしても僕クラスが連絡も無しに行けば劇場が混乱するから、礼儀として連絡は必須だ。

 

 道中の馬車の中は和気藹々として、これから見るオペラについて楽しげに話している。やはり貴族とオペラって親密な関係なのだろうか?

 バーレイ男爵家に居る時は、たまにエルナ嬢が話題にする位で僕やインゴは見た事も無かった。父上は何度かエルナ嬢と観に行っていたかな?

 取り敢えず話題に入れる知識も無いので笑顔で女性陣の会話を聞いて時間を潰す、直ぐに王立劇場が見えてきた……

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様!当劇場の支配人のアドーと申します」

 

 貴族専用の馬車停めに誘導された、案内の職員達も僕が来るのを知っていたのか慌てず手慣れた感じで誘導してくれた。直ぐに関係者が集まり歓迎してくれる。

 この待遇の良さには気おくれしてしまうよな。

 

 歓迎の列の中央に居る高齢と思われる老紳士が見事な所作で一礼してくれた、背筋も真っ直ぐで白い髭がお洒落に決まっている。

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様」

 

 此方は昨日会ったアンヌマリー嬢が優雅に一礼してくれた、周囲の男性客から溜め息が漏れる……

 

 予想通り貴族専用の馬車停めに劇場の支配人アドー殿と、主演歌手のアンヌマリー嬢とその他大勢が待ち構えていた。

 周囲に居る他の貴族達が一斉に注目する、チラリと見回すが知り合いは居ないみたいだ。余り知らない連中とは絡みたくない、今日は家族サービスの為に来たんだ。

 

「急で悪いが今日は世話になる、彼女達は僕の側室のアーシャと婚約者のジゼル嬢だ」

 

 イルメラとウィンディアには悪いが今は紹介する事は出来ない、付き人としての扱いとなる。

 勿論だが特別室に入れば席を用意させて立たせて控えさせる事はしない、養子縁組が終わる迄の対外的な措置だ。ここで我儘を通せば後で後悔する事になる。

 

「これは巷で噂のリーンハルト様の大切な美姫のお二人ですな。当劇場の支配人、アドーと申します」

 

「アーシャ様、ジゼル様、お会い出来て光栄ですわ。アンヌマリーと申します、宜しくお願いしますわ」

 

 流石に結婚前だから立場が上なのはアーシャだ、男爵令嬢と伯爵夫人の差は大きい。

 周囲の連中が動き出す前に特別室への案内を頼む、途中で雑談を交わしながら案内された特別室は二番目に豪華だそうだ。

 王宮の応接室に勝るとも劣らない豪華な内装に調度品、足首まで埋まる絨毯も凄いな。僕でも価値が分からない。

 

 一番目は王族のみ使用可能で、二番目は公爵と侯爵のみで僕は侯爵待遇だから大丈夫だそうだ。

 三番目から八番目迄は貴族ならば誰でも追加料金さえ払えば使用出来る、部屋毎に値段が違うらしい。

 

「ふむ、流石は二番目だな、舞台が良く見える」

 

 配置的には舞台から二十列十段が前席一階部分、その上に二階特別室が有り後方に後席が二十列二十段有る。

 満席でも六百人しか入れない格式高い劇場だ、後方席でも金額十枚は必要らしい。

 因みに二番目は金貨三百枚だ、確かに広いが席は八席しかないし金銭感覚が麻痺か鈍化してるよ。

 

「はい、一番目と二番目は舞台の見え方に差は有りません、内装も殆ど同じですわ」

 

「ふむ、前席は満員ですね。流石はアンヌマリー嬢だ、皆の期待も凄いみたいですね」

 

 リップサービスだが劇場支配人と主演歌手がホストまでしてくれるんだ、重く受け止める必要が有る。

 この後で参加する舞踏会やお茶会では、今日見たオペラが凄かったと宣伝する事も忘れてはならないな。僕が絶賛すれば、会話のネタとして他の連中も観に来るだろう。

 

「有り難う御座います。英雄たるリーンハルト様に期待されていると思うと、凄く嬉しいですわ。公演が終了しましたら楽屋に御招待致します、では後程」

 

 凄い媚を含んだ優雅な一礼をしてアンヌマリー嬢が退出して行った、思わずジゼル嬢とアーシャが顔を顰めた。女の争いって事かな、僕は浮気はしないのだが……

 

 そうだった、楽屋の招待も含まれていたんだ。女性陣も主演歌手と会えて凄く嬉しそうだな、滅多に無い娯楽だし仕方無いか……

 




盆休み特集は本日で終了です、次回は8/25(木)で週一連載に戻ります。

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