古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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1月に今年の目標としてあげたUA600万を達成出来ました、これも読者の皆様のお蔭です。凄く嬉しいです、有難う御座いました。


第409話

 ビクトリアル湖畔に有るアウレール王の別荘から強行軍で王都に向かっている、行きは五日間掛かったが急げば三日間で王都に戻れる。

 一日目の宿泊先はセルビア地方に領地を持つレダラッハ男爵の屋敷で、途中のバズー村で休憩を挟み日が沈む前にレダラッハ男爵の屋敷に到着した。

 こぢんまりした趣味の良い屋敷だ、当主自らが夫人と共に玄関先で出迎えてくれた。

 

「ようこそ我が家へ!歓迎致しますぞ、リーンハルト卿」

 

「急な訪問に応えて頂き有難う御座います、レダラッハ男爵」

 

 白壁が特徴的な二階建ての屋敷、出迎えてくれたのはレダラッハ男爵夫妻と老執事と中年のメイドが二人。

 レダラッハ男爵は腰が少し曲がっているが元気一杯という感じだ、白髪だが髪の毛は少なく髭は豊かだ。馬の頭を握り部分に装飾した派手な黄金の杖を持っている。

 レダラッハ男爵夫人は、ふくよかで優しそうで控え目な感じだ。

 

 本当に隠居状態だったのだろう、昨夜遅くか今朝に国王の使者殿が無理を言ったのだろうな。後ろに控えるメイド二人は笑顔を浮かべているが既に疲労の色が見える、面倒を掛けて申し訳ない。

 

「リーンハルト卿の噂は隠居中の私達にまで伝わってますぞ、後ろの淑女達が側室殿と婚約者殿ですな。短い間ですが我が家と思い過ごしてくだされ」

 

「有難う御座います、レダラッハ男爵様」

 

「お気遣い、感謝致しますわ」

 

 女性陣にまで気を配ってくれるのは有り難い、人当たりも良くて好感が持てる人物だ。なにより取り入ろうって感じがしない。

 中央の権力争いから距離を置いている、隠居生活を送っているだけの事はあるな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 レダラッハ男爵夫妻との夕食後の会話は楽しかった、この地方の特産品や自分の隠居生活の失敗談など面白おかしく話してくれた。

 自給自足とはいかないが自ら森に入り木の実を採取する、食後の紅茶と共に出されたクッキーにドングリの実が入っていると聞いた時は驚いたものだ。

 丁寧にアク抜きをして天日干しをして砕いたドングリは、普通にナッツかクルミかと思って食べてたんだ。

 男爵自らが森に入り農民の食べ物と言われるドングリを採取し食べる、貴族は栗は食べるがドングリは食べない。随分と変わっている人だな。

 

 王都に居る息子達の事には一切触れず、旅の疲れを癒してくれと早目に寝室に行く様に配慮してくれたのは嬉しいのだが……

 

「一人部屋と二人部屋、普通に考えたら僕とアーシャが一緒で、ジゼル様は一人部屋だよな」

 

 何の抵抗もなくアーシャとジゼル嬢が一緒に居る、つまり今夜は姉妹が二人部屋で僕は一人部屋だ。

 二人部屋はキングサイズのベッドで普段はレダラッハ男爵夫妻が使っている感じがする、来客の為に部屋を明け渡したのか?

 

「広いベッドですから、三人一緒に寝れますわ」

 

「ジゼル、貴女は一人部屋よ。ここは私達、夫婦の寝室ですわ」

 

 最近のジゼル嬢は三人一緒の添い寝が気に入ったのか殆ど一緒に寝ている、アウレール王も早く世継ぎを生めと彼女を同行させたので別荘では問題無かった。

 三十日間で二十日間以上は三人で寝ていた、お蔭でアーシャとの子作りは殆ど出来なかった。

 アーシャも不満に思っているが、旅先での一人寝は寂しくて不安ですと言われれば優しい彼女は文句を言えなかった。

 ベヘル殿も若いって事は良いですな的に誤解していたが、ジゼル嬢とは当然だが清い関係だ。巷で囁かれる姉妹丼などはしない、絶対にしてない。

 

 だがレダラッハ男爵は実情を知らない、結婚前の男女が同じ部屋に泊まるのはジゼル嬢の貴族的な常識と貞操観念が疑われる。

 故に一緒には寝られない、王命とはいえ王都に帰ったら変な噂は潰しておこう。彼女がふしだらな女性だとか言う奴がいたら問答無用で潰す、そして早く結婚したいのだが……

 

 僕が成人する前にウルム王国と旧コトプス帝国の残党達との戦争が有りそうだ、長引くかもしれないが結婚は終戦後だよな。

 戦力の要が戦時中に結婚とか浮かれる訳にはいかない、だから戦勝後じゃないと無理なんだ。

 

「僕が一人部屋で寝る、反論は無しだ。今夜は姉妹で寝るんだよ、分かるね?」

 

「はい、分かりましたわ」

 

「我が儘を言って申し訳有りませんでした」

 

 素直に謝ってくれた、元々は聡い彼女達だから話せば分かってくれる。だがジゼル嬢は少し焦っている感じがする、あと半年が待てないとは思えないのだが……

 

「少し姉妹で話し合った方が良い、来年はジゼル様との結婚も控えている。姉妹が不仲なのは嫌だから、頼んだよ」

 

 深々と頭を下げる二人を置いて部屋を出る、そして問題に気付いた。

 

「一人部屋って何処?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、朝食の後でレダラッハ男爵夫妻に御礼を言って高級紅茶の茶葉を渡した。

 金銭的な御礼はジゼル嬢の腹心であるメシューゼラさんが済ませている、僕達と専属メイド、それに御者や護衛達と結構な人数が世話になった。

 急に王都から王命を受けた伯爵や婚約者が泊まりに来ては大変だったろう、レダラッハ男爵は全員の昼食まで用意してくれた。

 二日目の今日はベルスヘルズ子爵の屋敷に滞在する予定だ、ここから馬車で七時間。休憩を含めると夕方の六時に到着予定、明日の午後には王都に戻れるだろう。

 

 基本的に馬車に乗っている時は暇だ、僕は下級魔力石を加工しゴーレム軍団の準備、アーシャはレース編み、ジゼル嬢は読書をして時間を潰す。

 ずっと会話するネタも無いし眠くなったら寝てしまう、狭い馬車内での過ごし方はストレスを溜めない事が大事なんだ。

 

「旦那様」

 

「ん?何だい、アーシャ?」

 

 下級魔力石を加工する手を止めてアーシャを見る、向かい側に姉妹で並んで座っているが二人とも僕を見ている。放置し過ぎたかな?

 

「何をなさっているのでしょうか?」

 

「詮索する気持ちは有りませんが、淡々と作業をしてると気になりまして……」

 

 ああ、放置し過ぎて気になったのか。淡々と空間創造から下級魔力石を取り出して魔力を込め収納を繰り返せば気になるよな、だが真実を伝える事は出来ないんだ。

 

「新しく配下となった『王立錬金術研究所』の所員達にレジストストーンの製作を教える、それの仕込みだよ」

 

「あの魔術師ギルド本部絡みのですわね、新しい配下の方々の育成を行うのですわね」

 

 嘘をついたのだが純粋な尊敬の目で見られると辛い、だが嘘がバレない程度に面の皮が厚くなった。王宮勤めの弊害だ、本心を隠す術が上手くなる。

 

「うん、配下の宮廷魔術師団員は全員ニーレンス公爵の派閥構成員だから正確には僕の配下じゃない。『王立錬金術研究所』の所員達は僕が作る魔導師団員の候補達だ、見込みが有れば僕の派閥に引き込む」

 

 いまいち信用出来ないシルギ嬢やマーリカ嬢が居るのが不安だ、一ヶ月でレジストストーンの錬金に目処がついたかな?

 

「その、リーンハルト様」

 

「何かな?」

 

 少し不安そうなジゼル嬢と真面目な顔のアーシャが僕を見ている、何かお願い事だろうか?

 

「そのイルメラさんとウィンディアの事です」

 

「イルメラさんは旦那様の大切にしている女性なんですよね?」

 

 む、浮気じゃないがイルメラの存在をアーシャまで知っているだと?急に触れた秘め事に慌ててしまう、二人とも真面目な顔だし浮気を責めてる訳じゃないよな?いや、浮気じゃないぞ!

 

「はい、イルメラは僕が駆け出し冒険者だった頃から支えてくれた大切な女性です。彼女が居なければ今の僕は居なかったでしょう」

 

 嘘を言っても仕方無い、幸い馬車の中は三人だけで誰にも聞かれない。この場で悩んでいた事を話してしまおう、丁度良い機会だ。

 

「旦那様、イルメラさんとウィンディアですが……貴族の養子に迎えて貰い早目に側室にするべきです」

 

「ウィンディアはバーナム伯爵に、イルメラさんはライル団長の養子にしてはどうでしょうか?バーナム伯爵もリーンハルト様に縁者が嫁いでない事を気にしています、駄目ならエロール様が有力候補です」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 バーナム伯爵とライル団長と親戚付き合いをするのか?いや、そもそも何故彼等との養子話になるんだ?

 

 確かにイルメラとウィンディアは貴族か豪商の養子にして貰い、僕の側室に迎える考えだった。バーナム伯爵もライル団長も候補には上がっていたが、未だ相談していない。

 子爵家の養子ともなれば平民でも孤児だったイルメラは厳しい、ウィンディアは一流の魔術師でデオドラ男爵の関係者だ。

 デオドラ男爵は愛娘二人を僕に嫁がせるから三人目は遠慮しろって事かな?

 

 ライル団長は子爵だがイルメラは厳しくないかな?僕は彼女はライラックさんと養子縁組をして貰おうと考えていた、王都でも有名な豪商で僕の御用商人だから。

 

「お父様が冒険者ギルド本部のオールドマン代表と相談しました、イルメラさんとウィンディアは冒険者ランクBにします。

今回の実績でリーンハルト様は冒険者ランクAです、単独でドラゴン種を大量に狩れるので問題は有りません」

 

「平民の孤児でも冒険者ランクがBなら子爵家との養子縁組は問題無い、王都に戻ったら魔法迷宮バンク絡みの指名依頼が用意されてるかな?」

 

 妙案だ、バーナム伯爵の派閥上位三人の娘を貰う、親戚付き合いは貴族の結束としては最上だ。バーナム伯爵達は公爵三家と縁が深くなった事を気にしているのだろうな……

 そして考えたのはジゼル嬢だろう、彼女は僕とイルメラ達に配慮すると言った。その結果が養子縁組からの側室だ。

 

「イルメラさんもウィンディアも了承しています、リーンハルト様が良いと言えば話を進めますわ」

 

 え?根回しは既に完了してるの?それなら僕が騒いでも意味は無いな。

 

「うん、有難う。その条件で進めてくれ。他の女性の件で苦労を掛けて悪かった」

 

 本妻予定と側室に他の女性の件で配慮された、ジゼル嬢もアーシャも本心では面白くはないだろう。だから深い頭を下げて謝罪する、もう他に側室や妾は作らないから許して欲しい。

 本妻のジゼル嬢、側室のアーシャ、側室予定のイルメラとウィンディア。ああ、ニールもそうだ、五人とか無理が有るだろ!

 

「頭をあげて下さい、私達は怒っていませんわ。本来ならばもっと増やさなくては駄目なのですよ」

 

「他にも一人、伯爵家以上の養子でない女性を側室に迎える必要が有ります。急ぎはしませんが……」

 

 え?足りないの?ああ、貴種たる我等貴族の高貴な血を引く女性って意味での僕と同格な伯爵家って意味か。もう要らない、五人以上は平等に愛せる自信が無い。

 

「要らない、もう無理だよ。六人目の話は未だ先で良いよね?要は早くジゼル様とアーシャが僕の子供を産んでくれれば問題は解消だよね?」

 

 世継ぎ的な問題だ、本妻のジゼル嬢が男の子を産めば正当後継者として育てれば良い。血筋が低くても貴族ならば直系第一子は優遇される、僕の場合は母上が平民だったから無理だった。

 問題は僕に子種が有るかだがアーシャに懐妊の兆しは無い。

 

「はい、王都に戻れば一緒に住めますから。毎晩可愛がって下さいませ」

 

「アーシャ姉様!淑女がはしたないですわ」

 

「それが側室の務めであり幸せなのです、愛する旦那様の子供を身籠る。素晴らしき女性の幸せ……」

 

 呆然と考え事をしていたら姉妹が口喧嘩を始めた、困ったな。理由が僕の子供を産む、いや私が先に産むとかに発展してると気恥ずかしくて駄目だ。

 

「二人とも落ち着いて、大声を出すと御者に聞こえてしまうよ。その話は帰ってからゆっくりと話し合おう、今は落ち着いて……ね?」

 

「分かりましたわ」

 

「ジゼルは半年後ですからね、今は私だけがリーンハルト様の欲望を受け止められるのです」

 

「アーシャ姉様!」

 

 また口喧嘩が始まった、手は出さないが優雅に口喧嘩をするって凄い。だが色事絡みだとジゼル嬢が不利だ、真面目な彼女にとって男女の秘め事は苦手な部類だな。

 逆にアーシャには余裕が有る、経験者は語るって言うか……だが淑女が男の欲望とか言っちゃ駄目だと思うんだ、しかもドヤ顔は駄目だぞ。

 

「「聞いていますか?リーンハルト様!」」

 

「う、うん。聞いてるよ」

 

 聞いてるけど何を言えば良いんだ?僕がアーシャの首の匂いが好きだって口喧嘩でバラさないでくれ!それは言っては駄目な情報だぞ。

 

「あら?リーンハルト様は女性の匂いがお好きなのですか?では私もお願いします」

 

 身体を密着させてきたジゼル嬢をやんわりと引き離す、隠していた性癖の暴露ってこんなにも恥ずかしいモノなのか……

 


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