古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第442話

 マテリアル商会を訪ねた、入り口で一悶着有ったが何とか応接室に通されて高級な紅茶と輸入品らしい珍しいフルーツが出された。

 傷み易いフルーツを遠方から輸入したとなれば、空間創造のギフト持ちを抱えているのか。珍しいしフルーツだし食べたい……

 

「リーンハルト兄様、毒は入っていません」

 

「ああ、そうだね。流石はウェラー嬢だ、鑑定したんだね」

 

 初っ端から飛ばすな、僕に毒入りフルーツなんて出したら一族郎党全員処刑台に直行だよ。

 向かい側に座るマテリアル会長の顔が笑顔のまま固まった、愛想笑いを浮かべていたのに毒殺疑惑を掛けられれば固まるか……

 

 ウェラー嬢は魔導書の件で、相当マテリアル商会と揉めたんだな。いくら噂の問題児とはいえ、普通の態度じゃない。

 まぁ僕の感覚から言えば下級魔法の魔導書を『山嵐』と偽り金貨一万枚で売ったんだ、好感度や信用なんてゼロかマイナスだな。

 

 高級な紅茶を一口飲み、珍しいフルーツを一切れ食べる。仄かな甘味とシャリシャリした食感が丁度良い、赤い外皮に白い果肉に黒胡麻みたいなツブツブが有る。

 

「珍しいフルーツですね?」

 

「ドラゴンフルーツと呼ばれています、熱帯雨林に生息するサボテンの実です。ドラゴンスレイヤーのリーンハルト卿にお似合いのフルーツかと思い取り寄せました」

 

 取り寄せたね、インゴの件で少し脅かし過ぎたか?最初に居た男女四人組は居ない、マテリアル会長と秘書らしき美女だけだ。

 その美女はソファーには座らず、マテリアル会長の後ろに控えている。魔力も感じず戦士の雰囲気も無い、知的な雰囲気を醸し出しているし護衛は兼ねない純粋な秘書か。

 

「そうですか、有り難う。さて本題だが、我が祖父であるバーレイ男爵の借金を全額返済する。証文を用意してくれ、金貨八万四千枚で間違いないな?」

 

「それは……間違いは有りませんが、リーンハルト卿が代わりにお支払いになるのですか?」

 

 クリストハルト侯爵みたいに踏み倒される借金が多い中で全額返済するんだ、何が不満なんだ?その困った顔の意味はなんだ?

 インゴへの融資と言い借金塗(まみ)れにして僕への影響力を高めたいのか?それが嫌だから借金を返済し変な柵(しがらみ)を潰すんだ。

 

「身内の問題です、一族を重用するのに借金など不要。清算して憂いを無くす為にですよ、僕の派閥として働いて貰うのですから当然の対処です」

 

 笑顔を添えて事実を伝える、僕の派閥で働くなら取引先の商人も自動的にライラック商会となる。

 マテリアル商会とは縁が切れる、それを薄々理解したから何とか繋がりを残したいとか?

 

「そうで御座いますか、それは良い事ですな。エッセル、バーレイ男爵の証文を用意してくれ」

 

「はい、会長。直ぐにご用意致しますので暫くお待ち下さい」

 

 一礼して応接室を出て行った、エッセルと呼ばれた女性は没落貴族の令嬢みたいだ。品も有るし礼儀も確かだし、僕等に向ける目も不快じゃない。

 エレさんの母親のメノウさんの事もそうだが、美女を侍らすとは流石と言えば良いのかな?

 

「リーンハルト卿はライラック商会とは懇意なのですな、どんなご縁が有ったのでしょうか?」

 

 待ちの時間に世間話を振ってきた、ウェラー嬢はドラゴンフルーツが気に入ったのか黙々と食べている。黙って大人しくしていれば可愛いのに残念だな。

 

 王都では割と有名な話を振って来たぞ、結婚式の護衛から始まった繋がりだが特に隠していないので事実を話す。

 しかし商人の作り笑いとは人によって印象が全然違うな、卑屈だったり胡散臭かったり……

 マテリアル会長の作り笑いは友好的で温和な感じだ、流石は王都有数の大商人だけある。背景を知らなければ騙されるだろう。

 

「駆け出し冒険者時代に世話になったんだ、お互い信頼も信用もしている」

 

「それは得難い関係を築きましたな、羨ましい限りです」

 

 お互い微笑むが目は笑っていない、マテリアル会長は僕への取り込みは無理と悟っただろう。

 商人は取引先との信頼関係を重視する、僕はライラック商会と同等規模の商会とは取引はしない、中小規模の商会はライラック商会を通じて取引をする。

 

 証文を持って来たので確認させて貰う、元の借金は六万八千枚で利子が膨らみ八万四千枚か。

 利子の返済で手一杯、中々借金が減らなかったのか。一ヶ月で利子が8%なら良心的なのかな、借金はした事が無いから分からない。

 

「確かに確認しました、では借金を返済します」

 

 机の上に白金貨を乗せていく、一枚で金貨百枚分の価値が有る。八万四千枚だと八百四十枚、十枚ずつ積んで八十四の山を作る。

 次々と積まれる大量の白金貨にウェラー嬢の興奮もマックス状態だ、この娘は意外と俗っぽい所が有る、淑女なんだから落ち着きなさい。それとフォークを置くんだ。

 

「確認をお願いします」

 

 無言で枚数を確認するが並べている時に一緒に確認してるから早く終わった、本来はお祖父様も同席し証文の宛名をマテリアル商会から僕に変えるのだが返済は求めてないので構わない。

 

「はい、間違い無く全額有ります。証文をお渡し致します」

 

 作り笑いとは思うが笑顔で証文を渡してくれたので、此方も笑顔で受け取る。そのまま空間創造に収納すれば、僕の用件は完了だ。

 このタイミングで紅茶を入れ替えてくれた、直ぐに帰らずに暫く雑談という交渉に突入のつもりかな?少しでも縁を残しておけば、何かの役に立つとか?

 

「僕の用事は済んだが、ウェラー嬢もマテリアル会長に話が有るそうなので聞いてやってくれ」

 

 砂糖を二杯入れてスライスレモンを浮かべる、香りと酸味の風味を付けたら取り出して一口。

 うん、高級茶葉だな。ハロゲイト産だろうか、流石は王都でも五指に入る大店(おおだな)だけは有る。ティーセットも食器類も最上級品だ。

 

 そして僕の言葉にマテリアル会長が身構えた、やはりウェラー嬢とは揉めていたか……

 

「先日購入した魔導書ですが偽物でした、これは『山嵐』ではなく『剣山』という下級魔法らしいですわ」

 

「間違い無いよ、僕は『山嵐』を使うが全くの別物だった。その偽物の入手先を知りたい、僕は魔術師ギルド本部の役員も兼務してます。

偽物を作るなど我々魔術師の恥曝しを許す訳にはいかないのです」

 

 この追撃にマテリアル会長は黙ってしまった、固い表情からは何も読み取れない。

 偽物を売ったか書いた魔術師を責める事は出来ても罰則は無い、基本的には騙された方が悪いんだ。

 仮に魔術師ギルド本部のメンバーだった場合は除名だけで他の罰則は無い、だが魔術師としての活動には著しい制限が掛かる。

 

「あの魔導書の入手先は、ニップル男爵です。借金の代わりにと提供された家宝の中に有りました、私達も偽物とは知らずにお売りしてしまったのです」

 

 申し訳なさそうに言った後、相手の貴族の面子の為にも自分が教えた事は内緒にしてくれと頼まれた。

 ニップル男爵は名前が珍しいので覚えている、ローラン公爵の派閥の末端の新貴族男爵だ。だが親族に魔術師は居ない、なのに魔導書を家宝にしていた?

 

「そうですか、ニップル男爵の借金の形に引き取ったのですか……それでは仕方が無いですね、諦めましょう。

ウェラー嬢には僕の秘蔵の魔導書を譲りましょう、下級魔法とはいえ新しく覚えたのだから文句は言えないかな」

 

 この言葉にマテリアル会長は安堵し、ウェラー嬢は少し拗ねたかな。偽物の魔導書を高く売りつけられた事は悔しい、だが新しい魔導書を僕から貰える。彼女的には痛し痒しだろう。

 

「リーンハルト兄様が、そう言うならば納得はしませんが我慢します」

 

 この言葉にマテリアル会長は僅かに息を吐いた、安堵したと思ったら甘いぞ。僕も確認だけはしなければならないから……

 

「ニップル男爵はローラン公爵の派閥だったな、会話する機会も有るし確認はしておくか。

金貨一万枚の売り値だし買い叩かれても金貨八千枚にはなっただろう、彼も誇り有る貴族として偽物で利益を得たと知れば悲しむだろう。誰から贈られたかも調べないと駄目だし、早速これから訪ねてみるか」

 

 僕の所にも祝いの品として魔導書が贈られて来た、殆どが偽物と言うか過去の魔術師達の自伝的な部分が多かった。つまり参考にはならない魔導書が、家の本棚の肥やしとして三十冊以上有る。

 

「リーンハルト兄様、私も一緒に行って良いかな?恨み言は言わないけど、私だって宮廷魔術師第四席の娘。偽物の魔導書の出回り先は気になるもの」

 

 額に浮かんだ汗、目が左右に泳いでいる、この症状は緊張しているな。つまり嘘か隠し事が有る、多分だが安く買い叩いて高く売ったな。

 悪い事だが騙された方も悪い、罪に問えないし文句位しか言えない。だが貴族は恥ずかしい行為は出来ない、今回は泣き寝入りしかない。

 だが宮廷魔術師第四席の令嬢相手にボロ儲けは頂けない、証拠を押さえられては今後の商売に多大な影響が出る。

 

「す、少しお待ち下さい。ウェラー様にはご迷惑をお掛けしてしまいました、お詫びとして手持ちに有る魔導書を一冊お渡し致します」

 

 秘書のエッセルさんがマテリアル会長の話している途中で退出、直ぐに六冊の魔導書を持って来てテーブルに並べる。

 規格違いだから大きさも厚さもバラバラだ、だが皮表紙は高級品で使い込んだ跡が有る。つまり偽物か下級魔法だな、上級魔導書なら強固な固定化の魔法が掛かってる筈だから汚れない。

 

 最初にウェラー様が魔導書を確認し、その後に僕が流し読みをする。彼女の属性に合わせた水と土の属性の魔導書だが……

 

「リーンハルト兄様?」

 

「ああ、偽物とは言わないが役に立たない物ばかりだよ。良く山嵐の偽物を買ったね?」

 

 著者の生い立ちと経歴を飛ばして本来の魔導書の部分を流し読みする、これって過去に書かれた魔導書を自分なりに添削した物だ。

 

 熱湯を噴出する『灼熱水』だが温度は精々80度位だから直接皮膚に掛けないと威力は低い、風呂や煮炊きに最適な生活する上では便利な魔法かな。

 

 両手に挟んだ物を冷やす『冷凍』だが温度は-5度位だし時間も掛かる、飲み物を冷やすのには最適だ。僕は上位魔法の『凝固』を使える、急速に凍結する魔法だがサリアリス様は更に上位の広範囲凍結魔法が使える。

 

 スイカ大の水球を操る『操水術』これは敵の頭を包めば溺れさせる事が出来る、生み出す水も粘性が有り毒性は無いが酷く苦く不味い。拷問用の魔法だが前の二つよりマシか?

 

 目潰し用らしい『砂塵嵐』だが、これは風属性魔法だよ。風を起こして砂や埃を舞い上げて空気中に滞留させて視界を悪くする、直接的な目潰し効果は無く視界を悪くするだけだ。本来なら『風塵』って呼ばれる自然現象だ。

 

 身体を岩で包む『岩皮甲』は一見使えそうだが重くて関節も動かない。防御魔法としては使えない、動かない的でしかない。敵に掛ければ拘束して動きを封じるかな?

 

 「入荷したと聞いて中身も確認せずに買ってしまいました、他にも買い求める方が居るとか言われて慌ててしまい……」

 

 ああ、他にも購入希望者が居るって煽られたのか。全く未成年の女の子に何をしてるんだか、商人としては信用出来ない。儲け主義は商人として理解は出来るが、納得は出来ない。

 

「不用心だったね、自分で確認する迄は買うのは危険だよ。高い授業料だったと諦めるんだな、これらの魔導書も一応は本物だけど全て下級魔法だよ」

 

 最後の一冊を手渡されたので読む、著者の生い立ちと経歴は読み飛ばす。実際の魔法は……

 

「これは少し面白いかな、掌に魔力を溜めて錬金した槍を伸ばすのか。名前は『自在槍』か、単品では下級魔法だが応用が効きそうだな」

 

 一見すると『山嵐』の劣化版と思える、地表に何本もの槍を生やせるが、これは一本しか伸ばせない。

 消費魔力も少なく呪文詠唱も殆ど無い、自衛の魔法としては使い勝手が良いな。伸ばせる距離は習熟度により長くなる、不意打ちにも最適だ。

 面白いのは槍を伸ばす時に掌が光るんだ、突き出した掌が光るのは敵が警戒して注目していたなら目潰しにもなる。少し派手だが発想は合理的だな、僕なら状態異常付加に鞭みたいに操るな。

 

「お勧めはコレかな、簡単な魔法だし色々と応用出来る。山嵐を覚える前に研究するのには最適かな、コレを使い熟せれば本数を増やすだけだから山嵐も使い熟せる」

 

 地中に錬金する株の小型版を掌に生み出すだけだし、ある意味練習用の魔法として最適だ。

 

「ではこの『自在槍』の魔導書を貰います、宜しいですか?」

 

 




来週8/14(日)から8/20(土)まで一週間、盆休み特集として連続掲載しますので宜しくお願いします。

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