古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第45話

 実地訓練二回目、最初の自己紹介から既に僕は浮いてる存在だ。

 レベル10前後の初心者の中に既に一人前と認められるレベル20以上が混じれば、普通は仲良くしようとは思わないか?今回のメンバーとも壁を感じるな、自意識過剰じゃなければね。

 だけど実地訓練のポイントは協調性も重要だから無下な対応も出来ない、一人ゴーレム無双でクリアしたら不合格でポイント貰えないんだよな多分。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕以外のパーティの中で一番レベルが高いカシーはランス使い、中肉中背大人しそうなバックスはロングソード、口数の少ないジャミはエストックと言うバラエティーにとんだ得物を扱う連中が集まった。

 ランスやエストックは使い場所を選ぶ武器だ、致命傷を与え易いが共に突くしか出来ない。

 最後の女の子は……

 

「エレ、採取コースの盗賊志望でレベルは6……」

 

 囁く様な小さな声での自己紹介……改めて彼女を見る。さっき隣に居ても気にならなかったのが不思議だ……気配が薄い?

 小柄だ、140㎝位だろうか?腰まで有る黒髪を一本に束ねている。

 前髪が目を完全に隠しているから表情が分からない、彼女がエレか……

 確かに無口で無愛想、そして恥ずかしがり屋で人見知り、僕よりコミュニケーション力が低いかもね。

 

「何だよ、レベル6かよ」

 

「完全に足手まといだな、魔術師さんが居るからバランス調整か?」

 

 遠慮の無い、しかし悪意は無さそうな悪口を言われても特に言い返さないが前髪に隠れた表情も分からない。怒っているのか、悲しんでいるのか……

 

「レベルが力の全てじゃないだろ。盗賊職は他に居ないんだから課題でソッチ系のが出たらどうする?僕は罠とか解除出来ないぞ。

この実地訓練は冒険者として活動する時のパーティ行動について学ぶ事が重要だと思う」

 

 僕が覚醒した時はレベル7だった事を考えれば同い年位の連中が10前後は頑張っているのだろう。

 だから低いレベルの彼女を無意識に馬鹿にするんだと思うが、盗賊職は器用さとか観察力とか天性の資質が重要だからな。

 レベルが低いからといって馬鹿には出来ない技術職の連中なんだ。

 

「はいはい、流石はレベル21の魔術師様ですね。序でにリーダーもやって下さい」

 

「そうだな、力有る者がリーダーで良いだろう」

 

「まぁ無難だな」

 

 エレを貶めた事は悪口とも認識してなかったのだろうか?あっさり流されて男性陣からリーダーを押し付けられた。

 同じ戦士系でもゼクスはリーダーをやりたがっていたのだが、彼等は違うのだろうか?

 

「あのな君達……エレさんはどうする?僕がリーダーでも良いかい?」

 

 パーティ行動が採点基準だからリーダーはやりたかったのだが、だからと言って勝手には出来ない。彼女の了承を……

 

「リーンハルトが……リーダーが良い」

 

 やはり小声で感情が込められてない様な抑揚の無い淡々とした喋り方だ。

 だけどヘラとマーサの二人は良い子だからと言った、つまり仲良くならないと素の彼女を表してくれない?

 大変だけどパーティ候補だし頑張って少しずつコミュニケーションを取ってみるか……

 

「全員が良いならリーダーをやらせて貰うよ。じゃ今日は宜しく頼むね」

 

 一応笑顔を添えて確認を取っておく、毎回思うが好意的な人は少ないな……貴族といっても立場は同じ生徒なんだし、もう少し友好的でも良くない?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 タクラマカン平原へはギルドの用意した乗合馬車で行く事になった、距離的に徒歩では日帰りが辛いからだろうか?

 何となくだがイベント的に強制夜営とか有りそうなんだよな、この実地訓練は突発的なトラブルへの対応が裏試験みたいだし。

 一回目も薬草採取だけの予定にゴブリンの襲撃が企まれてたし、二回目がゴブリンの討伐なら他に何か……

 例えば座学でタクラマカン平原にビックビーが出没すると教えてくれた事がヒントだと思うんだよね。

 乗合馬車には二つのパーティと引率の先生が乗り込んでいる。

 事前にゴブリン討伐と教えられてるからか、皆さん揺れる荷台でも武器の手入れに余念が無い。

 僕は革鎧の上にマントを羽織りカッカラを持っている、この杖は意外に丈夫でグレートデーモンのブレスにも耐えたお気に入りだ。

 何故かエレさんは僕の隣に座りダガーを油を染み込ませたボロ布で拭いているが、ゴブリン相手にダガーは厳しいな。

 向かいのパーティの盗賊と思われる男は同じダガーでもスローイングダガーの手入れをしているし、中距離でも対応可能か。

 

 嗚呼、そうか!

 

 男性陣が彼女に悪口を言ったのは今日はゴブリン討伐だったから戦闘力の低い低レベルの盗賊の彼女が足手まといと思ったからか。

 

「エレさん」

 

「……なに?」

 

 会話が短いな……これはパーティ内でコミュニケーションを図るのは難しいぞ。

 

「ゴブリン討伐に接近戦用のダガーは厳しい。弓系の武器は用意しているかい?」

 

 フルフルと首を振って下を向いたが無いんだな。

 

「ショートボゥは使えるかい?」

 

 今度は小さく頷いた。僕等のパーティは肉弾戦用の戦士が三人、後衛に盗賊と魔術師。

 だが乱戦になれば拙い弓攻撃は同士討ちの可能性が有るんだよな、だから先制攻撃だけ……

 だけど先制攻撃がOKなら僕のストーンブリットで殲滅可能だぞ。その辺の線引きを確認するか。

 

「先生!」

 

「なんだ?」

 

 無言で武器の手入れをする中で先生に声を掛ければ他の連中も一斉に此方に注目する。

 

「パーティ内で装備の貸し借りはOKですか?」

 

「事前に準備してる物なら構わんぞ。そもそも実地訓練は前準備の方が大切だからな」

 

 前準備が大切ね……やはり与えられた情報を元に準備しろって事か。他の連中は、その辺を分かってるんだろうか?

 マジックアイテムである収納袋は高価だから駆け出し連中で持ってる奴は殆ど居ない、皆身軽な装備なんだよな。

 携帯用の保存食に水、医療品に防寒用のマント位しか持ってない。特にエレさんは肩掛けの鞄と腰の幾つかのポーチだけだ。

 僕はマジックアイテムの収納袋を腰に着けてるけどメインは空間創造の中に入れてある。

 

「了解しました。僕等は後衛職ですから、飛び道具で前衛をサポートしたかったので。

エレさん、僕等は裏方で討伐の主役は戦士連中だからね。二人で弓で援護しようか」

 

「私の為?」

 

「依怙贔屓じゃね?でも弓持ってないだろ?」

 

 ショートボゥと弓矢の束を二組錬金する、一通りの武器は錬金で造る事が出来る。

 性能は市販品と同じにして魔法も付加していない。 因みに依怙贔屓でも何でもない、仲間候補として戦闘力を調べる為だ。

 仲間にするなら自衛の手立ては欲しい、その点ベルベットさんやギルさんはショートボゥの扱いに長けていた。

 彼女達と比べて彼女は武器の素養は有るのだろうか?

 

「良いの?私が使って……」

 

 漸く僕を見上げてくれた、前髪の間から片方の瞳が見えた……黒い瞳とは珍しいな。

 

「あー錬金したのは駄目だよ、事前に準備した訳じゃないからな」

 

「む、錬金は僕の能力なんですが……では事前に準備していた物にします」

 

 折角錬金したショートボゥを魔素に還して今度は空間創造からショートボゥを取り出す。

 自動修復機能と固定化の練習で造り捲った武器の中には当然弓も有る。

 

「あー、いや錬金に頼るなって意味だったんだが……武器の損耗度の管理も冒険者には必要だからな。

だが今回は仕方ない、しかし空間創造とはレアなギフト(祝福)を持ってるな。反則だぞ、それは……」

 

 そうか、武器は消耗品だから錬金で無造作に作って渡されたら訓練にならないんだな。

 確かに父上も言っていた、常に武器の損耗を抑えて戦う事が大切だと……決闘とかの一発勝負と違い戦争や討伐は連戦が基本だからな。

 

「ええ、今回は甘えさせて頂きます。しかしゴブリン討伐にダガーだけだと厳しいのも事実ですし、リーダーはパーティの生還率を上げるのも仕事ですよね、先生?」

 

 苦笑いの先生が頷いた事によりOKになった、早速エレさんにショートボゥと20本の弓矢を入れた筒を渡す。

 

「はい、腕に自信が無ければ同士討ちを避けて先制だけね」

 

「これ、使えない」

 

 じっと手渡したショートボゥを見詰めていたが、丁寧に返して来た……使えない?何故だ?300年前に造った品だが現在の物と違いなんて無い筈だが?

 手渡されたショートボゥを見詰めて考える、何が駄目だったんだ?

 

「何故、使えないの?悪い品じゃない筈だけど……」

 

「それ、魔法の付加が付いてる。高価な物は使えない……」

 

 鑑定のスキルが有るのか?珍しいな、鑑定は魔術師か高位の盗賊それに賢者と言われる連中しか使えない。

 

「マジックウェポンだって?金貨100枚以上の価値が有るだろ!」

 

「お前、気前が良すぎるだろ?二つ共にマジックウェポンか?」

 

 他の連中が喰い付いた……前にオークションでマジックウェポンの価値を調べたけど金貨100枚以上はするのは確かだ。

 

「固定化と自動修……」

 

「ストーップ!それ内緒だから……」

 

 慌てて彼女の口を塞ぐ、抱く様になってしまったが自動修復機能とか知られたらヤバい。

 しかし付加した二つの種類を言い当てたなら本物だ、鑑定と言ってもピンキリで魔力を帯びている事しか分からない連中も居るのに……

 まさかレベル6で鑑定スキル持ちとは驚いたし油断した。

 

「リーンハルト、そのショートボゥは使用禁止な。流石に実地訓練でソレは使わせられないぞ」

 

「そうですね、残念ですが……」

 

 空間創造の中にショートボゥを収納する、他の武器も全て魔力を付加してるし渡せる武器が無いな。

 

「ごめんなさい、壊したら弁償出来ないから……」

 

 モゾモゾと僕に抱き抱えられていたエレさんが身動ぎをしながらボソボソと小声で謝ってくれた。

 

「いや、僕が考えなしだったよ、ごめんね」

 

 慌てて体を離す、喋らせない為とは言え半分抱き付いたのは危なかった。周りの連中からの目線が険しくなってるのは気のせいじゃないよね。

 何故か僕に寄り掛かりながら転寝(うたたね)を始めた彼女を起こさない様に僕も寝た振りをする。

 馬車の中は何とも言えない微妙な雰囲気だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼前にタクラマカン平原に到着した。

 青い空、緑の草原、爽やかな風、500m四方の草むらの周囲には木々が鬱蒼と茂った森……

 ゴブリンは森の中に入らないと見付けられないか?前回は向こうから攻めて来たけど、今回は捜索も課題の一つかな?

 僕等のパーティは既に雰囲気は良くない、男三人は少し離れて固まり僕の1m位隣にエレさん。

 彼女は体力が無いらしく持ち歩く荷物の他にはダガー以上の武器は携帯すら重くて大変だそうだ。

 幸いレベルが上がれば基礎体力も上昇するから、この問題は解消出来る。

 

「おーい、集まって聞いてくれ!今回の課題はズバリ、ゴブリン討伐だ。パーティのノルマは50匹、つまり一人10匹だな」

 

 その言葉に色んな反応が有った、多いと文句を言った連中が居る事に驚いた。普通はノルマ30匹で1ポイントだぞ、破格だぞ。

 

「但し全員が必ず10匹の止めを刺すんだ、誰か他の奴が倒したは失格、誰か一人でもノルマ達成が出来なければ失格、協力しあえよ。さて、質問は有るか?」

 

 コレはコレは……全員に生き物を殺す経験を積ませる気だろうか?

 確かにモンスターと言えども生き物を殺す経験は中々積めないだろう、倫理観とか宗教観、単純に優しさとか。

 前回の実地訓練も結局止めを刺さずに済ませてしまった連中も多かった、連携って言葉は良いけど止めを刺す役が決まってしまう事が有る。

 つまり殺せなくても実地訓練はクリア出来た。

 

「はい、先生!協力しあえと言う事は一対一で戦わなくても良いんですよね?」

 

「ん、流石に一対一は厳しい奴も居るだろ?ちゃんと協力して止めを刺せば良いぞ」

 

 やはり生き物を殺す経験を積ませる事が目的か、半殺しにして抵抗出来ない様にすれば大丈夫だな。


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