古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第410話

 

 アーシャに僕の性癖を暴露され、ジゼル嬢から自分も嗅いで欲しいと懇願された。良く分からない状況に追い込まれテンションアップ、二泊目のベルズヘルズ子爵家に泊まった事はうろ覚えだ。

 同じ様に寝室が二人部屋と一人部屋で揉めた、無言で涙ぐまれると何も言えなくなるんだよな。

 だが僕は一人寝を貫いた、良く分からない義務感に突き動かされたから。

 

 アーシャは首筋、ジゼル嬢は項(うなじ)、イルメラは耳元、ウィンディアは胸元が特に良いという調査結果が出た。この結果を元に今後の戦略を練る必要が有る、最重要機密だな。

 

「一月半振りの王都だ、懐かしいと言うか何て言うか複雑な気分だよ」

 

 行きの移動で五日、別荘に滞在が三十日、帰りが三日で合計三十八日か……

 緊急呼び出しだから王都の人々は僕が帰って来た事は知らない、なのに馬車を見て気付いたのか歓声が上がる。

 今回は王命こそ受けたがドラゴン討伐だ、凱旋じゃないのに何故盛り上がる?

 

「旦那様、行きもそうでしたが凄い人気ですわ」

 

「後から後から人々が溢れてきますわね、このまま王宮に直行するのでしょうか?」

 

 城壁の大正門から王都に入ったがが、大通りで既に民衆に取り囲まれた。大慌てで聖騎士団員や警備兵達が誘導に当たってくれた、だが彼女達を連れて王宮には行けない。

 

 暫し考える……デオドラ男爵家に寄る、折角自宅に呼んだアーシャを実家に送る?駄目だな、アーシャが悲しむ。

 

「僕の屋敷に寄るよ、二人は屋敷で待っていてくれ」

 

「分かりました、ジゼルはお客様として迎えますわ」

 

「あら、もう若奥様気取りかしら?」

 

 まただ、最近の二人は少しギスギスしてる。何故とかは言わない、理由は僕が優柔不断だからだ。だが半年後にはジゼル嬢を本妻に迎える、それで解決の筈だと思いたい。

 熱烈大歓迎の商業区を抜けて新貴族街、更に貴族街に到着。二人を降ろして王宮に向かう、イルメラとウィンディアと少しだけ話せたのが良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りの王宮、正門を潜り抜け幾つかの関所を通り馬車停めに向かう。凱旋じゃないのに警備兵は敬礼し熱い視線を向けてくる、同性に熱い視線を送られるのは嫌なのだが……

 

「お待ちしておりました、リーンハルト様」

 

 警備兵二人、それと近衛騎士団員の出迎えとは驚いた。事前に着替えを済ませていたが、直ぐ謁見に直行コースか?

 

「ご苦労様です、近衛騎士団員が出迎えとは何か有りましたか?」

 

 完全装備の近衛騎士団員達だが僕には割と友好的だ、『雷光』の効果だと思う。武闘派は武器に弱いのは何時の時代も変わらない。

 

「この後の予定の伝達です、暫く執務室で待機。準備が出来次第、謁見の間に通されます」

 

 今回は謁見室じゃなくて謁見の間か、準備って事は他にも人を呼ぶって事だよな。

 

「了解致しました、執務室にて待機しています」

 

 一礼し了承する、しかし文武百官とか揃えてないよな?派手な出迎えは嫌なんだが、アウレール王の命令には逆らえない。他にも何か目的が有るのだろうな……

 

 近衛騎士団員とは別れて警備兵に先導されて自分の執務室に向かう、途中で擦れ違う女官や王宮侍女が多くないかな?

 道を譲り壁際に並んでお辞儀をしてくれるのだが、普通は短い距離で二十人以上と擦れ違ったりはしない。見世物になった気分だ。

 

「久し振りだね、ラナリアータ。プラムのジャムは美味しかったよ、また頼む」

 

 見知った侍女見習いが居たので声を掛ける、久し振りに知り合いに会えたのが嬉しかったので他意は無い。

 

「はっ?ははは、はいです!」

 

 少し挙動不審だが、この娘はおっちょこちょいなのを思い出した。だが魔力砲散弾タイプの発想を与えてくれた娘だ、恩を感じている。

 漸く自分の執務室に到着、扉を開けると専属侍女達が並んで出迎えてくれた。

 

「「「「「お帰りなさいませ、リーンハルト様!」」」」」

 

 声もお辞儀をするタイミングもピッタリだ、練習したのか?

 

「ああ、ただいま。留守中に何か有ったかい?」

 

 執務机の上には親書の束と贈り物の目録、それに報告書が綺麗に並べられている。また返信書きの日々の始まりか、右手が妙に痛くなるのは手紙書きが苦痛だからだ。

 

「何時もの親書と恋文、それに贈り物の他に定期的に報告書が魔術師ギルド本部から届いております」

 

「魔術師ギルド本部?ああ、レジストストーン絡みだな。律儀に経過報告を送ってくれるのか」

 

 椅子に座り報告書を手に取って読む、一週間単位で団員達の行動が纏められている。最初の三週間は基礎の座学と上級魔力石の作成、四週間目から漸くレジストストーンの錬金を始めた。

 五週目は結果表か、全員の錬金したレジストストーンの結果が載っている。一日に二個迄なのか、全員初回で回避率10%を越えている。

 現状で一番性能が良いのはリプリーで21%、これは売り物になるが他は回避率16%から18%で他に20%を越えたのはマーリカ嬢とシルギ嬢の20%。先は長いな……

 

「ふぅ、紅茶を煎れてくれないかな?あと何か甘い物が食べたい。皆も一緒に飲むと良い」

 

 執務机の前に横一列に整列されても困るのだが、一ヶ月半近く留守番して貰ったんだ。色々と話したい事も有るだろう。幸いソファーセットは六人用だから全員座れる。

 

「「「「「はい、リーンハルト様!」」」」」

 

 こ、声が揃ってるね。やっぱり練習したの?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 専属侍女達とお茶を飲んでいたら準備が出来たと近衛騎士団員が呼びに来た、先程とは違う近衛騎士団員だ。

 

「お迎えにあがりました、リーンハルト卿」

 

「有り難う、悪いが留守を頼む」

 

 近衛騎士団員の先導で謁見の間に向かう、段々と緊張してきた。謁見の間の入口、見事な装飾の施された見上げる程の大きな両開きの扉の前に立つ。

 

『リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイ伯爵の入場です』

 

 中で誰かが僕の名前を叫び両開きの扉がゆっくりと開く、同時に宮廷楽団の演奏が始まる。どういう待遇なんだ?

 一瞬呆けたが気を取り直して身嗜みを整え謁見の間に入る、赤い絨毯は真っ直ぐ玉座に向かい既にアウレール王は座っていた。

 

「慌てるな、焦るな、落ち着け」

 

 ゆっくりと前に歩き出す、歩幅に気を付けて真っ直ぐ前を見る。キョロキョロ周りを見ては駄目だ、演奏に合わせて歩く事に専念。

 玉座の前の三段階段の前で立ち止まり、片膝をついて頭を下げる。

 

「リーンハルト卿、報告は聞いた。良くぞ王命を達成した、見事である」

 

 王命の達成の判断は微妙だが、大量にドラゴンを狩ったので批判は無い筈だ。百六十体を超えているし文句が言えたら大したモノだろう。

 

「有り難う御座います」

 

 更に頭を下げる、下げた状態で左右を見れば公爵五家と侯爵七家、宮廷魔術師に将軍達。更に上級官吏達も集まっていた、正しく文武百官の集合だ。

 

「リーンハルト卿は一ヶ月でドラゴン種を百六十二体を倒した、史上最強のドラゴンスレイヤーだ!この討伐により我が国内におけるドラゴン種の被害は激減しただろう」

 

 アウレール王の宣言の後に拍手が起こる、だが苦々しい顔の連中や能面の様に表情を出さない連中も居る。少し派手に動き過ぎた為か、相当危険視されているのか……

 まだ頭は上げない、上げるタイミングが掴めない。

 

「この功績に報いる為に我が剣を与える、今後もエムデン王国の為に働く事を期待する」

 

「全身全霊をもってエムデン王国の為に尽くす事を誓います」

 

 言葉の後に頭を上げるが、アウレール王が僕の前まで玉座から降りて来た。一瞬怪訝に思うが抜き身のロングソードで右肩と左肩を叩かれ、その後に差し出されたロングソードを両手で捧げる様に受け取る。

 その一連の動作の時に周囲が動揺した、何か問題有る行動だったのか?

 

「我が忠臣リーンハルトよ、精々精進するが良い」

 

 鞘を受け取りロングソードを納める、アウレール王に一礼すると宮廷楽団が荘厳な曲を奏で始めた。

 玉座に背を向けて真っ赤な絨毯を歩いて引き返す、これで謁見の間を退出して終了。僅か十分足らずの謁見だが色々とヤバかった……

 

「国王から剣を賜るって何だ?僕は魔術師で騎士じゃないぞ」

 

 謎の褒美だが後日呼ばれると思い、そのまま自分の執務室に戻る事にした。このキラキラした宝剣だがどうしたら良いんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 鑑定した宝剣は正しく宝剣だった、鞘は純金製で刀身は純銀製、握り部分は純金製で大粒のエメラルドが柄頭に付いている。

 入念に調べたが魔力は付加されていない、実用的でないナマクラ刀だ。

 

 興奮する専属侍女達を横目に入念に固定化の魔法を重ね掛けする、何重にも重ね掛けしたのでナマクラ刀が鈍器程度には進化した。これで切れないが叩いても壊れないだろう。

 武器としての価値は無いが宝物としての価値は高い。アウレール王から授かっただけで家宝となる、新生バーレイ伯爵家に戦旗と宝剣が家宝に加わった。

 

「箔付けの為にかな?気を遣ってくれたんだ」

 

 執務室の隅に飾られている『戦旗』の隣に『宝剣』も飾る。王族由来の品を二つも持つ新興貴族は居ない、家の箔と格にしては破格だな。

 出来れば杖が良かったが贅沢は言えない、王族由来の家宝を持つ貴族は少ない。まして国王から……

 

「凄いわ、リーンハルト様!その宝剣はね!」

 

 僕の執務室にノックも無く入れる唯一の公爵家女性当主だが、淑女として大問題な行動に頭を抱える。

 バンって音が響く程力強く扉を開けて中に入ってくる。ノック無しで部屋に入り異性に抱き付く、イーリンしか見ていないが他の侍女達が見たら大騒ぎだぞ。

 

「落ち着きましょう、ね?イーリン、紅茶を煎れてくれ」

 

 興奮するザスキア公爵をソファーに座らせて自分も向かい側に座る、キラキラした彼女の瞳を見れば宝剣の付加価値が高い事は分かる。

 こんなに興奮するザスキア公爵は初めて見た、確かに価値は有りそうな宝剣だが魔力付加は無いし歴史も浅い。作られて精々二十年前後、素材の価値だと金貨三万枚位かな?

 

「その宝剣はね!宝剣は、『カシナートの剣』と呼ばれるエムデン王国に貢献した者にしか与えられない七本の内の一本なのよ!」

 

 興奮するザスキア公爵の話を要約すると『カシナートの剣』とは前大戦時に反攻作戦の切っ掛けとなった、『封印迷宮』から見つかった金銀財宝を元に戦後に作られた勝利を祝う宝剣。

 七本の内に臣下に渡したのは二本だけ、サリアリス様とローラン公爵だけしか持っていない。これを授けられる者はエムデン王国で最高の栄誉だそうだ。

 普段は大聖殿に奉られていて前大戦の勝利の象徴、これを授かった意味は今後の戦争は任せたって事だな。

 勝利の象徴を持たされたんだ、戦いには率先して参加し負ける事は許されない。

 

 だけど元々は僕が潜んでいた『封印迷宮』で僕が用意した金銀財宝から作られた宝剣なのか、何て言うか微妙な感じだ。

 

「兎に角、貴重な物で名誉な事は理解しました。アウレール王が今後の戦争絡みは任せたって意味もね、どちらにしても重たい家宝が増えた訳です」

 

 ハイゼルン砦を陥落させろとセラス王女から渡された彼女の家紋付きの『戦旗』に、前大戦の勝利の象徴の『宝剣』を貰った。

 それとドラゴン種の売却利益が凄い事になっているんだ……

 

 ツインドラゴンは一体金貨一万枚で五十四体だから金貨五十四万枚。

 アーマードラゴンは一体金貨五千枚で五十七体だから金貨二十八万五千枚。

 アースドラゴンは一体金貨二千枚で五十一体だから金貨十万二千枚。

 

 ドラゴン種だけで合計金貨九十二万七千枚、それにワイバーンが一体金貨二百枚で七十九体だから一万五千八百枚。

 あとドラゴン種の全身骨格が纏めて金貨二千枚、総合計で金貨九十四万四千八百枚……何処かの灌漑事業の総工事費位あるな。

 

 それにレベル50の恩恵は全盛時の80%の力を取り戻した、レベル30のゴーレムポーンで千体。レベル60のゴーレムナイトなら五百体、全長10mの大型ゴーレムルークでも同時に三十体の運用が可能だ。

 下級魔力石によるゴーレムポーンなら一万体に届く、当初の見込みよりも大幅に能力がアップした。

 

「リーンハルト様、聞いてる?」

 

「はっ、はい!安心して下さい、聞いてますよ」

 

 いかんな、長考は魔術師の性(さが)とはいえ直さないと失礼だよな。うん、気を付けよう。

 

「なにその変な言葉使いは?」

 

 む、確かに変だよな。何を安心しろって言うんだ?クスクスと童女の様に笑うザスキア公爵を見て思う、漸く二つ目の王命を果たして王都に戻ってこれたんだなと……

 


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