古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

42 / 999
第42話

 バルバドス氏の操るゴーレム、300年前では考えられない形状をしている人型から逸脱した異形のゴーレム。

 だが効率を突き詰めるとこうなるのだろうか?複数の昆虫の特性を混ぜ合わせたキメラ(合成魔獣)という名に相応しいゴーレムだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「行きます!」

 

 螳螂と蜘蛛を組み合わせた小屋程の大きさの異形のゴーレムに僕のゴーレムポーンでダメージを与える方法は少ない。

 素材が鉄より劣る青銅では既に強度で負けているので、関節部分を狙うしか傷付ける事は難しいだろう。

 三体横並びにしていたゴーレムポーンの真ん中の奴を囮として先に突っ込ませる!

 10mの距離を一瞬で詰めるが敵は既に迎撃態勢を取っている、半自動制御か?

 キメラは上半身螳螂の四本の鎌を一斉に振り下ろした、攻撃範囲は3m以上有りそうだ。

 

「避けろ!左右から鎌の付け根を攻撃だ」

 

 ゴーレムポーンの制御に話し掛ける必要は無い、繋いだラインに魔力を流して操作するのだが高等技術だからダミーで叫ぶ。

 最初の一体が四本の鎌で切り掛かる隙を狙い残り二体を左右からキメラの腕の関節目がけて両手持ちアックスをフルスイング!

 四本の内、二本を肘の関節から叩き切る事に成功するが、キメラは残りの腕を振り払う様にして最初のゴーレムポーンを切り裂き左右のゴーレムポーンにダメージを与えた。

 思った以上にキメラの動きが良いし千切れた腕も何かしらの方法で塞ぎ魔素の漏れも止めたみたいだ。

 

「ゴーレムポーンよ、距離を取れ!」

 

 素早くバックステップで鎌の攻撃範囲から離れるが、追撃で胸部装甲を切り裂かれてしまう。流石に動きも速く攻撃力も高いな、三体の内一体は破壊され残りの二体も傷付いているが未だ動きに支障は無い。

 

「ゴーレムポーンよ、二手に分かれて前後から攻めろ!」

 

 キメラを中心に一直線になる様に動かし、そのまま同時に突撃させる。正面は囮だから残り二本の鎌で攻撃される事になるだろう、だが下半身の蜘蛛の部分は攻撃も防御の手段も……

 

「馬鹿め、後ろは無警戒だと思ったか?」

 

 蜘蛛の尻の部分から噴き出す白い液体?

 

「なっ?粘性の液体?振り払え!」

 

 正面のゴーレムポーンは鎌で二分割にされ後のゴーレムポーンは蜘蛛の尻から吐き出された粘性の液体に絡め取られた。液体は白く硬化しゴーレムポーンを拘束する。

 それで勝負はついた……動きを止められたゴーレムポーンに鎌が突き刺さる。

 脳天を突き刺された事により僕は負けを認めて制御を止めた、魔素となり空気中に霧散するゴーレムポーン……

 

「僕の完敗です……有り難う御座いました、バルバドス様」

 

 周りの観客達から拍手と歓声が沸き上がる、見世物として僕はあっさり負けたからな。当初の予定通りとは言えモヤモヤするがバルバドス氏の実力は本物だった。

 悔しいが現段階では完敗だろう、人型に拘らないゴーレムか……馬鹿に出来ないものだな。

 ゴーレムポーン三体を完全に魔素に戻してからバルバドス氏に一礼する。

 確かに思う所は有るが青銅のゴーレムポーンでは何度やっても勝てないだろう、それこそ物量戦で20体位で攻めなければ……

 だが多脚の癖に移動せず粘性の液体を吐き出した所を見ると、蜘蛛を模した下半身は液体のタンクと噴射機能が詰まってるのかな?迎撃タイプの重量級ゴーレム、拠点防御には適しているが攻めには難あり。

 上半身の鎌の攻撃範囲は半径3m強だから全体をカバー出来ない、未だ秘密が有りそうだ。

 僕のゴーレム美学とは相容れないキメラだが有効性は理解したし色々と興味深いな……

 

「ふん、まぁ保ったほうだな。お前のゴーレムも中々だが人型に囚われている内は俺には勝てないぞ」

 

 僕に圧勝した事で溜飲を下げたのだろう、言葉が若干優しくなったかな?ならば成功だ、後は変な条件や約束をせずに帰れれば……

 

「今日は色々と学ぶ事が出来ました、有り難う御座いました」

 

「ああ、精進しろよ。何なら俺に弟子入りしても良いぜ?」

 

 ニヤリと笑い掛けられたが愛想笑いで誤魔化す事にする。何となくだが、このまま終わりそうな雰囲気で良かった……

 

「五分と経たずに終わりでは集まった方々に申し訳がたつまい。私とも模擬戦をして貰いたいな、少年」

 

 聞き覚えの有る声のした方を見れば、あのエルフ女性が此方を怖い目で見ている。

 同席の少女は困惑気味だからエルフ女性の独断だろうか?少女は僕と目が合うと申し訳なさそうに軽く頭を下げたが、身なりからして上級貴族の令嬢か……

 しかし人間との関わり合いを極端に嫌っていたエルフが300年の間に変わったのか?何故僕に絡んでくるんだ?意味が分からない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの少年は自分の召喚したゴーレムをゴーレムポーンと呼んだ、しかも錬成の仕方が忘れられない奴を思い出す。

 全てのパーツを一度に空中に浮かべて錬成してから一気に組み上げる、そしてルトライン帝国時代の独特な鎧兜の構造は近年では廃れている。

 デザインこそ近代的だが基本的な部分は奴の、奴の造っていたゴーレムと変わらない。

 間違いない、あの少年は……確かめねばならない、直接戦って確かめねばならない。

 

「五分と経たずにお終いでは集まった方々に申し訳がたつまい。私とも模擬戦をして貰いたいな、少年」

 

 つい声を掛けてしまったが、バルバドス殿は顔をしかめて少年は一瞬だけ此方を睨み直ぐに困った顔をした。

 

「バルバドス様の来客に危害を及ぼす可能性の有る事はしかねますが……」

 

 確かに非常識な申し込みだったな。だが今を逃せば少年と接点を作るのが難しいのも確かだ。

 エルフ族の私が人間の貴族に渡りを付けるのは難しいし人に頼めば時間も見返りも必要……

 

「バルバドス殿、お願い出来ますか?私はその少年に興味が湧いたのです。出来れば今此処で戦ってみたい……」

 

「いや、それは……しかし……むぅ。リーンハルト殿、どうする?

レティシア殿の願いを聞き入れるか断るか?俺はどちらでも構わないぞ、強制はしない」

 

「では遠慮致します。エルフ族の方々の魔法には興味が有りますが下手をすると種族間の問題になりそうですから」

 

 なんだと?種族間の争いとか大袈裟だろう?バルバドス殿もあからさまに安心した顔をしないで欲しい。

 

「だが、だがしかし……」

 

「レティシア、抑えて。今は駄目よ、此処で無茶をしては駄目……」

 

 メディアが私の袖を引いて小声で止める、上目遣いで私を見るが感情を抑えて目が真剣だ。どうやらメディアの立場的にも実家的にも今模擬戦のゴリ押しは駄目らしい。

 

「む、そうか……分かった。少年、無理を言って済まなかった、非礼を詫びよう」

 

「いえ、気にしてませんから大丈夫です……では失礼します」

 

 一礼して帰っていく少年を見て、どうやって接触しようか考える。今日の事で警戒されたから次は難しいだろう。

 それにエルフ族の私が接点を求めて彼の周りを徘徊する事も無理だ、要らん誤解を招いてしまう……

 落胆し椅子に倒れこむ様にして座る、300年間胸に突き刺さっていたモヤモヤが解消出来るかも知れなかったのに残念だ。

 

「レティシア、あの少年はバルバドス様と戦ったのよ、今回の遺恨は彼が負けた事により晴れた。

そんな彼に対して後から戦いを申し込むなんてバルバドス様の面目が丸潰れだわ、呼び付けて負かせた後に更に来客と戦わせるなんて……先なら良かった、でも後は駄目」

 

 む、確かに……当然私が勝っただろうからな。これではバルバドス殿が腹いせに少年を呼び付けて続けて負かせた事になる。

 更に自分が負かせた後では敗者の傷に塩を塗り込む行為だった。

 

「私が悪かった。メディア、止めてくれて感謝する」

 

「それにね、彼はバーレイ男爵の長男。彼の所属する勢力は私の父の政敵。貴女が勝負を挑んだら勝っても負けても問題になったのよ。

バーレイ男爵は彼の爵位相続権を放棄させた、血筋が悪かったから……でも、あれ程の魔術師を手放す訳が無いわ。手を出せば下手したら……」

 

 冷えきってしまった紅茶で唇を湿らす。あの少年、味方に引き込みたい……確かにバルバドス様のキメラにあっさり負けた、誰が見ても完敗だった。

 でも14歳の少年の錬成した青銅製ゴーレムが元とはいえ宮廷魔術師の鉄製ゴーレムを一部でも破壊したのよ。

 私達門下生が纏めて掛かっても傷一つ付けられなかったキメラの腕を二つも破壊した事に誰も疑問を持たないのかしら?

 彼は成長期、何れバルバドス様を抜き去るポテンシャルを持っている。未熟な内に潰した方が良いかしら?それとも早目に勧誘しようかしら?

 

「メディア、笑顔が怖いぞ……何か良からぬ事を考えているな?」

 

 失礼ね、ちゃんと外面を気にして微笑んでいるわよ、内面の感情は分からないと思うけど?

 

「彼、欲しいわ。駄目なら危険だから始末しようかしら……あの才能は敵に回したら危険だわ」

 

 ゴーレムが跳ねたり走ったりおかしい、タイムラグ無しで動かす事も凄い、錬成が早いし構成パーツも多い……私と同い年なのに差が開きすぎている。

 才能では負けてないつもりだから、環境の違い?魔術のエキスパートのエルフに学ぶ私よりも良い環境?

 馬鹿な、有り得ない。調べた所では彼の周りには師事する魔術師は居ない筈よ。

 

「確かに魔術師としては良いレベルだが、そこまで脅威になるとは思えないぞ。軽々しく始末とか言うな……」

 

 最初は自分から突っ掛かって行ったのに人を悪者みたいに……でもレティシアは彼の何が気になったのかしら?

 

「エルフ族の貴女からしたら彼のレベルはどれ位なのかしら?何が貴女の興味を引いたの?」

 

 350歳の貴女が興味を引いた理由は何かしら?バルバドス様のキメラを単独で粉砕した時も淡々としていた貴女が、あれ程感情を表に出した記憶が私には無い。

 

「あの少年のゴーレムに仇敵の、あの忌まわしい奴を連想させる何かが有ったのだ。少年の周りに手掛かりが有ると思い直接戦ってみたかった」

 

「仇敵?初耳ね?」

 

 悔しみの中に嬉しさが有る様な表情ね、貴女程の使い手の仇敵か……彼もエルフ族と繋がりが有るのかしら?

 ならば年齢に合わない魔法技術も分かる、悔しいけどエルフ族は人間よりも魔法に関しては進んでいるのだから。

 

「私が一方的にそう思っているだけだがな、昔の話だ……」

 

「そう……仇敵と言う割りには恋い焦がれる乙女の顔よ、貴女は……」

 

「な?ち、違うぞ!私はアイツの事なんて少しも……その……」

 

 やれやれ、350歳の乙女って面倒臭いわね。魔法は凄いけど恋愛に関しては10代の少女と同じレベルかしら?エルフって純愛を重んじるらしいし。

 でも彼を害すると、その仇敵さんも敵に回す危険性が有るわね。レティシアが認める程の使い手を……

 

「分かったわ、私の伝手を使って会う手筈を整えてみるわ」

 

 さて、どうしましょう?お父様にお願いすると大事になるし、姉様達が手を出して来るわね。

 あの無能共は私の足を引っ張る事だけは嫌らしい位に連携してくるし。いつか全員始末してあげるから、今は精々楽しんでなさいな。

 

「うふふ、殿方をお誘いする事にあれこれ考えて悩むなんて初めての経験だわ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「何だ?背中に氷柱を突っ込まれた様な悪寒は?」

 

 思わず立ち止まり両手で肩を抱いてしまう程の悪寒……

 左右を見渡すと数人が不思議そうに僕を見ている。うん、突然立ち止まり自分の両肩を抱く男は不審者でしかないな、早々に立ち去ろう。

 貴族街で不審者扱いなど噂になっては堪らない。

 

「だけど……あのエルフ族の女性、何故僕と戦う事に拘ったんだろう?」

 

 綺麗な女性だった、典型的なエルフ族の美しさを持った華奢な女性。

 見た目が成人だったから少なくとも200歳以上だな、彼等は180歳過ぎ迄は幼少期で人間の15歳程度の成長で200歳迄に急激に成人となり500歳位迄は老けない異常な種族だ。

 故に短命な他の種族とは一線を引いていた筈なんだが、まさか人間の国に居るとか考えられなかった。  

 しかも僕がバルバドス氏に負けた後に模擬戦を挑むとか考えられない事だ、エルフは好戦的な種族ではないから此方から敵意を向けない限りは基本的に不干渉の筈なんだが……

 

「やれやれ、300年の空白……調べる事は多岐に渡るな。どれから手を付ければ良いのやら……」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。