古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第448話

 自分の友好関係の狭さにショックを受けた、僕は同世代の同性の友人が少ない。

 友人と呼べるのはミュレージュ様にコレット、ヘリウス殿。後は微妙だが、ミケランジェロ殿やレディセンス殿くらいじゃないかな?

 圧倒的に同性の友人が居ない、セイン殿やフレイナル殿は同僚だし友人として接した事は無い。

 

「駄目だ、知り合うのは女性ばかりだぞ。最近だとウェラー嬢にも兄様と呼ばれたりしてる、困ったな」

 

 未成年なのに自立して爵位持ちの自分が同世代の同性と知り合う機会は少ない、未だガルネク伯爵達みたいに爵位持ちかカイゼリンさんみたいな冒険者としか接点が無い。

 そもそも同世代の貴族の未成年達って、どんな事をしてるのだろうか?

 

 普通は成人する前に親族に連れられて社交界にデビューする準備をする、この時に同じ派閥内で同世代の連中と知り合う。

 同性ならば友人として、異性ならば条件が合えば婚約者として関係を結べる。そこには親の意思も介在する大人の事情が有る、だが僕は廃嫡予定だったので社交界デビューの準備を怠った。

 それなりの地位や立場を得てから社交界にデビューした、既に一人前として参加したから同世代の連中より親達の方と交流していた。

 後は政略結婚目当ての同世代の淑女達だ、仲良くなるには問題が有り過ぎる相手だから対象外だ。

 

「いまさら同世代の友人を探せるのか?向こうからしても既に自立した爵位持ちの僕と友人関係が成立すると思うか?無理だ、敬遠されるだけだ」

 

 思い出してみても参加した舞踏会に未成年の同性など居なかった、居ても親とは挨拶を交わすだけで紹介されるのは娘だけだよ無理無理だよ。

 与えられた状況で釣り合う相手しか友人関係を結べないとは、友人の前提からして失礼な話だ。だが我が弟インゴと同じ様な連中に友誼を感じるか?

 未熟とは言い過ぎかも知れないが、自立してない未成年は友人より保護対象って思ってしまう。相手も保護者みたいに接する相手に友情は感じないだろう。

 

「なんたる上から目線の嫌な考え方、友人は無理に作るものでなく自然に出来るものと兄弟戦士が教えてくれたが……」

 

 あれ?あの兄弟戦士のヌボーとタップ達って年の離れた友人枠か、色事の機微を一方的に教えられて酒も一緒に飲んだし悪友枠だな。

 

 急ぐ必要は無い、今は知り合える同性で気の合う人を見付ければ良い。とはいえ年の離れた連中としか絡んで無いけどね、こんな悩みが発生するとは予想外だよ。

 貴族として友好関係を広めるのは必須だ、敵対派閥以外の貴族達とも交流し勢力を伸ばす事も求められるから。

 

 僕が同世代の同性の友人を作る事は、バーリンゲン王国との戦争に勝つより難しいかも知れない……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 同世代の同性の友人が居ないと嘆いた翌日、ザスキア公爵と二人でオペラを観に行く僕ってアレだよな。

 彼女は協力者であり共犯者だ、年上の異性の友人枠には入らないだろう。年上の身分上位者からのお誘いなので、僕がザスキア公爵の屋敷に迎えに行く。

 

「そう言えば、ザスキア公爵の屋敷に行くのは初めてだな」

 

 自分の家紋付きの馬車を使う、御者はタイラントに頼んだ。アーシャ達は笑顔で送り出してくれたが、浮気を疑われている様で胸が締め付けられた。

 疚しい関係では無いのだが、何処かで後ろめたさが有るのだろうか?

 

「予想通りにデカい屋敷だな、流石は公爵五家。財力が桁違いだ……」

 

 ローラン公爵やニーレンス公爵と同等以上の規模だ、そして古い歴史を感じる。最上級貴族としての格の違いだな、ポッと出の成り上がりには不可能だ。

 見事な装飾に違和感無く蔦の絡んだ正門を潜る、事前に通達されてるのか検問は無かった。

 だが警備兵は見事な金色のパレードアーマーを着込んだ美丈夫達だよ、絶対に趣味に走ってるよね?

 

 正門を潜り抜けると見事な四季の花々が咲き乱れた庭が続く、大きな池に見事な石橋が掛かっている。

 池には文献でしか知らない淡い桃色や濃い緋色の水鳥、フラミンゴの群れが優雅に水草を啄んでいる。

 海老とか蟹とか小魚を食べるんじゃなかったかな?確か産まれたての雛は真っ白で餌の海老や蟹を食べて色素を取り込むんだ。

 前にローラン公爵が食べたピトフーイは餌の甲虫の毒を体内に取り込んだ、自然界の生き物って神秘的で面白い。

 

 おお、何か黄色と青色のド派手な大型のインコが群れをなして飛んでいるけどルリコンゴウインコだっけ?凄いな、エムデン王国では生息していない希少な鳥が沢山いるぞ!

 

 ルリコンゴウインコと一緒に飛んでいるのは、ベニコンゴウインコか?真っ赤な頭に緑色と青色の胴体、鳥類としては珍しく目の周りは皮膚が剥き出しで羽根が生えてない。

 

 あれは孔雀じゃないか?青藍色の胴体に見事な尾羽根を此方に向けて扇状に広げている、でもアレって雌鳥(めんどり)に対する求愛行動じゃなかったか?

 孔雀は神経毒に耐性を持つ珍しい種族なので過去に調べた事が有る、綺麗な容姿なのに好んで毒蛇や毒虫を食べるヤンチャな連中なんだ。

 

 何という南国鳥類パラダイス、飼育には莫大な金額と手間が掛かる筈なのに普通に暮らしているのが凄い。

 転生前に側室の一人が小鳥が好きで攻略した国に生息する希少な鳥を贈った事が有る、あの時はホウミドリウロコインコだったかな?

 中型の鳥の癖に人懐っこい性格で、掌の上で寝転がるんだ。彼女はニギコロ(握って転がる)とか言って喜んでいたな……

 

「リーンハルト様、屋敷に到着致しました」

 

「有り難う、タイラント。暫く待機していてくれ」

 

 予想では応接室に通されてお茶を飲んでから出掛ける筈だ、指定された時間に来たのだから予定は向こう任せ。開演の時間や劇場、演目も僕は知らないんだ。

 

「ようこそ、我が屋敷へ!歓迎致しますわ」

 

「当主自らの出迎えとは恐縮してしまいます、ザスキア公爵」

 

 赤を主に黒と二色を使ったドレス、配色からして素材が良くなければ負けてしまう。

 今風の胸元が広く開いてない首元まで襟の有る古風でシンプルなドレス、肘より長い女性用の長手袋は深紅。

 だが手首には真っ黒なリボンを結んでいる、これは『四属性レジストリング』と『魔法障壁のブレスレット』を隠しているから。

 身に付けている装飾品は髪飾りの代わりの真っ赤な薔薇だけ、極上の素材に装飾を極力省いた姿は圧巻だ。

 

 清楚とか可憐とかの対極に居る人だな、妖艶という言葉が一番似合う。

 

「ふふふ、先ずは自慢の庭園を見て貰おうかしら?」

 

「珍しい鳥類が放し飼いになってますね、フラミンゴやルリコンゴウインコなど実物を見るのは初めてです。あと孔雀もですね」

 

「あら?博識ね。自慢の子供達なのよ」

 

 先に行く彼女の後ろに付いて行く、メイド達が並んでいるが一斉に頭を下げられた。左右に五十人前後並んでいるが、この屋敷には何人の使用人が居るんだ?

 僕の所にはメイドは十人も居ない、爵位や地位を考えると少ないのか?

 

 庭先に面したテラスに案内された、燦々(さんさん)たる日差しが眩しいが日傘用のパラソルも設置されている。

 紅茶が用意された時に一緒に細かく切ったフルーツやナッツ類も置かれた、これって人間用じゃないよな。

 見詰めているとテーブルに数羽の中型インコが飛んで来たが名前は分からない、このフルーツは鳥達の餌だな。

 

「あら、リーンハルト様はウチの子達に好かれたみたいね。その子達はシロハラインコと呼ばれているわ」

 

「シロハラインコ?確かにお前達の腹は白いな、名は体を表すって事か……」

 

 オレンジと黄色の頭に緑色の羽根、真っ白な胴体に緑色の尾羽。黒目の周りに白いアイリングが有り愛らしい子だな。お前の瞳は暗い赤色なんだ!

 松の実を摘まんで嘴(くちばし)の前に差し出せば、器用に片足で摘まんで口に持っていく。

 同じ様に他の子にも胡桃(くるみ)を差し出すと僕の指ごと掴まれた、結構力が強いし鳥なのに足が器用なんだな。

 

「和みますね、うちにはゴールドフィッシュ(金魚)しか居ないんですよ。僕も鳥を飼おうかな?」

 

 顎を指に擦り付けてくるシロハラインコが愛らしい、顎下をカキカキすると目を閉じて気持ち良さそうにして……あ、糞(ふん)をされてしまった。

 

「あらあら、粗相(そそう)してしまったの。ごめんなさいね」

 

「全然構いませんよ。自然現象ですし、この子達に悪意は有りませんから……」

 

 糞程度で目くじら立てて怒る事は無い、だが小動物の愛らしい行動には癒やされる。

 

「バーレイ男爵本家を傘下に納めたみたいね、あの頑固な老人が積極的に動き出してるわよ。貴方の為に親族や遠縁から人材を集めているけど、良く和解したわね」

 

「和解、いえ誤解を解いたのかな。母上を蔑ろにした彼等を恨んでいたのは事実です、ですが視点を変えてみれば仕方無い事だったんです。

逆に疎遠なだけで嫌がらせも何もなかった、貴族として考えれば父上と母上にも問題が有ったのを今の立場で漸く理解出来た……僕は貴族の常識を知らない馬鹿な餓鬼だったんです」

 

 当時のお互いの感情を考えれば和解は難しかっただろう、だが双方疎遠になるだけで不利益になる行動はしない肉親への愛情と理性は残っていた。

 流石に敵対的な行動をしていたら和解は無理だった、親兄弟で骨肉の争いなんて珍しくもないんだ。それに比べれば遥かにマシな状況だ。

 

 当時の戦勝国で貢献した父上と母上は、貴族連中からすれば婚姻を結ぶには絶好の相手だった。

 母上など『救国の聖女』みたいな二つ名が付いていた、お祖父様は父上との政略結婚を期待していたが裏切られた。回避する方法も有ったが、お互いが感情的になり過ぎたんだ。

 

「リーンハルト様……自分を馬鹿な餓鬼とか言わないで、私まで悲しくなるから。そこまで腹を割って話したから、バーレイ男爵も孫の配下になる事を認めたのね」

 

 そんな慈愛の籠もった目で見ないで下さい、妖艶な美女が慈母の女神に思えて来ます。

 幸いなのは、ザスキア公爵は香水を愛用してるので体臭は感じない。僕は体臭に拘りが有るので何とか魅了の技に耐えられるんだ。

 

「身内の話だからです、他人に弱気な話など聞かせません。先ずは身内で派閥を固めます、急ぐ必要は有りませんから徐々に進めます」

 

「ふふふ、良い事だわ。貴方はバーナム伯爵の派閥に属しているけど、自分の派閥を持つべきよ。小さな派閥が集まり大きな派閥を生むのだから」

 

 ザスキア公爵の肩に白・黒・赤・青・黄色の五色絢爛(ごしょくけんらん)で不思議な鳥が……アレって鳳凰(ほうおう)の雛鳥だぞ!

 

 高い魔力を内包しているのが分かる、寿命二百年とも三百年とも言われる霊鳥だ。東方では鳳凰・麒麟・応竜・霊亀を四霊と呼んで敬っている。

 僕は鳳凰と朱雀、鵷鶵(えんすう)と鸞(らん)は同じ生物が地域により別々の名前で敬われていると思っている。

 

 この屋敷に多数の鳥達が居るのは、霊鳥たる鳳凰の眷族だからだな。

 

「初めて見ました、霊鳥鳳凰ですね」

 

「この子はファースィンよ、まだ雛鳥だから大した力はないのよ」

 

 ザスキア公爵の頬に頭を擦り付けている、和む光景だが中々見られるモノじゃない。

 霊鳥や霊獣の存在は確認されているが転生前の僕も見た事は数回だ、霊鳥鳳凰の力は強大だが攻撃的な性格ではない。

 戦場で敵を殲滅しろとかは無理だ、多分だが屋敷の守護霊鳥だと思う。

 

 だが雛鳥と言うなら未だ大した力が無いのも納得だ、本来なら親達の元で独り立ち出来るまで守られながら育つんだ。

 雛鳥から幼鳥をへて成鳥となるが、一説には五十年位掛かるらしい。この子が一人前の力を発揮するには未だ十年単位の時間が必要。

 何故、霊鳥鳳凰の雛鳥がザスキア公爵に育てられてるかは分からない。でも理由は深そうだから聞かない……

 

「オペラの開演時間は大丈夫ですか?そろそろ出発しないと間に合いませんよ」

 

 人差し指で目元を掻かれていると気持ち良さそうに目を閉じている、霊鳥とはいえ普通の鳥と変わらないんだな。

 シロハラインコが僕の肩に止まり耳を舐めたり齧ったりし始めた、結構くすぐったいし痛い。指を差し出すと人差し指に止まった。かなり悪戯な鳥だぞ。

 

「ウチの敷地内の劇場だから、開演時間とかは気にしなくて大丈夫よ」

 

「はぁ?いえ、その変な言葉を使ってしまって申し訳無いです」

 

 してやったり的な笑顔を浮かべるザスキア公爵に謝罪する、一応王都の劇場のオペラの演目は調べていたんだ。

 その中で上級貴族が行くのに相応しい劇場は二つ、その両方の開始時間も調べていたのだが……

 

「御自分の屋敷に私設の劇場ですか?スケールが違いますね」

 

「王都でも有名なオペラ歌手を呼んでいるわよ、尤も彼女も貴方に会いたくて代役立てて此方に来たのよ」

 

 おお?まさか公開しているオペラの主役を引き抜いたのか?凄い事だぞ、流石は公爵家って思えば良いのかな。

 案内された劇場は観客席が二百以上有り、専用の楽団まで配置されていた。もう何が有っても驚かないつもりだったが、流石にオペラ歌手が王立劇場の主演女優だと聞いた時には乾いた笑いしか出なかった。

 

 恐るべしは、ザスキア公爵か……

 


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